七人の結託 その四
「お邪魔します」
「オレイカ、いいのかノックもなしに旦那様の部屋に入っても」
「静かにして、王様が起きないようにしてるんだから」
扉の開いた気配で目を覚ました。どうやらサラとオレイカが部屋に入ってきたらしい。
寝ぼけたまま目を開けると日は昇り始めたばかりのようだ。
まだ少し眠いし、もう少し寝ていても文句は言われないだろう。
「このままベッドに潜り込んで、既成事実だと王様が認めればどうなると思う? そう王様は私達との関係を認めざるを得ないんだよ」
「つまり僕達はルリーラ達よりも一歩先に行けるということか。なんという策士」
「いや、そんな上手くいくと思ってんのかお前らは」
まだ眠いがこのまま寝たらどんな噂を作られるか分かったものではないので、仕方なく体を起こす。
そして二人の姿に俺はため息を吐く。
遠くが透けるほどに記事の薄い服、その奥には局部しか隠していない下着。眼福というには攻めすぎた服装だった。
「二人ともその恰好でここに来たのか? 恥ずかしいとかはないのか?」
隣の部屋とは言え、共有スペースである廊下を通らないといけない。それをその恰好でやってくる度胸は認めよう。
「オレイカ、旦那様が引いている気がするのは僕の気のせいか? うわぁ……こいつこの格好でここまで来たのかよ……みたいな顔してるぞ」
「表面上取り繕ってるだけだよ。内心はひゃっほー、俺好みの魅力的な服装だぜ! このまま二人とも頂いちゃうぜ! って思ってるんだよ」
「そうなのか、旦那様!?」
心意を確かめるためにサラが一気に距離を詰めてきた。
服装からくる恥ずかしさに顔を紅潮させているが、恥ずかしいなら着替えてもらいたい。
「正直色気よりも品の無さが目立つからとっとと着替えて来い。寝起きすぐに突っ込ませるな」
絶望の表情を浮かべるサラを見てオレイカは満足そうにしている。
一切近づかないところを見ると、サラにこの格好をさせるために自分も来たのだろう。
そして二人は俺の服を羽織り部屋に戻り、普段着に着替えてから戻ってきた。
「それで、今日は随分早いな。何かをやってるはずだろ? そっちの手伝いはいいのか?」
昨日も昼頃だったし、まだ準備があるんじゃないのか?
「僕達はその、戦力外で……、旦那様を準備しているところに近づかせないために今居ます……」
残念な理由だった。
それにしてもサラとオレイカが戦力外って何をしているんだ? 二人とも手先は器用だし、和を乱すようなことはしないだろう。
「そんなわけで私達は今日王様を接待します。それじゃあ外に行くからお着換えしましょうね。はいばんざいして」
「それは接待じゃなく育児だ自分で着替えられるから」
早くも今日一日で疲れるのを理解した。
接待先に選んでくれたのは大きな公園だった。
なんでも菓子を使った模型を展示しているらしく、公園程の規模で模型を飾るのかと侮っていた。
しかし俺の想像を遥かに超える展示がされていた。
文字通りのお菓子の家、本物そっくりのお菓子の木、飴細工で作られた動物達、公園中が菓子で埋め尽くされていた。
「これは流石に驚いた。こんなのやってたのか」
「僕もこれには驚きました。今まで見てきた大がかりな物は精々パーティー用のケーキだけでしたから」
「もしかしてオレイカも何か展示してたりするのか? 手先も器用だしこういうのは得意な方だろ?」
造形師ではないが、それでも負けないくらいには立派な物が作れるはずだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね、ここに並べるには余りに不格好だから」
「アトゼクスや車を作った人物とは思えませんでした」
サラがそう言ってしまう程の出来だったのか。逆の意味で見てみたい。
「バランスが難しいんだよね。普段中を作ってから外を作ってるから最初に外を考えるのは難しんだよね」
俺から見ればどっちにしても凄いと思うが、職人のオレイカからすれば凄さがわかる分下手の物を出せないと思っているのかもしれない。
「旦那様、造形部門もいいですがこちらの味覚部門も中々面白いですよ」
ここは造形部門らしい。見た目を競う場所だったのか。通りであんな立派な物があるはずだ。
案内されたのは造形部門と比べるとどうしても小さく感じてしまうスペースだった。
小さなテントがいくつも並んでいるだけの華の無い空間。
その一つに入ってみると受付の人がいるだけだった。
「いらっしゃい。ここは七色の味が楽しめるテントだよ。これが皿だからご自由に楽しんで」
受付の女性に貰ったのは皿というよりも絵描きに使うパレットに見える。
小さな枠組みがいくつも並び、それとは別に大きな枠が一つだけある。
何に使うのかわからないまま先に進むとたくさんの試験官が並んでおり、その一つ一つに色とりどりの液体が入っている。
「その中の液体をこの小さな枠の中に入れて、大きい所で混ぜます。そうすることで複数の味を楽しむことができます」
サラから説明されたまま、液体を匙で掬いパレットに乗せていく。
試しに青い液体を単体で舐めると胸焼けしそうに甘かった。
もしかしてこれ全部甘いのか?
不安になりながら黄色の液体の味見もする。
今度は顔が中心に集まるほどに酸っぱい。
その二つを合わせてみると、青の甘味が先に口へ広がるが、すぐに黄色の酸っぱさが甘味を消してくれる。
「どうでしょうか、童心に帰れる場所ではありませんか?」
「そうだな。正直少し馬鹿にしてたかもしれない」
それから食材ごとに美味しくなる味付けや、五味を一度に味わえる飴などを楽しみながら公園を散策して回り、気が付くとすっかり日も落ちていた。
「ありがとうな。正直ここまで楽しいとは思ってなかった」
「それでは最後に夕食を食べてから戻りましょうか」
「それと明日も私達が迎えに行くから部屋に居てね」
部屋にいることを了承し俺達は宿に戻った。