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奴隷が増えた

 城から出た俺達は、馬車を置かせてもらっていた宿にそのまま宿泊することにした。

 二人用の部屋でトイレと風呂以外は全て二つずつ備え付けられており、滞在中の拠点としては申し分ない。

 併設されている食堂もそれなりに広く情報収集にも使えそうだ。

 その食堂で食事を済ませ、浴室で汗を流し終える。


「誰か近くに居たりするか?」

「いないよ。何か祭りはしてるみたいだけど」


 玉座に居たらしい連中が偵察に来ているかと警戒していたが心配はいらないらしい。

 警戒を解いたルリーラは俺の隣に腰を下ろしたところで話を始める。


「この国にしようと思うが、不満とかはあるか?」

「クォルテが言うなら私には無いよ。でも大丈夫なの? さっきの人かなり強いよ」

「大丈夫かは正直わからんが、今までの国より奪いやすいのは確かだな」


 今日見てわかったことがある、他の国々は団結で国を守る。門番、憲兵、兵士、民衆そして王。全てが国のために一丸となり国を守る。

 だがここはそうではない、王のみで国を守っている。

 この国なら王が変わっても国自体は機能する。


「あの周りにいた連中はどうするの? そんなに強くないけど四人いたよ」

「そう言えば居たんだったな。四人いたのか。もっと多いと思ってた」

「気づいてたんじゃなかったの?」

「そんなわけないだろ、ただのはったりだ。それとそいつらは盗賊だろうな」


 もちろんなんの根拠もなしにはったりをかましたわけじゃない。

 王自らが賊を捕らえた人間を殺す。そんなことをしては対外的にもよろしくはない。そういう立場上、自分が手にかけられない連中を殺すための連中だろう。

 だが意外と少ないな、十は居ると思っていた。


「そうだよね。護衛なら隠れる必要ないもんね」


 感心したように目を見開くルリーラの頭を撫でる。

 風呂上がりだからか、少し湿った髪はヒヤリと冷たい。


「それはそうとしてもっと髪は乾かせ、これだと風邪ひくぞ。ほら、ここ座れ拭いてやる」

「はーい」


 俺の膝の上に座らせ、艶のある闇色の髪をタオルで丁寧に水気を取っていく。


「それで、最後の質問にどんな意味があったの?」


 わざわざこちらを向いた顔を前に向けさせ、髪の水分をふき取る。


「まあ推測だけど、おそらくこっちの値踏みだな。いや、試験だったのかもな。どこまで知恵が回るかを見てたんだろうな」

「それで、クォルテは合格したんだ」

「そうなるな。間違ってたら追試としてあの連中と戦わせられたのかもな。これで終わりだ」

「ありがと」


 そう言っても膝の上から退こうという気はないらしく、体重をそのまま俺に預けてくる。

 風呂上がりの温かさと慣れた重さがなぜか落ち着く。


「完全には乾いてないから、服が濡れるんだけどな」

「可愛い女の子と密着できるんだから、それくらいいいでしょ?」

「ルリーラが、もう少し成長してくれたらな」

「私は、まだ、成長途中だから……すぅすぅ」

「そうなるのを、楽しみにしてるよ」


 もう少し話を進めたかったが、ルリーラからは寝息が聞こえ始めたため、強制的に話は打ち切られてしまった。


「今日はだいぶ移動したしな。それにしてもよく寝れるなこんな中」


 なんの祭りをしているのか、外からは歓声と何かが弾ける音が聞こえていた。



 翌日、日が昇り始め適当に食堂で食事を済ませた後、諸々(もろもろ)の支度のため部屋に戻る。


「今日はどうするの?」

「色々あるぞ、仲間探しと、盗賊退治がメインかな」


 昨日の盗賊を見る限り団結できているとは思えないが、アリルド王の手駒を減らすに越したことはない。

 できることならアリルド王一人とのみ対峙したい。


「つまりお散歩だね」

「そうなるよな。じゃあ、今日はおめかししていかないとな」

「やった」


 結局は街中を歩かなければいけないため、ルリーラとしては散歩になってしまう。

 散歩とわかり、テンションが高くなるルリーラにいつも通りの動きやすいホットパンツとシャツを着せ宿を出る。


「早速だけど、どこに行きたい?」

「賑やかなところ」

「了解」


 宿屋の店主から、もらった地図を見ながら昨日にぎわっていた方に進む。


「やっぱり入り組んでるな、この街」

「じゃあたどり着かないの?」

「着くには着くが遅くなるかもな」


 流石に王が一人で守っているだけはあって、迷わせるようになっている。そのせいで地図と自分の位置を確認するのが難しい。


「本当にこんな狭い道なの?」

「地図だと繋がってるみたいなんだけどな」


 広い方へ広い方へと、進んだはずなのだが最終的にたどり着いたのは、建物に遮られ日は当たらず、人がすれ違うので精一杯な完全な裏道。

 明日は、ガイドを雇わないとおちおち買い物もできないな。

 そんなことを思っていると、離れたところから怒声(どせい)が聞こえてくる。


「クォルテどうする?」

「見に行くだけは見に行ってみるか」


 ただの喧嘩なら放っておいても問題はないだろうが、場所が場所だけに見に行った方がいいだろう。


「お前が鈍間(のろま)なせいで俺が恥をかいたんだわかってるのか!?」

「申し訳ありません」


 裏道を抜けたのか大きく開けた広場にたどり着く。そこにいたのは二名の男女、傍から見てわかるのは奴隷は女で男が主人か。

 状況からすると奴隷の失敗に主が激怒ってところらしい。


「助ける?」

「そうだな、あんまり見ていて気持ちがいいものじゃないしな」


 他に仲間は無し、男は茶髪だがルリーラの反応を見た限り強いわけではなさそうだ。

 奴隷がいじめられているのを見るのは、昔を思い出して気分が悪い、それに上手くいけばガイドが見つかるかもしれないしな。

 なにかあった時は、ルリーラ一人でもなんとかなりそうだ。


「私が一撃で決めてくる」

「ちょっと待ってくれ、変に刺激する必要はない。それに上手くいけば道案内が手に入る」


 戦闘態勢をとっていたルリーラは、俺の制止に難色を示したが言うことは聞いてくれるらしく戦闘態勢を解いた。

 暴力で解決するのは簡単だが、その時ルリーラの様に一緒に居られるかもわからない。

 そうなった場合に、主人に反抗した奴隷なんて変な印象を付ける必要はない。穏便に済むならそれに越したことはない。


「道案内ってどうやって?」

「俺に任せておけ」


 俺はできる限りの愛想笑い(あいそわらい)を作り男の元に歩いていき声をかける。


「やあやあ、お兄さんちょっとよろしいでしょうか?」

「なんだお前、俺は今主人に恥を掻かせる、使えない奴隷を教育してやってるんだから邪魔をするな」


 俺の言葉に機嫌悪そうに男は答える。

 よしよし、想像通りただ奴隷に不満をぶつけているだけだ。それならこの奴隷は頂けるな。


「邪魔なんてそんな滅相もない。ただ少しだけお話がありまして」

「話だと?」

「ええ、あなたをそんなに怒らせてしまう無能な奴隷など、いらないのではありませんか?」

「だからその奴隷を寄こせってか? ふざけるなよ、こんな役立たずでも家の財産だ。タダでやるわけないだろ」

「流石に、そのような調子のいいことは言いませんとも。金貨一枚でいかがでしょうか?」


 金貨を目にした男の開かれた目には、喜びの色が見えた。

 やっぱり、ここでも奴隷の値段は同じか。平均の倍以上の値段を見せる、こういうことをやらかす人間は金を見せればすぐに怒りを忘れこういう態度になる。


「何を企んでやがるんだ?」


 相場よりも高い金額に何かきな臭さを感じることができたのか、男は訝し気にこちらを見る。


「いえね、私たちも今日ここに着いたばかりでして道案内が欲しかったのです。ついでに荷物持ちもね」


 男からは怒りも無くなり、金貨にしか目はいっていない。

 そのあまりにもわかりやすい態度を見て、この男の底が見えた。小物も小物、貴族の子供なのだろう。


「金貨一枚で譲っていただけますか?」

「いいぞ、この奴隷はあんたのものだ」

「ありがとうございます」

「あんたも物好きだな、奴隷一匹に金貨一枚も出すとか、奴隷売り場ならもっと手に入っただろうけどな」

「そうなのですが、奴隷売り場までもたどり着けるかわかりませんので」

「こんなところに迷い込む奴だしな、まあ俺はその分得したけどな」


 自分が儲けたと思っている男は、高笑いをしてその場を去った。


「あんた大丈夫か」

「はい……」


 怯えているのか、単に人見知りなのか、助けた奴隷はフードを深くかぶり下を向く。


「ルリーラ任せた」


 こういう態度を取られると俺には何もできない。突然現れた男に買われてしまったのだから怯えるのも無理はない。

 こんな時は女の相手は女に任せるに限る。


「まあいいけどね。ねぇねぇお姉さん」

「……はい……」


 俺の時よりはいくらかましな感じか。同性だけでなくルリーラはまた子供だし、話しやすいのかもしれない。

 俺は少しだけ距離を取り行く末を見守る。


「顔を見せてほしいな」

「わかり、ました……」


 奴隷の女性はフードを脱ぐ。

 色素の薄い白い姿は、土や埃で汚れている。体は細身だが出る所は出ておりスタイルはいい。

 その見た目とおどおどとした姿に庇護欲(ひごよく)を刺激されてしまうが、今はルリーラに任せないとややこしくなりそうだ。


「お姉さん綺麗だね」


 そう言われ照れたのか顔を逸らす。


「もう大丈夫だよ。クォルテは美人さんには優しいから」


 ルリーラは奴隷の女性の耳元に顔を近づけ何かを告げたようだが、何を言っているのかは聞こえない。


「本当でしょうか」

「本当だよ。私もクォルテの奴隷だから」

「えっ?」

「私も美人だからちやほやされてるの」

「ふふっ確かにとても可愛いものね」


 こうも小声で会話をされると、何を話しているのか考えてそわそわする。

 何回かこっちを見ながら話しているみたいだし、ルリーラのことだから悪口でも言ってるんだろうな。

 その甲斐あってか、奴隷の少女の表情は少しだけ柔らかくなった。


「私はルリーラ。お姉さんの名前は?」

「アルシェ、よろしくルリーラさん」

「ルリーラでいいよ、同じ奴隷だしね」

「それなら私もアルシェでいいよ」


 何か話がまとまったのか、二人は笑いあって握手をし始めた。

 何だろうなこの疎外感……。


「なあ、そろそろ俺も話に混ぜてくれないか?」


 もう大丈夫だろうと話しかけたが、

 二人は顔を見合わせ更にこそこそと二人だけで会話を始め、ようやく二人がこちらを向いた。


「いいよ」

「どうぞ」

「じゃあ、お邪魔します」


 緊張はもうなくなったのか、俺にも弱弱しくも笑顔を向けてくれるようになった。

 間近で姿を見ると、男好きのしそうな容姿をしている。

 大きく膨らんだ胸、色素の薄い透明感のある色、気の弱そうな態度どれもが男心をくすぐる。


「じゃあ聞いてるかもしれないけど俺はクォルテだ、こっちはルリーラ」

「はい伺っております、私はアルシェと申します年は十八になります。女の奴隷、御覧の通り魔法が使えます今後ともよろしくお願いいたします」


 わざわざ挨拶のために、膝を着き自分の情報を告げた後に、深く頭を下げる。


「それでなんの話をしてたんだ?」

「それはご主人様の、んぐっ!」

「アルシェそれはダメだから! 何言おうとしてるのさ!?」


 ルリーラがアルシェの口を力一杯塞ぎ必死に口止めをする。この慌てようはやっぱり悪口か。

 それは聞きたくないので無理に聞き出すのはやめておく。


「ルリーラよ、アルシェが死にそうだ」

「へっ?」


 口を塞ぐ手はアルシェの鼻まで塞ぎ、元々白い肌は青白くなりぐったりしてしまった。


「ごめんアルシェ、生き返って!」


 それから一二分でアルシェは意識を取り戻した。

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