首都ですること
最後の町を出発した道中、最後はアルシェとミールが操舵手となった。
「私もクォルテと温泉入りたかったな」
「大浴場なら一緒に入れるよ」
「他の男に見られるのは嫌!」
俺とフィルが温泉に一緒に入ったと知った時から、ルリーラは同じことばっかり言い続け、フィルが同じ返答を返していた。
「わかったよ、首都にはしばらく滞在する予定だからその時な」
「約束だよ」
「ご主人は優しいね」
「一人くらいならな」
一人なら視線をズラせば問題ないが四人もいたら視線をどこに向けても裸がある。
流石の俺もそんな環境で自制できるかはわからない。
人が増えるのは嬉しいがこういうところが辛い所だ。
「なら私もお願いしていいでしょうか」
「兄さん他の女の人とは一緒に入るのに従妹の私と入らないなんてありえませんよね」
「わかったよ。でも一人ずつだからな」
好かれるのは本当に嬉しいんだけど、こうも一斉に好意を向けらると流石にしんどいな。
たまに受け入れようかと思う時もあるが、それはやっぱりルリーラ達のためにならない。
「やっと道のゴールが見えてきましたよ」
「長かったな」
「ミールさん、後は私がやりますので後ろで休んでいてください」
「いえ、ここで私が抜けてしまうとアルシェ先輩の隣に兄さんが来てしまいますよね? そして何の気になしにその豊満なおっぱいを押し付けて誘惑しますよね? それは駄目です駄目なんですわかりますよねわかってますよね」
「……えっと」
「おい、変な疑いをかけるな」
とんでもない言いがかりに荷台からミールの頭に手刀を入れる。
大して強くやっていないが、両手で俺が叩いた場所を自分で撫でる
「でも兄さん」
「ミールが長時間操舵してるから心配してるんだから素直に甘えろ」
「兄さんはどちらの味方ですか」
「全員の味方だ、倒れないように後ろで休んでろ」
「うう……」
ミールは恨めしそうにアルシェを睨み荷台に移動する。
「後アルシェも休んでていいぞ」
「でも……」
ちらちらと俺と荷台を見つめる。
アルシェは俺の隣に居ようとしているらしいが、それは危ないよな。
「気にするな。ルリーラと二人の時は俺一人で操舵してたんだから、それに前はアルシェとフィルでやってたろ」
俺はあえて話をそっちから外し、一人でも大丈夫だと言った。
「あの時は仕方なくですし」
食い下がるアルシェに対して俺はフィルを呼ぶ。
「しょうがないな、フィル助手役を頼む」
「いいよー」
こう言ってしまえばアルシェも後ろに下がるしかない。
「ご主人って意外と意地悪だね」
「普段の道中ならしないって」
今日は日差しもあるしこの湿度と気温だ、あまり連続でここに座らせるべきじゃない。
ましてプリズマは身体能力が低いこともありこういう環境で体を壊しやすい。
「ルリーラじゃ駄目だったの?」
「あいつは落ち着きがない」
「あはは、なるほどね、確かにそうかも」
「だから悪いとは思ってるよ」
フィルなら黒髪で身体能力も高いし愚痴は言うけどルリーラみたいに暴れはしない。
フィルと他愛ない話をしながらオールスの首都についた。
「そこのお兄さん旅のお方ですか」
街に入ると少女が一人寄ってきた。
ルリーラよりも小さい位の茶髪の少女、浴衣を着て快活な少女がとてとてとこちらに話しかける。
「そうだけど」
「お泊りの所をお探しですか?」
「まあな」
客引きか、他の町には居なかったよなやっぱり首都だけあって宿も乱立しているみたいだし必要なことなんだろうな。
「言っておきますが私は客引きではないですよ」
「そうなのか?」
「はい、私はこの国で案内人をしております。フリュレと申します。これでも国が決めた案内役です」
「そうか、それは悪かった、俺はクォルテだ」
案内人か、なるほどこの街にいる全部の宿屋が客引きしてたら誰も歩けなくなるわけか。
「あのクソ餓鬼誰の許可で兄さんに声をかけてやがるんですか」
「私何か悪いことしたでしょうか?」
「すまん、あれはある種病気なんだ」
俺の後ろで初めて会った少女に呪詛を唱える従妹を体で遮り話を続ける。
「大変ですね、それでご希望の宿はございますか?」
「そうだな、まず五人泊まれて部屋にも温泉があって大浴場もあってできればキッチンも欲しいな」
「ふむふむ、温泉の効能とかのご希望はありますか?」
後ろを見ると全員が首を横に振る。
「特にないな、強いていうなら疲労回復かな」
「キッチンってことは宿からの食事は無しってことですか?」
「それはありで頼む」
あくまでキッチンは夜食やおやつ用だ。
ルリーラがお腹空いたという時もある。
「かしこまりました。一応今の条件に合う宿屋はこの三件ですね」
そう言って三枚の紙を渡してくる。
パッと見ても宿の売りがすぐにわかる、一つ目は安さが売りで他の二軒とは値段が格段に安い。
二件目は温泉が売りらしく大浴場にも数種類ありそれぞれ効能が違っており岩風呂や砂風呂なんてよくわからない風呂もある。
三件目はプライベート空間が売りの宿で部屋の風呂が広く眺めも街を見下ろせるらしい。
「三件目ってこれ覗かれたりしないのか?」
「しませんよ。他の所もそうですが、景色を売りにしている宿は特殊なガラスを使っているので、内側から外は見えても外側から内は見えないので」
「だったらこの三件目で頼む」
「毎度、ではご案内いたします」
フリュレに案内されながら首都を巡る。
ここの名産は温泉の蒸気と熱で作るため、蒸したり茹でたりする食べ物が多い。
そのほかには浴衣売っていたり木製の靴など他の国では見かけない物が数多く売っていた。
「お気に召していただけてよかったです」
「そうだな、まんまとフリュレに乗せられたよ」
「それがお仕事なので」
後ろで特産を買って満足そうに饅頭や卵を食べているルリーラ達を見ていると、それもいいかと思ってしまう。
「到着です、ここが宿屋シュリでございます」
「ありがとう」
「また街に出られるときはぜひフリュレをお願いしますね」
「わかったよ」
フリュレはチェックインをすると言い宿に入り俺達も後に続く。
「こちらの五名様なのですが」
「はいよ、では皆さんどうぞこちらへ」
奥から一人店員が現れ俺達を部屋に案内してくれる。
「こちらです、どうぞごゆるりとおくつろぎください」
店員がいなくなった後は荷物を片づけ各々くつろぎ始める。
「いいよねこれ」
「そうだね」
「安らぐよね」
ルリーラ、アルシェ、フィルの三人は完全にこの草で編んだ床が気に入ったようですぐに横になった。
「兄さんの意向だとはわかっていますが、本当に奴隷なんですかこの人達は」
「主人が自由にって言ってるんだからいいんだよ」
「どうもなれませんね。あっ、兄さんはお饅頭食べますか? 食べさせますか? 小さくちぎってあげたほうが食べやすいですよねでも大きい方が食べたいというのでしたらこのままがいいですよね兄さんお口を開けてくださいほらあーんしてください食べさせてあげますか」
「一人で食えるから食べさせなくて結構です」
ミールの持っている饅頭を奪い取り口に含む。
口の中にしっとりとした感触を噛むと砂糖の甘さが口の中で広がる。
「クォルテ、お風呂に入ろう!」
ルリーラが勢いよく俺の手を引っ張る。
「私もここの浴室見てみたいです」
ルリーラが立ち上がるとみんなが後について浴室の確認をする。
「おー」
みんなが揃って感嘆の声を上げた。
床と浴槽は木製で作られておりどこか懐かしさを感じるが周りを囲む一面ガラス張りのため田舎っぽいというよりもどこか未来的で開放感がある。
外を眺めると遠くに山が見え下を見れば人や露店が立ち並び人のいないところには川が流れている。
「良い所だな」
俺の言葉に繋げて、みんな各々に感想を口にする。
「そうだ、私お風呂に入るんだ」
景色を眺めていたルリーラが思い出したように口にし、他の三人は追い出されるように浴室を出て行った。
「たまには頭洗ってくれる?」
「わかったよ」
どこか遠慮がちのルリーラが可愛くて俺はうなずいた。
「えへへ」
頭髪用の洗剤を使いルリーラの頭を洗う。
洗剤をお湯で溶かし、軽く泡立てルリーラの頭に乗せる。
「そんなに口開けてると泡が口に入るぞ」
闇色で艶のあるルリーラの頭を俺はわしゃわしゃと洗う。
「大丈夫だもん」
「そうか、入ったからって怒るなよ」
「えへへ」
どれだけ嬉しいのかルリーラの頬は筋肉が溶けたように緩み切り、俺までつられて笑顔になってしまう。
「俺なんかに髪を洗ってもらって嬉しいのか?」
「違うよ、二人なのが嬉しいの」
「そうかよ」
惜しげもなくそんな素直な言葉を口にできるルリーラに恥ずかしさを覚えてしまう。
「仲間が増えるのは嫌だったか?」
「そうじゃないの、アルシェもフィルもミールも好きだけどね」
うーんとルリーラは自分の感情が言葉にできず唸ってしまう。
「ほら、泡流すから口閉じろ」
「うん」
口だけじゃなく目までしっかりと閉じるルリーラの頭からお湯をかける。
「プルプル」
わざわざ口で擬音を発しながら首を振る。
「別に口で言う必要はないだろ」
「首を横に振るとなるでしょ、プルプルって」
「なるかもしれない」
確かに口を閉じていないとなるよな。
大人になってからは頭を振って水気を切るなんてしないしな。
「でしょ。今度は私がクォルテの頭洗ったげる」
咄嗟に拒否をしようと思ったがたまにはいいかと首を縦に振る。
「どう?」
「いい感じだ」
力加減がまちまちで少しもどかしいが頑張っている感じが伝わってくる。
人に髪を洗ってもらうなんていつ以来だろうな。
「さっきのだけど」
と突然ルリーラが口にする。
「仲間が増えて嬉しいけど、やっぱりクォルテと二人になれる時間は欲しいかな」
「そうか」
仲間が増えてよかった。
二人では考えられない感情がルリーラに芽生えてきたことを俺は素直に喜んだ。
娘の成長を喜ぶような温かい気持ちになりながらゆっくりした時間を二人で満喫した。




