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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
盗賊の国 アリルド その三
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吸血鬼の捜索 その三

「ルリーラ達があそこの人達にキレてた気持ちはよくわかったよ」


「だろうな。俺も同じ立場ならキレてる」


 オルクス病院を出てサラがため息交じりそう言い、俺はそれに同意する。

 わかりやすいくらいに異性に媚びを売る様は、同性には怒りの対象だろう。

 あそこの三人、特にセクレアはそれを隠すこともしていない。

 玉の輿狙いで男に自分を売り込んでいる。

 奴隷だし、下克上するよりも自分を売り込んで掬い上げてもらった方が楽なのだろう。


「それにしてもフィルがあそこで怒ったのが僕としては意外だったけど、何か癇に障ることでもあったの?」


「それは俺も気になった」


 レルラは特に計算はしていない。

 多少はしているのかも知れないが、あの気さくさがレルラの良い所でもある。


「それはいいの。……あたしにはああいう子供っぽいのは無理だし」


 フィルのつぶやきが偶然にも俺の耳に届いた。

 本人は聞こえていないと思っているらしいため、聞こえないふりをしておこう。

 フィルと一緒に居るようになってから、フィルはお姉さんで居続けてるしな。

 清濁知っている自分が、今更子供っぽく純粋な態度をとっても……、なんて思っているのかもしれない。

 サラもどうやら聞こえていたらしく、俺と同じ感想な様で肩をすくめたので俺は苦笑しておいた。


「ご主人、サレッドクイン、早く行くよ!」


「わかったわかった」


 俺達は一番近くにある地下への入り口に向かう。



 久しぶりに下りた地下通路は相変わらず狭く薄暗い。

 アリルドからここの地図を貰っていたため、俺達は迷うことなく盗賊がたまり場にしている広間を目指す。


「確かにここなら目立たずに移動できますね」


「伊達に長い間盗賊連中が使っていないからな」


 国民として過ごす表の顔、通行人の荷を狙う裏の顔、二つの顔を使いこなすために使っていた通路なのだから、目立たなくて当然だ。

 そんな地下通路を三十分ほど歩き、広間にたどり着いた。


「おや、国王様何か御用で?」


 盗賊の指揮官ミモザ・クーゲルが俺達の前に姿を見せる。

 過去にここを潰しに来た時にルリーラと勝負した男で、アリルドが城で雑務をしている間の指揮を全権任されている。

 元々上に立つ才能があるらしく、荒くれ者の盗賊連中の舵を上手に取っていると、アリルドがべた褒めしていた。


「吸血鬼の事について聞きたいんだが、おそらくこの地下を使っているらしくてな」


「それで盗賊の我々を疑って来たと?」


「それならアリルドがお前らを叱って終わりだろ? そうじゃないならお前等じゃない。だから答えを教えてくれないかなと思ってな」


「無理です。頭領に口止めされてます。ですが、我ら盗賊は関わっていないことは断言します」


 当然口止め済みってわけか。

 ここまで口止めをしている理由はなんだ?

 俺が国に戻ってこない仕返しではないだろうし、俺に何かをさせたいってところだろうけど、それが何かわからない。


「それだったら、案内して欲しい所があるんだけど、いいか?」


「吸血鬼の正体を伝える以外なら何でもどうぞ」


 俺は吸血鬼が最初に頻繁に現れた場所に案内してもらう。

 地図は貰い地下の目的地には迎えるが、地下と地上の関係は把握しきれていない。



「確かに頭領の稽古は慣れている我らでも辛いですからね」


「勉強になる部分も多いが、後半になると体だけでなくて頭も動かなくなる」


 ミモザは見た目に反して紳士だった。

 相手に合わせることができると言うか、人との距離感が凄い。

 物腰も丁寧でもしかするとそれなりの名家の出身なのかもしれない。

 その丁寧な対応に、火の国の宰相の娘であるサラと話が合うのか、二人は妙に仲良くなった。


「ご主人も嫉妬?」


「嫉妬ではないかな、ただ、ミモザが意外だっただけだ」


 よく考えれば最初に会った時も、紳士な対応だった気もする。

 一時間ほど地下を進む。

 途中で他の盗賊連中にも会い、簡単に挨拶なんかをした。

 その全てが見た目通りの悪党と言った様子で、俺達三人に喧嘩を売ってきたりしたが、全て返り討ちにしてやった。

 こういう輩の良い所は負けると結構従順な対応になるところだ。

 野生の動物っぽい。


「この上が国王様の指定した地区です」


「ありがとう。今日はこのまま夜を待つよ」


 ミモザと別れ、日が暮れるのを待つことにした。

 一日では無理かもしれないが、ここで網を張っていればいつか吸血鬼と出会えるだろう。


「今日来る可能性ってどのくらいでしょうか?」


「理想で言えば今日だけど、たぶん一週間かな。カルテに書かれていたので最長がそのくらいだったからな」


「ご主人は、吸血鬼を捕まえたらどうするつもりなの?」


「理由によっては見なかったことにするな」


「じゃあ、全部無駄になるかもしれないのか」


 犯罪ではあるが、盗賊が国公認だしな。

 狙われている大半が上から目線で偉そうな連中が多い。

 それを考えると復讐とかそういう理由だろう。

 それなら、俺が止めても無駄だし、それよりならやり切ってからきっぱりやめる様に言ったほうがいいだろう。


「悪事はしっかりと罰したほうが良いと思いますが」


「そんなこと言ったら俺も罰せられる。だから俺は理由を大切にしたい。悪事に手を伸ばしたのはなんでなのか、理由が快楽とかなら容赦なく罰を与えるさ」


 自分の生まれた家を没落させた俺に悪事がどうのと言う資格はない。

 あそこにいた何人かも殺してしまった、その後も色々やらかしてるし、シェルノキュリでも殴り込みとかしてるしな。

 それも全部俺としては正しいことをしたと思っている。

 だから吸血鬼が何を考えてこんなことをしているのかを知る必要がある。


「ご主人、誰か来たよ」


 フィルの言葉に俺とサラも戦う姿勢を取る。

 重い扉が開く音が響き、軽い足音が四つ聞こえた。

 その四人に察知されないように気配を殺し、全員が地下に来るのを待つ。


「よし、今日狙うのはこの人だ」


 元気いっぱいの幼い声が聞こえてきた。

 その声に同調し他の三人も「異議なーし」と声高らかに返事をする。


「おい、こんなところで何してやがるんだ?」


 隠れているのも馬鹿馬鹿しくなってきた俺は、意気揚々と下りてきた子供達にに直接話しかけた。


「どうする見つかっちゃったよ」


「みんな逃げろーー! 目的地で落ち合うぞ!」


 子供達はリーダーと思われる少年の言葉で一斉に四方に逃げ出した。


「フィル、サラ全員捕まえるぞ。なるべく無傷でな」


「「了解」」


 俺達も子供達が逃げ出した方向へ走り出す。

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