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学者の国クレイル その四

 牢の鍵を探そうと見張りを見ると、血が一滴も出ていなかった。

 水の槍で貫いたはずの死体にも外に出ようとしていた見張りも血は出ていない。


「こいつら、機械人形だな」


 通りで反応が鈍いわけだ。

 俺を殴る時にも感情は一切感じなかったし、挑発に乗ることもない。

 近くで見ればすぐに気がついただろうが、薄暗い地下で遠目となれば気づくことはまずない。

 それに機械人形なら、俺がいくら挑発しても乗ってこないのもうなずける。

 その辺りまで考えて、シェキナはこいつらを準備したのだろう。

 鍵を探し出し、三人を牢屋から出す。


「機械人形って、シェルノキュリで作られていた物ですよね?」


「クロアが絡んでいるし別に不思議はないけどな」


 あいつがシェルノキュリで機械の勉強をしたとしても今更驚きはなしない。


「でも、あそこで見たのよりは格段に質が落ちてるな。シェルノキュリの機械人形は、このくらいで機能停止しない」


 これくらいで動かなくなるなら、サラと一緒に戦った時あそこまで苦労はしなかった。


「粗悪品を使ったって感じですね」


「この件は後で考えよう。とりあえずここから脱出してシェキナを探す。それとあいつを説得するのは無理だ。やっぱり俺が発表会に参加するしかない」


「それならすぐに準備が必要ですね」


 見張りの持っていた刺又と鍵を全てもち扉を開ける。

 以前の地下の様に広大な場所ではなく、簡易的に作られた地下施設の用だった。

 廊下の端は目視できるし、部屋の数も今出てきた場所を覗いて二つだけ。

 一番近くにあった扉を開けると、そこにあったのは人形の残骸だった。

 歯車や人形の手足、皮膚に使われた破片や、金属が周囲に散乱している。


「さっきのはシェキナ作らしいな」


 近くに散らかる部品を手に取るが、やはりわずかに歪んでいる。

 オレイカの作業をたまに見せてもらうが、手早く作業を続けていた部品はどんなに細かくても精密に作られていた。

 この歯車では動かないだろうな。


「これだけ作っても成功はあの三体だけってことなのかな?」


「そう言うことだろうな。シェルノキュリの技術者以外は普通ここまで部品を使ったりはしない」


「クォルテさんとルリーラちゃんに復讐するためにやってたんですよね」


「そうらしいな」


 あの目は復讐に燃えていた。

 俺から全てを奪って、自分と同じ気持ちを味わわせたい訳か。


 それから俺達はもう一つの部屋に入る。

 中には研究施設の用で机や椅子に、資料が少しだけ残る本棚があるだけだった。


「ベルタの危険性について。ですか。日付は一年前ですね」


「それくらいでベルタを手放す連中はいないだろうな。危険は承知で労働力や戦闘の道具と思っている連中も多い」


 頑丈で怪力、聴覚や嗅覚もよく、個人差はあるが毒物が効きにくい奴もいる。

 危険という理由でそんな好条件の奴隷を手放す貴族はまずいない。


「それよりも、ここにも私達の荷物はないね」


「そうだな。それじゃあ、とっととここから出るか」


 廊下の突き当りにある階段を上ると、一枚の扉があるだけで罠らしきものは無い。

 念のためフィルに身体強化の魔法をかけ、たとえ鉄の壁でもぶち壊せるように準備をさせ、領域を展開し向こうに人気がいないことを確認する。

 フィルが勢いよく扉を壊すと、底は明らかにキッチンだった。

 無暗に食器に触れないように先に進むと、見慣れたエントランスが広がっていた。

 俺達が泊まるはずだった宿のエントランス。

 俺達はこの宿の地下に閉じ込められていたらしい。

 荷物は置いた時のままだが、武具関係の物は別の所に持って行かれたらしい。

 奴隷服では町中も自由に歩けないため、俺達は持ってきた私服に着替える。


「兄さん、これからどこに向かいますか?」


「発表会のある会場にまず行く。そこで俺の発表もできるようにしないと反論ができない」


「シェキナさんを捕らえて発表させないというのはできないんですか?」


「それは避けたいな。地下の資料を見る限り、あいつは何度か同じ内容を公で発表している。そして今回はミスクワルテの情報も得ている。そんな奴を襲撃してしまえばそれが事実だと認める様なものだ」


 ましてや、それが危険思想のベルタという内容なのが余計に悪い。

 襲撃者はベルタと認定されてしまえば、それだけで世論はベルタを悪と断定しかねない。

 発表で真っ向勝負しか道がない。



 クレイルの中央に位置する複合実験施設、この街で最大級の施設だ。

 元は戦闘の実験が行われたり、奴隷を戦わせるコロシアムとして使用されていたが、広い敷地を利用し、戦闘以外の実験や大規模の発表会ができるように改装された。

 その一角にある受付に居る人物に声をかける。


「発表の申請はまだ間に合いますか?」


「間に合いますよ。……はい、問題ありません。こちらの原稿はお預かりいたします。それではこちらに名前を記入してください」


「シェキナ・アルトグローリーの発表がいつかわかりますか?」


「三番ですので、明日の昼くらいですね。記入ありがとうございます。イーシャ・フィルグラム様ですね。順番は四日後の六番です。遅れないようにお願いいたします」


 ミールが受付を済ませたのを確認し、俺達はコロシアムから急いで宿に戻ることにした。


「なんで兄さんの代わりに私がイーシャさんの名前で発表しないといけないんですか? イーシャさんが知ったら起こりますよ?」


「ロックスの名前でやるわけにはいかないんだよ。それに俺の場合は顔も割れてるだろうしな。だから頼むよ」


「わかってます。兄さんは有名人ですからね。私も腹を決めます」


 ミールにありがとうと頭を下げた。

 突貫ではあるが、最低限論文としては作れたはずだ。

 後は明日の発表を見て少し内容を修正すればいい。


「クォルテさん、私達はこれからどうすればいいんですか?」


「このまま宿に戻る。今日はもうやることが無いしな。全部は明日シェキナの発表を聞いてからだ」


 宿に戻り、ガスが巻かれても大丈夫なように壁に穴を開ける。


 それから地下でアルシェに食事を作ってもらい、後は、明日シェキナの順番が来るのを待つだけだ。


「兄さん、シェキナの父親ってどういう人だったんですか? あんまり話した記憶がないんですけど」


 アルシェが食べた食器を片づけている間、ミールがそんなことを聞いてきた。


「それなら、あたしはご主人とルリーラの出会いを聞いてみたい」


「それは私も興味があります」


 ミールの質問を皮切りに他の二人も便乗して聞いてきた。


「わかってると思うけど、面白い話ではないぞ?」


 全員が頷くが、俺もいい加減話した方がいいんだろうとは思っていた。

 ルリーラも過去を吹っ切れてきたし、ここに居る全員とはそれなりに長い間旅をしている。

 俺は覚悟を決めて話し始める。

 これは、子供のわがままと大人のわがまま、ただの欲のぶつかり合いでしかなく、俺がただ逃げ出しただけの話だ。

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