討伐隊の編成
翌日の朝、兵士の人に連れられて謁見の間に足を運んだ。
「これだけの人数が来てくれたことを我は嬉しく思う」
謁見の間にいたのは、少数の兵士の他に俺達と同じで招集された連中のようだ。
「正規兵はすでに討伐に向かっている。貴君らも討伐隊と防衛隊に別れ移動してもらう。討伐した数、功績によって我から褒美を授けよう」
その言葉に大きな歓声が上がる。
なるほど、みんなは褒美目当てか。それなら防衛側の危険は低いだろう。
「では皆の者魔獣を討伐しに行くぞ!」
その宣誓と共に大きな歓声とともに列が二つに分かれ移動を開始する。
「お前達は遠足か何かか?」
移動の途中で見知らぬ男が声をかけてきた。
いかにも屈強そうで全身に鎧を着た男。
「そう見えるなら邪魔になるから帰った方がいいぞ」
討伐隊に混ざっている段階で弱いはずがないのだが、ルリーラ達を見てそう決めつけた男を相手にせず言葉を返す。
「わかった、お前の欲求の捌け口か? お盛んな――」
「それ以上喋るな不愉快だ」
男の頭をありったけの力で掴む。
男の逆切れなのはわかっているが、それでもそうとしか女を見れないこの男が許せない。
「水よ、無数の槍よ、我が敵を射貫け、ウォーターランス」
水の槍が男の鎧の隙間に穂先を向け囲む。
「待て、待ってくれ、悪かった許してくれ」
「許すわけないだろ」
無数の水の槍は男の体を目掛け一斉に向かう。
そして男に刺さる直前にピタリと止まる。
串刺しになると思っていた男はそのまま失禁し白目をむいて気絶した。
「行くぞ」
やりすぎたかと神を見ると愉快そうに口角を上げていた。
「クォルテ、やりすぎじゃない?」
「やりすぎじゃないさ、今のは威嚇だ」
「そういうことですか。びっくりしました」
今ので伝わったらしく納得したアルシェと、全くわかっておらず首をかしげるルリーラ。
「自分の力を示したのと私達に手を出すなって威嚇してくれたんだよ」
「なるほど、でも別にそんなことしなくても実際に戦ったら認めてくれるよね?」
「前衛ならそれもできるが、防衛だと最悪戦闘がない可能性がある」
舐められたままだと、その後も何かあった場合に挽回ができない。だから今のうちに自分達を売り込む必要もある。
俺達が守れと案内された場所の景色は絶景だった。
青い海が一面に広がり他には何もない。
白い波間と癒される波の音、空の薄い青ともマッチし風が運ぶ潮の匂いが心地いい。
「綺麗」
ルリーラとアルシェは楽しそうに海を眺める。
見慣れているのかフィルはただ景色を眺めるだけだった。
「正規兵はここからじゃ見えないのか」
「そうだね、私でもギリギリ見えるくらいだから」
「じゃあ俺には無理だな」
ルリーラでギリギリなら俺達が見えるわけはない。
「さっきの義勇兵が出てきました」
見たこともない大きな船が汽笛の音を鳴らし出航する。
「凄い数だな」
何人乗れるかわからない規模の船が三隻進んでいく。
「これだと本当に出番ないかもね」
「それならそれでよいのだ」
いつの間にか神が空を飛び俺達の横に立っていた。
「しかし我が特級の相手をしなければいけないため、討ち漏らしがあり得るのだ。だからここを守ってくれ」
「わかりました」
「クォルテさっきのでお前の評価は上がったようだぞ」
顎で他の防衛組の連中を指す。
確かに俺達の方を見もしない。
「だとしたらやった甲斐がありました」
「ではな」
そう言って空を飛んでいく神の姿に出鱈目さを改めて感じた。
魔獣が来るまでは暇だな。
そう思い俺は腰を下ろす。
「これから何するの?」
「魔獣が来るまで待機」
「わかった」
ルリーラは暇だとわかると俺の膝にすっぽりとはまり体を預ける。
「私も失礼します」
流石に膝には座れないアルシェも隣に座る。
「それだと私はこっち?」
どれなのかはわからないが、フィルもアルシェとは反対隣りに座る。
そのまましばらく海を眺めていると突然向こう側に大きな赤い光が炸裂した。
「今の何?」
「決着がついたのかもな」
「違うよ、今のは魔獣が包囲を抜けた光」
実際に経験したことがあるフィルはすでに臨戦態勢を取っていた。
間延びした話し方なのに今回は行動が早い。
「それに赤は超大型」
「昨日の奴か」
昨日の魔獣の姿を思い出す。
でもここなら被害は少なくできるはずだ。
「おい、お前達が行くのか?」
俺達が立ち上がると近くの男がそう言ってきた。
「みんなで行かないのか?」
てっきり全員で行くものだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
男は行きたそうにしながら聞いてくる。
「超大型だろ、一つのチームでいいだろ。どうする?」
「いいよ、俺達は休んでるから」
「よっしゃ行くぞ野郎ども」
野太い雄たけびと共に戦闘の準備を進める。
「いいの?」
「ここでの戦いからを見たい」
広場のように足場があるわけでもないのにどうやって魔獣と対峙するのかそれが気になる。
俺なら都度足場を作りながら戦うが魔力消費が激しいためあまりやりたくはない。
「来たぞ!」
昨日とは違いタコのように触手を八本持っている魔獣。
さてどうやって倒すのか。
「足場を固めろ」
タコを覆うように魔法で海を固める。
そして前衛が一斉に飛び込みタコの討伐を開始する。
しかし狭いフィールドではタコからの攻撃もよけきれない。
「あの戦い方は無理だな」
ルリーラなら避けきれるかもしれないが流石にそんな危険な橋を渡ることはない。
それにルリーラは広い場所で暴れる方が好きだしな。
「それにしても厄介そうだな」
見ていると足を一本落としてもすぐに足が再生する。
一向にダメージを与えられてはいないように見える。
「フィル、あれはダメージ与えられてるのか?」
「あの魔獣は頭部を攻撃しないと駄目だよ」
「つまりこっちが消耗させられているだけってことか」
指令役と思われる男を見るが、攻めきれずに悔しそうに顔を歪める。
「おい、手伝おうか」
「……くっ! 頼む」
不本意そうに言葉を吐き出す。
全員が茶髪で、こちらみたいに一撃必殺の手札がないため有効だが入らないのがわかっているのだろう。
「ルリーラ、あっちは疲労困憊だ一撃で決めれるか?」
「昨日の剣があれば行けるよ」
「よし」
「クォルテ、あたしが行くよ」
討伐に行こうとした矢先にフィルが間延びした声で手を上げる。
「大丈夫か?」
「あたしも強いんだよ」
見た目で強さの判断はできないが、力こぶを作る仕草をしてもプルンと二の腕が震える姿は不安感しか与えない。
「本当に大丈夫か?」
「お任せあれ」
「それで何か必要な――」
俺の問いかけも無視しフィルは空へ駆け出した。
「おい落ちる、くそっ、水よ、壁よ、彼の者の……」
呪文の途中で驚いてしまう。
着水の直後に海水を蹴り再び上昇する。
「フィルカッコいい」
「あれどうやってんだよ」
そこから二三度跳躍を繰り返しフィルはタコの元にたどり着く。
そこからは圧倒的だった
機動力ではありえない空中での方向転換に海しかない後方へ逃げての即復帰、液体も重力も空気さえも無視した本当の機動力で魔獣の上部に攻撃を続ける。
「凄いな」
「ですね」
俺とアルシェ、ルリーラまでもただ茫然と見続けるしかなかった。
そして数分経つと魔獣は弱っていた。
周りの人から剣を奪い取りあっという間に頭部を取ったかと思うと空中で勢いをつけ魔獣の頭部に突き刺す。
それが致命傷だったのか魔獣はあっさりと動かなくなった。
「終わったよ」
またしても水の上を移動して俺達の所に戻ってくたフィルはさっきの動きを見せた者とは思えないのんびりと間延びした声で報告する。
「今のって魔法だよな?」
「そうだよ。私風の魔法使えるから」
「でも黒髪のフィルがあの高度な魔法を使えるのか?」
黒髪といえば魔法が使えないと勝手に思っていたが確かに使えないわけではない。
でもあの動きは高度な魔法のように思えた。
「全然高度じゃないよ。足に魔法を使って圧の壁を無理矢理作ってるだけだから」
「ただの強化魔法ってことか」
黒髪だからこその魔法、魔力があると力がないせいでそこまでの物を作るのは魔力が必要、ベルタなら可能だが補助がないと疲れてしまう。
魔法が使え身体能力も高い黒髪でないとあそこまで自在には使えない。
「そうだよ。凄い?」
「凄いな、俺達にはできない技だ」
「……」
フィルは頭を差し出して固まる。
「どうしたんだ?」
「ルリーラちゃんとアルシェちゃんは撫でてもらえるのにあたしにはないの」
まさかの言葉に俺はどうしていいかと考え二人を見ると、素直に頷いたので俺はフィルの頭を撫でる。
二人とは違うふわふわとした柔らかい髪を撫でる。
「あはっ、これなんか嬉しいね」
「ならよかった」
「じゃああたしも撫でてあげるね」
そう言いながら、ふわっと抱きしめられる。
甘ったるいほどの柔らかい匂いに包まれ俺がフィルの胸にぴったりと収まる。
「ちょっとフィル!」
「フィルさん何してるんですか!」
二人に引きはがされてフィルが責められてしまっている。
「そんなに言うなら二人もやればいいのに」
まさかの反撃に二人の言葉が止まる。
「クォルテ」「クォルテさん」
二人がじりじりと迫る様は少し恐ろしく俺は後ずさりをしてしまう。
「フィルにはさせたのに」「私たちは駄目なんですか?」
「いや、二人の迫力が怖いんだよ」
二人が得物を狩る肉食動物のような顔をしてどんどん近づいてくる。
「捕まえた」
いつの間にか背後に回っていたフィルに掴まりそのままルリーラとアルシェにも掴まる。
「ちょっと、やめろって」
「撫でる時こんな感じなんだね」
「私も嵌ってしまいそうです」
三人にもみくちゃにされながらしばらく頭を撫でられる。
三方向から柔らかさと甘い匂いが責め立てて俺の理性を次々と奪っていく。
そして二発目の赤い閃光弾が打ちあがる。




