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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
盗賊の国 アリルド その三
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吸血鬼の捜索 その五

 今俺達が向かっているのはカーネル・アトモスという貴族らしい。

 聞いた情報だと、平民に当たり散らし怪我をさせたらしい。

 日の高い時間帯だったらしく、目撃者も多かったらしいが、横暴な貴族だと有名で見ていた人々も助けに入れなかったらしい。

 被害者は数か所を骨折したらしく、現在入院中らしい。


「旦那様、私がその輩切り捨ててきてもいいでしょうか?」


「やめとけ。俺達が出る時じゃないんだよ。今は、この吸血鬼が名前を売っている最中だ」


「そうですね。私が出ても仕方ないことでした」


 こいつらの活動は他の所だとどうか知らないが、この国では別に悪いことじゃない。

 無暗に誰かを傷つける輩にお灸をすえているだけだ。

 そうやっていれば馬鹿な連中も、自分が一番上じゃないことに気がつくはずだ。


「この先が今回の出口です」


「お前達は全員この地下の道を覚えてるのか?」


「はい。前に誰かがここの地図を落としたのを発見して、これは使えると思ったので」


 アリルドの指示でわざと盗賊の誰かに落とさせたんだろうな。

 そうなると、あいつもこの事件を終わらせるつもりは無いってことか。


「俺は後ろを歩いて隠れながら見てるからいつも通りにやってくれ」


「はい」


 コットが元気な返事をし、地上に出る。

 日も暮れて吸血鬼が人を襲うにはもってこいの時間になっている。


「パーパッパッパー」


 謎のファンファーレのような笑い声が聞こえた。

 声のした方を見ると、屋根の上に一人の男が仮面にマントというふざけた格好で立っていた。


「安心したまえ、ムス――子供達よ。この怪人八十八号が来たからにはもう安心だ」


「コット、もしかしなくてもこいつってお前の父親か?」


「まことに恥ずかしい限りですが、その通りです。アールス・ストロ、ストロ家の当主です」


 コットは怪人を名乗る父親を直視できないらしく顔を覆ってしまう。

 これが当主って本当に大丈夫なんだろうか?

 この父親のせいでコットが奴隷になったりしないだろうか。


「やい、盗賊共。こんなこの世界の至宝ともいえる素晴らしい子供達をどうするつもりだ!」


 怪人を名乗っておきながら正義の味方設定のようだ。

 そして凄い子煩悩らしい。


「どうもこうもただこの子達と――」


「問答無用!」


 聞いたのに答えさせる気が一切ないのはどういうことだよ。

 問答無用で殴りかかってくるなら、こちらも受けて立たないわけにはいかない。

 仕方なく俺は戦う姿勢を取る。


「ちょっと待ったー!」


 戦う寸前でまた誰かが乱入してきた。

 その聞き馴染みのある声はルリーラだった。

 アールスが乗っていた屋根とは別の屋根の上で仁王立ちをし、こちらを指さしている。


「そこの変態はクォルテに何をしようとしているんだ?」


「俺のムス――そこの子供達に乱暴しようとしてるので制裁をするところさ」


 もう素直に俺の息子って言ってしまえばいいんじゃないか?


「邪魔をするなら相手をしてやる。かかってこい!」


「アールス待った!」


 やばいと思い声をかけるが、少し遅かったようで、俺が声を出した時にはルリーラの拳はアールスの顔面を殴っていた。

 アールスはそのまま地面を跳ね、壁にぶつかった。

 たぶん本気で殴ってはいないだろうから、死んではいないと思うが、動く気配が一切ないため心配ではある。


「悪いコット今日の襲撃はやめて明日城まで来てくれ。そこで死にかけてるお前の父親も連れてな」


「えっと、わかりました」


 四人で父親を担ぎ、コット達はまた地下に戻って行った。

 さて、これからどういう風に話を作り上げるかだな。


「あれ、もしかして私やらかしちゃった感じ?」


「ルリーラだけじゃないけどな」


 全く話に関わっていなかった二人が暴れたせいで、何があったのかと周囲に人が集まり出してくる。

 仕方なく事情を説明し、俺達も急いでその場を後にした。



「ああいう事情があるなら、先に教えてくれてもいいだろうが。それに、俺がどうするのかわかってるんだから、やってくれてもいいだろ?」


「クォルテがどうですかは、大方予想はしていた。だが、それを勝手に決めるのは俺の仕事じゃない」


 帰って早々俺はアリルドの部屋に殴りこんだ。

 今回の事件を俺ならどうするか、アリルドならわかっていたはずだ。


「何回も言っているが、この国の王はお前だ。それに今回は貴族連中も絡んでいるし、国王が動いているという事実が必要なんだ」


「だから俺はお前に国王の座は返すって言ってるんだよ」


 俺に政治の才能はない。

 俺はどうしてもきっぱりと割り切れないからだ。

 もしルリーラ達が危険に陥ったら、俺は国を平気で投げ出す。

 そんな風に利益だけを求め続けることができない。

 それに引き換え、アリルドはきっちりと線引きができるし、腕も弁も立つ。

 俺はただこの国を帰る場所にできれば立場なんてどうでもいい。


「返されても困るな。俺はお前の方が王に向いていると思っている。お前は線引きができているからな」


 全くもって反対の考えのようだ。

 俺がいつ線引きしているのか教えてもらいたい。


「仲間と敵の線引きができている。仲間のためにお前は頑張れる。お前のことだからそれが王としてダメだと思っているのだろうが、俺はそれこそ一番上に立つ人間の素質だと思っている。損得勘定だけなら誰でもできるからな」


「なんか毎回言いくるめられてる気がするんだよな」


「それがお前の良い所なんだよ」


「褒められてる気はしないが、良いように使われておくよ」


 ただ矢面に立たされているだけの気がするけど、それはそれでいいか。


「それと今日ちょっとトラブルがあって、ストロ家を明日ここに呼んでるからよろしく」


「何があったんだ?」


「ルリーラとアールスがやらかして目立っちまったんだよ」


「なるほど。何となく明日話す内容に検討がついた」


「それで、俺の面子は保てるし、向こうの目標を考えると悪くないからな」


 俺は改めてアリルドと話を重ね、作戦を詰めていく。

 終わったころには、月が天辺を過ぎ、西に傾きだしていた。

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