二度目の魔獣襲来
赤い閃光弾を確認後、連続で三発の閃光弾が打ちあがる。
「これって全部で四体来るってことことだよな」
「そうだよ。それに赤だから」
「超大型ってことか」
向こうで何が起こってるんだ、神を含めた多数の精鋭がいるのに都合四体も討ち漏らすものか?
「四体も流れてくることは結構あることなのか?」
「規模が規模だからしょうがない気はするけど、今まではなかったはずだよ」
いまいち緊張感がない間延びした声でフィルは海をじっと見つめる。
向こうには白髪や黒髪も大勢いたはずだ、特級に手一杯とおもっていいんだろうか。
「クォルテさん来ます」
考えるのはこいつらを倒してからだな。
戦闘の準備をする。
「おい! そっち全員で二体頼めるか? 俺達で残りの二体を倒す!」
「舐めるな! と言いたいが引き受けた倒したらすぐに援護に向かう」
「頼んだ!」
さっきの戦いで実力差がわかったのか他のチームは拒否をせず頷く。
「悪いな、超大型を二体勝手に引き受けた」
「大丈夫だよ」
ルリーラを始め三人は文句一つ言わずに俺の独断に頷いてくれた。
「アルシェは俺達に強化魔法、ルリーラと俺でまず一体潰す。フィルとアルシェは時間稼ぎを頼む」
「「「はい」」」
三人の返事と共に一斉に動き出す。
「フィルも無理に倒す必要はないからな、怪我しないように立ちまわれ」
「私奴隷なんだけど」
「一人の人間だろ」
「……」
フィルは少し戸惑いを見せる。
「行けるよクォルテ」
ルリーラのその言葉で三人で飛び出す、俺達の相手は平たい身体のエイ型、フィルが向かうのはタコよりも足の数が多いイカ型の魔獣。
「水よ、籠よ、悪しき者を捕らえよ、ウォーターケージ」
水の籠にエイを捕らえ動きを封じる。
「いっくよー!」
ルリーラの掛け声とともに渾身の拳を魔獣に一発打ち込む。
「――――!!」
悲鳴と共にルリーラの拳が穿った体からは血が溢れる。
「もう一発」
「ルリーラ避けろ」
エイの特徴ともいえる尾の針がルリーラ目掛け飛んでくる。
それをかろうじで避けたルリーラは尾を掴む。
「水よ、剣よ、魔を討つ剣となれ、ウォーターソード」
水の剣を持ち尾に向けて振り下ろす。
岩に振り下ろしたような重い衝撃。それに負けないように力任せで硬い皮膚の尾を断ち切る。
「貰っていくよ」
切れた尾を持ちルリーラは力一杯に魔獣の体に尾を挿し込む。
「よし、次行くぞ」
「いいの?」
「やりたい魔法があるんだ」
俺達は籠から飛び出し、魔法で作った道を進みフィルの元に向かいながら呪文を唱える。
「水よ、籠よ、姿を変え悪しき者を閉じ込めよ、ウォーターボール」
籠は隙間を埋め大きな球体に変わり魔獣をその中に取り込む。
「行くぞアルシェ!」
「炎よ、爆炎よ、我の破壊の衝動を受け止めよ、敵を討ち滅ぼす衝撃を生め、バーンアウト」
「水よ、姿を変え、空気に混じれ」
「それって、おっちゃんの時のじゃ」
「そうだぞ、あの時よりは火力が高いけど」
次の瞬間ボールの中にアルシェの魔法が発動する。
一瞬の閃光、それに送れ耳を裂くような爆発音がなり水のボールが蒸発し煙を上げる。
手負いの魔獣に今の複合魔法が耐えきれるわけもなく灰へと変わった魔獣は海中に沈んでいく。
「耳が痛い!」
「悪い、次からは気をつける」
と言ってもこれだけの魔法を陸上でできるわけがないけど。
「全部それでいいじゃん」
「それだとお前が暴れられないし、弱らせてからじゃないと捕まえられないから使えないんだよ」
「へえ」
球体で覆うことはできても魔獣クラスだとどうしても魔力消費と強度が心もとない。
アルシェほどの魔力があればそれも可能だが、凡人の俺ではあまり多様できない。
「今回は早さ重視だ」
「わかった」
ルリーラは俺を担いで一気に道を進む。
「フィル、お待たせ」
「今の凄かったね」
縦横無尽に駆け回るフィルは十ある腕を避けながら攻撃も当て続ける。
「ルリーラは好きにやれ、合わせる」
「了解」
駆けだすルリーラは、イカの足を力任せに破壊しながら突撃する。
「水よ、氷よ、敵の動きを止めよ、アイシクル」
水はルリーラが破壊した部位を水で覆い、再生を阻害する。
そしてそのまま徐々に頭部に向かう。
「便利な魔法だね」
「成功するとは思ってなかったけどな」
壊すのも有効だとわかったルリーラとフィルは魔獣の足を破壊しつくす。
胴体だけに変わった魔獣にルリーラは渾身の力をぶつける。
「吹き飛べ!」
ただの全力の拳、ベルタの全力の一撃は魔獣の頭部を粉々にする。
そしてほぼ時を同じにして向こうからも歓声が上がる。
「これで終わりだな」
「あっちも終わったみたいですよ」
城壁に戻ると船が二隻こっちに向かってくる。
これで終わりか、そう安堵した。
魔法の実験も成功し少し浮かれ簡単な間違いに気づくのが遅れた。
「なんで二隻なんだ?」
「あの船、ボロボロだよ」
「これはちょっと嫌な予感がする」
沈みかけている船が二隻。想定外が起きている可能性がある。
「誰かあの船まで道を作ってくれ」
他のチームに声をかけ道を作ってもらい俺達四人は船に向かう。
「誰もいないのか?」
二手に分かれて船の中を探すが無人だった。
「そっちはいるか?」
「はい、三名の方がいます」
「わかったすぐ行く」
どこも痛んでいる船の中で怯える三人がいた。
一人は黒髪で二人は白髪の男三人は頭をかかえ小さくなっている。
「何があったんだ?」
「逃げろ、あれは化け物だ」
「神がいたはずだぞ」
「い、一体で手一杯なんだ、強いのが居て、ほ、他の、他の特級が、暴れているんだよ……」
神が苦戦する存在。
そんな魔獣がいることに驚きを隠せない。
「わかった、このままいけば街に帰れるぞ」
「――――――!!!!」
魔獣の慟哭が聞こえる。
「うわああああ!!!!」
それに反応するように声とは正反対の方に三人が逃げ出す。
地獄からの使者と言われれば信じてしまうほどに低く、恐怖を与える叫びに見たこともない俺達も後ずさる。
「どうするの?」
ルリーラが俺の手を握る。
汗に湿る手がルリーラの恐怖を表している。
他の二人も行動には出さないが不安が顔に出ている。
「とりあえず多少の足止めをしてみようと思う」
「「「…………」」」
流石の三人もすぐに返事はできない。
「わかった、クォルテを信じる」
「私も、信じます」
「乗りかかった船だしね」
三人とも覚悟を決めてくれた。
「よし行くか」
甲板に出ると遠くの方に超大型よりもはるかに大きな魔獣がこちらに向かってくる。
「ルリーラとフィルには厳しい所だが、あいつの目を引いてもらう」
「わかった」「任せて」
「アルシェは俺とさっきの複合魔法をやるぞ」
「わかりました」
「言っとくけど手加減は一切なしだ」
「わかってます」
恐怖で手と足が震える。
呼吸が乱れる。
自分の死、ルリーラ達の死、全ての恐怖が俺を襲う。
「大丈夫だよ」
「私たちはクォルテさんを信じてますから」
「頼んだよ」
少しだけ軽くなった気がした。
「行くぞ」
掛け声とともにルリーラとフィルが飛び出す。
「アルシェは限界まで魔力を貯めろ、後は俺の合図を待て」
小さく頷きアルシェの周りに魔力が貯まる。
「水よ、槍よ、禍々しき存在を貫く巨大な楔となれ、ウォーターランス」
海から作られた巨大な水の槍は特級の魔獣に刺さる。
攻撃されたと理解した魔獣は俺を睨み怒号のような声を上げる。
「――――――!!!!」
規格外の声量は大きな波を立て、俺達の動きを止める。
海から現れる城壁よりも分厚い尾が迫るルリーラ達を狙いたたきつける。
一瞬前まで二人がいた場所は大きな音を立て巨大な水柱を作る。
その水柱の影に隠れ魔法を唱える。
「水よ、氷よ、水の柱を固めよ、アイシクル」
水柱は魔獣の尾を巻き込み氷の柱になった。
さっきは役にたったこの魔法も一瞬で破壊され海に巨大な霰が降り注ぐ。
「うりゃああああ!!!!」
ルリーラの叫びと共に繰り出した一撃もダメージを与えるに至らない。
蛇型の魔獣か……。
ここにきて対峙したことのない未知の魔獣。
「攻撃はいい、自分の身を考えろ」
「場合による!」
仕方ないと判断し二発目の準備をする。
「水よ、龍よ、水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、その魂を地の底に送れ、災厄の名を背負いし者よ、我の命に従い顕現せよ、水の龍アクアドラゴン」
できるだけ大きく作った水の龍も特級の魔獣とでは大人と子供のサイズ差がある。
「巻き付け」
魔獣に巻き付いた水の龍のほかに更に追撃する。
「水よ、鎖よ、強大な敵を捕縛する枷となれ、ウォーターチェーン」
海から作られた鎖も水の龍と同じく魔獣の体に巻きつく。
「―――――――!!」
どうやら初めて動きが鈍ったらしく、苛立ちの篭った咆哮をし尾を無作為に海にたたきつけ始める。
「ルリーラ、フィル逃げろ」
返事よりも先に二人が離脱する。
「アルシェ!」
「はい、炎よ、爆炎よ、敵を灰燼に帰す地獄の炎となれ、地獄の業火、インフェルノフレイム」
「水よ、大気よ、汝のあるべき姿に変われ、フォグ」
ここまで離れれば何も気にしなくてもいいはずだ。
アリルドにも、超大型にも使わなかった正真正銘俺達の最大魔法。
巻き付いている鎖と龍、刺さる槍その全てを気体に変え、それを起爆剤としてアルシェの炎が起爆する。
目が潰れるほどの閃光、その後を追う耳をつぶす爆発音、それを更に追う衝撃は海をへこませて大きな波を作る。
その衝撃にルリーラとフィルが巻き込まれこちらに飛んでくる。
なんとか二人を抱える形で受け止めるが俺も後ろに飛ばされ最初に作っていた水の床に辛うじてたどり着く。
目と耳がようやく見えるようになる。
目に映ったのはさっきの爆撃でもまだ生きている魔獣。
「――――――!!」
流石の魔獣も無傷とは言えず体に焼け跡が残る。
魔獣はようやく俺達を敵として認識した。
煩わしい羽虫から自分にダメージを与える敵へと認識が改められた。
「くそっ……」
俺達には勝てなかったのか、力が圧倒的に足りていない……。
魔力切れの俺とアルシェは起きているだけで精一杯、ルリーラとフィルだけ無策で行かせるわけにもいかない。
死ぬんだな、俺。
「まだ生きておるな、クォルテ」
そう言って目の前に神が現れた。




