過去の清算
シェキナを討伐した後、俺達を待っていたのは謝罪と修繕だった。
俺達の戦った周辺には瓦礫と木片が散らばり、シェキナの子分や逃げ遅れた人達が死傷した。
幸いなのは住民に死者はいないこと、命を落としたのはシェキナ本人とシェキナの子分が四名で、シェキナが暴れたのが原因だ。
「過去の清算が終わったな。もう故郷に帰ってくることはないな」
「帰ろうと思っても帰れなくなりましたからね」
結局今回の騒ぎで過去の事件が公になった。
その全ては俺が父親への反抗心から起こした事件であると、クレイル国王は発表した。
それに合わせて今回の魔獣襲来もなぜか俺の責任にされてしまい、危うく処刑されるところだったが、魔獣討伐の功績もあったため、俺はクレイルへの入国禁止と破壊した町の修繕を言い渡された。
結局のところ、国のお偉方は自分達の責任の一切を認めず、俺一人に全てを被せることにしたということだ。
もうここに戻ってくる必要もなくなったし、別に不満はない。
「クロアは捕まったんですか?」
「いや、お前に言われて探索の魔法をかけたがすでに国内にはいなかった。範囲を広げて追いかけてもよかったんだが、高位の魔獣が近くにいるから離れるわけにはいかなかったよ」
シェキナが俺達を殺せても殺せなくてもよかったわけか。
成功するならそれでよし、できなかったら少なくとも神や俺の足止めに使う。
無駄がないことだな。
「それで、ハベル・クロアは何か言って行かなかったか? これからあいつが何を起こすか少しでもヒントが欲しい」
「神にもわからないことはあるんですね」
「お前達ほどわかりやすければ予測しやすいがな、あいつはあえて自分らしくない行動をとる節があるせいでな、予測にどうしてもズレが生まれてしまうんだ」
「ヒントになるかわかりませんが、新しく仲間が一人いました。タークルとクロアは言っていました」
パルプとはまた違った雰囲気を持っていた。
また今度と言っていたし、また俺にちょっかいを出すのは確実だ。
「そうか。また何かしでかすのは確実だろうな」
目的はわからないが、人数を集めているのは確かだ。
自分で作っているか募集をしているのかはわからないが、それでも人数を集めてはいる。
ロックスの事件も聞いていたみたいだし、順当に考えれば自分で改造して作っているんだよな。
「クロアを探すってことなら風の国から無くなっている物って心当たりはないですか? 研究資料とか神器でもいいんですけど」
「神器の類は以前からあるのは全て回収されている。研究資料に関しては戦火で全て消失しているな。それがどうかしたのか?」
「もしかすると、クロアは何かを作り出そうとしているんじゃないかと思ってます。それか、何かを探している。いくら何でも何の下準備もなく大戦から逃げ出せるはずはない。そこから考えられるのは一つです」
「風の神さえ謀り、自分が逃げるための囮にしたってことか」
「はい。目的が風の神を使った大戦ではなく、風の国の何かを手に入れるのが目的だと俺は思います」
「なるほど。その方向で探してみよう。そうと決まれば後は帰るぞ」
「帰るって言われてもまた瓦礫の片付けが終わってないです……?」
「終わったぞ。全員を集めろいいことを教えてもらった礼だアリルドまで送ってやろう」
相変わらずの出鱈目具合。
二日はかかると思っていた修繕作業が一瞬で終わった。
魔力が周囲に広がったと思った次の瞬間には瓦礫の山は戦う前の家に変わっていた。
「あ、ありがとうございます」
このレベルの出鱈目をどうやってクロアは出し抜いたのか……。
俺の疑問は深まった。
†
そのまま荷物を持ち俺達はアリルドに帰国した。
「いつものことだが、今回は何があったんだ?」
「魔獣討伐」
そう報告すると、アリルドは頭を抱えた。
気持ちはわかるんだけどな。
過去の因縁に決着をつけに行った結果、何故魔獣と戦うことになったのか、それが理解できない気持ちは重々承知だ。
「俺も行けばよかったか」
俺も戦いたかったなってことだったらしい。
それからベル先生の元に向かい、シェキナと正面で戦った俺とルリーラは入院することになった。
納得いかないのは、俺が三日でルリーラが一日だということだ。
ベルタの身体能力が羨ましい。
「これで、終わったんだよね?」
「いきなりどうしたんだ? 相変わらずクレイルでは悪人だが、終わりは終わりだ。これ以上あの事件に振り回されることは無いと思うぞ」
全部の罪を被せられはしたが、決着はついた。
ロックス家に他人を襲ている余裕はほぼ無いし、研究員はほぼ罪に問われてはいない。
アルトグローリーもシェキナ以外に子供はいない。
もうそれが理由で襲われることはないはずだ。
「ありがとう、私を連れ出してくれて」
「礼なんていらないって、俺が好きでやったことだ」
「そっちに言ってもいい?」
「暴れるなよ」
一つのベッドに二人で入る。
二人分の体重でベッドが大きく軋む。
いつもなら抱き付くルリーラは抱き付くことも無く隣に並ぶ。
「私はもう自由だよね?」
「そうだな。ベルタだからって以外で狙われることはないと思うぞ」
ギシリとベッドが軋み、ルリーラは俺に跨る。
そしてルリーラは俺の口を塞ぐ。
柔らかく温かい感触が数秒重なり、名残惜しそうに離れる。
「お礼だよ。いらないって言われたくないから、私の最初のキスをあげた」
見たことも無い様な女性の笑みを浮かべるルリーラは、そのまま自分のベッドに戻って行った。
長く重ねられた口唇には離れてもなおルリーラの熱が残っていた。