雪の町 リルク その三
「とまあ、こっちの自己紹介は終わりだ。それじゃあ、いい加減お前達が誰なのか教えてくれるか?」
風呂から上がった黒と白の少女にこちらの自己紹介を終え、向こうにも自己紹介を促す。
「私はカグヤ・グラーフです。こっちの寝てるのが双子の姉サクヤ・グラーフ」
「カグヤとサクヤだな。なんでいきなり襲って来たんだ? 悪ふざけにしては度が過ぎてるぞ」
「この家に不審者が来たと思いました。ごめんなさい」
そう言ってカグヤは素直に謝った。
俺達を強盗か何かだと思って退治しようと思ったわけか。
「俺達が悪者じゃなかったからいいが、本当に悪い奴だったとしたらそれも危険だ。なんで大人に頼らなかったんだ?」
少しだけ口調を強めてそう言った。それだけ危ないことだと教えるのが大人の役目だと思ったからだ。
「大人の人には聞いたよ。そうしたら、娘さんがいるから掃除の人だと思うわよ。ってお母さんが言ったから悪い人じゃないのは知ってた!」
何だこのクソガキ。一度ぶっ飛ばしてやろうか。
大人に安全だと確認したうえで俺に襲い掛かってきたのか。そりゃあサクヤもこんなに堂々と寝れるよな。俺達が普通の人だと知っているんだから。
「王様、怒りはわかるけど落ち着いてね」
一度大きく深呼吸をして怒りを落ち着ける。
「お兄さんから見て私の一撃はどうだった? お兄さん弱そうなのに当たらないのはなんでかな? 何が悪かったの?」
「あんなのに当たる訳ねぇだろ」
「王様が大人気ないほどにバッサリだ」
いけないいけない。思わぬ悪口につい大人気なく悪態を吐いてしまった。
「カグヤ駄目だよ。大人の男はプライドを大事にしているからそんな挑発的なこと言われたらムキになるの。適当に持ち上げて煽てながら聞かないと」
「流石サクヤ頭いいね。強そうなお兄さんはどうして私の一撃が避けれたのか、どう改良したらいいのか教えていただけますでしょうか?」
「よし、こいつらを外に放り出そう」
「本当に気持ちはわかるけど落ち着いて。相手は子供だよ」
突然目を覚ましたサクヤとカグヤの首根っこを掴み持ち上げるとオレイカがそれを止めに来た。
「子供でも大人をからかってはいけませんってことをしっかりと叩き込まないといけない」
「それはわかるけど、その二人をそのまま放り出したら死んじゃうから」
言われて両手に持っている二人を見る。
雪に濡れた厚手のコートとズボンは乾燥中で、二人は髪と同じ色の薄いシャツとこの家にあったシスタのズボンだけ。
確かにこのままだと死ぬよな。と思い直し二人をその場に落とす。
「サクヤの考えダメじゃん。危なく追い出されるところだよ!」
「そりゃあ全部聞かれてたら挑発にしか聞こえないって気づこうよ」
どうやらサクヤは気づいていてカグヤに吹き込んだらしい。こいつは大人しそうに見えて中々いい性格をしているらしい。
「ねえパパ、まだお話あるの? いい加減に飽きた。私達も遊びたい」
「わかったよ。それじゃあ俺とオレイカは買いものに行ってくるからその間大人しくしてろよ」
とりあえずは危険な奴じゃないのがわかったので、当初の予定通りに買い物に行くことにした。
まずはコートと飲食物を買いに行かなければ今日を生きていくことはできそうにない。
「これ似合う?」
「おう、それも似合ってるな」
「なんか段々と適当になってきてない?」
「そんなことないぞ。ちゃんと見て似合ってると言っている」
オレイカの言う通り俺はもうちゃんと見ていない。なにせ延々と試着しては俺に見せてをかれこれ三十分はやっている。そりゃあ最初はしっかりと見て似合ってると言っていたさ、だが途中からわからなくなってきた。コートの違いが判らなくなってきて次第に色も判別できなくなっていた。赤と茶色が同じ色に見えてきてしまう。そんな状態で俺はどうすればいいのか。
ルリーラ達との買い物の時はまだ大丈夫だったはずだけどなんでだろう。
「じゃあ、これにする」
このコートは何番目に着ていた物だろうか。暗い色の温かそうなコートだ。でもこんなに厚いコートが必要だろうか? 吹雪の中ならいざ知らずこの町も徐々に温かくなってきている。寧ろ汗を掻いたら体を冷やしてしまうんじゃないか?
それでもオレイカが選んだんだし似合っているだろう。
「そうか。似合ってたもんな」
「これ来てない奴だけど」
これは着ていない物らしい。失敗したな。
俺はオレイカからコートを受け取り自分の分と合わせて金を支払った。
「少し休んで行こうか」
最後に食料を買いに向かう途中でオレイカがそう言った。
大丈夫だと思っていたが、流石に壁にぶつかっても気づかずに進み続けていたことに自分でも限界を感じていた。
近くにあった店に入り注文だけして俺は空いている席に座る。
「王様平気? 飲み物とサンドイッチだけど食べれる?」
「ありがとう」
注文した飲み物と食べ物をオレイカが持ってきてくれたので飲み物を一口飲み込むと不快なほどに熱い。
体の中が燃えそうなほどに熱く気持ちが悪い。サンドイッチを口に含むが妙にぱさぱさとして飲み込むのも一苦労だ。
「大丈夫? すごく辛そうだけど買い物は私がしておくから先に帰ってて」
「平気だ。少し休めば……」
あれ、なんで床が近づいてくるんだ? 世界が回って行く。オレイカが倒れてく手を出さないと。あ、違う、これ俺が倒れてるんだ。