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魔獣襲来

「二人ともいい空気だね」


「おう、どうだった?」


 素潜りに興じていたルリーラが戻ってくる。

 一応さっきの出来事を話すとルリーラはアルシェに駆け寄る。


「大丈夫だった?」


「うん。クォルテさんが助けてくれたから」


 そう語るアルシェの頬が赤く染まる。


「それが凄いかっこよかったの」


「私も見たかったな、かっこいいクォルテ」


「凄かったよ」


 蕩けた顔で褒めるアルシェとそれを羨ましそうに聞くルリーラに俺の体温が上がる。

 周りにいる人達もそれを微笑ましく見守っているのが、また居た堪れない。


「少し俺もぐってくる」


 息を深く吸い潜ろうと思った直後にアラームが鳴る。


「これなんのアラームだ?」


「おい、早く陸に上がれ」


「何があったんだ?」


 近くに居た男に声をかけた。

 水を一時抜くとかそう言うのかと思ったが、そうではなかった。


「魔獣が出たんだよ」


 それだけを言うと男はすぐに泳いで陸に向かう。

 魔獣と来たか、まさか来た初日にこんな目に合うとはな。

 周りに合わせ俺達も陸に向けて泳ぎだす。


「なんでこっちの広場に来たんだ?」

「兵士はどうしたんだ」


 住人たちの怒号はやまず、初めての状況に俺はただ成行を見守ることしかできない。

 半分以上が陸に上がり、魔獣が来るのであろう方向には人がいなくなった。


 そして魔獣が現れる。

 雲がかかったような薄く黒いシルエット、その影の水上に小さなひれが一つ浮かび水を切り裂きながら進む。


「あれ、小さくない?」


 ルリーラがそのひれを見てそういうが、そうではない。


「いや、デカすぎる」


 影がより濃くなりヒレは徐々に巨大化しながら水路をこちらに進んでくる。

 陸に上がり安心していた人々も、その巨大なヒレを見て叫びながら逃げていく。


「クォルテさん、あれ」


 そこには一人が水の上に浮いていた。

 おそらく女性でこの騒ぎの中ぷかぷかと寝ているかのように浮かんでいた。


「クォルテ私が行こうか?」


「水の中なら俺の方が早い、アルシェ俺があれを打ち上げたら倒せるか?」


「やります」


「ルリーラはアルシェが仕留め損ねた場合に止めを刺せ」


「わかった」


「水よ、我を彼の者の側へ運べ、ルート」


 魔法を唱えると、女性に向かい一直線に流れが生まれ、俺はその流れに乗り女性に向かう。

 広場に乱入してきた魔獣は、俺達を餌と認識したのか真っすぐ向かってくる。


「先にこっちか、水よ、螺旋よ、我が敵を天高く舞い上げろ、ウォータートルネード」


 呪文と共に、俺達さえも飲み込みそうなほどに大きな渦が生まれ敵を飲み込む。飲み込んだ水は魔獣を天に昇るほどに高く巻き上げる。

 空中に打ち上げられ姿が現れたのは普段の生活では到底お目にかかれない超大型の魚。

 開いた口から牙が見え、体を覆う鱗には無数の棘が見える。

 見た目から凶悪な様子がうかがえる魔獣は宙に居ながらもこちらを鋭く睨む。


「早くこっちに」


「なんでしょうか」


 妙にテンポの遅い女性はわけもわからないまま岸に誘導される。


「あれ見てあれ」


「魔獣ですね」


「あーもう! アルシェ!」


「フレイムジャベリン!」


 詠唱は終えていたアルシェが炎の槍を無数に生み出し全て魔獣にぶつける。


「――――!」


 炎の投げ槍は全弾魔獣に突き刺さると、魔獣は聞き取れない叫びを上げながら悶えているが、致命傷には至っていない。


「助けていただいたんですね。ありがとうございます」


 こんな状態でも緊張感がない女性を座らせて大人しくするように言明する。


「ここに居てくださいね! ルリーラ!」


「わかってるよ」


 地を蹴り高く飛び上がるルリーラを超巨大魔獣は見逃しはしない。


「――! ――――!!」


 魔獣は口内に強大な魔力を貯め込む。


「水よ、無数の盾よ、強大な魔力を退ける盾となれ、ウォーターシールド」


 水辺と言うこともあり相当数の盾をルリーラの前に作り出す。

 魔獣がこちらの歓声を待ってくれるはずもなく魔獣の咆哮が炸裂した。

 ただ魔力を貯めて放出する。たったそれだけでとんでもない力が放たれる。


「盾を使って逃げろ」


「うん」


 俺が作った無数の盾は速度を殺すことしかできないが、空中での足場には十分でルリーラは盾を蹴りながら魔獣の一撃を避ける。

 相殺しきれなかった一撃は広場に着水し大量の雨を降らせる。

 初めて出会う魔獣の対策を今更考え始める。


 あの複合魔法なら吹き飛ばせるかもしれないが今のこの状況で使うと周りの人も巻き込んでしまう。

 やはり俺とアルシェは援護でルリーラ任せになるのか。

 戦力が増えても前線で戦えるのはルリーラのみの状況に唇を噛む。


「水中に戻すな」


「了解」


 ルリーラは残っている盾を使い魔獣よりも先に地上に戻り即座に上に跳ね上がる。

 向かってくる餌を喰らおうと、魔獣は牙が密集している口を大きく開く。


「アルシェ、口を塞ぐぞ」


「はい」


「水よ、鎖よ、敵の顎を閉じ塞げ、ウォーターチェーン」

「炎よ、槍よ、敵の顎を縫い留めろ、フレイムランス」


 水が鎖になり大口を開ける魔獣の口に絡みつき、炎の槍が楔となって魔獣の口を塞ぐ。

 そして少し遅れ魔獣の顔にルリーラの蹴りが入る。


「――――――!」


 くぐもった魔獣の叫びにルリーラは更に蹴り上げる。 


「クォルテ剣、でっかいの!」


「わかった。水よ、剣よ、敵を討ちとる巨大な剣となれウォーターソード」


 魔獣に乗るルリーラに巨大な水の剣を渡す。


「水よ、堅牢な足場となれ、ウォーターウォール」


 魔法で、魔獣の更に上で水の壁を作る。

 身の丈の倍はある巨大な剣を受け取ったルリーラは、魔獣を踏み台に上に生まれた壁めがけて飛び上がり、水の壁を破壊すほどに蹴り込み魔獣に大剣を振り下ろす。

 しかしその一撃では首を切り落とすことはできずに半分ほどで止まる。


「ルリーラ」


「水が邪魔!」


 だがルリーラは首を切ることを諦めない。

 いまだに力を込め続ける。


「――――!!」


 魔獣の叫びはより大きくなり人の恐怖心に語り掛ける。

 落下地点を確認する。

 そこの水を魔力で無理矢理に寄せ地面をむき出しにする。


「やああああ!!!!」


 雄たけびを上げながらルリーラは魔獣の首を地面にたたきつける。


「――――!! ……」


 最後に耳を裂くような断末魔を上げたのちに絶命した。


「ルリーラ大丈夫か?」


「疲れた」


 水のくぼみをそのままにルリーラの元に駆けよる。

 さっきまでの勇ましさはどこかへ消えていつものルリーラに戻った。


「よくやった。流石だな」


「褒めてもいいんだよ」


「よくやったって言ってるだろ」


 頭をくしゃくしゃと撫でると気持ちよさそうに目を細める。


「後はおんぶして運んで」


「わかったよ。頑張ったもんな」


 ルリーラを担ぐと水を潜り陸に戻る。


「お嬢ちゃん凄いね」「かっこよかったよ」「本当に凄かったよ」


 陸に戻るとルリーラは周りの人たちが押し寄せていた。


「クォルテさん」


 本当にさっきの魔法を撃った本人か? と言いたくなるような情けない声を出し涙目で俺の後ろに隠れる。


「あの魔獣どうしたらいいんでしょうか? このままだとこの広場が血に染まりますけど」


「いいよー、そのままで」


「さっきの」


 最後まで眠るように水に浮かんでいた女性が、俺達に近寄ってくる。


「どうせ今日はここで誰も泳げないし」


「はあ」


「じゃあ行こうか」


 独特のテンポで話をする女性は、俺の手を掴み門の出口に向かう。

 そしてそのまま俺達の船に乗る。


「えっと話を聞いても?」


「いいよー」


 黒髪に、アルシェほどではないがメリハリのあるバランスの取れた体型、柔らかい垂れ目で優しいお姉さんと言った風貌でこの間延びする喋り方。

 マイペースで独特の話し方のせいでこちらのペースが保てない。

 この人は一体誰なんだろう。


「なんで乗ってるの?」


「私奴隷なんだけど、ご主人様が逃げちゃって」


「探しに行かないのか?」


「そのご主人様って、そこの子をナンパした男なんだぁ」


 そう言えばさっき陸に上がった時にはもういなかったな。

 魔獣に出会わなかったとは運が良かったらしい。


「うん、戻らなくていいと思うよ、そうですよねクォルテさん」


 本当に嫌いらしいアルシェは同情するように女性の手を握った。


「お名前は何ておっしゃるんですか?」


「フィルだよ」


 アルシェはしっかりとフィルの手を握る。

 これはあれだな、俺がまた背負い込むパターンだよな。


「あんな下種の元において置いたらフィルさんがどんな目に合うか」


「今日のアルシェ熱いね」


「よっぽどさっきのナンパ男が嫌いなようだ」


 俺もあんな性格の軽い男は嫌だけど、ここまで嫌わなくてもいいと思うんだよな。

 アルシェに声をかけたくなる気持ちはわからなくもないし。


「まず今日は一緒に居てもいいけど一緒に旅に出るかは後で決める。それでいいな?」


「はい」


「それじゃあ宿にごあんなーい」


 なぜか魔獣を討伐したら奴隷がまた一人増えたようだ。


 フィルに連れていかれたところは予想以上に良い所だった。

 海が見えて立地もいい非の打ちどころのない宿。

 値段はうん、結構な値段したよ。


「魔獣あのままでよかったのか?」


 首を切り落としたせいで血の量は尋常じゃないなかった。

 現にルリーラは水に入っても汚れが落ち切らず、新品なのにと泣きながら汚れを落としているところだ。


「大丈夫だよ、すぐに後片付けの人が来るから」


「そんな人がいるんですね」


「それはいいとして」


 話がまだ繋がりそうだったのに平然とぶった切ってくるなこいつ。


「三人とも強いね」


「俺はそこまででもないけどな、ルリーラとアルシェが強いんだよ」


「そんなことはありません」


「あたしもそう思うな」


 二人が即座に否定する。


「クォルテさんは凄いです。私とルリーラちゃんは特化すぎるのでそう思うだけです」


「動きも指示も悪くなかったと思うよ」


「おう、ありがとう」


 こう素直に言われると恥ずかしくなるこの感じはなんなんだろうな。


「何の話?」


「服は着てから出て来い!」


「わぷっ」


 当然のように全裸で出てきたルリーラにタオルを投げつける。

 渋々と着替え浴室から出てくる。


「それで何の話なの?」


「クォルテさんは凄いって話」


「俺はそんなに凄くないって言ってるんだけどな」


 二人はそう言ってくれるが、俺としてはもっといい方法があると思ってしまう。

 さっきも、俺が準備できてればルリーラが血まみれにならなかったと思うし。


「凄いよ、クォルテは」


 ルリーラもさも当然のようにそう言った。


「前から言ってたけど、クォルテは強いし指示もくれるから戦いやすいから」


 ルリーラのこういうところは本当にズルいと思う。

 まっすぐと素直に自分の気持ちをぶつけてくる。

 そんなのが嬉しくないはずはない。


「フィルの今後は、明日話すんだよね」


「そうだな」


 俺としてはあまり同行はさせたくない。

 あんまり酷い目にあっている感じでもないし、極々普通の奴隷って感じだ。

 見かねて連れてきたわけでもない、ただ勝手についてきただけだ。

 そんな考えを砕くように部屋がノックされる。


「はい今開けます」


 ドアの向こうには、いかにも衛兵と言った重装備の兵士が二人。


「何の御用でしょうか」


「魔獣退治の件だ」


 訓練されている兵隊らしいはきはきとした声で答える。


「血で水を汚したことでしょうか?」


「違う。魔獣退治の賞金を持ってきた。受け取れ」


 形式とはいえ偉そうなふるまいにはムカつく。


「加えて貴様達を魔獣討伐隊のメンバーに迎える。ありがたく思え」


「はっ?」


 唐突な誘いに間抜けな声が出た。


「七日後に行われる魔獣の討伐に、貴様ら全員が参加するのだ」


 予想外の出来事に流石の俺も対応できなくなってしまった。

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