龍の社に行こう その二
「俺達は明日、龍の神の社に向かうつもりなんだがグミはどうする?」
グミは気づいているのかいないのかわからないが、うつむいたまま自分の外套を握り締める。
信用できないって感じか。別に無理に引き留めようとってわけでもないし、案内が口頭で十分だろう。
「あの、――えっ?」
何かを決めたらしいグミは顔を上げ、何かを口にしようとした瞬間動きが止まる。
「銀狼?」
そう言葉を零す。
視線の先にはオレイカが居た。
頭にある白髪に銀色の耳。グミは確かにそれを見つめていた。
「その耳は、銀狼ですね!?」
一気にオレイカの前に跳び出したグミはオレイカの手を乱暴に掴み、そして落胆する。
「耳が、もう一つ……」
「うん、当然でしょ? 人間なんだから」
「そ、うですよね……」
さっきのテンションが嘘のようにグミはまた下を向く。
「私のこの耳は狼の耳を見て作ったんだけど、グミちゃんのその角は何の動物なの?」
「私のは、その、えっと……」
オレイカが間を持たせるための質問にグミはしどろもどろになりなってしまう。
その間に変だと俺は感じた。普通なら即答できるはずの事が答えをなんで悩むんだ?
「鹿です」
「鹿なんだ。凄いね」
何とか動物を告げたグミにオレイカがそう言うと、ルリーラやアルシェがグミに群がる。
「何ですか? これ何ですか!?」
「その角触ってもいい?」
「その下裸なら何か着た方がいいですよ」
慌てふためくグミを余所にオレイカは俺の元に来る。
「王様ちょっといい?」
そう言ってオレイカは顔を近づける。
全体的に少し大き目でゆったりとした服を着ているため肩は大きく露出しており、胸の谷間がしっかりと確認できてしまう。
だがオレイカの言葉に意識が切り替わる。
「あの娘嘘ついてる」
「あの角だな、何か変なんだろ?」
鹿の角と言っているのは確かにおかしいと俺も思っている。何がおかしいかはわからないが、技術者のオレイカにとってはその何かはすぐにわかったのだろう。
「うん。まずこの耳と尻尾は私にしか作れてない。それに黒髪なのにあの角に宿っている魔力量は異常」
そう言えばオレイカだけが耳を作っていたんだっけか。神々をもして魔力の保管庫として作ったオレイカだけのオリジナル。
だがそのオリジナルが本当にオレイカだけにしか作れないのかは俺にはわからない。
「あれは私にしか作れない。精霊結晶の加工、整形はできる人はいるけど、魔力の保持や固定、自己の魔力回復を計算しての魔力の吸い上げの自動化は私の専売。ガリクラ様がそう言ってた」
地の神のお墨付きってことか。自負心ではなく神が絡んだ事実。それなら確かにオリジナルと言えるだろう。
「魔力量ってのは? 誰かから魔力を注いでもらったんじゃないのか?」
精霊結晶に魔力を込めるのは俺もルリーラにたまにやっている。それがおかしいとはどういうことなのか。
「武器とは違うんだよ。この耳と尻尾は私の体に直接埋め込まれてる。白髪とかなら魔力の扱いには慣れてるから他人の魔力でも平気だけど」
「黒髪があの魔力量を操れるのはおかしいってことか」
オレイカは頷く。
確かに言われればよくわかる。
グミの角には白髪のオレイカと同じくらいの魔力がある。それを見事に制御しているのは確かに異常と言える。
その異常にクロアの影が浮かぶが、その可能性は低いだろう。
魔法を自在に操る黒髪なんて脅威以外の何物でもない。それを先の戦いで使わなかったのはあいつにしてはおかしい。
「だからあの娘は何かを隠してるよ」
「なるほどな。でも、なんでかあいつからは敵意とかそう言うのを一切感じないんだよな」
怪しいし何かを隠しているのはわかるのに、こちらに害をなそうとは微塵も考えていないように見える。
「私もそう思うけど、気をつけないとね。王様って可愛い娘に弱いでしょ?」
「全員その認識なんだな」
男として否定はできないが、そういう基準で優しくしているつもりはない。
とりあえず今の会話で考えはまとまった。グミが一緒に行くと言ったらちゃんと案内してやろう。
「グミ、どうするか決めたか?」
「えっ? はい、お願いします」
「じゃあ、お前達の部屋に寝かしてやれ。俺はもう寝るぞ」
方針も決まり俺達はそれぞれの部屋に戻り就寝した。
翌朝、朝食を食べるためにみんなが集合している場でフィルムは開口一番こう言った。
「なんか可愛い子が一人増えてるぞ」
「グミって言うんだ。今日はこれから一緒に龍の神を祭る社に向かう」
「やっぱり行けばよかった」
「お前は結局なんで来なかったんだ?」
ルリーラ達は早々に来たのにフィルム達は一度も顔を出さなかった。
昨日は特に気にしていなかったが、来ないことに違和感はあった。
「いや、そのさ、あはは」
困ったように見せながらも頬は緩み切っている。そんな情けない表情でフィルムは誤魔化そうとしているが、まるで誤魔化せていない。
昨日イーシャさん達と何か嬉しいことがあったのだろう。
「昨日はハーレムでした」
親指を俺に向け太陽よりも眩しい笑顔を俺に向ける。
「寝てるイーシャ達が積極的でな。それはもう最高だったぞ」
「それはよかったな」
昨日は帰ってきてないみたいだし、そんな展開があったなら確かに来れないだろう。
「嘘ですので信用しないでください」
配膳をするイーシャさんが食器を乱暴に置きフィルムの言葉を否定した。
その言葉にフィルムの視線が泳ぐ。
なんだ嘘か。
「全部じゃないぞ、皆に抱かれて一晩中イーシャとリースに挟まれていたんだ」
「ええそうですね。急ごうとして倒れ後頭部を打って血を流すフィルムをヴェルスが抱きしめましたし、その血を止めるために私も抱きかかえました。それでも行こうとするフィルムをリースが抑えながら安静に眠らせました」
よくそれでさっきの顔ができるな。それほどまでに今まで接触が無かったのだろうか。
俺はフィルムが可哀想に思えてきた。
「その目をやめろ、クォルテ・ロックス!」
「強く生きろよ」
「やめろよ。そんな優しい目を向けるな」
たったそれだけで看護してくれるなんて言い仲間じゃないか。
俺は素直にそう思った。
朝食を終え、俺達は行く準備をしていた。
もうしばらくここに居るので、大きい物はなく弁当と護身用の道具をいくつか持つだけなのですぐに終わった。
「フィルム達は一緒に来ないのか?」
「これからの事を少し話すから行かない。それにお前と一緒に行っても碌なことにならないだろ」
「そうか。じゃあな」
人数は多い方が楽しいかと思ったが、あっちにはあっちの事情があるらしく断られてしまった。
俺が外に出るとまだ誰もいなかったため、俺はルリーラ達が泊まるロッジに向かう。
「俺だ。入るぞ」
「いいよ」
ノックをし声をかけるとルリーラがすぐに返事をしたためドアノブに手をかけドアを押す。
「ダメだよ、ルリーラちゃん」
そのアルシェの言葉に誰かが着替え中かと気づいたが、しかしドアは何の抵抗もなく開く。
ロッジのリビングには全員が居た。
お出かけ用のお洒落な服を着たルリーラ達の中でただ一人だけ異様に肌色の面積が広い。
黒い髪に染み一つない白い肌。その頂点には枝分かれした二本の角。
グミは全裸でルリーラ達に囲まれている。
その周りに散乱する服は恐らく彼女に着せたもの。アルシェとミールが次に着せるらしい服をしっかりと握っている。
「あっ……」
俺の姿を確認したグミは顔を羞恥の色に染める。
「やっぱりだめ!」
「いやああぁぁああ!」
ルリーラが俺を追い出すための突進をすると同時に湖畔に響き渡る絶叫がこだました。




