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七人の結託 その五

 翌日、至る所で鳴らされる鐘の音で目が覚めた。

 ゴーンゴーンと体に響くほどの轟音に、睡眠不足を訴える体を黙らせた。


「敵襲って雰囲気でもないよな。何の音だ?」


 これだけの爆音に宿泊客は誰も文句を言わないらしい。もしかしたらこの音で文句が聞こえないだけかもしれない。

 何の合図かはわからないが、確認のため窓の外を見ると国民らしい人達全員が同じ方向に進んで行く。


「あっちは確か、城の方だったよな。国王が退位でもするのか?」


 ここの国王は確か三十代だが、不摂生の塊みたいな男だったはずだ。馬車にも乗れず、玉座もベッドのようなサイズでないと座れない肉の塊らしいしな。

 だが、退位にしては国民が楽しそうに歩いている。

 何があるのか気になりはするが、サラとオレイカがこれから来るし見に行けないか。


「あれ、王様いるなら返事くらいしてよ」

「鐘の音が鳴っていたのだから流石の旦那様も聞こえないだろう」


 気が付くと鐘の音は止みサラとオレイカが部屋に入ってきた。

 普段着のはずなのに見覚えのない綺麗な服を二人は着ていた。どこか気品のあるドレスのようだが、しっかり普段着で切られるような衣装を二人は着ている。


「それどうしたんだ? 見たことないけどここで買ったのか?」

「買ってません。衣装屋から借りてきた物です。他の人達も似たような服装です。女性はひざ下までのスカート必須、男性は襟付きジャケット必須が決まりですから」


 まるで社交界でも開かれそうな話だな。

 外を見ても確かに男女で色や形は違うが、サラの言った様な服装をしている。


「これから城に向かうのはわかったが、俺はジャケットなんて持ってきてないぞ」


 公の場で切る衣装はほぼ全てアリルドに保管してある。唯一の一張羅も城塞の国で汚れてしまっている。


「そんな王様のために借りてきてるよ。それじゃあ、これに着替えて出発だ!」


 言われた通りに着替えたが、二人のように砕けた服ではなく本当に社交界へ向かうようなしっかりとした衣装だった。

 研究畑でほぼ根無し草で暮らしているせいか、ここまでかっちりとした服は着なれないため落ち着かない。


「素敵です。旦那様」

「王様カッコいいよ」

「そう言ってもらえたらお世辞でも嬉しいよ」


 二人は褒めてくれたがやはり落ち着かない。これから行くところにこれが必要と言うなら着ていくしかない。

 そうして二人の案内の元城に向かうことにした。


「ところでサラの刀とオレイカのその帽子は規定違反ではないのか?」


 一応服装と合ってはいるが、それでもこういう場でそういうものは大丈夫なのだろうか。


「私のは平気だよ。規定から外れてないし」

「僕のも問題ありません。刃は付いていないので。小道具として問題ありません」


 刃が無いなら何で帯刀しているのか疑問は残るが、サラなりのこだわりなのだろう。


「そう言えばたまにいる料理人みたいなのは何だ? ジャケットもスカートも無いようだけど」


 実際の料理人なら早く行かないといけないはずだ。もしかして交代要員なんだろうか、大食漢の国王のために交代制もあり得ないことじゃない。


「それはついてからのお楽しみだよ」


 そう濁され、混雑するなか目的地まで一時間ほどかかった。

 到着したのは城の少し手前の巨大な建造物。何人収容できるのかわからない程の広さの円状の建築物。そしてこれと似た建物に見覚えがある。


「これって闘技場じゃないか?」


 火の国で行われた武道大会の闘技場と同じ建物の中に、全員が吸い込まれるように入っていく。

 闘技場に服装の規則は必要なのかと、疑問に思いながら持ち物検査をされ客席に向かう。

 一対一で戦うはずの中央には大量の調理場が出来上がっていた。

 軽く見て二十を超える調理台に、料理人の恰好をした連中が百を超えて待機していた。


「戦いは戦いですが、競うのは武力ではありません。競うのは女子力です!」


 段々と見えてきた。どうやらこの大会にルリーラ達が出場しているのだろう。それでこの二人は出場させてもらえなかったのか。

 確かに女子力という点だと二人には厳しいだろうな。オレイカの部屋の惨状に武の修行しかしていないサラ。


「王様、その憐れんだ目はやめてくれる? 口にしなくても結構傷つくんだよ」

「それなら他の五人は全員参加したのか?」

「参加したのはルリーラとアルシェ、それにミールの三人。フィルとセルクは先に場所取りしてくれてる」


 ルリーラが参加しているのは意外だ。あいつに家事の才能があったとは知らなかった。

 ルリーラよりだったらフィルの方が適任の様に見える。


「あの三人はベストメンバーです。食材の良し悪しの判断が得意なルリーラ、どんなものでも完璧に作れるアルシェ、調合などのサポートが得意なミール。何度か試してみてこの三人が一番でした」


 俺の知らないところで予想以上に本気でこの大会らしきものに望んでいた。


「この大会は何か商品が出るのか?」

「何もないよ、あるのはリコッタで一番美味しい菓子職人という名誉だけだよ。いつまでも空席確保してると周りの目が痛いんだから早く来てよ」


 俺達を見つけてくれたらしいフィルに腕を引かれながら客席に座ると、セルクがすぐに俺の膝に座る。


「パパ遅い。もうすぐ始まっちゃうよ」


 確かに開会の宣言は終わっているらしく、それぞれが調理台で準備を始めた。

 周りの観客たちがテンション高く見守る中、俺は未だに事態を飲み込めずにいた。

 誰か俺に説明をください……。

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