吸血鬼の捜索 その四
背の小さい子供達が三人向こうに逃げ、そちらをフィルとサラが追い、俺は指示を飛ばしていた子供を追う。
普段から移動し慣れているためか、決して袋小路には逃げ込まず、盗賊が潜伏しているであろう場所も避けて通っている。
最短ルートの選択に小回りの利く小さな体。
暗くてわからないが、黒髪なのは確かだな。
そろそろ地上へ出る道につながるが、出るつもりはない。
上は目的地じゃないのか? そうじゃないとしても今の現状なら、上で人にまぎれた方が逃げられるはずだ。
突然一定の間隔で聞こえていた足音が一度大きな音を立て、聞こえなくなった。
「消えた?」
足音が最後に聞こえた辺りに来ても人の影はない。
いくつかの部屋が点在するだけで、誰の姿も気配も感じない。
魔法で姿を消すなら詠唱が必要だ、詠唱無しでここまで巧みに姿は消せない。
まだ周囲にいるってことか。
周囲の足場、壁に触れても隠し扉の様な物はない。
遠くに逃げていないなら探せるな。
俺は領域を展開する。
「この部屋か」
領域内にあった反応を元に部屋に入る。
反応があったのは出入り口の影、すぐに反応できるように入口を領域で囲んでおく。
「いるのはわかってるから、早く出て来い。少し話を聞きたいだけだ」
出てくるはずはないよな。
でも俺が一歩先に進めば話は別だ。
子供ならわずかに抜けられる隙間があればそこから逃げ出そうとする。
「はい、捕まえた」
「なんでわかったの?」
領域に触れた瞬間俺は逃げていた一人を捕まえた。
黒い髪に黒いマント、マントの中に来ている服まで真黒だ。
この姿でこの小ささ、確かに噛みつくまでバレないよな。
「大人だからな。子供の考え位わかるさ」
「僕達を憲兵に突き出すの?」
「どうするかを決めるために話を聞きたいんだよ」
俺は捕まえた子供を脇に抱え、フィル達を探し始める。
あの二人ならすでに捕まえているだろう。
「お前の名前は?」
「コット、コット・ストロ」
「詳しく聞きたいけど、話しは全員揃ってからだな」
†
コットたちが入ってきた出入り口に向かうと、子供達は大人しく座っていた。
一人は何か怒っている様子の女の子、もう一人は泣いている気の弱そうな中性的なたぶん女の子、最後の一人は男の子でボコボコにされていた。
「お帰りご主人。聞かれる前に言っておくけどあたし達は一切手を出してないからね」
「それならなんでそこの小僧は顔を腫らしてるんだ?」
迎え入れられ、いきなりそう言われた。
雰囲気からおそらく犯人は、不機嫌そうな子の仕業なのはわかるが、一応聞いておいた方がいいだろう。
「フィルがそこのウラを捕まえた時に、フィルの乳房を揉んだらしい。それに怒ったのがニコで、それを見てそこのアズが泣き出しました」
「あたしは子供だから怒ってないんだけどね」
「そういうことか」
怒っているのがニコ、泣いているのがアズ、殴られているのがウラか。
この惨状は二人のせいではなく、子供たちの喧嘩ってことか。
原因になったフィルも気にしてはいないらしいが、子供たちの間では大問題ってわけか。
「お前達、何やってるんだよ……」
「私は悪くないもん、ウラがこのお姉さんのおっぱいに触ったのが悪いの!」
「わざとじゃないっての、暴れたら当たっただけだし!」
「二人とも、やめてよぉ……」
なんだろうこの惨状……。
なんか託児所にいる気分だ……。
「まあいいや、その辺りは俺の話が終わってからにしてくれるか?」
「お願いします。どうか、こいつ等だけは助けてやってください。俺は憲兵に突き出されようが殺されようが文句は言いません。こいつ等にもここは使わせないしここのことは絶対に話させません!」
いきなりコットが土下座をした。
子分なのか三人を庇うように頭を地面にこすりつけながら懇願する。
「ご主人まだ説明してないの?」
「そう言えばしてなかったな。全員が揃ってからって思ってたし」
コットの名前は聞いたけど俺の名前も言ってなかった。
「俺はクォルテ・ロックスって言うんだ。ここの盗賊とは違う」
「国王だとも名乗らないと子供にはわかりませんよ、旦那様」
「国王陛下でしたか。無礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
コットは再び地面が割れるくらいに頭を地面にたたきつけた。
「別にいいよ。偉ぶりたくて国王になったわけじゃないしな。それよりも、お前達はなんでこんなことをしたんだ? しかも吸血鬼みたいな真似して」
「最初は、こいつらを守るためでした。国王陛下が奴隷は人だと言って下さり、俺、いや、僕もそれに賛同しました。それは当然のことじゃないか、奴隷も僕達と同じだ。そう思っていてもでも僕はどこかで見下していたんです。それに気がついたのはこの三人が貴族の子供にいじめられていたんです。殴られて蹴られている姿を見た時、僕は乱暴に扱ってるなと思ってしまったんです。僕はこいつ等を物と認識していました」
ここの貴族連中ではそう言うことは当然の様にある。
俺が見ている所ではそこまで露骨なことはないが、アリルドや、城の連中からそういう話を聞いている。
そんな連中の中にいてそこに気がつけるんだから大したもんだ。
「それが急に恥ずかしくなって、僕はいじめていた貴族からこいつ等を買いました。せめてこいつ等を守ろうと思ったんです」
「それがどうして吸血鬼になるってことになるんだ?」
それでこいつらはコットの奴隷、他の貴族連中が手を出していいわけがない。
「翌日、その貴族の家が僕の家に僕が奴隷を盗んでいったとやって来たんです。僕は必死に否定しました。ちゃんとお金を払って全員を買った。そう言っても向こうは金はもらっていない。の一点張りで、そのまま三人共連れていかれました」
「お前の両親は何も言わなかったのか?」
「親がいない時に来られて、子供の僕には抵抗さえできませんでした……。その後両親に助けを求めたらこの服を一式くれました。大事なら夜に紛れて奪ってこい。話し合いは俺がやってやる。そう言ってくれました」
「それで、吸血鬼の恰好で貴族を襲ったわけか。最初は理解したけど、あまりにも数が多いよな、それはどういうことだ?」
気持ちはわかるが、なんて父親だと言わないといけないかな。
でもそうなると子供の喧嘩で終わりそうだが、被害者が多すぎるな。
それにこいつは狙うのはこの人と言っていた。
そうなるともう復讐じゃなくなっている。
「それは僕が吸血鬼事件を起こしてから依頼が来たんです。こんなひどいことをする貴族を貴族を懲らしめて欲しい。いじめっ子を懲らしめて欲しいって父経由で」
コットの父さんは何をしているのか……。
「それを懲らしめてる結果が今の現状ってことか」
一言で言えば義賊ってことになるのか。
それが理由なら俺が止めるのは変だよな。
アルシェを助けるためにやらかしたこともあるわけだしな。
「それなら別に憲兵に突き出したりはしない。それはある意味で下克上だしな。俺が止める理由はないからな」
「本当ですか!?」
四人の顔に笑顔が咲く。
実に子供らしい笑顔だ、俺もそういう連中は嫌いだしな。
「ただしちゃんと襲う前に本当にそう言うことがあったかは確認しろよ。それと今回は俺達も付いて行っていいか?」
冤罪があると義賊としての信頼も無くなってしまう。
「構いませんけどいいんですか? 姿を見られたら拙いんじゃ……」
「これで行くから平気だ」
顔をタオルで隠し俺達は四人の後をついて行くことにした。