七人の結託 その八
大会の結果は残念ながら四位で表彰台に立つことはできず、勝つつもりだった三人は少しだけ不服そうに俺の元に戻ってきた。
「お疲れ、四位でも十分な成果だと思うぞ」
「結果は確かに残念は残念なんですが、正直そこまで気にしてはいないんです」
ミールはそう言っているがそれなら何が不服だったんだろうか。
「あの後大変だったんだよ……。アルシェがクォルテに向かって色々言ったのを勘違いした人が多くて……、告白してくる人がたくさんいたの……」
ベルタを疲労させるほどの人数が押しかけたらしい。
確かにあの言葉は名指ししていないし、自分に向けて言われたと勘違いする人が居てもおかしくはないよな。
「ルリーラちゃんとミールさんが、頑張って断ってくれたのですが、それでも諦めてくれなくて……」
確かにアルシェに断るのは難しいだろうな。基本弱気だし、強く言うのは苦手だろうし。
その代わりに二人がアルシェを守りながら来たからこんなに遅かったわけか。
「それとムカつくのが、告白されるのがアルシェ先輩だけなことです。私もお姉ちゃんも居たのにこっちには一切なし。全員断るつもりですが、誰も来ないのはそれはそれで苛立ちます」
「それは残念だったな」
見た目だけで言えばアルシェが一番モテるのは理解できる。
綺麗だがどこか幼さがあり、スタイル抜群に気弱そうな雰囲気なのに、さっきの様に強い所も見せた。
その上、両サイドには子供の様な二人もいて余計大人の様に見えてしまえば、そりゃあ人気も出るだろう。
「クォルテは今この中だと見た目で一番はアルシェだしなとか思ったでしょ」
「思ってないぞ。みんな可愛いのに不思議なこともあるもんだよな。って思ってた」
「兄さん、それならばなぜ目を反らしているんですか? 本当の事を言っているならしっかり私とお姉ちゃんの目を見て言ってください」
「すまん」
二人の視線に対して俺は素直に謝った。
「本当ですか? 私が一番可愛いと思ってくれていますか?」
「え、まあ、見た目だけなら二人よりも大人っぽいしな」
俺に褒められて余程嬉しかったのか、アルシェはいきなり俺に顔を近づけてきた。
興奮で紅潮したその顔が少し色っぽく感じてしまう。
「帰ったらあのケーキを作りますので是非食べてくださいね。あっ、そう言えば作る食材買い忘れていました。買いに行ってきます」
「アルシェ先輩は兄さんとお姉ちゃんと一緒に帰ってください。食材は私が買ってきますから」
「でもミールさんにお願いするなんて」
すぐに走り出しそうになるアルシェの腕をミールが掴むが、アルシェも買い物は奴隷の仕事と思っているのか食い下がる。
「ミールに任せておけ、アルシェ一人だと今日は買い物できないだろ。また男どもに囲まれたらどうするつもりだ?」
「そうですよね。わかりました」
頭で考えた結果、どこかに売りに出されたのかアルシェは意気消沈し俺の手を握った。
「それじゃあ、俺達は先に帰ってるから買い物は頼んだぞ」
「任されました」
ミールはそのまま喧騒の中に消えて行った。
「私も十分に可愛いと思うんだけどな」
「ルリーラも可愛いから安心しろ。それはそれとして晩ご飯はどうする? その辺で人数分の買って帰るか?」
「大丈夫です。出来合いの物になってしまいますが、準備はしていますので」
全員があのケーキのために準備をしていたなら誰も準備をしている暇はないんじゃないかと思ったがそうではないらしい。
予選と本選に向けたケーキの試作に加えてご飯まで作るとか、俺には到底無理なことだ。
「お腹空いたから早く帰ろう。あんなに美味しそうなお菓子の中に居たのに食べれないとか地獄だったよ」
ルリーラに急かされるように宿に着き、部屋の扉を開ける。
『お誕生日おめでとう』
扉を開けると激しく鳴り響く複数の音が、俺達を迎えた。
色とりどりのテープと紙吹雪が俺に向かって飛んでくる。
「クォルテ誕生日おめでとう」
「クォルテさんおめでとうございます」
どこに隠し持っていたのか、ルリーラとアルシェも俺に向けてパンッとクラッカーを鳴らす。
突然の出来事に俺はただ固まることしかできない。
部屋の中央にはこの日のために準備されていたらしい豪華な食事が並んでいる。
その食事達の中央には本選で作られていたケーキも鎮座している。
「あのケーキは後で作るって言ってなかったか?」
「最初に完成したものはクォルテさんに食べてもらいたかったんです」
「朝は大変だったね。クォルテにバレないようにしながら急いで準備したし」
「兄さん、どうぞ座ってください。今日の主役は兄さんですよ」
ミールに勧められ言われるがまま席に着く。
ルリーラとアルシェが俺を挟むように座り、他の五人も円を描くように座る。
「今日は俺の誕生日だったっけか……」
家を出てから一度も気にしたことのない誕生日。
祝う意味もないし奴隷という生まれのせいで誕生日が無いルリーラに悲しい思いをさせないために誕生日は教えていなかったがどうやらミールが教えていたらしい。
「酷いよね、クォルテ私にも教えてなかったんだよ」
「ルリーラの場合旦那様の誕生日を知っていても祝っていないだろう」
「そうかもしれないけど、おめでとう位は言うよ」
「兄さんは昔から誕生日とか気にしない人でしたからね」
「やっぱりそうなんですね。クォルテさんはそんな感じですし」
「アルシェが自分は王様を知っていますけどって感じになってるね」
「そんなつもりはないですから」
いつになく騒がしい食卓はみんなが笑顔だった。
好き勝手に食べて好き勝手に話し好き勝手に飲む。
そんな楽しい光景が目の前で広がっている。
「クォルテさん。どうぞ、食べてください。私達全員からの感謝を込めて作りました」
クラウン・ディアモナークが俺の前に置かれる。
フォークで押し切り、口に運ぶ。
シロップのしみ込んだ生地はほんのりと甘く、口当たりが軽い。それでいて俺の為なのか甘すぎない。
「美味い。これが四位とかあの王様も見る目が無いよな」
俺の言葉にみんなが笑う。