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龍の社に行こう その四

「えっと、何をお話すればいいのでしょうか? おじいちゃんから聞いた話しか私にはお話しできませんけど」


 綺麗に整備され、芝生が敷き詰められている広間で弁当を広げる俺達だが、話の中心はグミだった。

 俺とミール、サラとアルシェしか興味はないらしく他の連中は黙々と弁当を摘まんでいる。


「それでいいよ。親から子に伝えられた話は、客観的に調べられた話よりもためになる場合がある。だからこそ聞かせてもらいたい」


「わかりました。それでは最初から語ります。裏の三柱の事、過去の戦の事、龍の神の事を」


 そう言ってグミはフードを深く被る。

 語り部に姿は必要ないというように自分の顔を隠した。


「昔々、火、水、地、風の四柱の神々は争っていました。自分が一番強い、いや自分が一番だ。そんなどうしようもない子供の様な理由から諍いは起こりました。その諍いは、争いになり戦になり戦争になりました。四柱はやがて自分達の争いに眷属も巻き込み始めました。その戦火は世界中に広がります」


 過去にあった戦の始まり。それはあまり知られていない。大抵の書物には「理由が不明」そう書かれているはずだ。

 それなのにグミの語りには始まりがある。人間と同じような自分の方が優れている。それを証明するための戦だと彼女は語る。つまりそれは神々がその理由を隠しているということになる。

 その言葉に他の三人もこちらを見る。

 俺が頷くと三人も続くグミの話に耳を傾ける。


「それを我関せずと傍観していたのが闇、光、龍の三柱。戦火の広がる世界を眺めやがて闇の神は、いいことを思いついた。と立ち上がります。奴らを倒し自分が一番の神になろう。そう思い立った闇の神は戦に関わっていない光の神、龍の神に話をしに行きます。『お二方、世界を滅茶苦茶にしているわからず屋を止めるために手を貸していただけないか?』その言葉に光の神は頷きます。『わかった。世界を守るために戦おう』しかし龍の神は『俺は自分の好きな場所を守れればそれでいい』そう言ってフリューへ飛びます」


 唐突にフリューの名前が出てきた。

 闇の神の名前を聞きつけ、他の四人も話の輪に入ってくる。

 ただのお勉強に、決して無関係ではない名前が聞こえてきて聞かなければいけないと思ったのだろう。


「フリューは龍の神が一番気に入っていた場所でもあります。小高い山の頂上で羽を休め、そこから見える自然や人の営みを眺めながら眠るのが一番の幸せだったのです。そして闇の神と光の神が戦に加わったある日、いつも通りにフリューで眠っていた龍の神は爆音に目を覚まします。そこから見えたのは燃え盛る炎でした。戦はフリューも巻き込んでいました。草原が山が村が人が戦火に燃え、濁流に流され、地割れに呑まれ、風に裂かれる。その光景に龍の神は怒りました。大きな声で叫び二対ある翼を広げ空へ飛び、無駄に争う神々とその眷属への怒りに我を忘れ暴れます。火を噴き、風を起こし、地を割る。我に返った時には目の前は地獄の様だったのです。大地には無数の穴、吹く風は火を纏い、大地から溢れる水は血と死体に溢れていました」


 それが泉の国の始まりだったのか。

 その話に俺の膝に座っていたルリーラは俺の手を握り締める。


「その悲惨な現状に龍の神は思います。「この戦を止めるために闇の神に協力しよう」そう決断した龍の神は羽ばたきでフリューの火を止め、闇の神の元に向かいました。そして闇、光、龍の神々は四柱の戦を止めるために戦いました。やがて火の神が命を落とし、水、地、風の神々は手を取り合い、闇の神率いる三柱と戦います。両者の力は拮抗していましたが、水の神が自分の命と引き換えに闇の神と光の神を封印し形勢は逆転してしまい、地の神と風の神は龍の神を封印し、今までの戦の責任を封印された三柱に被せ残虐な裏の三柱と呼ぶことに決めましたとさ」


 喋りすぎたのかグミはコップの水を一気に飲み干す。


「これがおじいちゃんから聞いたお話です。おそらく皆さんが知っている話とは違ってますよね」


 グミそう言って苦笑気味に笑う。

 確かに今までに見たことのある資料とは違っていた。

 その真偽は実際に体験した神々しか知らないのだろう。だが、俺はグミの口伝が正しい気がした。

 誰にでも真実を伏せることができる歴史ではなく、子孫に残すための昔話の方が正しい様なそんな気がしたから。

 そんなことを思いながら弁当を食べた。


 昼食後に少しの休憩を挟み俺達は再び山道を登る。

 グミの話だとここに龍の神を祭る社があるのならここが龍の神が気に入っていた山ということになる。

 昔話になっても名前が残り続ける程に、龍の神が好きな場所に俺達は向かう。


「兄さんはどこまでさっきの話を信じますか? 私には荒唐無稽なただの昔話に聞こえましたけど」


 俺の隣に並んだミールが昔話の真偽を聞いてくる。


「俺はほとんどが本当だと思ってる。教科書に残る歴史に少し違和感もあった。戦の理由や遅れてから参戦する三柱。気にはなっていたがグミの話はしっかりと伝えられている」


 それに闇の神は世界を消すため。そう言って一柱で動いていた。光の神も龍の神の手も借りていない。表の四柱への復讐なら裏の三柱全員で行くのが普通のはずだ。

 何故一柱で動くのか。それは光、龍の二柱を抱き込む理由がなかったから。


「そうですね。その辺りは古いから歴史に残っていないと思っていましたけど、筋は通りますね」


 ミールと二人でさっきのグミの話を語り合いながら山道を登っていく。

 頂上に着くころにはさっきの話の方が記録に残る歴史よりも正しい。そういう結論になった。


「これが龍の神の社なんですね。凄いボロボロです……」


 頂上について先に目が付いたのは倒壊寸前の社。しかも社というよりも家屋の方が近い。なのでこれは倒壊寸前の家屋だ。

 何故か二階建てで、窓にはガラスがはめ込まれている。入口は一か所だがそこから覗くのは広い板張りの広間があるだけ。

 階段らしきものは社の隣に備え付けられている。

 辛うじて社だとわかるのは広間にポツンと置かれた恭しい祭壇だけだ。


「クォルテここ怖いよ。これって入ったら呪われるとかないよね?」


 俺が中に入ろうとするとルリーラが怯えた表情で俺の手を掴む。

 そんなわけないだろうと思っていたがグミ以外全員の腰が引けていた。


「なら待ってろ。グミと二人で参拝してくるだけだから」


 グミと二人で社の中に入る。

 引き戸を開けると中からは埃とカビの匂いがした。

 埃に足跡を付けるとギシギシと木が軋む音が響く。

 広間には祭壇以外に何もない。光を取り込む窓もなくただただ祭壇があるだけ。その唯一の調度品にさえ深く埃が積もっている。

 何年、下手をすれば何十年もの間人が足を踏み入れていないらしい。


「これが龍の神アルトメルトスなのですね」


 祭壇まで歩いて行くと真ん中に三つ置かれている。

 向かって右には水を入れていたであろう空のコップ。反対には金の彫刻が置かれ、それに挟まれているのは黒い塊。

 グミはその中から左にある金の彫刻を手に取った。

 埃を手で払う。トカゲの様な見た目だが、頭には二本の分かれた枝の様な太い角、胴体は太く強靭そうで、大木の様な手足には三本ずつ杭のような爪が生えている。そしてその体を包み込めるような大きな二対四枚の翼。


 両手に乗る大きさにも関わらず、これが龍の神だと何の疑いもなく信じてしまうほどに見事の造形。

 埃を全て払うとグミは再びその彫刻を祭壇に戻した。


「この黒い塊はなんだ? 岩とかではないよな」


「龍の神の鱗です。ここでの休むんだ後にはたまにこれが落ちていたらしいです」


 グミの説明に鱗に手を伸ばす。

 触れただけで重量感が伝わってくる。わずかにざらついた表面、こんなものを体に纏っていたのか。

 彫刻を見ながらその大きさを想像する。

 俺の顔くらいの大きな鱗が体に無数についていただろう。その大きさはこの山と同じほどに大きかったんじゃないだろうか。

 そうなるとここの山は実は隣の山と同じ大きさだったんだろうか。そんな大きな山に体を休める龍の神。

 気持ちよさそうに眠るその周りにはきっと動物が寄ってきていただろう。

 そんな動物に怒るでもなく目を覚ましても、ただ自然と人々を見守ってきたのだろう。

 そんな妄想のような過去を描いていた。


 その隣でグミは真剣に手を合わせていた。

 穏やかな表情で手を合わせ目を閉じ祈る。


「やっと会えました」


 無意識に零れた言葉に涙が伴う。

 一筋に涙がそのまま床に落ちる。


「さあ、行きましょう。あまり戻らないと心皆さんが配してしまいますよ」


「出る前に少しだけ話をしないか?」


 社を出ようとするグミを俺は引き留めた。

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