鬼ごっこ その四
二対二の対決になったのはいいけど、二人はどこに居るんだ?
屋根に上がり周囲を探ってみても他の二人は動いている様子はない。
すでにルリーラがこっちの仲間になっていると思って動いているのか。
そうなると俺がルリーラを抱えて町を走り回っても罠だと見破られて先回りされる。
それにルリーラを抱えて逃げるとなると俺の体力も心配だ。
かといって向こうが暴れてくれるわけもないしな。
「いい加減飽きてきたんだけどこれからどうするの?」
ルリーラはじっとしているのは限界の様で今にも暴れたそうにしている。
そうだな、こうなったら盛大に暴れてもらおうか。
「ルリーラ暴れたりないだろ?」
「そりゃあね、ミールの作戦だったらもう少し暴れる予定だったし」
「そうだよな。それなら俺と思いっきり暴れてみるか」
これなら二人を誘い出せるはずだ。
俺はルリーラと話合い、街になるべく被害を出さないように盛大に訓練することにした。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「怪我しても怒らないでね」
開幕の合図はルリーラだ。
氷の壁を作りそれを盛大にルリーラが破壊する。
それなりの強度と厚さを持たせているにもかかわらず、氷の壁は大きな音を立て破壊された。
そして当然壁を壊したくらいでルリーラの攻撃が止まるはずはない。
砕け空中に散った氷の破片を殴り飛び道具にする。
辛うじてそれを避けながら路地裏から大通りに出る。
「水よ、数多の槍よ、敵を穿て、ウォーターランス」
路地裏から出てきた直後を狙い水の槍を放つが、いともたやすく全ての槍を掴み取る。
せめて一発位当たれよ。
この訓練は市街に大きな被害を与えるのは禁止、俺達以外に被害を加えるのは禁止。
それ以外は本気でやるというルールでやっている。
魔法や受けが主体の俺に有利なルールなはずなのにルリーラは俺を圧倒している。
「水よ、剣よ――」
「詠唱が遅いよ!」
思いっきり振りぬかれるルリーラの拳を盾で反らす。
体勢を崩したはずのルリーラは体を流れに任せ、手で体を支え足で追撃してくる。
その足を俺は掴んだはずだったのに、なぜか俺の体はバランスを崩す。
ルリーラは手の様に繊細に足を使い俺の体勢を崩し、足で投げ技を使用する。
「くはっ……」
背中を強く打つが、まだ捕まるわけにはいかない。
魔法で水を撃ち、ルリーラの目を狙う。
視界が奪われることを嫌ったルリーラは追撃を止め距離を取る。
「おい、凄い喧嘩だぞ来てみろよ」
よし人が集まり出して来たな。
このまま続ければいずれミール達も現れるだろう。
「クォルテから仕掛けてこないの? 私にビビってるの?」
ルリーラの挑発に周りの連中も同調し、俺に向かって行ってやれ、根性無しなどとヤジを飛ばしてくる。
ベルタだと知らない連中が無理を言いやがる。
相手はウォルクスハルクの大会優勝者だぞ?
しかし俺も男なので、根性無と言われて黙っている訳にはいかない。
領域を展開し距離を詰める。
ルリーラが領域に接触した直後に俺は動き出す。
何の捻りも無い右の一撃を当然ルリーラは避ける。
突き出した右手が障害になる様に動き、攻撃の姿勢を取る。
「私の勝ち――」
「まだ早いだろ」
それでもその動きが読めていれば次の手はある。
勢いをつけるためにルリーラが後方に重心を移動させるその瞬間、俺は足に力を込め肩からルリーラにぶつかる。
威力はそこまでないが、ぶつかった衝撃でルリーラは後ろに倒れる。
「炎よ、鎖よ、彼の者を捕縛せよ、フレイムチェーン」
「後ろの前から三番目!」
呪文と同時にルリーラの指示が聞こえる。
その声に反応し、魔法を確認しアルシェの元に走り出す。
「えっ?」
アルシェが動きに驚いた時には、俺はアルシェの腕を掴み身動きを封じる。
「これでアルシェも捕まえたな」
「まだですよ。私の野望は止まりません!」
アルシェが一気に魔法を放つと空高く火柱が立ち上がり、俺とアルシェを囲んだ。
やばい捕まった。
「クォルテ上!」
ミールが降ってくるのかと空を見上げるとものすごい量の水が火の壁の中に注がれる。
大量の水は一気に俺の顔まで覆い、反射的に俺はアルシェの拘束を解いてしまう。
「アルシェ先輩閉じます」
四方を囲む壁はそのまま蓋をするように狭まっていく。
全てが閉まり切る前にミールが壁の内側に入り込んだ。
「さあ、これで逃げ場はないですよ。お姉ちゃんには悪いですけどね」
「クォルテさん、私達と気持ちいいことしましょう」
立場が逆だといいたくなるほどにいやらしい手つきと表情で俺に近寄ってくる。
四方は火の壁、中は身動きを封じるための水、目の前には変態が二人。
俺一人なら絶望的な状況だ。
「いいのか? 俺が欲望のままにお前達に寄って行ったらアルシェのこの壁も消えて周囲に見られるんじゃないか?」
「もうその手には乗りません、この壁は二重構造です。火の壁の間に私の壁もありますから。魔法が解けても消えたりしません」
もう準備は万全の様で、同じ誘いに乗ることはなかった。
勝利を確信した二人は一歩ずつ水をかき分け俺の側に近寄ってくる。
俺はついに熱くない火の壁に追い込まれた。
「さあ、これを飲んで素直になりましょうね」
媚薬の蓋を開け、俺の顔に瓶を近づけてくる。
「これで勝ったと思ってるのか?」
俺のいる側面が激しい音を立て壊れた。