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鬼ごっこ その一

「用事を思い出したから俺は先にか――」


 俺に動きにいち早く反応したのはやっぱりルリーラだった。

 俺の動きを先読みし逃げる方向を予測し俺の腕を掴みそのまま羽交い絞め(はがいじめ)にし俺の体から自由を奪う。


「クォルテはこの距離で私から逃げられると思ってるの?」


「クォルテさん、大丈夫ですから安心してくださいね」


 アルシェの顔は普段から考えられない様な獲物を狙う目をしていた。


「兄さん大人しくしていてくださいね。すぐ終わりますから、天井の染みを数えていればすぐに終わりますから」


「天井が高すぎるんだけど……」


比喩(ひゆ)ですよ比喩。気持ちがいいらしいですから安心して私達に身を任せてください」


 これは本当に拙い……。

 媚薬(びやく)なんて俺にとってみれば毒物よりも拙い、ましてログ・ミュルダの媚薬なんて理性でどうにかなるものでもない。

 飲んだら最悪の場合周囲の女性全員を襲いかねない。

 街中で強姦(ごうかん)する王なんて目も当てられない。


 しかもよりによってこの三人のせいで状況も最悪だ。

 今までの積もりに積もった欲情を優先しているせいで先が見えていない。

 

「なあ、ここでなんてお前らも嫌じゃないのか?」


「何が言いたいのでしょうか?」


 俺にはぐらかされないように会話はミールで捕縛はルリーラ、魔法を使おうとすればアルシェが動くつもりなのか。

 どれだけ俺に媚薬を飲ませたいのか……。


「こんな誰が来るかわからない場所でお前達はいいのか? 俺が媚薬でおかしくなったらお前らの服は無くなって裸だ、その途中で他の人が来たらお前達の裸が見られるってことだぞ」


 少なくともここは拙い。

 飲まされたら外にまで確実に被害が出てしまう。

 結果はどうあれどこかの部屋に逃げ込まないといけない。


「それもそうですね。場所を変えましょうか」


 ここから移動することは決定した。

 これで俺がここから逃げるための時間は稼げる。


「さっきの黒い部屋に運びましょうか。アルシェ先輩の魔法で誰も入って来れないようにすれば平気ですからね」


「なっ……!?」


「どうしましたか? 宿まで連れていかれると思っていましたか? そんな時間を兄さんにはあげません」


「この野郎……」


 それでいい。

 ミールならそう提案すると思っていた。

 俺に考える時間を与えないために近くにあって邪魔が入らない場所を提案する。

 あの部屋なら明かりもなく、狭いため逃げようとしてもルリーラがすぐに取り押さえられる理想的な場所だと思ってくれる。


「さあ行きましょうか。そんなに周囲を探しても助かる道はありませんよ?」


「知ってるだろ、俺は諦めが悪いぞ」


「今回の布陣から逃げる(すべ)があるんですか?」


「水よ、周囲を覆え、ミスト!」


 三人の意表を突くべく範囲も威力関係なしに魔法を打ってみる。

 魔法の(きり)が周囲を覆い魔法の発動で一瞬だが、ルリーラの拘束も緩む。

 その一瞬でルリーラの拘束から抜け出す。


 これで逃げれれば御の字だが、正面の入り口の方に意識が向いているはずだ。

 それなら逃げ道はさっきの部屋にしかない。

 俺は直前に確認した部屋に飛び込む。

 何があるかわからないが、ミュルダが使った抜け道に飛び込む。


 ガス臭い深い穴を落ち着地したのは柔らかいマットの上だった。

 落ちた長さからしてここは地下か。

 広さはさっきの部屋と同じくらいで、何か仕掛けはありそうだが調べている余裕もない。

 道は一本だけだ、この道を進んで行けば外に出られるはず。


 そこで何かに引っかかった。

 あの車いすに乗ったミュルダがこんなわかりやすい抜け道を作るか?

 追いかけられれば即捕まるようなものだ。

 おそらくあそこは外に繋がっていない。


「水よ、数多(あまた)(へび)よ、この部屋の隠された道を探せ、アクアスネークパーティー」


 十数体の水の蛇を作りくまなく部屋を探させる。


「クォルテはこの穴から逃げたみたい」


 穴の上からはルリーラの声が聞こえた。

 探しきれていないうちに穴から逃げようとしているのがバレてしまった。

 本当ならすぐに逃げて時間を稼ぎたかったのにな……。

 仕方ない、こうなったら眠らせてその間に媚薬を奪って逃げよう。


「傷つけるような罠は無いと思いますが、眠らせるくらいはすると思います気をつけてください」


 ミールめ、そんな所に気が付かなくてもいいのに……。

 その時、水の蛇の一体が抜け道を発見した。


「ここから逃げたみたいですね」


 上から降ってきた三人はマットの上から降り周囲を探す。


「こっちじゃないの?」


「お姉ちゃん、それは早計(そうけい)です。相手は兄さんですから、そこが外に出れる道でも何かしらの策は講じているはずです」


 ミールはそう言って少しの間考えを巡らせる。


「ミール、このマット少し動かした形跡があるよ」


「持ち上げてみてください」


 マットが持ち上がり三人は出口を発見したようだ。

 早くその道を通っていけ。


「やっぱり抜け道がありましたね。急いで追いかけましょう」


 三人が抜け道の階段を下りていく足音を聞き、足音が聞こえなくなってから俺はマットを突き破り外に出る。

 ようやく一息付けたが、落ち着いていられる状況じゃない。

 マットの下にある道は正解じゃない。

 正解は最初から見えているこの道だ。


 水の蛇を一体だけ進ませてみるとこの道から外に出ることができる。

 元々地下のこの空間から更に下に下りるなんて外への道だと考えればありえない。

 この道が隠されていること自体がミュルダの作戦だった。

 自分が周囲にどう思われているかを理解したうえでこの作戦を考えていたのだろう。


 長居は無用だな。

 俺は最初からあった道を走りミュージアムの外に逃げだした。

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