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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
盗賊の国 アリルド その三
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吸血鬼の捜索 その二

「旦那様、あれは何か催し物でもやる予定なのでしょうか?」


 オルクス病院に着くと、サラがそう言った。

 そう言いたくなる気持ちはよくわかる。

 前回同様、ただの病院にも関わらず、元気な患者が列をなしている。


「ルリーラ達が愚痴ってた病院だね」


「そう、ここがオルクス病院。最初に来た時は民家みたいなサイズだったんだぞ」


 今となっては建物を三棟も持つ立派な大病院に成長している。

 そう言えばここの苦情もいくつか来てたな。

 いい病院なのに鼻の下を長くした男が多くて近寄りがたいって内容だったはずだ。


「とりあえず、中に入るか」


 群がる元気な患者をすり抜け、本館に入ると外に比べ中にいる人は少なかった。

 長椅子が三つ並び、そこに座っているのは本当の病人の様でだるそうに体を壁に預けている。


「ロックス様、お久しぶりです。私を抱え上げてくださる準備はできたんですか?」


 本館で働いているセクレアが、以前の様に笑顔を浮かべ俺の腕に抱き付いてきた。


「違うっての」


「では患者としていらしたんですか? それでしたら私が全身くまなく診察して差し上げますよ」


 上目遣いでもどかしい指先で俺の体に触れる。

 胸元で俺の腕を挟み、抱き付くというよりも俺の腕を自分の全身に押し付けている。


「今すぐ旦那様から離れろ」


「なんで離れないといけないんですか、旦那様ってもしかしてロックス様のお嫁さんですか? でも確かロックス様って独身ですよね、なのに旦那様とか何様のつもりなんでしょうか?」


 あからさまな挑発にサラは刀を抜き、剣先をセクレアに向ける。


「お前も剣を抜け、今すぐに叩き切ってくれる」


「ロックス様この人怖いです」


「二人とも喧嘩は余所で好きにやってくれ、俺はオルクス先生を尋ねてきたんだ」


「そうなんですか。それならこちらにどうぞ」


 セクレアはそう言うとパッと手を離し、本館の奥に向かって歩き出した。

 喧嘩を売っていたサラの刀は目的もなくうろつき、鞘の中に戻った。

 外の盛況ぶりを見て知ってはいたが、儲かっているらしく内装は綺麗になっていた。

 綺麗になった通路を渡ると院長室とプレートがかかった部屋の前に案内された。


「中に居ますのでどうぞ」


 案内を終えたセクレアはサラに舌を軽く出し、そのまま待合室に戻って行った。

 その一連の動作をサラは殺意の籠った目で見送った。


「フィルはあいつがムカつかなかったのか?」


「だってあの子は王様に興味はないでしょ? そんなのに嫉妬するほどあたしは若くないからね」


 サラの問いにフィルはいつも通り間延びした話し方で応える。

 流石と言うかなんというか、フィルはセクレアがああいう風にしかコミュニケーションができないことをわかっているらしい。


「話が終わったら中に入るぞ」


 重厚な木製の扉を開ける。

 中には落ち着いた色合いの備品が並び、一番奥の机にはオルクス先生が座り書類を書いていた。


「これはこれは国王殿、こんな街はずれの医者に何の御用でしょうか?」


「だからそれはやめてくれ」


 芝居がかった丁寧な言葉遣いに背中がむずがゆくなってくる。


「ここに来た理由なんだけど、吸血鬼事件の被害者のカルテってあるか?」


「あるよ。お前が来るだろうと思って、そこの棚に纏めてるから読むなり持ってくなりしてくれ」


「ありがとう」


 三人で中を改めるとここに診察に来たのはニ十三人、さっき見てきた貴族の他にも平民も結構やられているらしい。

 診察の結果として噛み傷のみで他に外傷はなし。

 噛まれたのみで他に感染症の疑いも無ければ、血を吸われた形跡も無し。


「先生はこの事件をどう見る?」


「何もわからんよ。ワシが見てるのは事件じゃなくて患者だけだ。だからそこに書いてあることが全てだ」


「つまり俺の仕事を手伝うつもりは無いってわけか」


 オルクス先生は確かにそうだろうな。

 苦しんでいる人を助けるってのが無ければ、貴族連中だけを相手にしているはずだしな。


「旦那様、最初のカルテに書かれている住所がどれも同じ地区です」


「本当だな。それで段々と行動範囲を広げてるな」


 それに被害のあった場所は、確か盗賊連中の通路が近いな。

 移動は地下を通って夜に姿を隠してるってことか。


「アリルドもこの資料見たんだよな?」


「ああ、あいつも今のお前さんと同じ顔をして出て行ったよ」


 やっぱり全部知ってたのか。

 盗賊達の仕業ってことはないか。

 あいつらがやったなら、アリルドが隠す必要はない。

 それなら盗賊以外の誰かがあそこを使ってるってことか。


「先生助かった。ヒントはつかめたよ」


「本当に王様がいるよ!」


「お久しぶりです国王」


 ノックもなしに入ってきたのはレルラとシルだった。

 レルラは何のためらいもなく俺に抱き付き、シルは丁寧に頭を下げた。

 ルリーラと違い白髪なので痛い衝撃はないが、反対に幸せな衝撃が二つある。


「久しぶりだな、二人とも。レルラは危ないから突進はやめような」


「ご主人ってやっぱりそういう子が好み?」


 レルラに離れるように優しく諭すと、なぜかフィルが殺意を俺に向けてくる。

 さっきセクレアの時は大人の対応だったのになんで?

 本来一緒に怒るはずのサラまでフィルの殺気に少し引いている。


「フィル、何をそんなに怒ってるんだ?」


「怒ってないよ、周りを見ているとその子みたいな純粋な子が多いことに気がついただけ」


 相変わらず間延びした話し方だが、明らかに怒っている。

 レルラもその殺気に当てられたのか、俺から距離を取った。


「ご主人はそういうタイプが好きなのかな?」


「えー……、そんなことは無いと思うけど……」


「お嬢ちゃん、唐変木にそんな遠回しな言い方は意味ないよ」


「わかってますけど……、あたしも少しくらい言ってやりたいので」


 オルクス先生の言葉にフィルの殺気が収まりようやく空気が軽くなった。

 さっきの大丈夫で今回は怒るとは、女心はやっぱりわかりにくいな……。


「それでお前達はどこか行く予定があるんだろ。さっさと出て行け、これ以上ここに居られると病院が壊されかねん」


 オルクス先生に追い出され、俺達は盗賊がアジトにしている地下施設へ向かう。

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