表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/174

次の行先

「よかったんでしょうか、二人を置いてきて」


「説得できるかはゲバルトさん次第だしな」


「妙に冷たいよねクォルテって」


「実際俺達には何もできないだろ」


 無関係の俺達が、二人は親子ですって言ったって信じてもらえない。

 親子ならきっとなんとかできるだろう。


「どうする? 一旦アリルドに戻るか?」


「決めてないの?」


「今回は俺本当に頭が変だからな、上手く考えられないんだよ」


 ここは本当に危ない所だ、頭を使う魔法使いの脳に直接影響してしまう。

 思考能力も失ったままここに居続けるのは危険だ。

 改めて大通りを歩いて気が付くことがある。


「今更だけどここの露店ってほとんどが黒髪なんだな」


「そうだね」


「本当ですね」


 金の勘定は黒髪にやらせるルールでもあるのだろう。

 そして客のほとんどが茶色以上。品物も高い。

 これはあれだな、要はぼったくりってことか。


「候補はあるからルリーラ先に行くか一度帰るか考えてくれ」


「わかった、先に行ってみたい」


「了解、それじゃあ二人ともさっさとこの国から出るぞ」


「はーい」「はい」


 少しずつ魔力の暴走が始まっているらしく様子がおかしくなってきた。


「クォルテさん」


「どうした?」


「手を繋ぎましょう。はぐれますよ」


「ルリーラ」


「アルシェは私と手を繋ごうね」


「うん」


 ルリーラでも別にいいのかと安堵しながら宿に戻り荷物をまとめる。

 至急アインズを後にする。

 死者の国か……。

 脳が働いていない死者のような魔法使いから脳が働く金の亡者が搾取して回る国。

 死者の国とはそういう揶揄も含まれているのだろうと俺は思った。




 死者の国を後にして野営の縦鼻が終わった夜落ち着いてきたらしいアルシェは綺麗な土下座をしてきた。


「誠に申し訳ありませんでした」


 服が汚れるのもいとわない土下座に流石に俺もルリーラも困惑してしまう。


「クォルテさんにあんなに迫ったりして本当にはしたない奴隷で申し訳ありません」


「ああ」


 そこで俺とルリーラは何を謝っているのかを理解した。

 アインズでの行動の数々だろう。

 寝込みを襲ったり抱き付いてみたりといった誘惑を冷静になり羞恥に悶えているところなのだろう。


「アルシェをあんまり怒る気にはなれないけど、今度から気をつけてね」


「うん、ごめんねルリーラちゃん、抜け駆けしちゃって」


「もうああいう街にはいかないから」


 ルリーラはおそらく溜まっているであろうモヤモヤを俺にぶつけてきた。


「俺ももう懲りたよ、せいぜい一日だけだな」


「その一日のうちにネアンみたいなのを引き当てたんだけど?」


「申し開きもございません」


 俺も深く頭を下げる。そう言えばそうだったんだよな。

 結局あそこは俺には向いていなかったのかもしれない。


「でもネアンといえば」


 俺は荷物の中から精霊結晶を取り出す。


「それって結局何なの?」


 赤く光る結晶をルリーラが指でつつく。


「簡単に言うとネアンそのものだな」


 魔力が噴き出すときに上手く出られない魔力の塊である妖精、その妖精が運悪く人に混ざってしまい魔力が妖精に負けてしまったのが精霊。

 さらにそこから奇跡的に人間が肉体を取り戻すことで精霊を体内から排出した際に生じるのがこの精霊結晶。

 まさに奇跡の確率で生まれる高価な結晶なのだ。


「これって三分割したら痛いのかな?」


「早速割る気かよ」


 なんて奴だ、仮にも一緒に行動をした仲間を三分割にするなんて。


「こうなっちゃうと人格は無いし痛覚もないらしいから平気だと思うぞ」


「じゃあ私に少し頂戴?」


「最初からそのつもりだ」


「あの、私も頂いてよろしいでしょうか?」


「もちろんだよ」


 その場で工具を取り出し持ち運びがしやすいように加工する。

 細工師の様に綺麗な丸にはできないので、割った形のままそれぞれ加工する。

 ルリーラにはペンダント、アルシェにはイヤリング、自分には指輪を作った。


「ありがとう」


「ありがとうございます」


「こうしたほうがネアンも喜ぶだろう」


 しかしそれでもまだこんなに余っている。

 売るわけにもいかないからアリルドに戻った時には金庫か何かにしまっておこう。


「それで今度の国はどこの予定なの?」


「次の国は水の国だ」


「水の国?」


「知っています。確か海に面している巨大な国ですよね?」


「そう、アルシェの言ってくれた通りだ」


「私海って見たことない」


 そう言えば連れて行ったことなかったな。海は正直危ないし。


「スケールは違うがしょっぱいプールだな」


「どのくらい?」


「この大陸の数倍」


「……」


 流石のルリーラにも規模は伝わったらしく開いた口が閉じていない。


「後は景色が綺麗だな」


「綺麗なの?」


「嫌か?」


 少しだけ不満そうにルリーラは口を尖らせる。


「さっきの国も綺麗だったからいったんでしょ?」


 なるほど、魔力の暴走があるかないかの話か。


「それは大丈夫だアインズと違って魔力の発生地帯じゃない」


「ならいいけど」


「でも、海って魔獣が出ますよね?」


「そうなんだけど大丈夫だと思うぞ」


「そうでしょうか」


 ベルタとプリズマがいるんだその辺の魔物に後れを取ったりはしない。


「魔物っておとぎ話の?」


「そうだ、魔力暴走を起こした生物が更に魔力を受け続けた結果が魔物だ」


「アルシェも危なかったの?」


「陸の生物は魔力暴走までで本能的に自然放出されるからありえないな」


「へえ」


「じゃあ軽くお勉強だな」


「簡単にお願いします」


「まず海の特性として魔力が常に漂っているということだな、その特性のせいか体内の魔力が外に出られないんだ」


「それで暴走しても魔力を消費できない」


「そうだ、よくわかったな」


「ふふん」


 頭を撫でると偉そうに胸を張る。


「昔はそのせいで魔物が凄い数居たらしいが、今ではあまり出てこないらしい」


「どうやって」


「その海の魔力を動力にしてしまった国がある」


「それが次の水の国?」


「正解。だから、なかなかに発展している国だぞ」


「楽しみになってきた早く行こう!」


 さっきまでとは打って変わって無理に先に行こうとするルリーラの頭を使み止める。


「夜だし操舵できないんだから今日はもう寝るぞ」


「はーい」



 説明を聞いて早く出発したいからかルリーラはご飯を食べるとすぐに寝てしまった。


「クォルテさん」


「どうした?」


「アインズでのことなんですが」


 もじもじするアルシェの動きは胸が強調され、嫌でもあの夜を思い出す。

 目を閉じていたから余計に伝わる感触を思い出してしまう。


「ごめんなざい。あんな襲うような真似をして」


 深く頭を下げる。


「クォルテさんが私たちを大事にしてくれているのを知ってから好きが止められなくて」


「いいよ、俺も役得だしな」


 正直俺もあれは危うく落ちる所だったけど。


「裸で抱き付いてあまつ、その、キスまで……」


 焚火越しだがアルシェの顔が真っ赤になっているのがわかる。


「忘れた方がいいぞああいう特殊な条件下だからな」


「忘れません! 私がクォルテさんに気持ちを素直に伝えられた出来事なので」


 力強く恥ずかしそうにそう宣言する。

 忘れたいほどに恥ずかしいが、忘れたくはない思い出か。


「わかったよ。好きにしろ、ただ前にも言った通り世界を回ってからじゃないと答えられないからな」


「わかってます、それでも今はクォルテさんが好きなんです」


 ストレートな好意に流石に俺の頬も熱くなる。


「アルシェ、また抜け駆けなの?」


「違うよ、アインズでのことを謝ろうとして」


「キスしたんだ」


 アルシェの顔がわずかにひきつる。

 こいつ実は最初から寝てなかったな。


「ルリーラどこから聞いてた?」


「最初から」


「やっぱりな」


「それでアルシェはキスしたのしてないの?」


 その後ルリーラの尋問によってすべてを話してしまったアルシェは羞恥と居心地の悪さに耐えながらルリーラに謝り続けた。


 翌日、アルシェの操舵練習のため俺が横についている。


「そうだな、だいぶ上手くなってきた」


「ありがとうございます」


 流石に魔力操作に関しては少し教えればすぐにできるようになった。


「アルシェ!」


「な、なにルリーラちゃん」


 咄嗟に現れるルリーラにも慣れてきたのか驚かされても暴走はしなくなった。


「最近つまんない」


 アインズを出てから五日近くの村によりながら旅を続ける。


「退屈なルリーラは荷台から俺の膝の上に座る。


「そうだな、アルシェ千里眼の魔法は使えるか?」


「はい」


「操舵しながら使ってみてくれ」


「はい。炎よ、千里を見渡す眼よ、その眼に移す景色を我に見せよ、フレイムアイ」


 炎の目が天に向かう。

 魔法が発動する際に馬車は一瞬だけ挙動が止まったがすぐに動き出す。

 最初にしては満点と言えるできだ。


「凄いな、まさか一発でできるとは思ってなかった」


「ありがとうございます。それと日暮れまでには着く距離です」


「了解」


「水の国に着くの?」


「今日中には行けそうだ」


「アルシェもっと早くだよ」


「わかったよ」


 前後にゆらゆらと動かされながらもアルシェの魔力は安定し少しだけ魔力の量を増やし速度を上げる。




 速度を上げたおかげで日暮れ前には水の国着くことができた。

 城壁をぐるりと回り門にたどり着く。

 そこでいつも通り簡易的な検査を受けたのち馬車を指示された場所に置く。

 入国前に馬車を置くことになり門番に質問する。


「馬車は使えないのか?」


「使用はできない」


「荷物とかはどうするんだ?」


「こちらで管理しよう。盗難の際には同様の物を用意することを約束する」


 門番の言葉を少し怪しく思いながら入国すると、その意味がわかった。

 扉を抜けるとそこに道はなかった。

 どこまでも続く水路、そのいたるところに船の上の露店、水に浮かぶ建物、中には水中に建物まである。

 その光景に俺達は圧倒された。

 水の国ヴォール。

 そこは水を司る神と同じを名を持つ聖地。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ