表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/174

火の国を目指して

 ルリーラと一緒に入浴した後、アルシェ、ミールも同じように一緒に風呂に入った。

 風呂から上がり食事を終えみんなでゆっくりとくつろいでいた。


「次の行先なんだけどどこがいい?」


「私は何もわからないからどこでもいいよ」


「私もルリーラちゃんと同じです」


「私は兄さんが決めてくれたところでしたら、どこまででも付いて行きます」


「私は他の神様に会ってみたいかな」


 どこでもいいと。まったりとして意見がない三人が口にした後にフィルがそんなことを言った。


「それは表の四柱の事でいいんだよな」


「うん」


 なるほど、確かにいいかもしれないな。

 ここからだと近いのは炎の国かそして結構離れて地の国更に行って風の国か。

 結構長い道のりだな。

 なら火の国に行ったら一回アリルドに帰るか。


「クォルテ表の四柱って何?」


「この世界に神が複数いるのは知ってるよな」


「知ってるよ、水、火、地、風」


「そうそれが表の四柱」


「表ってどういうことなの?」


「お姉ちゃんそれはね裏もあるからなんですよ、光、闇、龍。この三つがの三柱です」


 俺の代わりにミールが引き継ぐ。

 裏の存在は知っていたアルシェとミフィル、も三柱の事はわからなかったようで素直に感心している。


「裏の方は国があるわけじゃないから、会おうと思ってもめったに会えないけどな」


 これは言わないが、正直会えないなら会わない方がいい。

 なぜなら裏の三柱は表の四柱と比べて暴力的で人よりもどちらかというと獣寄りの存在だ。

 それにこの三柱は何を司っているのか判明していない。

 水なら再興、火なら発展、地なら豊穣、風なら友好といったものを持っていない。

 それゆえに祭り上げられず国もなく無為に裏の三柱はさまよっているらしい。


「だから裏の三柱には会えないが、代わりに表の四柱を巡るってことでいいか?」


 みんなの頷きに満足しながら行き先が決まりその日は眠ることにした。




「水の子よ、我が子は返してもらう」


 誰だ?

 深い地の底から響く暗く重い声が鳴り響く。


「我の戦いのために、我が子を返してもらおう」


 何のことを言っているんだ!


「我の名前は――」




 急激に意識が起き上がる。

 聞いてはいけないと脳が判断したのかわけもわからないまま夢から離脱する。


「はぁ……」


 じっとりと汗をかいていた。

 我が子? 誰の事だ?

 寝起きというのもあるが体がべたついて考えられない。

 頭をスッキリさせるために風呂に入ろうと浴室に向かう。


「ご主人どうしたの?」


「フィル」


 夜中なのにフィルが湯に浸かっていた。

 薄暗い闇の中フィルは酒を飲みながら街を見渡していた。


「ごめんね、勝手に飲んじゃって」


「気にしてないよ」


 そのまま浴槽に入りフィルの隣に腰を下ろす。

 真夜中の時間。外にある灯りはだいぶ減っていた。


「ご主人も飲む?」


「一杯だけ貰おうかな」


 酒は正直あまり得意ではない。

 でも今は飲んでしまいたい気分だった。

 ごちゃごちゃとした頭の中をどうにかしたくてフィルに継がれる酒を一口含む。


「それで何かあったの?」


「ちょっと考え事」


「そうなんだね」


 今日は自室の浴槽ということもあり、フィルはタオルを巻いていない。

 薄褐色の肌はほんのりと紅潮しわずかな明かりが灯る街を見下ろしていた。


「頭をスッキリさせたいなら言葉にした方がいいと思うよ」


「そうかもな」


 酒の力なのか俺はぽつぽつとさっきの夢の事を話した。


「そんな夢だったんだよ」


「そっか」


 間延びした言葉が響く。

 慰めもなく励ましもない。そんな何もしないでいてくれるフィルが仲間で居てくれることが嬉しい。


「ただの夢なのか、それとも何かの魔法での予告なのか」


「ご主人はどう思ったの?」


「俺は夢じゃないと思っている」


「じゃあ夢じゃないね」


「言い切ったな」


「ご主人がそう感じたならそうなんだよ。だから考えるなら守る方法だよ」


「そうだよな」


 もやもやとした頭の靄が晴れた気がした。

 そうだ、考えるならどうやって守るかを考えたほうが絶対にいい。

 誰が子供なのか。それがわかれば守り方もある。


「もう一杯飲む?」


「ありがとう」


 考えをフラットにするためにフィルから貰った酒を煽る。

 そして不意に抱きしめられる。


「フィル……?」


「なーに」


 フィルの爽やかな香りにほんのりと汗と酒の匂い。

 その匂いと共に俺の体を包む柔らかくて温かい感触。


「なんで抱きしめられてるんだ?」


「頑張ってるからね」


「そ、そうか」


 よくわからないが抱きしめたまま頭を撫でてくる。

 フィルの肌の温かさとお湯に濡れた手の感触が心地よく、ついフィルに体重を預けてしまう。


「ルリーラ達はいないよ」


 だからゆっくり休め。そう言われた気がして目を瞑る。


「たまには気を抜くといいよ、あたしに甘えてもいいし一人になってもいい」


「ありがとう」


 まどろんでいく感覚が心を休める。

 酒の力もあっただろうが、俺は自分が結構疲れていたんだと改めて知った。


「折角の温泉だからご主人も休んだらいいよ」


「うん……ありが、とう……」


 先ほどまで怖く感じていた夢の中へ俺は沈んでいった。


 ここは夢の中だ。

 なにせ今いる場所は、今現在何もないはずだから。

 ここはロックス家の敷地にある研究所。遠くからでも大きく見えるそこの内部は当然広い。

 そんな研究室の中にある所長室。

 俺の父親クォーツ・ロックスの職場、その所長室の本棚にある一冊の本を手に取るとガタンと音を立てて地下への道が開く。


「着いてこいお前ももうすぐ関わることだ」


 俺がまだ十六の時、初めて俺は地下の存在を知った。

 長く続く階段はひんやりと冷たく、嫌に湿気ていた。

 地下の明かりが見え始めたころには、その嫌な空気とともに、人とも獣とも知れない叫び声が聞こえ始めていた。


「この声はなに?」


「実験動物の声だ、気にするな」


 この時の俺にはそれがロックス家に買われた奴隷達だと知らず素直に頷いた。

 しばらく悲痛な叫び声を聞きながら進み、父親が止まったのは一つの鉄格子の前。

 その中に居たのは小さな少女、闇のように深い黒髪は辺りの明かりを飲み込み碧色の瞳が俺を見つめていた。




「クォルテ、ご飯だよ」


 聞きなれた声に目を開けると画面いっぱいにルリーラの顔があった。

 短い闇色の髪に澄んだ碧眼。

 俺の体はルリーラの頬に手を触れる。


「どうしたの?」


「いや、大した理由はない」


 昔の夢を見ていたなんて言えるはずもない。


「なら起きて、もうみんな準備できてるから」


「そうなのか」


 布団を退かし、体を起こすと少しボーっとしてしまう。

 ルリーラにアルシェ、フィルにミールが黙って俺の方を見る。

 俺もつられる様に視線を追うと俺はなぜか裸で眠っていた。


「げっ」


 急ぎ下半身を隠すが、四人は未だに俺の下腹部に視線を送り続ける。


「先行ってろ!」


「はーい、じゃあみんな行こうね」


 元凶と思しきフィルはこっちに可愛らしく舌を出し最後に部屋を出て行った。


「風呂で寝た俺が悪いのか……」


 自業自得だと諦め服を着て食堂に向かった。


 食事中に俺がさっきの事を責める。


「なんで教えないんだよ」


「あんな機会めったにないし」


「ですね」


「初めてまじまじと見た」


「昔とは違いますね」


 反省もなく、俺のモノを見た感想言い始めた。

 そんなモノなんて見ても面白くないだろうに、なぜか四人共興味を持って見ていたらしい。


「それにクォルテが男を知れって言ったじゃん」


「間違ってないがあんまり大きな声で言うな」


 妙に生々しい会話になりそうな気がして、言いたいことはあったがこの話は打ち切ることにする。


「まだ出発はしないが、これからの旅なんだが火の国に向かった後に一度アリルドに戻ろうと思う」


「なんで? このまま旅をするんじゃないの?」


 そう言えばフィルとミールに話したことはなかったか。


「フィル先輩、兄さんはアリルド国の王様ですよ」


「えっ?」


 ミールの説明にフィルが流石に固まってしまう。


「なんでミールがそんなこと知ってるんだ?」


「いやですね兄さんの情報を私が知らないはずないじゃないですか。アリルドでアルシェ先輩を拾ってアインズで精霊結晶を拾ってヴォールでフィル先輩を拾ったことくらい知っていますよ。大好きな大好きな兄さんの事なんですから」


 ミールは一体いつから見ていたのか軽く恐怖を覚えてしまう。


「後兄さんって身長伸びましたよ、少しだけ。あまり大きくなられてしまうと私が熱い接吻をする場合に届かずに背伸びをしなくてはならないのでこれ以上伸びないでくださいそれとも背伸びをした方が兄さんとしては嬉しいということなのでしょうか」


「ミールは少し黙っていてくれ」


 恐怖を感じる調査力を見せてくれているミールの口を封じ話を戻す。


「仲間も増えたし、四柱を巡るなら一度帰って色々準備をしておきたいと思っている。地の国はアリルドから近いし」


 というよりも、地の国に行くならアリルドまで戻った方が早い。


「待って、じゃああたしは王様直属の奴隷?」


「そうなるな」


 なぜか王直属の奴隷と聞いて、嫌な顔をするフィル。

 よくわからない落ち込み方をされたが、そんなのを関係なくルリーラとアルシェは盛り上がっている。


「おっちゃん元気かな」


「久しぶりに会いますしね」


「そうだな」


 ルリーラとアルシェはどこか嬉しそうに話しをする。

 完全にアリルドが二人のおじいちゃんとしての立場に着きそうだ。


「では必要な物を買っていきましょう」


「じゃあ次の目的地は火の国ウォルクスハルクだな」


 それから街に出て色々買い物をしながら温泉で休み、英気を養うことにした。


 そしてオールスでの最後の夜事件が起きた。

 夜も更けてみんなが布団で眠っていた。

 不意に目を覚ました俺は異様な空気に包まれていた。

 熱い空気はどこか冷たく、ねっとりとした嫌な空気が辺りを包んでいた。


「なんだ?」


 人と思えない圧倒的な存在感に俺はそう口にした。


「貴様の記憶は見た」


「記憶?」


 何だこれはどこから聞えている。暗い周囲に人影はない。あるのはみんなが寝ている部分だけ。

 地の底深くから紡がれるような重く冷たい声のありかを俺は必死に探す。


「感謝しよう、数の減った我が子を保護してくれたことを」


「何を言っているんだ?」


「時が来るまで大事にしていてもらおう」


「だから何言ってんだよ!」


 俺が叫んでも一向に意に介さない様子の何かは更に言葉を紡ぐ。


「せめてもの礼だ我が子の回収をここは最後にしてやろう」


「おい!」


 言いたいことだけを言い去ろうとする何かに俺は叫ぶが、その叫びは無駄に終わり何かの気配はその場に消えた。


「今のは一体なんだ?」


 俺の言葉は闇の中に溶けて消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ