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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
気象の国 ウェザークラフト
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気象の国 ウェザークラフト そのニ

「王様って意外と純粋なのに弱いよね。無邪気に弱いのかな、どう断っていいかわからないって感じ」


「そんなつもりはないんだけどな」


 俺達は今雨の町に向かって車を操舵している。

 ほぼ全員が過酷な環境に行きたくはないということで今回も二手に分かれている。

 一方は俺達みたいにこの国の観光をして色々な物を見る。もう一方は晴れの街のみを好きに見て回る。ほぼ全員が後者でアルシェすら今回は同行していない。


「そんなつもりはないとか言ってもさ。その腕にぶら下がってるのを見ると弱いよね」


 オレイカに返す言葉もない。

 俺の右腕は今セルクに抱きしめられている。そんなにしっかりと抱きしめて深いじゃないのかと思ったが、神の力なのか俺達ほど不快感はないらしく、どうしてもパパと一緒に行く。と珍しく同行している。

 寝てばかりではなくなったのは嬉しいことだが、こうも密着されると外を歩きにくい。

 ただでさえ不快な環境に身を置く作業者の大半が男だ。そんな彼らの国で綺麗どころに抱き付かれたまま国中を闊歩する。それは喧嘩を売っているのに等しいだろう。


 現にさっきからすれ違う男連中は明らかに俺を睨み舌打ちをしているのが窓の外に見える。

 通り過ぎてからも背後から感じる殺意に冷や汗が出過ぎている。


「私も王様に抱き付いた方がいいのかな?」


 にやにやと状況を楽しんでいるオレイカを殴りたい衝動に駆られる。


「そうだな。俺を殺したいならそうしたらいいぞ。すぐにその辺の男連中が俺を殺しに来るだろうぜ」


「パパは死んじゃダメなの」


 セルクは俺の軽口を信じたらしくより強く腕に強く抱き付いてくる。


「セルク、少しだけ離れてくれないか?」


「パパはセルクの事嫌いなの?」


 泣きそうな瞳で見上げられては俺になす術はない。


「そんなわけないだろ。あっはっはっはぁ……」


「ほらやっぱり無邪気に弱い」


 オレイカに改めて言われ、本当にそうなのかもしれないと操舵席に座りながらそんなことを思った。




「改めて見ると本当に凄いね。これってもう滝だよね」


 晴れの街と雨の町の境目。目の前の豪雨と背後の晴天のギャップに驚きを隠せない。

 上の雨雲はこちらに一切入っておらず、綺麗に濡れた地面と乾いた地面で分かれている。


「それでオレイカは滝の中で何をするつもりなんだ?」


 車の荷台にはオレイカの仕事道具が詰まっている。

 槌やペンチなどの俺でもわかるような工具から一目ではわからない物もあるが、荷台で一番幅を取っているのはアトゼクスだ。

 なぜかいつものように小さな姿ではなく人間より少し大きいサイズで大人しく座っている。


「水中でどれくらい持つか知りたいんだよね。シェルノキュリとかガリクラって雨がほぼ無いし耐水の実験ってしてないんだよね」


「この子壊れちゃうの?」


 オレイカの言葉にセルクが不安そうに言ってくる。

 それは俺も気になってはいる。ルリーラとの殴り合いでも壊れない機械人形が水なんかで壊れるのだろうか?


「そのための実験だから。魔力の流れに異変が出るのか、内部に水が入ったら機能にどういう支障が出るのか。それがわかればフリューの魔獣にも使えたんだけどね」


 そういう理由らしい。

 クロアが野放しな限りいつ魔獣に襲われるかがわからない。その時にアトゼクスが役に立つだろう。


「それならヴォールとかの海沿いの方がいいんじゃないのか? 魔獣が出てくるのは海が多いだろう?」


「海沿いには一度行きたいけどね。まずは自然環境にどれだけ対応できるかが大事なんだよ」


「パパ、暇だよ。早く雨の町に行こうよ」


 またここに来る度胸がなかったがセルクに言われれば行かざるを得ない。

 オレイカが車を動かすと大きな雨粒が車を何度も叩く。

 ぬかるみなのか少しだけ車体が沈み車を走らせる。

 操舵しながら魔法が使えるアルシェとは違い、今回は俺が遠視の魔法で位置を確認しながらオレイカに指示を出す。


「ここって凄いね。あんな生き物見たことないよ」


 セルクの指の先には赤い光が雑草の影から覗くように無数に並ぶ。

 鰐の群れ。数十の鰐がこちらをじっと見つめる。その中で一際高い位置にある瞳は俺の目の位置と変わらないように思える。


「オレイカ、少し速度を上げてくれ。やばいのに見られてる」


 そう指示をしたのにオレイカはなぜか車を止めてしまう。

 それに気が付いたのか赤い目が徐々にこちらに近づいてくる。


「いいじゃん。折角だしアトゼクスの性能実験させてもらおうかな」


 そう言うとアトゼクスは荷台から下りてしまう。

 ぬかるみと豪雨、視界も足元も悪い中アトゼクスは機械人形らしく指示に従う。

 アトゼクスが赤い目の群れに近づくにつれ小さくなっている様に見える。


「なあ、アトゼクス小さくしてるのか? それとも目の錯覚か?」


 見るからにアトゼクスが進む速度は遅くなっている。

 これはあれだな。


「もしかしてアトゼクス沈んでないか?」


 どうやらここは湿地帯というよりも沼地だったらしい。それも底の無い沼。底なし沼らしい。

 草で見えないがこの沼は鰐たちの庭らしく俺達は誘い込まれているらしい。

 そしてアトゼクスの体長が半分くらいにまで縮むとついに動きが止まり、赤い目が少しずつアトゼクスに近づいていく。


「小さくして戻すね。そうすれば沈まないから」


 大きさの変化で重量も変わるらしくその方法で戻そうとするが、オレイカは突然大きな声を上げた。


「アトゼクスが食べられた……」


「大きくしたらいいだろ。それで鰐も倒せるだろ!」


「食べたのって人間なんだよね」


 人間が食べたけどアトゼクスを大きくする? とオレイカに言われるが俺にもどうしていいかわからない。

 そもそもなんで人間が鰐の群れに居て食べられていないのか、そしてなぜ餌を最初に人間が食べているのか。


「パパどうして慌ててるの? おトイレ?」


「セルク。少し離れててくれるか? ちょっと今忙しくなりそうなんだよ」


 どうやったら人間の体からアトゼクスを取り出せるのか。それを俺は考えながら車から俺は跳び出した。

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