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七人の結託 その六

 何の説明もないまま延々と大会は盛り上がりを見せている。

 何やら知らない材料と知らない食材を混ぜ合わせ、今までにないらしい食品が生まれ、今まで実現できないと言われていたらしい調理方法を使い今までとは比べ物にならない程に精巧に作られるらしい食べ物。

 他の観客はそのよくわからない調理に大盛り上がりで熱狂しているが、俺には何一つわからない。更にいえば観客の盛り上がりに付いて行けない。


「ルリーラ達ってどこなんだ? ベルタとプリズマが居るなら目立つはずだけど」

「今は二組目で、ルリーラ達は次の次だね」


 何やら対戦表まであるあるらしく、フィルが見せてくれた。

 目が痛くなるほどの参加者の中にロックスチームとして参加しているらしい。

 その対戦表を見て知ったのはこれは予選らしく、全八回の予選をして決勝に進む八組を厳選、そこで作られた八品を国王が試食して順位を決めるらしい。

 よくある大会形式だが、やはり周りとの温度差を感じる……。

 火の国や地の国では参加者だったし事前に知っていたから、周りと同じく盛り上がれたが、今回はいきなり連れてこられてどうしたらいいのかわからない。


「ルリーラ達が出るまで席を外してもいいか?」

「ダメだよ。あたしが教えてあげるからちゃんと見てて」


 フィルに服を掴まれては逃げられず、俺は会場に目を向けた。


「二組目で注目なのはあのカルトって人。この国でも有名な菓子職人でスポンジを作らせたらリコッタ一って言われてる。今作ってるのもスポンジだね。それに合わせるのは何だと思う?」

「スポンジってケーキだろ? それなら普通に生クリームとかが普通なんじゃないのか?」

「そう思うけど違うの。合わせるのもスポンジ。スポンジだけでケーキを作ろうとしてるんだ」


 フィルがいう通り確かに生クリームっぽい食材もない。

 そう思った直後にスポンジを鍋にぶち込んだ。


「あいつスポンジを鍋に入れたぞ? あれは何をしてるんだ?」

「色から見るとイチゴのソースかな。もう一個のスポンジの色は真っ白だし、たぶんだけど作るのはイチゴのケーキになるのかな」


 真っ白いのが生クリームの代わり、今鍋から取り出したのがイチゴの代わりってことか。


「それだったら普通に美味い生クリームとイチゴで十分じゃないか? わざわざ変わり種で勝負しなくてもいいだろう」

「予選のテーマが意表を突くデザートだからね。全員が変わり種だよ」

「そんなテーマがあるのか」


 題目に合ったうえで美味い物を作るのか。なるほど、それなら確かに納得できるな。

 全てをスポンジで作っているのなら見た目も全てがしっかりと層に分かれ、滑らかな印象が強いケーキが角ばって見た目も面白くなる。


「カルトは今回の優勝候補だよ。後もう一人面白いのは、あの人」

「うわぁ……」


 そこには城が出来ていた。どうやって積んだのか、はたまたどうやって食べるのか見当もつかない。四メートルくらいありそうな城が鎮座していた。


「この国で建築士をしているトット。毎回造形は完璧なんだけど見た目重視で味があんまり美味しくないんだって」

「そこまで造形にこだわりがあると尊敬できるよ」

「ちなみに今の宿の建築士もあの人なんだって」


 納得だ。中も外もミルクに対してのこだわりが凄すぎる。

 どんな馬鹿かと思っていたがこんなバカだったとは……。

 それから何人が説明してもらう頃には俺も周りと同じくらいには楽しめるようになっていた。


「次がルリーラ達の出番か?」


 カルトが予選を突破し、三回目はクヤックというチョコ職人が予選突破した。

 そして四回戦目はルリーラ達の出番となった。


「あの三人は何を作るんだ?」

「スープを作るんだって。野菜たっぷりのやつ」

「……菓子として美味いのか?」


 野菜入りのスープって、菓子じゃないよな。奇をてらいすぎじゃないか?

 調理が始まると真っ先にルリーラが動き出す。

 あらかじめ決まっていたのか、他の参加者よりも早く食材を手に取り自分の持ち場に戻る。

 届けられた食材はアルシェとミールの手で調理されていく。

 持ち込まれた素材はどれも菓子作りに必要不可欠な物で、とてもスープが作れそうには見えない。


「不安そうだけど、大丈夫だよ。あたし達が全員味見してるし、アルシェの腕は知ってるでしょ?」


 フィルはそう言うが、どんなのが出てくるのか不安だ。

 アルシェの手元にあるのはチョコと小麦粉、ミールの手元にはミルクと調味料が少量、ルリーラは食材探しの最中。

 ミルクがスープでチョコと小麦粉が具になるのか? 普通にミルクチョコにしかならない気がするんだけど。


「今回要注意なのは誰なんだ?」


 まだまだ下処理が続きそうなので、他の優勝候補を見てみることにした。


「一番有名なのは、餡子の鉄人ピピ。餡子と餅を使ったダイフクっていうのが前回の大会では好評だったんだって」


 確かに今も餡子を作っている途中らしい、手際よく豆を潰している。


「それにしても大半が異様にデカいな」


 変わり種ってことでみんなが最初に目を付けるのは大きさなのだろう。印象に残りやすく、心得があれば作りやすい。ピピもすり鉢を五個も使う大作のようだ。


「アルシェの下処理が終わったみたいだよ」


 フィルに言われ、アルシェの手元を見るとそこにはスープの食材が出来上がっていた。

 野菜と肉が下処理された状態で調理台の上に置かれていた。


「あれは本物じゃないんだよな?」

「うん。あれも全部お菓子だよ、ここまで揃えば後はもう盛り付けだけだよ」


 ミールの方も準備ができているらしく、鍋の中にはミルクが準備されていた。

 本当にもう終わりの様で鍋の中に野菜もどきと肉もどきを投入し少し混ぜてから器に乗せた。


「あの器ってもしかしてパンか? それにあのスプーンも食えるのか?」


 妙に茶色っぽい器と透明なスプーン。菓子に造詣が深いわけでもないため、それらが何かははっきりとわからないが、普通の食器でないことは見てわかる。


「ご名答、パンの器と飴のスプーン。飴が舌に甘さを与えてくれるから甘さもばっちり。肉と野菜の甘さも飴と微妙に違うから飽きないし、全てが時間経過で溶けたミルクもパンにしみ込んで甘くなるよ」


 聞くと完璧なように感じるが、味に関しては審査員がどう感じるかだ。

 それから全員の調理が終わり、実食に入る。

 審査方法は十人の合計点で競われる。見た目と味がそれぞれ五点満点で計十点。その合計が最も高い組の勝ち。

 同点の場合は、味だけの評価が高かった方の勝ちになる。

 優勝候補のピピの得点が八十七点。他の連中が七十点台なことを考えるとやはり頭一つ抜きんでているらしい。

 そしてルリーラ達の番が回ってくる。


『見た目は完璧なスープだ。見た目の点数は四十三点! 高得点です! さぁ実食をどうぞ』


 審査員が口にスプーンを運ぶ、そして更に一口と口に運び、皿とスプーンを一口ずつ食べてから審議に入った。

 そうして発表された点数は四十六点。


『四十六点です。見た目の点数四十三点を合わせて八十九点です! 強豪、餡子の鉄人を超える点数を叩きだした!!』


 その宣言と共に客席がに一斉に湧き出した。

 先の二戦は順当だったらしく、今回が番狂わせらしい。

 そしてそのままロックスチームを超える点数が出ることもなく四回戦は終了した。

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