シェキナの強襲
発表会も終わり、俺達は全員が揃った状態で宿に戻ってきた。
水の神がいる以上、汚い家のままにはできず全員で掃除を終わらせる。
掃除の最中に危険な罠が仕掛けられていないか改めて確認したが、この家は閉じ込めるために準備されていたらしく、襲撃の際に使われた物以外は普通の家だ。
ようやく家中の掃除が終わると、日も沈んでいた。
アルシェが料理をしてくれている間に、俺は水の神にお礼を言うことにした。
「来てくれて助かりました」
「セルクの事で世話をかけているからな」
「今回は個人的なことだったので、来てはくれないかと思いました」
「ハベル・クロアの仕掛けということもあったのでな、我が動くには十分だったよ」
「クロアに関してですが、パルプとは別の仲間がいるみたいです」
タークルと呼ばれていた白い少女の情報を伝える。
「白い少女か、その情報は初めて聞く。大戦の時にもパルプしか姿を見ていない。調整中と言っていたのなら新しく作られた存在かもしれんな」
「ご飯できました。ヴォール様のお口に合えばいいのですが」
「大丈夫だ。クォルテから話を聞いているからな。寧ろ楽しみにしている」
完成した料理を全員で食べ始める。
「クォルテ、なんか沢山人が来たよ」
「ああ、来ると思ってたよ。飯時に来なくても良いと思うんだけどな」
まだ半分も食べていないが、向こうがそんなことを気にするはずもない。
「我がこの食事とセルクは守っておこう」
アルシェの料理が気に入ったらしく、水の神は魚料理を食べる。
「ありがとうございます。折角アルシェが作ってくれたので、最後まで食べたいですから。よし、じゃあ行くか
セルクを除く全員が戦う準備を始める。
「なるべく二人一組で戦え」
「兄さん、セルクがいないから一人溢れないですか?」
「俺が単独で動く。シェキナとは俺が決着をつけないといけないしな」
「それなら私とアルシェで邪魔者を倒すよ」
「じゃあ、露払いは任せた」
ルリーラと拳をぶつけ、敵が動くのを待つ。
家の周囲から一斉に魔力の反応が現れ、それらが一斉に放たれた。
火球が、濁流が、地割れが、突風が一斉に俺達を襲う。
それをアルシェが炎の壁で防ぐ。
数は十を超えていおり、それなりの数が外では待機しているようだ。
魔法による攻撃が終わる頃には、屋根や壁が壊れて開放的な家になっていた。
開けた視界にはレベルの低そうな輩が周囲を囲んでいた。
「クォルテ・ロックス。お前を消しに来た」
「そんなに仲間を連れてこなくても、いくらでも相手してやるぞ」
屋根からこちらを見下ろしていたシェキナは手で味方に合図を送る。
周囲に隠れていた連中が攻撃を仕掛けてくる。
魔法を放ち、武器を持ち襲い掛かる。
だが、そいつら全員数だけの烏合の衆だ。
二十近くいたゴロツキはルリーラ達を相手に、一分も持たずに気絶した。
「こんな連中をいくら連れてきても、こっちの体力すら削れないぞ。ほら大将戦だ、降りて来いよ。直接相手してやるからよ」
「調子に乗るなよ。お前が遊んでいる間に私は魔法の研鑽に勤しんでいたんだ、お前ごときが――」
「御託はいいから来いって言ってんだよ」
盾と短槍を構え、領域を展開する。
「水よ、槌よ、敵を粉砕する力を宿せ、ウォーターハンマー」
シェキナの手に魔力が集まり、水の槌が現れる。
魔力の密度も成形も確かな物で、研鑽していたという言葉は嘘では無いだろう。
「死ね!」
振り下ろされる水の槌は振り上げた軌道通りに振り下ろされる。
叫んだ通り直撃すれば俺は死ぬ。
そんなものにわざわざ当たってやる必要はない。
俺の頭を砕こうとする殺気に嘘はなく、体を半身ズラすだけであっさりと躱すことができた。
「まだだ!」
横薙ぎ、振り下ろしと連続で仕掛ける攻撃は俺にかすりもしない。
全てが単調で、技も技術も一切ない攻撃がしばらく続く。
やがて振り回す体力が無くなったのか、水の槌に体が振り回され始める。
その動きに合わせて、盾を使いながらシェキナのバランスを崩す。
「くそっ……」
体勢を立て直そうとするシェキナの喉元に短槍を突きつける。
「俺達に手を出さないと約束するなら命は助けてやるぞ?」
「うるさいうるさいうるさい! どうせ水の神に強化してもらってるんだろう! そうでなければ私がお前みたいなのに負けるわけがない! もう一度だ! 次やれば私が勝つに決まってる」
シェキナの顔は醜かった。
復讐だけを考えて、何も見ていない。
自分の弱さも、相手との力量差も、何もかもを無視して自分の復讐だけを考えている。
俺は短槍を引いた。
「そうだ、もう一度戦え!」
「みんな荷物をまとめろ。外は暗いけどとっとと帰るぞ」
俺はルリーラ達にそう命令を出した。
「何を言っている、相手をしろよ! 逃げるつもりか、クォルテ・ロックス!」
「そう思ってくれていいぞ。お前を相手にするだけ無駄だ」
シェキナの挑戦を受けることも、殺してしまうことさえ意味がない。
そんな奴のために、手を汚したくない。
「舐めやがって! 水よ、氷よ、周囲を貫く牙になれ、アイススパイク」
水の魔力は地面の中で氷柱に変わっていく。
領域の範囲を地面にまで広げると、近隣を巻き込むほどの規模だとわかった。
氷柱が周囲に出る前に俺は駆けだす。
氷柱の位置は領域で確認できるため、氷柱に触れないように一気に距離を詰め、短槍の柄をシェキナの顔に叩き込む。
「あがっ……」
「ヴォール様、こいつを牢屋にでも叩き込んでください」
「全く容赦がないな」
「これ以上暴れられると被害が大きくなりますので」
「まだ……、終わってない……」
手加減なく殴ったはずなのに、シェキナは立ち上がる。
そしてその手には見慣れた結晶が握られている。
「全員死んでしまえばいい!」
シェキナは魔力を高め、自らの胸元に精霊結晶を突き立てた。