宝物見つけた
目が覚めると日は西に傾いていた。
結構寝たんだな。
「あら、目を探したの?」
「悪い、すぐ退ける」
「私の膝の寝心地はどうだった?」
顔に似合わない大人びた微笑みのせいか、もう少しだけこのままでいい気がしてしまう。
「悪くない。もう少しこのままでいいか?」
「構わないわ」
そう言うとネアンは俺の頭を撫でる。
その手に慈しみを感じる。
「その話し方はどっちのものなんだ?」
最初に出会った時は少し子供の様で声色とのギャップが凄かった。
でも今はもう違和感はない。妙齢な落ち着きのある話し方。
「たぶん、この体のものだと思うわ」
「そうか」
俺は再び目を閉じる。
夕暮れに流れる風に体を預け周りの音に耳を傾ける。
その間ずっとネアンは我が子の様に頭を撫で続ける。
「そろそろ起きるよ」
「そう」
特に引き留めることもせずにネアンは撫でるのをやめた。
「このままじゃ駄目だよな」
しっかりと眠り思考がしっかりしていなかったが、眠っていくらかまともに戻った。
そうなると頭の中で暴れているものが浮き彫りになる。
「何かするの?」
「喧嘩」
俺はそう決意する。
これしかないだろうと、異常が残る頭で断定する。
「クォルテ目覚ましたの?」
「おう、悪かったな爆睡してたみたいで」
「私こそごめんなさい」
「気にすんな」
飲み物を買ってきてくれたルリーラの頭を俺は撫でる。
ベルタ特有の闇色の髪は艶があって撫で心地がいい。
「クォルテさん」
「アルシェ、悪いけどちょっと付き合ってくれるか」
「いいですけど、どうかしましたか?」
「ついてくればわかるよ」
何も知らない二人は首を傾げ、俺がすることを知っているネアンは優しく微笑む。
街から離れた誰もいない草原で俺とアルシェは向かい合う。
ルリーラは事情を知っているネアンに抱きしめられたまま何が起こるのかを見守る。
「アルシェ、今ここで俺と喧嘩だ」
「えっ!?」
「待ってよクォルテなんでそうなるの!?」
「大丈夫よルリーラ」
困惑するルリーラをネアンは動けないように抱きしめる。
ルリーラへの説明をネアンに任せ俺はアルシェに説明する。
「この国に来てからお互いどっかおかしかったろ?」
「はい」
散々暴走を繰り返すアルシェは俺の言葉に頷く。
「実は俺も頭の中がごちゃごちゃなんだ」
「そうは見えませんけど」
「見えないだけだ」
思考がまとまらない思考が奥に進まない。
こんな状況では宝探しなんてできるはずはないだろうと俺は知っている。
「だからお互い感情を魔力を吐き出そうってわけだ」
これが正解かと聞かれればそうだと頭では考える。
これが最善かと問いかけてもそうではないのと心は訴える。
喧嘩なんてお互いが傷つくだけの行為だ、でもそれだけじゃないのもわかっている。
「私がクォルテさんを攻撃するんですか?」
「その通りだ。ありったけの魔力を込めて魔法を撃ってこい、俺はそれを受け止めてやる!」
俺はこんな奴だったんだろうか? 誰かの感情だろうか?
わからないけど全力でやらないときっと何も始まらない。
「アルシェ!」
まだ引け目があるのか悩むアルシェにルリーラは檄を飛ばす。
「私達の気持ち思いっきりぶつけてあげて!」
その言葉でアルシェが吹っ切れたのがわかった。
「そうだよね。わかりました、魔力をぶつけてあなたが私達に答えさせます!」
これも暴走なんだろうな、だからお互い無駄に熱くなってしまう。
そして俺とアルシェの喧嘩は始まる。
「行きます。炎よ、破裂と熱を持って焦土とかせ、フレイムストーム」
俺には不可能な程に魔力を集めそれを炎に変換する。
変換された炎は熱を振りまきながら小さな村を溶かすほどの巨大な渦へと変わる。
「流石。でも負けてられないんだよ。水よ、静寂と鎮静を持って沈めよ、ウォーターストーム」
異属性の同魔法をぶつける。
魔力が水に変わり渦潮の様に螺旋を描き暴風に変わる。
火は水で消せる、それが自然だ。だがそんな自然の相性ごときでプリズマに勝てるはずもない。
桁が違う山が燃えているのにコップで消す馬鹿はいない。
「水よ、龍よ、水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、その魂を地の底に送れ、災厄の名を背負いし者よ、我の命に従い顕現せよ、水の龍アクアドラゴン」
俺の使える最大威力の魔法。
流石に炎の暴風も水の龍には及ばず霧散する。
「炎よ、無数の破裂を熾せ、ボム」
見ただけで圧倒されてしまう数の火球。
太陽の様に辺りを明るく照らす火球の群れは一斉に水の龍を襲う。
一つ弾け二つ弾け連鎖的に爆撃を受ける水の龍は消滅した。
「ではまた行きます。炎よ、獣よ、無数の獣よ、敵を喰らい、己が一部とせよ、フレイムファングパーティー」
「これは不味いよな」
煌々と燃え続ける青白い炎によって生まれた獣の群れ。
狼に猿、虎に獅子。牙を備えた狂暴な獣群れがアルシェを先頭に立ちはだかる。
一体一体が強いのは言うまでもなく問題なのはその数。
視線に納まらないほどの数は俺に負けを確信させる。
「こっちも負けていられないんだよな」
全魔力をまとめる。
「水よ、大いなる水よ、全てを飲み込む災害となれ、飲み干せウォーターハザード」
おそらくアインズでしか使えないであろう俺の実力以上に強大な魔法。
壁の様にそびえる魔法の水は城壁のような高さに膨れ上がり猛威を振るう。
「いけ、パーティー」
「飲み込め!」
進撃を進める炎の獣の群れを巨大な津波が迎え撃つ。
前方に位置していた獣を飲み込み蒸発しながら進み、半分ほどを飲み込んだところで俺の魔法は蒸発し消える。
「ここが限界か」
純粋な水だけを増え続ける熱の塊にぶつけるが、水は次々と蒸発を繰り返し獣達は確実に近づいてくる。
やがて全ての水を出し終え獣達が俺を囲む。
「参ったよ」
俺対アルシェの本気の試合は俺の敗北で終わった。
魔力の消耗が激しい俺はそのまま動けずにその場で倒れ込む。
「クォルテ」
とてとてと近寄ってくるルリーラは心配そうな顔を見せる。
「アルシェはどうなった?」
一番の懸念はそこだった。俺はアルシェに魔力を使い切らせることはできたのか。
「倒れたみたいだけど、なんでこんなことしたの?」
「明日、話す……」
魔力を使い切った俺はそのまま気を失った。
花のような匂いがした。
冷たい感触が額に触れくすぐったい気持ちになる。
この感覚はあれだ、看病されているんだ。
体調不良の時に母親に付き人にされていたあの感覚。
俺は目を開ける。
「おはよう」
「やっぱりネアンか」
目を覚ますと目の前には天井があり、横にはネアンが座って俺の顔を見ていた。
「体調は平気?」
そう言ってネアンは俺の額に手を触れる。
ひんやりとした手が気持ちよく、頭が冴えてくる。
「ああ、おかげで頭がすっきりした」
頭が冴えてようやく俺は気が付いた。
ネアンに流れる魔力がおかしい。体と噛み合っていない、魔力の流れが二つある。
「アルシェは?」
「こっちよ」
ネアンが立ち上がりもう一つのベッドに移動する。
そこにはすやすやと眠るアルシェがいた。
「そっちは大丈夫なのか?」
「プリズマだから、魔力が空になったら戻るまで時間がかかるの」
なら心配ないか。怪我とかもなさそうだしこれで大丈夫だな。
それにプリズマの全力が見れて満足だ。
「やっとお前の宝物がわかった」
「凄いのね、それで何かしら私の宝物って」
そう言ってほほ笑みながらアルシェの頭を撫でる。
その顔は母親のそれだ。
寝不足や魔力の暴走があったとはいえ、今更それに気が付いてしまったことに恥ずかしくなる。
「ネアンは、違うかネアンが宿った体は誰かの母親だろ?」
「おそらくそうだと思うわ」
わずかに見せた憂いの表情。
自分の中であふれる感情が人格を持ったネアンという精霊は今どんな気持ちなのだろう。
「ネアンの宝物ってその体の子供だろ」
ネアンは肯定もせずに優しく微笑むだけで会話を終える。
「アルシェが起きたらその体の子供探ししようじゃないか」
アルシェが目を覚ましたのはそれから少し経ってからだ。
「宝物はぁ、ネアンさんのぉ、子供ぉ?」
寝起きのアルシェはただ俺の話を聞いている。
魔力が戻っていないのか、半目の状態で半分意識が無い状態で聞き続ける。
「まだ寝てたほうがいいみたいだな」
「構わないわ、宝物がわかったなら少しくらい遅れてもいいもの」
「じゃあ悪いけど今日の夜か明日の朝でいいか?」
「ええ」
アルシェを再び横にさせ俺は一人で街に出る。
露店が並び人通りの多い大通りを脇にそれ細い道を進む、最初にアルシェが見つけた広場にたどり着いた。
わずかな遊具とそれで遊ぶ子供達、そしてそれを見守る母親、どう見てもここは公園だ。
俺は備え付けられたベンチに腰を下ろしため息を吐く。
今回俺はまるで駄目だったな。
頭は回らないし感情に流されるしアルシェとの喧嘩に負けるし。
俺がそんな反省をしている途中で隣に一人の男が座る。清潔感のある短髪に髭を生やし、年は俺よりも一回り大きいくらいの男。
男は何も言わずにただただ公園で遊ぶ子供達を見る。
「誰かのお父さんですか?」
「違います」
違ったか、誰かを探しているような気がしたんだけどそうじゃなく俺と同じようにただ来てみただけか。
「あなたは?」
「嫌なことがあったんでここに来ただけです」
「そうですか」
その後に何を話すでもなく二人でベンチに座る。
「そろそろ私は失礼しますね」
数分座っていた男はそう言ってベンチから立ち上がり去っていった。
「俺もそろそろ帰るか」
にぎやかな街を抜け宿に戻るとアルシェが目を覚ましていた。
「クォルテさんお帰りなさい。すぐに夕食の準備しますね」
「おう」
「ごっはん、ごっはん」
「偉くご機嫌だなルリーラ」
「ふふん、あれを見よ」
ルリーラはそう言ってキッチンを指さす。
いつも通りのアルシェと並んで料理をしているネアンがいた。
「ネアン、何してんだ?」
「誰かの母親だと知ったら料理もできる気がして」
「ネアンさん凄くお料理が上手なんです」
これは魔力のせいなのだろうかと疑問を感じるほどにテンションが上がっている。
「たぶん体が覚えているんです」
「楽しみだな、ネアンの料理」
「すっかり懐いたな」
嬉しそうにしているルリーラが微笑ましく頭を撫でる。
「もうできますから待っててくださいね」
「ルリーラ聞いたか?」
「うん、聞いたよネアンの子供を探すんだよね?」
「そうだ、だから今日は早く寝ろよ」
「これからでもできますよ?」
キッチンから顔を覗かせるアルシェに俺は答える。
「ネアンの子供なんだろ? 夜に会いに行くのはどうなんだろうなと思ってさ」
「そう言われればそうですよね」
「皆さんできましたよ」
ネアンに運ばれてきた料理はどれも美味しい。
アルシェの作る外食のような一口で美味しい味ではなく、家庭で出されるような心に染みるような味がした。




