鬼ごっこ その二
ミュージアムの外に出たのはいいが、これからどうしたらいいんだ?
家に戻ってもいいけど、その場合敵が増える危険性がある。
しかしいつまでも街の中をうろついている訳にもいかない。
そうなると残された手段は媚薬を奪い取り廃棄するしかないか。
人通りの多い広場で全方位が確認できる位置に座りこれからの事を考える。
まず奪うのはいいけど媚薬を誰が持っているかだ。
一番安全なのはルリーラだな。
身体能力で俺が勝てないし反射神経もいいためまず奪われない。
逆に一番低いのはアルシェだろうな。
魔法で保護しておけば安全だけど、相手が俺となれば魔法の保護を突破すると考えるだろう。
一番わからないのはミールだな。
全部の能力が俺よりも低いからわざわざ持たせる可能性は低いが、だからこそ持っている可能性がある。
「クォルテ見っけ」
ルリーラの声に周囲を見渡すがその姿はどこにもない。
咄嗟に領域を展開すると反応があったのは真上だった。
気づいた時には逃げられる距離ではない。
俺に向かって伸ばされるルリーラの手を掴み落下の力を使い地面に組み伏せる。
「水よ、鎖よ、この者の動きを封じよ、ウォーターチェーン」
水の鎖はルリーラの体を縛り地面に押さえつける。
これで後はルリーラを調べて媚薬が見つかれば万事解決だ。
「クォルテもまだ甘いね」
ルリーラは捕らえられてなおも問題なさそうな顔をしている。
寧ろ勝ち誇った様な顔を見せている。
いや、これは時間稼ぎだ。
そう思いルリーラの懐に手を差し入れる。
「いやっ、やめて! 触らないで!」
「はぁ!?」
突然の女の子らしい声に呆気に取られてしまう。
すると周囲に居た人達が一斉にこちらを見る。
「強姦だ!」
「いや、違いますから! 俺達は仲間で」
誰かがそう叫ぶと強姦魔と呼ばれている俺の言葉が届くはずもない。
犯罪だ。女の敵だと散々な言葉を浴びせられ、挙句の果てに俺を捕まえようと一斉に人が襲い掛かってくる。
ここで応戦しても更に自体は悪化してしまう。
ルリーラを連れて逃げるわけにもいかず、俺はやむを得ずその場から逃げ出した。
追ってくる人を巻きながらなんとか路地裏まで逃げ込んだ。
「あの作戦は間違いなくミールだな。あいつら俺が本当に犯罪者にされたらどうするつもりなんだ?」
「その時はそういプレイだったと言い訳してあげますから安心してください」
「ミールよくここがわかったな」
なるべく周囲を警戒しながらここまで逃げてきたはずなのに、なんで俺の居場所がバレているんだ?
「ミュージアムでは裏をかかれましたからね。今度は兄さんならどう動くかを考えました」
それだけなはずはない。
ルリーラの強襲はそれでもいいが、見ず知らずの場所でそんなことができるはずはない。
何か俺の場所を確認する何かがあるはずだ。
「兄さんは犯罪者と言われて追いかけれれているんです。だから無意識にでも人気の少ない場所を逃げていました。それならそのままどこにたどり着くかはわかりますよね」
「なるほどここまで誘導されていたわけか」
だとするとなんでミールは動かないんだ?
ルリーラは別としてアルシェはすぐに動けるはずなのに一向に動く気配がない。
逃げ道は三つで向こうの人数と同じ。
ルリーラが来るまでの時間稼ぎってことか。
「折角こんなところに誘い出したのにそんな悠長にしてていいのか? すぐに逃げちまうぞ」
「逃げられるならどうぞ」
「逃がさないけどね」
ルリーラがすぐ背後にいた事は領域のおかげで気づいていた。
さっきと同じように腕を掴みルリーラのバランスを崩す。
「二回も同じ手はくらわないよ」
ルリーラは体勢が崩れる前にジャンプし回転を加える。
俺の腕はルリーラの回転と共にねじられ、逆に俺の体が地面に倒れ込んでしまう。
「これで終わりだよね。流石にこの状態から逃げる手段はないでしょ」
「水よ、龍よ――」
「お姉ちゃん詠唱させちゃダメ」
その声に咄嗟に反応するルリーラの重心はわずかに前に偏る。
そのままルリーラの背中をエビ反りになりながら蹴飛ばす。
しかしそれでもルリーラの拘束は解けない。
「ビックリしたけどこのくらいなら……、えっ?」
体勢を立て直そうとしているルリーラに対し揺さぶりをかける。
前後左右に体を揺らしルリーラの重心を安定させないように暴れる。
ミールもさっきの詠唱を確認しこちらに向かっている。
今がここから逃げ出す最後のチャンスだ。
「水よ、鎖よ、最愛の者を縛れ、ウォーターチェーン」
ミールの魔法が届く瞬間に辛うじて俺はルリーラの拘束から抜け出すことができ、水の鎖はルリーラに命中した。
「また捕まった!」
またもやぐるぐる巻きになったルリーラを置いて俺はルリーラが来た道を走っていく。
「クォルテさん逃がしませんよ」
進行方向に現れたのは巨大な火の壁。
飛び越えるとか火を消すとか俺みたいな凡人には不可能な程に圧倒的な壁だった。
「さあ、私達と一緒に気持ちいいことしましょう」
なんかアルシェがもうダメな感じになってる。
鼻息が荒いし熱がありそうなほどに赤くなってるし目が本気だ。
捕まったら俺は死ぬんじゃなかろうか……。
「水よ、杭よ、我が足に宿り壁を超える力となれ、ウォータースパイク」
靴の裏に水の杭を作り、民家の壁を一気に登っていく。
狭い所で挟み撃ちにされるのは最悪だ。
ひとまず、身を隠して一人ずつ捕獲して媚薬を奪い取ろう。