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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
気象の国 ウェザークラフト
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セルクのお別れ

「この人は死にたいんですか? あれほど動くなと言ったのにこの有様ですよ。傷は開くどころか悪化してるのに、更に傷が増えているって自殺志願者なら私は金輪際見ません!」


 目が覚めて早々心優しいお医者様か愛ある罵倒を頂いてしまった。

 反論しようにもぐうの音も出ない程の正論だった。

 クロアが絡んでいるとは言え何も全部自分でやる必要はないよなと反省している。


「一週間は絶対安静です! 私の許可なくトイレにも行かせません!」


 相当ご立腹の様で病室の扉を力任せに閉じ出て行った。


「まあ、一週間は絶対安静だね」


「でも流石にそろそろルリーラ達と合流しないといけないんだよな」


 風邪ひいて数日、それ以外にも移動やらなにやらで既に一週間はあいつらに会っていない。

 その上更に一週間となるとあいつらが捜しに来る気がするんだよな。


「じゃあ、私が連れてくるから王様は休んでてよ」


「悪いな、宜しく頼む。ついでにドレッドをヴォール様に引き渡さないと」


 あの集団は何をしてくるかわからない。嘘も吐くだろうし暴力に訴えるかもしれない。クロアを止めるためにもこいつを引き渡しおきたい。


「一応伝えておいたよ。水の神の命令で油断できないから気を抜かないようにって。お爺さんも付いて行ってくれるって言ってたから大丈夫だと思うよ」


「ありがとう、助かったよ」


「大丈夫だよ。王様をこれ以上動かしたら本当に死んじゃいそうだからね。それじゃあみんなを迎えに行ってくるね」


 ひらひらと手を振ってオレイカも病室を出て行った。


 それから一日経ち全員が病室に集まった。

 当然みんなから小言を頂き、退院まで全員が無茶をしないように最低一人は病室に待機していた。


「次はどこに行くか決めたの?」


「みんなに聞いたんだが、みんなが口を揃えてリコッタに行きたがってるんだよな」


 甘味の国リコッタ。全員が全員口を揃えてその名前をだした。

 菓子類が好きなルリーラやアルシェはともかく、あまり好みで行先を決めたがらないミールやサラも絶対ここに行きます。と言っているのが引っかかる。


「いいんじゃない? 私も甘いのは好きだしそこなら荒事にはならないだろうしさ」


「別に反対してるわけじゃないんだけどな。それでも全員が全員っていうのが何か企みがありそうで怖い」


 危ない企みじゃないのはわかるが、どうものけ者にされている様で居心地が悪い。


「オレイカも実は一枚かんでるのか? だとしたら教えてくれ」


「知ってても言わないよ。もし言ったら全員から袋叩きに合うでしょ」


「それは知ってるってことだな? ヒントだけでもくれないか?」


「ダメ」


 それなら仕方ないなと諦めることにした。

 こうまで頑なだと他の連中に聞いても無駄みたいだな。セルクなら何か口を滑らせると思うけどそれを予期してかセルクと二人きりになる機会がない。

 そんなもやもやとした気持ちのまま残りの入院期間を過ごした。


「退院ですけどくれぐれも無茶しないようにしなさいね。こんな可愛らしい子達を悲しませたらダメだからね」


「わかってます。本当にお世話になりました」


 病院を出発して雨の町に向かおうとしたが、雷の町までティアさんが迎えに来てくれた。

 なんでも今回の事件を受けて居ても経っても居られなくなったらしい。このまま町の修繕をしてからシスタと一緒に帰るつもりらしい。

 おっさんはどうしても手が空かず来れないということで一言ありがとうと伝えてくれとティアさんから伝言を聞いた。

 荷造りがすでに終わっている俺達が車に乗り込むが一人セルクだけが中々来なかった。

 長い時間シスタと見つめ合うだけで何も語らずにただ向かい合っていた。


「セルク、お別れは済んだか?」


 車から降りてそう尋ねるとセルクは横に首を振る。

 泣かないと決めていたのだろうが、セルクの目には涙が溜まっており今にも溢れ出しそうだった。


「また来たらいい。カグヤとサクヤともそう約束しただろ?」


「またね……」


 一筋涙がセルクの頬を伝う。

 そのせいで涙は止まらずぽつぽつと地面に落ちていく。


「これ、私からのプレゼント」


 シスタが歪な形のペンダントを取り出した。

 扇形の様に見えるがやはり歪で不思議な形のペンダント。


「友達の印、だから」


 涙を流すシスタが差し出したのは似たような形のペンダントを三つ。


「カグヤとサクヤにも渡しておくから。四つで一つの、ペンダント」


 欲見ると四つが合わさると丸い円形になるのがわかる。


「ありがとう」


 これ以上は野暮だと俺は車に戻る。

 他のみんなも何も言わずに静かにセルクが車に乗り込むのを待っていた。

 それから小一時間ほど別れを惜しみながらセルクが車に乗り込む。

 泣きはらした赤い目はどこか晴れ晴れとして見えた。

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