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反撃

「アルシェ先輩とオレイカさんはさっきの複合魔法で動きを止めてください。フィル先輩とサレッドクインはセルクの援護、兄さんとお姉ちゃんはタイミングが来るまで待機」


 ミールの作戦で一斉に動き出す。

 アルシェ達の複合魔法がシェキナの腕を固め、フィル達はセルクの邪魔にならないように力を削いでいく。


 でもこれじゃあ、火力が足りていない。

 複合魔法も、体術も、シェキナの手足に対応できているが対抗できていない。

 精霊結晶にある魔力は一向に減る気配はない。


「やっぱり俺も参加したほうが――」


「大丈夫です。今は整えている最中ですから」


 時間が無いため、大して説明は聞けていない。

 ミールには「兄さんが戦っている間に作戦は考えました」とだけ言われ、さっき言われたこと以外は何も知らない。

 この待ち時間に教えてもらいたいが、戦況の把握に忙しいらしく声をかけにくい。


 戦いを続ける五人を見ていると、違和感を覚える。

 主力のセルクではなく、フィル達が戦闘で戦いセルクがそのサポートをしている。


「クォルテ、あれって戦い方おかしいよね?」


「ミール達がやろうとしているのは、セルクに戦い方を教えてるんだよ」


 この戦いの中でセルクを成長させようとしている。


「そう言うことなら俺達の方が向いてるだろ」


「まだダメです。兄さん達は少しでも休養してください。その間に基礎くらいは見せておきますから」


 それならそうと早く行ってくれればいいのにな。

 仕方なくその場に座る。

 正直魔獣と戦うのはしんどい。

 少しでもあいつの動きを見ておきたい。


 今まではその場で対応していたが、俯瞰で見ていると魔獣の動きは滅茶苦茶だ。

 攻撃に反応してから対応して攻撃している。

 どうやらシェキナ本人の意識はもう魔獣に飲み込まれ、本能のみで戦っている。


 それに引き換え、こちらは理性的に戦っている。

 フィルとサラが離れて戦っているため、同時に攻撃されるということは少ない。

 アルシェ達もシェキナから離れることで、シェキナの攻撃にも対応できている。


 敵が一体だし基本的な戦い方だと思う。

 一見押しているいるように見えるが、このままだと危険か。


「ルリーラそろそろ行くぞ」


「わかった」


 武器を広げ、二人で突っ込む。


 シェキナの体から更に二つ腕が生え、フィル達を襲う。


「えっ? 手が増えた?」


 その間に飛び込み弾く。


「やっぱりな。そろそろだと思ってたんだよ」


 液状の体に、手足が二本ずつ。

 そんな人間の姿を模っているのは、シェキナに引きずられているからだ。

 互いに決着がつかず、シェキナの意識が消えている今、そんな常識は無くなりより効率的な姿に変わる。

 引いて突き出すなんてまどろっこしいことはしないで、ただ突き出すだけ。

 そんな風に変わる頃だろう。


「フィル、あいつに伝えてくれ。敵の手数はまだ増えるから、打開案考えてくれって」


「わかった」


 俺の声に六本の腕が俺を狙う。

 しかしセルクがそれをまとめて薙ぎ払う。


 俺の声に反応したのか?

 フィルの声は無視したし、そうなるとやっぱり俺狙いってことか。

 本能のレベルで嫌われてるってことか。

 目的が俺ならやりやすいよな。


「ルリーラは俺の声にだけ反応してろよ」


「わかった」


 領域を広くすれば、手数があっても対応できる。

 ルリーラ達の対面に移動しろ。

 更に増え続ける腕を必死に避け続ける。


 本当は懐に入りたいけど、この腕は体と繋がっているわけじゃない。

 絡ませることもできないし、懐に入った瞬間に新しい腕が出るかも知れない。

 だから攻めるな。

 避けて避けて避け続ける。

 セルクがこいつと戦えるくらい強くなるまで避け続ける。


 シェキナの連打はどんどん進化を続ける。

 増えた腕から更に腕が生え、血管のように周囲を埋めつくしていく。

 身体強化をかけ、領域を展開し、仲間の援護があっても限界が近い。

 肺が呼吸を忘れ、筋肉が悲鳴をあげ、心臓も限界まで早くなる。

 避けた足が揺らぐ、その瞬間をシェキナは見逃さない。

 周囲を埋める腕の群れが一斉に俺を目指す。


 そしてその腕は全て水に変わる。


「パパもう大丈夫。悪いやつはセルクが倒すから」


 ルリーラとはまた違う大剣を背負ったセルクが俺の前に立っている。


「少し休む」


「最後はクォルテに決めてもらうんだからね」


「わかってるよ」


 学習したセルクは圧倒的だ。

 大剣を振るい、シェキナの体をみるみるうちに削っていく。

 シェキナの攻撃はもう誰にも届かない。


「それじゃあ、最後の仕事をするか」


 俺は短槍を持ち、立ち上がる。

 情けないほどに足が震え、手に力が入らない。


 無駄な戦いをしてるな。

 水の神に頼めば瞬殺だったし、セルクに任せても楽に勝てた戦いをこんなにボロボロになるまで戦っている。


「シェキナ・アルトグローリー。お別れの時間だ」


 俺の声に反応し無数に放たれる水の腕は、セルクの攻撃で球体ごと吹き飛ぶ。

 残されたシェキナの胸元に短槍を突き立てる。

 金切り声の様な悲鳴を上げ、精霊結晶に無数の罅が刻まれる。


「クォルテ、ロックス……!!」


「お前の復讐はここで終わりだ」


 精霊結晶が割れ、目を開けたシェキナに別れを告げ、短槍をより深くに突き立てる。

 貫いた胸元からは鮮血が溢れ、シェキナは力なく地面に倒れ込んだ。


 長い戦いがようやく幕を下ろした。

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