王との謁見
何もわからないまま四人とも水着で籠付きの船に乗せられ、城まで連れれていく。
「なんで俺達なんですか?」
「急務でな、魔獣を倒せる人材を探しているんだよ」
宿の時よりは幾分当たりが柔らかくなった兵士は、そう言ってすまないと謝る。
「俺達は旅を続けるので徴兵には応じられませんけど」
そして名前だけとは言え俺はアリルド国の王だ。
とてもじゃないが受けることはできない。
「いえ、魔獣の討伐隊を編成しますので、それに参加してもらいたいのです」
「それは一度だけということでしょうか」
「そうなります」
魔獣の討伐、話に聞いた限りだと正規兵のみで魔獣の討伐は問題ないはずなんだけどな。
「今はあまり詮索しないでいただけると」
「そうですよね。言えないこともあるでしょうし」
「助かります」
俺は他の三人を見ると全部俺に丸投げするつもりらしく、ルリーラは俺の膝で、アルシェは俺の肩に寄り添って眠っている。
そしてなぜか一緒に来たフィルは魔法船から外を眺めていた。
「ご家族でしょうか」
「まあ、そんなところです」
「綺麗どころで羨ましいですな」
「ええ、今は幸せですね」
雑談をしながら馬車に揺られヴォールの城に向かう。
「大きいね」
「アリルドとアインズよりも大きい気がします」
「それは当然です、何せ水の国ですから」
衛兵のその言葉にルリーラとアルシェがこちらを見る。
「城の最大の大きさは決められてるんだよ、水、炎、地、風の四つの国は神が国王だから神よりも高い城を建てたらいけないんだ」
二人は感心するようにこっちを見る。
「ちなみにルリーラには前に教えたぞ」
「いつ?」
「二人で旅してた時だな」
「覚えてない」
「まあ、そんなこったろうとは思ってたけどな」
あの時のルリーラはただ会話を繋げるために適当に質問してきた節があったしな。
そのおかげで俺は無駄に色々と調べ物をするようになったし。
「クォルテさん、この国の王が神様なのでしたら玉座には神様がいらっしゃるのですか?」
「いや、神が年がら年中いるわけじゃない。神はこの城の最上階に一室あるだけで王がやるべき仕事は総帥って国民の代表が行ってるんだ」
「よかったです、神様に謁見など恐れ多くて」
「こちらです、失礼の無いようお願いいたします」
そう言われ謁見の間に通される。
広い空間に護衛が一人もおらず、その様相は初めてアリルドと対峙したことを思い出す。
「近くに」
「はい」
四人が前に行くと一際立派な総帥の椅子に一人の男が座っている。
褐色の肌に龍のような大きな角、服から覗く手には鱗が生え人ならばありえない海のような青色。
それには流石の俺も驚く。
「ヴォール、様」
総帥の座る場所にいたのは人とは違う容姿をした存在、神がいた。
「お前だけか我を知っているのは」
「クォルテ、この人が総帥」
「馬鹿っ、ルリーラ」
「よいよい、可愛い娘達には優しくするのが我の流儀だ、お前も楽にしていいぞ」
「ありがとうございます」
ルリーラの不用意な発言で気分を害されて殺されるなんてこともあり得る。
「クォルテ?」
「そやつが緊張しているようだし、自己紹介をしよう」
そう言ってヴォール様は立ち上がり俺達の前に近づく。
ここまで来て異質の魔力をアルシェが感じ取った。
「我の名はヴォール、神にしてこの国の王だ」
その自己紹介にアルシェは当然としてルリーラまで驚いて固まってしまう。
「次はそちらの自己紹介を聞きたいな人の子等よ。しかしこの様子だと話は聞けそうにないか」
「私が紹介しますねー」
なんとフィルが物おじせずに神に話しかける。
「私はフィルって言います。それでこちらの男性がクォルテさんです」
「クォ、クォルテ・ロックスです」
「ほう、ロックス家か」
ロックスの名前に神はにやりと笑う。
その笑みに嫌な予感を覚えながらフィルの紹介は続く。
「そしてその隣の小さい子がルリーラちゃん」
「ルリーラです」
「うむ可愛いな、それに珍しい子だな」
そう言ってルリーラの頭を撫でる。
「そして一番奥の方がアルシェちゃんです」
「アルシェと申します」
「ふむ愛らしい、我の妾にしたいほどじゃ」
「それは……」
アルシェがちらりとこちらを見る。
「それは勘弁ください、彼女は私の大事な家族です。いくら神様の命でも従うことはできません」
神への反論に心臓が痛いほどに脈打つ。
俺が死んだかと思うほどの緊張の中神は愉快そうに笑う。
「くっくっく、お前、いやクォルテは男だな」
そう言って俺の肩を叩く。
「この二人はお前の奴隷だろ? 奴隷相手に家族か、実に愉快だ」
心底愉快そうに破顔する神に俺は困惑してしまう。
てっきり命がないと思っていたのになぜか褒められてしまう。
「アルシェとルリーラよ、喜べこの男はいい男だ。我の頼みを無下にするなど、剛胆の一言に尽きる。せいぜい手放さぬように篭絡することを進めるぞ」
「はい」「はい」
二人は展開について行けず、言われるがままただ頷く。
「では、私はお前達の主人に話がある。先に宿で待っていてくれ」
追い出す形で三人を部屋から追い出し神は床に座り込む。
「お前も座れ」
言われるがままに俺も座る。
「ロックス家なのは本当か?」
「はい、クォーツ・ロックスとスミル・ロックスの第一子です」
父と母の名を告げる。
「確か非人道的な人体実験が公にされ没落したらしいが、お前の仕業だな」
「その通りです」
神は俺の全てを見透かすように観察する。
「理由はおそらくあの奴隷二人のどちらかかな」
緊張感のある強い視線に背筋に汗が流れる。
「なるほど」
どこまで悟ったのか神は空気を弛緩する。
「ロックス程の貴族を没落させる手腕をこの若造が持っているとはな」
「たまたまですよ」
「そういうことにしておこう、それでここから真面目な話をしよう魔獣討伐の件だ」
「はい」
「最近、近海に魔獣の群れが居てな、どうもこの国の人間だけでは対処できないのだ」
「数ってどれくらいでしょうか」
「およそ、百」
「百!?」
俺が調べたころに年に出る数でさえ四十三体だったはずだ。
それの倍以上の数がいるのか。
「大型、超大型、果ては特級の存在が確認されている」
「特級ですか」
そこで初めて神がここにいる理由がわかった。特級の討伐のためにここにいるのだろう。
そして広場に人が来なかった理由もそれに関係しているんだろう。
「それも複数だ、特級が一体なら我一人で殲滅できるが複数となると特級だけで手一杯なのだ」
「それで大型と超大型の討伐隊を組むと」
「その通り、討伐ではなくても足止めでもいい。この国の者ではないお前達家族を死なせたくはないしな」
「わかりました。少しだけ時間を頂けますか?」
流石に俺だけで決められはしない。
「構わん、出発は明日の朝。これは命令ではない、我の願いだ、先ほどの様に断ってくれても構いはせん」
「畏まりました」
俺は立ち上がり謁見の間を出ようとする。
「最後に一つだけ聞かせてくれ」
「何でしょうか」
「我が強引に奪おうとしたらどうするつもりだった?」
正直考えてはいなかったわけではないが、どうするかは決まっていた。
「あなたを倒します」
「それは、二人が特異な力を持っているからか?」
「違います。二人は家族だからです」
「よい答えだ。それにしても家族のために神に喧嘩を売るか、人の子はこれだから面白い」
愉快そうに頬を緩める神に礼をして謁見の間を退出した。
「クォルテお帰り」
「ただいま、先に帰っててもよかったんだぞ」
「その、私のせいでクォルテさんに何かあったらと思ったら」
「神様に喧嘩売ってたもんね」
「流石に俺も死んだと思ったよ」
そんな風に雑談をしながら船に乗り神と話した内容を伝える。
「私はクォルテに従うよ」
「私も死ぬまで付いて行きます」
「任せる」
あっけらかんと三人が俺に任せると言い切る。
「いいのかそれで、死ぬかもしれないぞ」
「クォルテは死なせないでしょ?」
「信じてますから」
「どうせ行くところないし」
「全幅の信頼を貰ってるみたいだが、魔獣との戦闘はさっきのが初めてだ危険だぞ」
知識は持っているが経験がないことが不安だ、それに神の話では海の上で戦うみたいだしな。
「よし、じゃあ俺達も参加、陸のある防衛に参加する。出発は明日の朝だ。いいな」
「「「はい」」」
三人の返事で俺達は明日参加することになった。
宿に泊まり最初に話す議題は当然フィルについてだった。
「フィルはなんで神にああも堂々と話せたんだ?」
三体一で対面に座りフィルに質問する。
「お話できるんだから緊張なんて必要ないよね」
その発言にみんな絶句してしまった。
話せるなら緊張しないというとんでもない理論に俺達は何も言えない。
「とりあえず、明日は一緒に討伐に行くんだから今更だけど自己紹介お願いできるか?」
「いいよ。名前はフィル、二十歳、ナンパ男のカリフ・グラドの奴隷やってます」
それで俺と二つ違いということに驚いた。
中身だけで話すならルリーラよりも幼く感じてしまう。
「他に聞きたいことはある?」
「フィルは戦った経験はあるか?」
「あるよ、超大型までなら戦闘経験ある」
間延びした雰囲気からは信じられない凄い経験を告げる。
俺達が討伐した超大型との戦闘経験があったらしい、だからあの時はそんなに落ち着いていたのか。
「みんな強かったね、思わず見惚れてたよ」
いや、ただのんびりしているだけか。
「それで前衛ってことでいいんだよな」
「うん、ルリーラちゃんほどじゃないけどね」
「ルリーラは特別だからな」
そう言われて上機嫌に胸を張る。
「じゃあ明日の戦闘は、ルリーラとフィルが前衛、俺が中衛、アルシェが後衛で問題はないな?」
「うん」「わかりました」「はーい」
三人の頷きで話し合いは終わった。
これで少しはルリーラの負担が減ってくれると助かるんだけどな。




