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手に入れた宝物

 今日の朝はのんびりとしていた。

 ネアンの子供だと年はまだ幼いと判断したため、朝早くと夜遅くに出歩いている可能性は低いと判断した。

 そのため朝食を食べてから今日の行動を確認していた。


「みんな準備は終わったか?」


「「「はい」」」


 三人がそれぞれ着替えて準備が完了した。

 例によってルリーラはホットパンツにシャツ、アルシェは短パンにシャツそれだけだと恥ずかしいらしいので、その上からマントを羽織り動きやすさ重視。

 精霊であるネアンにはアルシェのパンツとシャツを着せ髪が隠れるように外套を頭から被せる。


「じゃあ行こうか」


「いきます。炎よ、鷹よ、彼の者が求めし宝を探し出せ、ファイアホーク」


 アルシェの呼ぶ鷹は窓から再び飛び立つ。


「アルシェ、今回は見つけたらコンパスじゃなくてレーダーで頼む」


「わかりました」


「それってどう違うの?」


「盗賊退治しに行った時に教えたろ。レーダーは常に魔法で対象を探索し続ける」


「ならなんで最初からしなかったの?」


「理由としては魔力消費が桁外れなんだよ」


 盗賊みたいに全部が対象ならプリズマなら問題ないが、今回は探索の対象が鷹が見つけた一人のみ。

 探索でも魔力消費は軽くない、そんな重い魔法の複合はプリズマでも耐え切れない。


「でもここって魔力が溢れてるよね? 私にはわからないけど」


「そう、ルリーラでもわかることが今回俺にはわからなかったんだよ」


 頭を濃霧が覆って思考を遮り正常な判断ができてなかった。

 魔力が溢れての暴走って体験は初めてすぎて自分がおかしくなっていることにさえ気づいていなかった。


「クォルテって今回役立たず?」


「そうだよ、完全に俺が足を引っ張ってた。むしろルリーラに助けられたよ」


 暴走している俺とアルシェの間に入ってきてくれたのはルリーラだった。


「褒め称えよ」


「ああ、ありがとうな」


 頭を撫でると胸を張って満足気にする。


「見つけました、レーダー出します。炎よ、我の知識よ、我の記憶よ、暴いた存在を映し出せ、レーダー」


 レーダーはただ一点だけを示す。


「動かないね」


「まあ言ってみればわかるだろう」


「そう言えばずっと聞いてなかったが、ネアンは子供にあったらどうするつもりなんだ?」


「わからないわね、全部は子供と会ってから感情に任せるわ」


 これはちょっと嫌な予感だな。

 ネアンのほほ笑む表情に一抹の不安を感じてしまう。


「ルリーラ、アルシェ」


 荷物を持って部屋を出ようとする二人に声をかける。


「何?」「なんでしょうか?」


「何があっても見守ってろよ」


 二人にそう告げると二人とも顔を見合わせ首をかしげる。


「じゃあ行こう」


 大通りを進みまだ行ったことのない細道を抜けた先にあったのは小さな店だった。

 それも子供が入るような食べ物屋や玩具屋ではなくむしろ大人が行きそうな落ち着いた喫茶店。


「ここか?」


「みたいですけど、失敗ですかね」


 どちらかが失敗してるのか、それとも両方失敗? 暴走するほどに魔力の溢れるこの街で失敗?


「とりあえず入ってみるか」


 扉を開けると小さな鈴が軽い音を鳴らす。

 そして奥から一人の男性が現れた。


「いらっしゃいませ、おや、あなたは」


 出迎えてくれたのは昨日公園で出会った男性だった。


「昨日公園にいた方ですよね?」


「ええ、ゲバルト・フリッツと申します」


「クォルテ・ロックスです、こっちがルリーラそしてこっちがアルシェ最後のこちらが――」


「ネアンです」


 俺の言葉を遮り挨拶して深く頭を下げる。

 それに続いてルリーラとアルシェが頭を下げる。


「立ち話もいいですが、座ってください。コーヒーで大丈夫ですか」


「ありがとうございます」


「私は牛乳」


「承りました」


 人の好さそうなゲバルトさんは俺達をにこやかに笑い準備に移る。

 コーヒーの香りが店内に広がる。


「いい匂い」


「深くてとても香りがいいです」


 こういう喫茶店が初めての二人はゲバルトさんの入れるコーヒーの匂いにうっとりとしていた。


「どうぞ」


 しばらく経つと目の前にコーヒーが置かれる。

 飲む前からおいしいと感じてしまう奥行きのある深い匂い、砂糖もミルクも無く一口含んでしまう。

 口内に広がる濃い苦みその奥からやってくる酸味、飲み込んだ後も口に広がる豊かな香り。


「おいしいです」


「うん、凄い美味い」


「お口に合ってなによりです」


「じー」


「わかったよ、砂糖とミルク入れてやるから飲んでみろ」


 満足気に飲む俺とアルシェを、わざわざ擬音を口に出して見てくるルリーラのために、砂糖とミルクを多めに入れて渡す。

 俺からカップを渡され一口飲む。


「苦い……」


「これが大人の味だぞ」


「でも美味しい色んな味がする」


 ルリーラは更にもう一口飲み苦さに顔を歪めながらもコーヒーを楽しんでいる。


「もう一杯入れたほうがよさそうですね」


「お願いします」


 すっかり気にいった様子のルリーラは百面相をしながらも少しずつ飲み干していく。


「ネアンさんも味はいかがでしょうか」


 ネアンはうつむいたままゲバルトさんの言葉に頷く。

 流石にこれは考えていなかった。


「ゲバルトさんってご結婚はされているんですか?」


「ええ、子供がいますよ」


「昨日はいないと言ってませんでしたか?」


「そうですね、もうとっくに家を出ていますから公園で遊ぶような年齢ではないので」


「あの場にはいないって意味でしたか」


 コーヒーに負けてしまったが確かに店内には俺たち以外に人はいない。

 そしてネアンの反応、やっぱりそうなるよな。


「ご両親とは別に暮らしているんですか?」


「父はこの店の隣に住んでいますが、母は私がまだ小さいころ他界しました」


「申し訳ありません、そんなこととは知らずに」


「いえ、もう昔のことです」


 本当に今回は役にたってないな、勘違いが多すぎるな。


「ネアン、この人だろ」


 一度頷く。


「なら言えよ」


 動かない。


「ゲバルトさんの失礼なのは承知ですが、お母さんは流行り病かなにですか?」


「事故です、運悪く妖精が体に入ってしまいまして、そのまま亡くなったと聞いています」


「すみません」


「謝らないでください、何か必要なことなのでしょう?」


「わかりますか?」


 この人は鋭い、何かはわからなくても何かが有ることだけはわかっている。


「ネアン、お前はどうする?」


「わ、私は……」


 ネアンの背中に触れると少し震えている。

 怯えているのか泣いているのか喜んでいるのかそれはうつむいている姿からはわからない。


「私の母と何かあったんですね?」


「はい」


 ネアンは被っているフードを外す。

 今となっては馴染んだ顔と声、精霊の赤く燃える様な髪。それをゲバルトさんに見せる。


「私の体があなたの母親です」


 その姿にゲバルトさんは固まってしまう。


「私が誤って入ってしまったばかりに、あなたには辛い思いをさせてしまいました」


 ネアンは深く頭を下げる。


「母さん、なの、か?」


「はい」


 ネアンの言葉にゲバルトさんはカウンターから飛び出してくる。

 そしてネアンに触れる。


「昔写真で見たとおりだ」


「ごめんなさい」


「ネアンは、あなたのお母さんを守っていたんです」


「守って……」


「魔力を食わず無理をして、お母さんの魔力を大事に抱えていた」


 俺が昨日気が付いたことだ。

 でも最初にそれを気づいていたのはアルシェだ。

 最初の探索でアルシェは気づいていたのだと思う、それでも初めて触れる精霊に正常かはわかっていなかったみたいだけど。

 普通は気づかない、自分よりも他人を優先してより辛い道を行く。

 そうだったから最初の時みたいにちぐはぐな状態になっていた。


「ありがとうございます」


 ゲバルトさんがネアンを抱きしめると、わずかに異変が現れ始めた。

 一致した今だから起こる現象だ。


「私が入らなければよかったんです」


「わざとではないのでしょう?」


「はい」


 ゲバルトさんと話しながらも、それは起こり続ける。

 魔力が分離を始めていた。


「それなら、私にあなたを責めることはできません」


「ありがとう……、ありがとう、ございます……」


 迷子の子供と再会した親のように二人は泣きながら抱擁をする。

 背中から魔力が漏れ始める。


「この人がネアンの息子?」


「子供じゃなかったんですね」


 ようやく話に追いついてきた二人が話しかけてくる。


「ただ、ここからは何があっても見守ってるんだぞ


 二人は頷く。

 そして分離を始め漏れ始めている魔力は、少しずつ形を作り始める。

 内側から外側に魔力が飛び出るように溢れた魔力は体の外側で固まり大きくなっていく。


「クォルテ、あれって」


「やっぱりそうか」


「何かわかってるんですか?」


「想像はつく」


 おそらくネアンは母親をゲバルトさん返すんだろう。

 異質な魔力だとはじき出されている自分を受け入れて結晶に変わろうとしている。


「ゲバルトさん、お母さんをお返ししますね」


「えっ?」


 その言葉でようやく異変に気づいたらしく、ネアンの背中からはネアンの髪色と同じ赤い結晶が飛び出し、それと切り替わるように髪の色からは赤が消え白く染まっていく。


「あれってなに?」


「精霊結晶、精霊が消える時にわずかに生まれる結晶体だ」


「消えるんですか?」


「そうだよ、おそらく最初からそうするつもりだったんだろうな」


 普通の精霊は性格や言葉遣いは元の体と同じになるが、体が覚えているスキルや能力は別物だ。

 それなのにネアンは平然と体の覚えている料理をしていた。

 それはつまり母親の魂を取り込んでいないということだ。


「クォルテは知ってたの?」


「可能性としてはな」


「クォルテ、ルリーラ、アルシェありがとうね」


 その言葉を聞いても駆け寄ろうとする二人の腕をつかむ。

 文句を言いそうになりながらも二人は我慢する。


「この結晶はあなた達にあげる、大事にしてね」


「約束するよ」


 やり切った笑顔でこちらにほほ笑むネアンにそれぞれほほ笑む。

 ルリーラは泣きながら、アルシェは辛そうに、俺はできるだけ柔らかく。


「ゲバルトさん、お母さんの体、若いままだけどお孫さんに会わせてあげてくださいね」


「はい、母を助けて頂きありがとうございました」


 その感謝に笑顔で返す。

 その笑顔を最後に精霊結晶は体から抜け出し、重い音を立て床に落ちる。


「ここは?」


 髪は白く染まり目を開けたゲバルトさんのお母さんは目を丸くして驚く。


「母さん」


「誰? どうなってるの?」


 困惑しているゲバルトさんの母親をゲバルトさんに任せ俺達は精霊結晶をもらい店を出た。

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