襲撃
「クォルテ」
深夜、寝ているといきなり体を揺すられる。
「ルリーラ? どうしたんだ」
「誰か近くに居る」
その言葉に脳が覚醒し体を起こす、いるのはルリーラだけでアルシェとフィルがいない。
「散歩とかじゃないってことだよな」
ルリーラが頷く。
「他の二人は?」
「まだ寝てる、まずクォルテに相談って思って」
ルリーラだけが気づいたってことは気配を消しているのか。
しかもフィルも気づかないってことはなかなかの手練れってことだな。
「人数は?」
「一人、さっきからこの建物の周りを移動してる」
「強盗とかじゃなさそうだな」
「だから呼びに来たの、どうしたらいい?」
人数は一人、それも手練れとみていいだろう、一番の疑問は入ってこないで周りをうろついていること。
強盗なら一人は変だ、それに土地勘のある強盗なら下見には来ない。
不審者の目的は何だろう。
「いつぐらいからここにいるんだ?」
「十分くらい」
それなら他のコテージと間違えている可能性はないか。
狙われる理由はたくさんあるよな。
まず第一に、俺達は昼に結構買い物をしているから金があるのはバレている。
次はルリーラとアルシェだな、ベルタとプリズマなら狙われる理由にはなる。
後はフィルの元主くらいか、まあその可能性はないだろうな。
ヴォールであそこまで恥を掻いたのに恥の上塗りはしないだろう。
「私見てこようか?」
「いや、俺が見に行こう」
ルリーラとアルシェを狙っているなら対策くらいしているだろうし、そんな所にルリーラを連れてはいけない。
「ルリーラは俺が危なくなったら飛び込んできてくれればいい」
「わかった。アルシェ達も起こしておくね」
「頼んだ」
階段を下りて玄関に向かう。
確かに歩いている音はする。
俺は目の前に来たタイミングを見計らって扉を開ける。
「何か御用ですか?」
「なっ!」
驚かれたことに驚いてしまう。
まさか長時間歩いていてバレていないと思っていたらしく咄嗟に後ろに飛び退いた。
「待て」
「水よ、槍よ、敵を穿て、ウォーターランス」
「くそ!」
咄嗟に放たれた魔法に驚き魔法を避けるために大きく横に飛ぶ。
水の槍はコテージの床に刺さりすぐに見ずに変わる。
念のため持ってきた槍に魔力を込め臨戦態勢をとる。
「何が目的だ?」
「水よ、飲み込め、ウォーター」
大量の水が壁のように現れこちらに向かってくる。
「こんなもんか」
小さな槍で水を突き破り近づく。
「くっ!」
顔は見えなかったがおさげの髪と体格で女だとわかる。
全体的に動きが未熟で何が狙いなのかわからない。
「悪いが捕らえさせてもらうぞ」
一足飛びで不審者に飛びかかる。
「水よ、鎖よ、我が敵を捕縛せよ、ウォーターチェーン」
水の鎖は真直ぐ不審者に向かって飛んでいく。
「水よ、鏡よ、虚像を映し身代わりとなれ、ウォーターミラー」
水の鎖が向かった先には水の現身、鎖はそれを本人と思い巻き付き捕縛する。
しかしその身代わりは捕らえられた瞬間に水に変わり地面に戻っていった。
「逃げたか?」
蛇を出そうかと思ったが、痕跡となる魔法の水はもはや地面に染みてしまい追うことはできない。
「クォルテ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「不審者は?」
「逃げたよ」
水の魔法を使う女、他の魔法ならまだしも水の魔法だと何も手掛かりにならない。
「追うの?」
「狙いが俺達ならまた襲ってくるだろう」
そして俺とルリーラはコテージに戻とアルシェとフィルも起きており、椅子に座っていた。
「大丈夫でしたか?」
「心配はいらないって、弱かったしな」
「そうなんですか?」
「ああ、びっくりするくらい」
こちらの動きを察知できる能力もなく、身体能力に魔力も高いわけじゃないいたって平凡な能力だった。
ただ偶然ここにいたっていうわけではないのはわかった。
見つかった後に攻撃してきたのはやはり何かを狙っているのは確かだろう。
「私が見張ってましょうか?」
「そこまではいらないな」
「いらないと思うよ、何か探してたみたいだけど殺気とかはなかったし」
「気づいたうえで寝てたのか」
「そうだよ、それにルリーラが呼びに行ってたし」
「じゃあ今度はまた何かあったら教えてくれ」
「わかったー」
部屋に戻るとなぜか俺の寝る部屋に全員が集まる。
「それで、なぜこうなる?」
「こっちのほうが早いし」
「移動が面倒だしー」
「一人は寂しいです」
三人共自分勝手な理由で隣を陣取る。
我がままを言えるようになってきたのは嬉しい限りだけど、少しくらい自分の時間が欲しいと思わなくもない。
「同じ部屋でいいが布団には入ってくるなよ」
「布団並べるのに無理じゃない?」
「それなら、並べなきゃいいだろ」
「じゃあ、これならいいんだね」
フィルがそう言って提案したのは俺を三角形で囲む敷き方だった。
頭の上にアルシェ、その足元にルリーラの足、アルシェの枕元にはフィルの頭。
俺を囲むように敷いたままみんなが眠りについた。
これで眠れると思ったが、実際はそううまくいかなかった。
片方にはフィルの整った顔がはっきり見えた。
この前接近している時は近すぎて見えなかったが少し離れたおかげで顔がはっきりとわかる。
日焼けに気を使っているのか薄い褐色の肌、二人とは違い大人っぽく完成した綺麗な顔。
普段の間延びした口調から子供っぽく思っていたがこうして寝ていると大人っぽさにドキドキしてしまう。
駄目だ、見るな目を瞑って。
「んふー……」
そしてこの体制が思いのほか不味いことに気が付いた。
フィルの吐息もそうだが、今日は上にアルシェがいる。
衣擦れの音に吐息交じりの寝息。
いつものような肉体的接触ではなく音のみでの誘惑。
「すぅー」
上空からくるアルシェの吐息に離れるように反対側を向く。
そして現れるのがルリーラとアルシェの足。
白と黒の競演と言える二人の足。
どこまでも透き通るような色素の薄い白い足、に健康的に日焼けした褐色の足。
運動をあまりしていないアルシェの足は少しだけ柔らかそうにわずかな振動で揺れる。
そしてよく動くルリーラの褐色の足は引き締まりながらも筋張ってはいない女性らしい足が布団から出ている。
これはこれでよくないんじゃない?
だけど、これなら見ていても変にならないだろう。
だがそう甘い陣形ではなかった。
俺の足に別の足が絡む。
「っ!!」
声はあげなかったが不意打ちの絡み。
温かく柔らかい人の肌、初めて交わる同年代の女性の肌に心臓が一気に動き出す。
本当は起きているんじゃないかと思う足で足を舐める動き。
柔らかく滑らかな感触に身もだえしそうになる。
「――っ!?」
そして更に重ねて襲ってくる不意打ちの吐息。
それがルリーラのものだと知っていてもぞわぞわと快感が背筋を登る。
そして予想外の出来事、ルリーラが俺の足を掴んだ。
すぐに振り払いたいが薄暗い空間で見えにくい位置のせいで振り払うと蹴り飛ばしてしまいそうでできない。
されるがままの現状にこの形を提案したフィルを恨む。
「あむっ」
そして何の夢を見ているのかルリーラは俺の足の指を甘噛みしてくる。
硬い歯に潰されそうになりながらも指の触れる柔らかくて熱い口内。
吹く吐息とは別の暖かいルリーラの呼吸。
味わったことのない熱と感触の虜になってしまいそうだ。
「って、そうじゃない」
俺は起こすことを決めた。
いくら何でもルリーラが足を舐めるのは止めなくてはならない。
いくら洗っているとは言っても汚い足をいつまでも舐めさせるわけにはいかないのだ!
「ルリーラ起きろ」
「ちゅぷっ、どうしたの?」
ルリーラの口から解放された指は短く糸を引き冷たい外気にさらされる。
「人の指を舐めるな」
「何言ってるのさ、美味しい飴を舐めてるのに」
眠いのか目を擦りながらこっちに体を預けてくる。
小動物のように体を小さくまとめ俺の膝に乗ってくる。
「自分の布団に入れ」
「むりー」
仕方なく同じ布団で横にする。
このままだとまた足を舐められそうだ。
俺が横になるとすぐにルリーラは抱き付いて眠る。
「すぅすぅ」
こうなるとわざわざ起こすことはできず仕方なく抱き付かれたままにする。
「結局こうなるんだよな」
こうなってしまうとどうすることもできずにルリーラの頭を撫でるとくすぐったそうに俺の体に顔をこすりつける。
本当に小動物をあやしているような感覚を感じながら俺の意識は落ちていく。
そして翌日。
「ルリーラちゃんズルい!」
アルシェの怒りの声で目を覚ました。
「なんでクォルテに抱き付いて寝てるの?」
「それはね、ルリーラがご主人のを舐めてたからご主人が自分の布団に寝せたの」
「それって、まさか」
「お前は確実に起きてたよな?」
フィルが意図的に説明を省いたためアルシェがものすごい顔で固まる。
「私もしてもらえますか?」
「何もしてないから!」
「ご主人に優しくしてもらってたよ」
「クォルテさん、売られても構いませんので私にもお願いします」
「その覚悟は捨ててしまえ! だから俺は何もしてないから」
朝から怒号が飛び交う中ルリーラはまた深い眠りに落ちっていった。




