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死者の国 アインズ

「ここには城壁ってないんだね」


 街の入り口に立ち、ルリーラはそんな疑問を口にした。


「そうだ、更に言うと門番もいない」


「よく攻められないね」


 ルリーラは真っ当なことをいい、ちゃんと学習していることに嬉しくなる。


「それはね、この国は善も悪も人種も種族も宗教も関係なく受け入れる国だからよ」


「へえ」


 一緒についてきた妖精の説明に、こいつはわかろうともせず適当な返事をする。


「要は全部の国と仲良しだから争わないってことだ」


 俺がかみ砕いて大雑把な説明をする。


「おっちゃんとは真逆だね」


 確かにアリルドの場合は全部の国と敵になって、争いたいって奴だしな。

 そう言われると確かにここは真逆だ。


「だから妖精もいるんだね」


「別に妖精は安全なところだからいるわけじゃないぞ、いる所は決まっている」


「そうなの?」


 そうか、ベルタだからって魔法については何も教えていなかったな。その内教えることもあるだろうと先延ばししていたんだった。

 折角だからと道すがら、本物の妖精を交えながら魔法についてのレクチャーを始める。


「魔法ってどうやって使うか知ってるか?」


「クォルテとかは魔力を水とかに変えて使ってるよね」


 流石にそれくらいは知っているようで安心した。


「概ね正解だ、正確には周囲の魔力に自分の魔力を混ぜて操作を行っている。大きな魔法を使うためには自分の魔力を沢山使うから疲れてしまう」


 ルリーラ探しに使った時も、魔力が不足してしまい気だるさに襲われてしまったが、それは操作のために魔力を消耗しきってしまったからだ。


「そうだったんだ」


「さっき周囲の魔力って言ったけど、それはどうやってできるか知ってるか?」


「知らない」


 魔力を使わないベルタにとっては魔力の発生はどうでもいいんだろうな。


「魔力っていうのはね、みんなの気持ちが大地にしみ込んで、大地がそれを魔力として噴き出してるのよ」


 俺のセリフを取って妖精が話を続ける。


「そして噴き出す場所はほぼ固定されている」


「それで、妖精はなんでいるの?」


 こいつ完全に飽きたな。間を省いて結果だけを聞こうとしている。

 これでもルリーラにしては結構持った方だろう。


「妖精は魔力が噴き出すときに、上手に噴き出せなかった時に圧縮された魔力の塊なんだよ」


「じゃあ生き物じゃないんだね」


 つんつんと突くと妖精は人間らしく突かれたことに反応する。


「生き物じゃないが感情だけはある」


「感情が魔力の素だから?」


「そう、正解だ」


 正解したルリーラの頭を撫でると嬉しそうに目を細める。


「だから妖精の性格も千差万別だから、気をつけろよ」


「ふーん」


 完全に飽きているルリーラが妖精をつんつんと突いていたためそこで講義が終わった。




 講義を終えてアインズに入国してすぐに、二人は口を開けた。


「凄いね」


「凄いですね」


 所々に設置された街灯の灯りで煌びやかな街並み、名のある大工が手掛けたであろう意匠を凝らした建物が一定の間隔を開けずらりと並ぶ。

 アリルドとは違い道は舗装されており、様々な馬車が走り、どこもかしこも活気にあふれている。

 巡回している衛兵も当然いるが、楽しそうに街の人々と会話をしており、柔らかい印象を受ける。


「これも争いがないことの利点だな」


 外敵にさらされないということは、戦争に耐える素材じゃなくてもいいということだ。

 火事にならないようにと避けられていた木の家もあるし耐久性が全くない全面ガラス張りの店。

 普通の国ではお目にかかれない建物が所狭しと並んでいる。


「それじゃあ私はもう行くわ。魔力をくれてありがとう楽しんで行ってね」


「こっちこそ助かった」


 手を振り妖精は街の中に消えて行く。

 俺達は道なりに進み今日泊る宿を探す。


「こんなに宿があると流石に迷うな」


「綺麗なところがいい」


「私はキッチンがある部屋がいいです」


「二人の意見が合うところを探してみようか」


 テンションが上がっている二人は珍しく意見を言う。

 そんな二人のために要望通りの宿を探そう。




 大して探してもいないが、すぐに二人の意見に合う宿は見つかった。

 値段はそんなに高くないのに風呂トイレは自室にあり、アルシェが望んでいたキッチンもあし、その上申し分ない位綺麗で眺めもいい。


「お高くありませんでしたか?」


 部屋に荷物を下ろしている途中で、落ち着いてきたのかアルシェが申し訳なさそうに聞いてくる。


「俺もびっくりしてるくらい安かった」


「それならよかったです」


 それを聞いて安心したのか、素直にこの宿の綺麗さに心奪われている。


「今日は何食べるの?」


 綺麗な部屋がいいと言いながら見た目より食い気なルリーラに妙に安心する。


「簡単なものでも作りましょうか?」


「先に買い物だな。しばらくここに滞在するし」


「はい」


「えー、お腹減ったー」


「帰ってきてからアルシェのご飯だから我慢しろ」


 出発の前に二人には着替えてもらった。ルリーラは半袖とショートパンツ、アルシェにはゆったりとしたシャツにハーフパンツで、動きやすさを重視した格好に着替える。

 こうして歩いて街に来ると、さっき見ていた光景とまた少し違って見える。

 建物もだが道は馬車がすれ違っても問題ないくらいに広く、露店の品ぞろえも他の国と比べ物にならない。


「珍しい食材があります。買ってもいいですか?」


「大食い大会だって、出たい!」


 二人は再びテンションが上がり、ルリーラはいつも通りに騒ぎ、アルシェは珍しい食材をねだる。

 アルシェが欲しい物をねだるのは良い光景だと俺は嬉しい気分になる。


「お兄さん、ちょっと寄っていかないか?」


 二人を後ろから見ていると、大通りの細い道から一人の女性がこちらに寄ってくる。

 目深にかぶったフードで顔は見えず妖しい風貌に身構える。


「そう緊張しなくてもいいのよ」


 フードの女性はすっとこっちに寄ってくる。

 花のような甘い匂いをさせ、近寄るなり腕を絡めてくる。

 フードの奥に見えた顔は声や動きに似合わず幼い。


「お兄さん、私を買わない?」


 絡まる腕を胸元に挟み、俺の手を掴み自らの下腹部に運び、押さえつけるように足も絡ませる。

 密着させたことでたるんだマントの隙間からは肌色が覗く。

 奴隷とは違うな。身なりはしっかりしている。ということは娼婦か。


「悪いが――」


「誰その女」


 断ろうとした瞬間ルリーラが割り込んできた。


「なんだ子持ちか、媚び売って損した」


 娼婦は興味を無くし、俺から離れる。


「睨まなくてもすぐ退散するわよ、おチビさん」


「その前に金を返せ」


 離れる瞬間に俺から財布を抜き取ったのをしっかり見ていた。

 俺がこいつを買おうが買うまいが関係はなかったようだ。

 どっちにしろ俺から金は奪える。それにこいつは正確には娼婦じゃないみたいだしな。


「私がそんなことするわけ――」


「ルリーラ」


「うん」


 路地裏に逃げようと動く前にルリーラが仕掛け、あっさり捕縛できた。


「あったよ」


「言い逃れは出来ないよな」


「ちっ……」


 機嫌悪く舌打ちする娼婦は退けとルリーラに言い放つ。

 ルリーラがどうすると視線を向け、俺がそれに頷くとルリーラは素直に退いた。


「おい」


「なんだよ!」


「こんなことしても楽にはならないぞ」


「うるせえ!」


 そう毒づきながら娼婦は路地裏に消えて行った。


「いいの?」


「二人に被って見えたからな、それに別に取られたわけじゃないしな」


 そう言ってルリーラに金の入った袋を見せる。


「おっぱい押し付けられたから見逃したの?」


「なんでそうなるんだよ」


 それだと被るのはアルシェだけじゃないか。


「あいつもお前らと同じっぽいしな」


「私まだ経験ないけど」


「あいつも経験はないと思うぞ?」


「娼婦なのに?」


 目ざとくもさっきの女が娼婦であるのを感じ取ったのか。


「そもそもあいつはスリで娼婦じゃない、それにスリでもベテランじゃないみたいだしな」


 男慣れしている様に見せていたけど、照れからかあまり密着はしてこなかったし、俺と触れる時に体が震えていた。

 こちらを見る動きとかは確かに考えられていたがどこかぎこちない、それにバレた時も逃げずに否定した。

 おそらくは初犯か二三回目というところだろう。

 それにあの髪色……。


「まあいいけど」


「拗ねるな拗ねるな」


 頭に手を置いて撫でると機嫌を直してくれる。


「クォルテさん、ルリーラちゃんここにいたんだ」


「アルシェは何か買うもの決めたか?」


「迷ってるのでお二人の食べたいものがあればと思って」


「なら全部買えばいい。金はもらったしな」


「そうだね」


 アルシェの欲しい物を買いながら、ルリーラの行きたがっていた大食い大会に参加した。

 余談としてルリーラが優勝した。




「お腹いっぱいだよ」


「妊婦並みに腹が膨れてるな」


「これが母親の気持ちなんだね」


「世界中のお母さんに謝れ」


 全国妊婦はもっと辛い思いをしているんだから。

 そんなことを言っていると世の妊婦から袋叩きにあってしまう。


「私も妊婦体験したいです」


「妊婦じゃないからな」


 それは生命じゃなくて消化前の食べ物だ。


「じゃあ郷土料理は明日の方がいいか?」


「まだ食べれるよ」


「腹が破裂するぞ」


「破裂したら私も魔法使いに認定されるかな?」


「私と同じ炎の魔法使いだね」


「阿呆の認定は受けると思うぞ」


「オヤジ化が進行しているね」


「流石に今のは寒いです」


 街の空気に当てられたのか、俺も含めみんなのテンションが高くなっていく。

 そしてそれに合わせたかのようにこの国で見ようと思っていたものが現れる。

 アインズ名物光の鏡。


「何これ」


「綺麗ですね」


「これを見せたかったんだよ」


 妖精たちが光りながら街に舞う。

 妖精の姿をしていない光の玉や人型の妖精たちの踊ったり、自分の魔力を光の玉に与え人型に変化させる。

 街のあちこちに点在する鏡やガラスに反射し街中を妖精たちが照らし盛り上げる。


「この光もそうだが本番はここからだ」


 次の瞬間地面に積もった妖精たちは各々人間へと姿を変える。

 まるで過去を見ている様に妖精たちはまとまりながら変身していく。


「人間になりました」


「凄い数」


「これが死者の国と言われる所以だ」


 妖精たちは言ってしまえば感情の集まり気持ちの集まり。

 無念だったり悲しみだったり喜びだったり幸せだったりの人の気持ちの集まり、人の形に変わり動き出す。

 

「あそこで喧嘩してるよ」


 怒りの感情から生まれた人は喧嘩をする。


「あそこはなんだか楽しそうです」


 楽しい感情は友人達と笑いあう。


「凄いだろ」


 ここの人は今も生きていたりもう死んでいたりと様々だが、共通していることは今この街に居る人はいないということだ。

 そんなここにはいない死者の姿で動く妖精たちの姿を見に多くの人がこの国を訪れる。


「この光景はこの時間から日が昇るまで続くぞ」


「来る前は死体が動き出すかと思ってたよ」


「実は私もです」


「そういうところもあるぞ」


「絶対に行かないからね」


「私も嫌です」


「そっちはそっちで楽しいらしいけどな」


 どちらかと言えば男向けであることは否定しない、動く死体を蹴散らすからアリルドが喜びそうな場所だ。


「しばらくはここにいるからまた明日見に来ような」


「うん!」「はい!」


 二人の力強い頷きを見て帰路に着く。

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