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七人の結託 その三

 七人で何かを隠していることは知っているが、いかんせん暇だ。

 それなりに広いこの国ならそれこそ実験に必要な物が揃うと思っていたのだが、この国にあるのは菓子を作るのに必要な物だけだった。

 申し訳程度の武具、必要最低限の雑貨、実験器具は料理と併用できる物のみで、当然しっかりとした実験は不可能。

 できるのは領域の訓練のみだが、流石に疲れてしまった。

 一人になって一日で手持ち無沙汰になってしまう。


「暇だな」


 この国独特の胸焼けするほどの甘い匂いにも慣れつつあるが、あまり外に出る気にはなれない。

 旅に出てから常に誰かと一緒に行動していたし、その前も家族や学友と一緒にいたため、俺は初めて一人で過ごしている。

 せめて実験したい。魔力を運用した昇降機とか、機器を動かす魔力の低減化の実験と検証をしたい。


「パパ、入るね」

「セルクか、どうした?」


 ノックもなしに部屋のドアを開けてセルクが入ってきた。

 今のこの退屈な状況なら厄介事でも大歓迎だ。


「パパと遊びたいから来たの、ミールママと一緒」

「来ちゃいました。兄さんが暇してるだろうと思いまして」


 セルクの後ろからミールもどこか落ち着かなそうに入ってきた。


「ミールもか、入れ入れ。実際に暇してたから助かったよ」


 問答無用で俺の膝に座るセルクの頭を撫でながら、声をかけるとミールもベッドに腰を下ろした。

 そして何かを言うかと思ったが、何も言わずに無言だけが流れていく。

 どこかおかしな挙動に何かあるのかと思ったが何もないらしい。


「少し街を散歩するか? 部屋にこもりっきりなのもよくないしな」

「そうですね。行きましょうか」

「やったー、お散歩お散歩」


 勢いよく飛び上がったセルクが俺とミールの手を握って外に飛び出す。


 街の中はどこを見ても胸焼けしそうなほどに菓子屋が並んでいた。

 ケーキにチョコ、パンにアイス。うんざりする光景をセルクは喜んで見ていた。


「パパこれ! これ食べたい!」

「わかったから離れような」


 窓ガラスに張り付くセルクを引き離しチョコレート屋に入っていく。

 店内はカカオの匂いで満たされていた。

 窓ガラスから見えていた巨大な装置からは滝のようにチョコレートが零れ落ち、それを職人が手際よく混ぜ、それが終わると次の人へと連綿と繰り返されている。

「流石だな。全員手際がいい」


「パパセルクあれを直接飲みたい」

「それは人として踏み越えてはいけない一線だぞ」


 今までにないほど真剣な顔で馬鹿なことを言ってのけるセルクを窘め列に並ぶ。


「ミールはどれがいい? イチゴとかホワイトとか種類も結構あるぞ」

「わっ……、兄さんが食べたいものでいいです。それを分けてもらえればそれでいいので」

「わかった。それじゃあ、この甘さ控えめのビターにしようかな。フレーバーは最初だしプレーンでいいか」


 最初に言おうとした、わっていうのが気になるが、ミールも何か考え事をしているのだろう。


「セルクはね、凄い甘いのがいい。それで甘い匂い!」


 それから三十分ほどで店員にたどり着き、チョコの二種類買い店を出た。

 もっと時間がかかるかと思っていたが、思いのほか早く買い物を終えることができた。

 チョコの味は甘いのが苦手な人向けなのか、苦みが強くカカオの香りが口に広がる一品に仕上がっていた。

 セルクにも食べさせてみたが、小さく一口だけ食べ顔をしかめながらいらないと残りを俺に返して来た。


「ミールは何を考えてるんだ? 部屋に来た時から様子が変だぞ?」

「いえ、別に大したことじゃないですから」

「セルク知ってるよ。あのね――」

「セルク、少し黙っててお願いだから!」


 俺に隠れてやっている何かについての事か。それなら変に詮索しない方が良さそうだ。

 昨日フィルに黙認するって言ってるし、危険なことじゃないなら口を挟む必要もない。


「何か秘密で企んでるやつで悩んでるなら別に何も言わないぞ」

「そうです。それで少し考え事をしていたので」

「それならやっぱり宿に戻るか? そっちの方が考え事には向いてるだろ」

「いえ、大丈夫です。寧ろ散歩していた方が考えがはかどりますから!」


 勢いに押し切られる形で散歩を再開することにした。

 ミールはどこか行きたいところがあるわけでもなく、行先はほとんどセルクが決めて歩き続けた。

 流石に甘いのばかりは俺が持たないので、菓子以外も置いているところにも入ったりした。


「ミール、一度考えるのやめないか? そんな考え事ばかりだと折角の散歩も楽しくないだろ」

「そうですね。折角兄さんといるんですから少しくらい良いですよね」


 そんな言葉を交わした俺達の間にセルクが入り手を繋ぐ。


「なんかこういうのいいですね、親子が歩いているみたいで」

「セルクのサイズがもっと小さければな」


 セルクが子供と知っていれば確かに家族に見えなくもない。俺が父親、ミールが母親でセルクが子供。だが、傍から見るセルクは完全に大人で、俺達よりも頭一つは大きい。


「仲のいい兄妹ね。お姉さんがニコニコしているからかしら」


 そうなると当然俺とミールが年下でセルクがお姉さんに見られるのは当然だ。


「どうやっても私は兄さんの妹にしかなれないんですね……」


 その後どこか暗く沈んだミールと夕食を食べそのまま解散した。

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