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決戦への誘い

 俺の誕生会をした翌日、国を出る準備をしていた。

 そろそろ旅で見つけた行事や、観光地として使えそうだと思いまとめた資料を届けるために、アリルドに帰ろうと思っていた。


「誰でしょうか。部屋に入る時にはノックが必要ですが」


 突然の来訪者に背中を向けたまま問いかける。

 だいぶ領域の使い方にも慣れてきたため、人が入ってきたくらいは感知できるようになった。


「無断で入ったことは謝るが、こちらも急ぎなのだよ。クォルテ・ロックス」


 久しぶりに聞いた声に後ろを振り返ると、そこには人間とは違う姿の男が立っていた。


「ヴォール様? 何か御用ですか?」


 流石に顔を向けないと失礼に当たるかもれしないと向きなおる。


「もちろんだ。用があるから来たのだ。ルリーラ達は元気か?」

「ええ、昨日は俺の誕生日だったので盛り上がったばかりです」

「そうなのかおめでとう、水の神として嬉しく思う」

「それでご用件は?」


 白々しい物言いに何か言ってやりたいが、今はとにかく用事を先に済ませてしまいたい。


「先日、お前達が捕縛したヴェル・ドレッドが色々と話してくれてな。ハベル・クロアの居所がわかったのだ」


 神相手にだんまりは無理だろうな。俺達が使えないような魔法も使えるんだしな。

 そうなると今俺の元に来た理由は一つだけしかないか。


「それで俺達に戦へ参加しろと言いに来たわけですか?」

「そうだ。場所は当初から疑っていた風の国イーリュス。そこで実験をして――」

「断ります。俺達は俺達で旅をしているので戦に関わるつもりはありません」

「我が直々に来ているのにか?」


 俺の言葉に不満そうな顔を浮かべるが、俺の知ったことではない。


「それは神に対する冒涜と考えてもいいのか?」

「ヴォール様の姿に化けているあんたも十分に冒涜していると思うぞ」


 バレていると思っていなかったのか、水の神の姿を模した誰かは俺の言葉に驚いた。

 確かに見た目と声に話し方全てがそっくりではあった。

 でも違う。ヴォール様が急ぎの時にドアから入ってくることはない。それに領域にはしっかりと何かの魔法で姿を覆っている姿がわかっている。


「いつから気が付いていたんだ?」

「最初から。それであんたはどちら様? ドレッドやクロアの事を知っているところを見ると、それなりにヴォールの上層部の人間だよな」


 全てがバレていると悟った何者かは水の神の真似を止め、本当の姿をさらけ出した。

 明るい茶髪の髪と髭、皺の入った顔から四十代くらいの男が姿を現す。


 あれ、この人どこかで見た覚えがあるな。


「騙して申し訳ない。私はナインルーク・ハールクロイツ。水の国ヴォールで宰相(さいしょう)をしている」


 そうだ、水の国の宰相だ。結局水の神としか会ったことが無かったのでまともに会話したことが無いから気が付かなかった。


「改めてお願いする。我らと一緒に戦ってはくれないか? 君達の強さは立派な戦力になるのだ。よろしく頼む」

「ナインルークやめておけ。こいつにはこいつのやることがある。まして神との戦など無理強いできるはずもない」


 断ろうとした矢先、俺の背後から声が聞こえた。

 領域に突然現れた反応に俺は驚く。


「ヴェール様……」


 本物の水の神が本当に突然現れた。


「久しいなクォルテ。お前達が捕縛してくれた男のおかげで助かっている」


 戦をするというのは本当らしい。

 わざわざここまで来たということは俺達は強制参加させられるのだろうか。

 そんなのはごめんだ。平気で人体実験をする連中と戦うなんて他の連中にしてほしくない。


「安心しろ。我はただナインルークを迎えに来たのだ。先ほど言ったように無理強いさせるつもりは毛頭無い。しかし現状は教えておかなければなるまい」

「ありがとうございます」


 戦火の状況がわかれば、そこに近づかないように立ち回れば巻き込まれないで済む。

 神の出現に口を紡ぐナインルークも俺の不参加に異論は無いようで、不貞腐れて座ってしまった。


「今現在イーリュスを地、火、水の子供達が取り囲んでいる状況だ。まもなく一斉に進軍を始める。その際に戦場となる可能性があるのは、イーリュスを中心にイーリュスの傘下になっている隣国カフナは確実に巻き込まれる。規模が大きくなればカルラギークまで広がる可能性があるな」


「それはまた広い範囲になりますね」


 近いと言えば近いが、カルラギークとイーリュスは国を二つは跨いでいる。そこまで広がる可能性があるとなるととんでもない戦いになる。


「それほど神の一撃が強力ということだ。流石に三対一ではそこまでの規模にはならない」


 そう考えると俺は結構危ない橋を渡ったことになるな。水の神にも地の神にも喧嘩を売りかけたし。よく逃げるなんて楽観的に考えていたものだ。


「これからも旅を続けるならその周辺には近づかないことだ」

「わかりましたありがとうございます」


 そうなるとアリルドに帰る時は遠回りをして帰った方がいいな。


「では我らは戦の準備があるので帰る。ナインルーク帰るぞ掴まれ」

「はい」


 そして一瞬でその場から消えた二人を見送る。

 ハールクロイツさんは見た目に似合わず少し子供ぽかったな。

 帰る瞬間に俺を不満げに見ていたし。


「そうだ。みんなにも教えておかないとな。帰り道の調整もしないといけない」


 それから事情を説明し、当初よりも大きく迂回する形でのルートを考え俺達はリコッタを出発した。

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