襲撃者 再臨
不機嫌が直っていないアルシェの操舵で馬車は首都の街に向かうことになった。
「今日は何を買う予定なんだ?」
「オールスに向けての食料の買い出しです」
可愛らしく頬を膨らませ不機嫌を表すアルシェはやはり変わってきた気がする。
変わったのはアインズを超えた辺りからだろうか。
「好きな物買っていいから機嫌直せよ」
「はい」
ルリーラも最初こんな感じだった気がするな。
慣れてきて自分の我がままをぶつけてくるようになった。
流石にルリーラみたいにアルシェに迫られたら困りものだけどな。
馬車に乗りながらこんなことを考えるなんてそろそろ俺も年なんだろうか。
「クォルテさん」
「なんだ?」
「あれ、魔力溜めてますよね」
進路上に魔力の反応があった。
それも明らかにこちらの進路を妨害する形で……。
薄い霧の様なものがそいつから溢れていた。
「アルシェ、俺が運転を変わる。お前はあいつを退かしてくれ」
「わかりました」
まだ姿の確認はできないが、おそらく昨日の不審者だろう。
その時にアルシェに頼んだことが失敗だったことを悟った。
変化しない水の魔法はここ最近強敵に使っていた魔法だ。
「炎よ、鎖よ、進路を塞ぐ者を退かせ、フレイム――」
「待てアルシェ」
「――チェーン」
「水よ、盾よ、我らを守れ、ウォーターシールド」
アルシェの魔法を予知していたのか、それとも進路を塞ぐためのものだったのか、
不審者は水を分解した。
そこにアルシェの魔法が加わってしまう。
それはつまり複合魔法だ、それもこんな道の真ん中で。
何度も使ったことがあるからわかる一瞬だけ激しく光その後に起こる爆発。
直前で水の盾で広範囲に広がるのを防いだが、道には大きな穴が広がった。
「今のは、……そうか狙いは俺か」
考えていなかったことだが、そう考えれば全てがつながった。
「今の何?」
「耳が痛いよー」
「襲撃者だ。身構えておけ」
その一言に後ろにいた二人も一瞬だけ構えた。
「誰もいないよ」
「そんなはず」
「いないよー、ほら」
フィルは風の魔法で辺りの煙を霧散させる。
そして目の前には誰もいなかった。
「あれだけのことをしておいていない?」
今こそが絶好のチャンスだったはずだ。
それなのにいないとは、ミールは何を狙っている?
そこからは慎重に首都に向かい首都の中に入る。
人がごった返し建物も密集している首都でようやく一息つく。
「ここでなら流石に無茶はしないだろう」
「さっきのはクォルテの知り合い?」
「たぶんだが、ミール・ロックス。俺の従妹だ」
水の魔法、そしてさっきの霧の様な魔法はロックスが使える魔法だ。
となると昨日俺に攻撃をしたのはわざとだろう。
「神様がおっしゃられていた方ですね」
「そうだ」
ロックスの名前に落ち込むルリーラの頭を撫でる。
「詳しくは聞かない方がよさそうだね」
フィルは隣の大人しくなってしまったルリーラを見て何かを察する。
「助かる」
過去のことを俺が話してしまっても構わない。
だが、話すとルリーラの事も話さなくてはいけない。
まだ棘としてルリーラの中にロックスへの恐怖があるならそれを抉るような話はしたくない。
「たぶん目的は俺だろうな」
「ロックス家を没落させたんでしたよ」
「そうだ、神の話ではそれを根に持っているらしいからな」
そうなると解決先を考えておかないとな。
ロックスから色々と持ち出されていると厄介だな。
伊達に水魔法の最先端技術を持っているわけではないしな。
「とりあえずここは大丈夫だろうから、買い物済ませて帰ろう」
そう言って歩き出すとルリーラは俺の手を強く掴む。
「大丈夫だ俺がお前を守ってやる。そう言っただろ」
「うん……」
小さく震えるルリーラの手を強く掴み後ろを見る。
「それに、今は仲間も増えたんだ安心してろ」
「わかった……」
ルリーラが掴む手は馬車に乗っても外れることはなかった。
「ごめんねアルシェ、フィルも」
「大丈夫だよ」
「あたしもここ座ってみたかったし」
俺は旅を始めて以来初めて荷台に乗って移動している。
ルリーラが離れないままのため助手役にフィルを置いて操舵している。
「今夜も来るかな?」
「怖いなら参加はしなくていいぞ」
昨日の様子なら実力で負けるはずはない。
「うん」
コテージに着くとルリーラ手を離した。
そっと自分から手を放しアルシェ達の元に向かう。
急に冷える手が寂しいが縋れるのが俺以外にもいるなら問題ない。
「みんなはミールを見つけても戦わなくていい。俺が全部やる」
それが俺のできることだろう。
下手にアルシェを向かわせたら、また爆発してしまう可能性もある。
それならお互いに手を知っているうえで実力が勝っている俺一人の方が勝率は高い。
「わかったー」「わかりました」
二人の返事にルリーラも合わせて頷く。
「今日はみんなどうする?」
「どうするってなにがでしょうか?」
俺の問いに代表してアルシェが返事をする。
「俺は今日ルリーラと一緒に寝ようと思うけど二人はどうするかなと思って」
「折角のお誘いですけど今日はやめておきます」
「あたしも今日はアルシェと寝るよ」
二人とも察しているらしく、変に絡んでくることはなかった。
「ごめんね、アルシェ」
ルリーラはアルシェに謝罪を述べるとアルシェは笑顔で答える。
「いいんだよ、久しぶりにいっぱい甘えてきて」
「うん」
アルシェの優しい言葉にルリーラはアルシェにありがとうと抱き付く。
「じゃあ、二人も何かあったらすぐに呼んでくれ」
「わかりました」「はーい」
「じゃあ寝るか」
今日は一組の布団にルリーラと二人で並んで横になる。
「ごめんね」
「今更だろ、いつも布団にもぐりこんでくるんだし」
「それは謝らないけど」
「そっちの方は謝れ」
「はは、みんなに気を遣わせちゃってるな」
落ち込んでいるのか腕にギュッと抱き付いてくる。
「いいんだよ、お前はまだ子供なんだから」
「うん」
「俺は今ちょっと懐かしんでるしな」
「何を」
「初めて旅に出た時のことだよ、あの時も怖いって俺に抱き付いて寝てたろ」
「私は変わってないのかな?」
「変わってるぞ、強くなったし大きくなった」
「クォルテおじさんみたい」
「おじさんじゃねえよ、せいぜいお兄さんだ」
「そう、だね……、すぅすぅ」
適当に話しているとルリーラは深く眠りについた。
この懐かしい感じ、最初の時も眠るまでよくこうしてたよな。
闇色の神は艶があり撫でると気持ちがいい。
太陽のように温かくていい匂いのするルリーラとともに眠る。
「クォルテ、来た」
「そうか」
ルリーラに揺すられて目を覚ます。
「アルシェ達と一緒に居ろ。すぐ戻る」
「うん」
不安そうにしているルリーラから離れ、玄関に向かい扉を開ける。
「よう、ミール久しぶりだな」
「兄さん、久しぶりだね」
数年ぶりに会うミールの姿は変わらない。
真面目さから明るい茶色の髪を二本のおさげにまとめ、父親譲りのきつい目つきは見ているものの本質を見抜くようにこちらを捕らえている。
厳格なロックスの血を全て受け継いだ容姿と雰囲気に父親を思い出してしまう。
「俺に復讐か?」
「違うよ、ただ会いに来ただけ」
「それを信じろと?」
「信じられないんだ従妹の私を」
「従妹だから信じられないんだよ」
俺を恨んで襲う理由があるのはロックスの一族だ。
ましてやミールはロックスと俺を尊敬していた。
尊敬していた俺が大事なロックスを没落させて奴隷と逃げたなんて復讐には十分な理由だ。
「私はねクォルテ兄さんが好きなの、好きで好きで大好きでだから追いかけてきたんだよ」
ん?
「ロックスとかどうでもいいの、ただ兄さんと一緒に居たい結婚して伴侶として一緒のお墓に入りたい」
あれ? ミールってこんなキャラだっけか?
「それなのにヴォールで聞いたよ女の奴隷を侍らせているって奴隷なんて買わなくても私が全て受け止めてあげる」
ミールって実はこんなに危なかったのか?
昔はもっとクールで素直だった気がするんだけど。
確かに好きってのは言ってたけどそれはこう家族的な好意じゃないの?
「だから兄さんを迎えに来たよ一緒に行こう。アリルドを手に入れたのも私のためだよね」
一歩ずつ近づいてきて見えてくる顔はとても言い表せない。
だらしない口元、怪しい目、膨らんだ鼻、紅潮した頬。
誰が見ても変質者ですと断言できる女の子のしていい顔ではない。
「ミール、どうした? 落ち着け」
なおも何を掴むつもりなのか両手を前に出し怪しい動きを見せる。
男女逆なら即処刑もあり得る状況に流石の俺も困惑する。
「落ち着いてるよ、ミールは落ち着いてるよ。ハァ、ハァ」
「待てそれは絶対嘘だ、興奮しすぎて変質者になってるから!」
「そりゃー!!」
突然疾風が俺の横をかすめていく。
直後にミールがいた場所に大きく穴が開く。
「ルリーラ?」
「クォルテに何すんのさ、この変態!」
どこからか弾丸のように飛び出してきたルリーラは、俺とミールの間に立ちはだかる。
さっきまで小さくなっていたとは思えないほどに凛としてミールに喧嘩を売る。
「あんたがクォルテを狙ってたんだ、相変わらず変態なんだ」
「誰かと思えばロックスのモルモットね。あんたがなんで兄さんと一緒にいるのかな?」
俺が知らないところで二人は知り合いだったらしい……。
そんな二人は視線をぶつけバチバチと火花を散らしている。
「私はクォルテに助けて貰ったの! ロックスを潰してまで私を助けてくれたの!」
「そんなわけないじゃない、兄さんがモルモット一匹のためにロックスを潰すわけないじゃない」
「本当だもん、私のためにロックスを潰してくれたんだもんね、クォルテ?」
「ロックスの縛りを解くために家を潰して実験のためにモルモットを連れ出したのよね、兄さん?」
そう言い合った末に二人とも同時にこちらを見る。
いや、見られても困る……。
「「どっち!?」」
「ルリーラの言い分が正しいんだけど」
「ほら見たか!」
「嘘よ! そんなの嘘に決まってるじゃない!」
そして二人は言い合いを続ける。
それにしても二人が怖い……、これが女の闘い? ってやつなのか。
「ふんっ! 今日の所は帰るわ、明日同じ時間に来るわ!」
「もう来るな!」
「いいえ来るわ、そして兄さんをかけて決闘よ!」
「いいよ受けて立つ!」
俺が当事者のはずなのに俺は蚊帳の外のまま話が進んでいく




