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七人の結託 その七

 予選の全てが終わり八組の決勝進出者が選ばれた。

 決勝のお題は『美味い菓子』ただそれだけらしい。

 見た目などももちろん審査対象だが、何よりも味。味が一番美味いものが優勝で、同格だと判断され始めて見た目などの味以外の部分が評価されるらしい。


「美味い菓子って曖昧にも程があるんじゃないのか?」

「理由は技術の粋を集めても枠にとらわれていては真の美味さを表現できないから。ってことらしいよ」

「そういう理由なら仕方ないな」


 チョコとかケーキなんてお題では、確かにチョコの中で美味いケーキの中で美味いになってしまうからな。

 それは確かにこの国の理念に反するのかもしれない。


「決勝で作る菓子はまた例によって俺には教えてくれないんだろ?」

「固定概念なく三人の調理を見て欲しいかな、それでご主人がどう感じるか私が知りたい」


 調理を見たって素人の俺には何もわからないと思う。

 研究者の研究を他人が見ても何をやっているのかわからないように、菓子作りを知らない俺が見ても理解はできない。

 それでも仲間としてその頑張りだけは見たい。


「型を取り出したってことはケーキってことになるのか? ルリーラが混ぜてるのも生地っぽいし」

「私からは何も言わないよ。ご主人が何を作っているのかを見て欲しいし」


 フィルは俺に教えるつもりは一切ないらしい。他の三人も同じらしくただルリーラ達の調理を見つめている。

 何を作っているのか、わかるのはルリーラが生地を作っている、ミールは果物を瓶に詰めている、アルシェはチョコを作っている?

 三人の作業を見ていてわかるのは、チョコレートのケーキを作っている。それだけだ。しかしそうなるとあの型の存在がわからない。

 普通のケーキ作りに使う型とは違うらしく、上部がギザギザの形になっている。あの型で作る物はなんだ?


「ご主人結構本気で考えてるね」

「そりゃあな、フィルがどう感じるか知りたいって言ったんだろ。それはつまりあの菓子は俺のために作られているってことだ。それなら真剣に考えもするさ」

「流石ご主人だね。それじゃあもう邪魔はしないから考えてね」


 そうこうしている間にも調理は続いていく。

 型に生地を流し入れ、オーブンに入れていく。

 やっぱりケーキなのはわかる。しかしあまりに普通でお題に合っているのかの判断ができない。

 決勝まで来ておいてお題を無視している? そんなことする理由なんてないよな。


 いくら考えてもわからないまま生地が焼けた。

 遠目で見てもわかるくらいに黄金色に輝いている生地に周りから感嘆の声が上がる。

 そしてあろうことかアルシェはその生地を抉り取り始める。


「あれにも意味はあるってことだよな?」

「秘密だよ」


 そう言われる気はしていたが、意味はあるのだろう。

 そして開けた穴にミールから受け取った果物を嵌め込んだ。

 妙に光沢がある果実を見てあれがシロップ漬けなのだと理解した。


「あれは王冠だよな。それで俺のためか」


 俺はアリルド国の国王だ。その俺のために作られたケーキってことなのか。

 シロップ漬けも瓶の数は七個。それを王冠に嵌めている。

 あのケーキは俺とみんなを模したケーキ。


「あの果物は全員で好きなのを選んだのか?」

「そうだよ。みんなが好きな果物を選んだの。それをアルシェとミールがバランスを取ってくれてあのケーキを作ってくれたんだ」

「なんだか恥ずかしいな。俺のケーキってことか」


 七人で何をしているのかと思えば俺のためにケーキを作っていた。嬉しくて口元が緩んでしまう。

 口元を隠しながら調理の続きを見ると、果物を嵌め込み終わった後にシロップとチョコを薄く塗ると、光沢の他にうっすらと陰影が浮かび上がる。


「ケーキってあそこまで綺麗に出来上がるんだな」


 完成したケーキは試食の台に置かれ、他の参加者が出来上がるのを待っている。

 そして全員の調理が終わり、参加者から一言ずつ意気込みが発表されていく。

 一人また一人と話が終わりルリーラ達の番になり、アルシェが小型の拡声器を受け取る。


「このケーキは私達の大事な人に送るために作りました。いつも私達の事を考えて守ってくれる親愛なる私達の君主にこのケーキを送ります。名前はクラウン・ディアモナーク。食べていただけますか?」


 三人が俺の方に向いてそう口にした。

 目頭が熱くなる、悲しくないのに涙があふれてくる。

 嬉しくて嬉しくて仕方ないのに、涙が止まらない。

 俺はこんなに涙脆かっただろうか……。


「パパ泣いてるけどどうしたの?」

「王様は嬉しいんだって、みんながしてくれたことが嬉しいんだってさ。やったね」

「僕達からのサプライズは受け取ってもらえたようでよかった」

「三人には聞こえないけど私からの贈り物食べてくれるよね?」


 そんなことは言葉にするまでもなく決まっている。


「もちろん、食べるに決まってるだろ」


 涙に震える声で俺はそう呟いた。

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