龍の社に行こう その一
「なんで男と一緒に寝ないといけないんだよ」
「仕方ないだろ。俺が一人だと誰かしらが布団に潜り込んでくるんだよ」
俺は今夕食後にカルラギークで取っていた湖畔の側にあるロッジにフィルムと二人で居た。
全部で三棟ほど借りられており俺とフィルムの男二人でで一つ、ルリーラ達七人で一つ、イーシャ達三人で一つを使うことになっている。
カルラギーク軍全員が止まる予定だっただけあり、少数では部屋が余り過ぎるが変に喧嘩をされないようにするためこの部屋割になった。
ちなみにちゃんと一人一台ベッドはある。
「お前はそんな羨ましい状態になっているのか?」
フィルムは突然殺気立つ。
同じ苦労をしているのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
不味いこと言ったなと思ったが後の祭りだ。
「言え。全てだ。アルシェちゃんやフィルさんの大人ボディ、ルリーラちゃんやミールちゃんの未成熟ボディ、サレッドクインの健康ボディ、オレイカちゃんのギャップボディの全てを余すことなく俺に伝えろ。それが羨ましくも妬ましいお前がするべきこと全てだと理解しろ」
変態だな。
血走った目に荒い鼻息、前かがみの姿勢。まごうこと無き変態が今目の前にいる。
「イーシャさんに今のをそのまま伝えるぞ」
「なっ……、そ、それは、は、反則だろ、クォルテ・ロックス」
変態が一瞬で変質者に変化した。
泳ぐ目に、挙動不審な動き、どうしたらいいかわからずに空中に固定された手。
まあ、これなら確かにあの三人が来づらいのは仕方ないか。完全な抜け駆けになってしまうのだろう。
もしかしたら三人がけん制し合っているのかもしれない。
「俺はそろそろ寝るぞ」
「なんだ、もう寝るのか? 待てよ早く寝た方が恥ずかしがっているイーシャ達も俺を求めに来てくれるのか? そうか早く寝れば一晩は長いのか」
急に真面目な顔をしたが言っていることが最悪だった。
そんなフィルムを置いて俺は近くにあるベッドに寝転がる。
流石は国軍が止まる予定の部屋だ。変にかび臭くもないしバネが効いているらしく寝心地もいい。その辺の宿よりもランクは上ってことか。
「明日からお前達はどうするんだ?」
フィルムは妄想をやめたらしく、自分のベッドに座りこちらに話しかけてくる。
「明日は山を登る。龍の神を祭る場所があるらしいからな」
「勉強熱心だな。俺達とは違うのな」
「当たり前だろ。こっちは色々なものを見るたびに旅をしてるんだからな」
フィルムはなぜか感心したようにこっちの話を聞いている。
そう言えばこいつは自分のハーレムを作るために旅をしてるんだっけか。そのために世界を旅している。
「どこか良い所を知らないか?」
「俺が調べた限りではアリルド以外はないな」
他にいい場所があるならアリルドではなくそっちに向かっていた。
「そうなると、やっぱりお前を倒すしか道はないよな」
「それならウォルクスハルク様に相談してみたらどうだ? お前の神様だ」
「そうするか」
フィルム達の行先は火の国に決まったらしい。
それから俺は本を読み、フィルムは何かを考えており部屋には無音が響く。
やがてそろそろ寝るかと思った矢先、窓の外に一瞬何かが上から下に落下してきた。
ドンっと大きな音が響きロッジを大きく揺らす。
「なんだ今の!?」
フィルムは眠りに落ちかけていたところを起こされ反射的に起き上がり、音の正体を確かめるために窓際に走る。
俺は今一瞬だけ見えた何かを確かめるために武器を持つ。
あれは間違いなく人だった。
あんな着地の方法をするのは恐らくベルタだ。そして一番可能性があるのはパルプ。もちろんパルプがいるならクロアも当然いるだろう。
「人だぞ?」
「フィルムはルリーラ達とイーシャさんを呼んできてくれ。俺はこのまま確認に行ってくる」
そう言いロッジを飛び出す。
人らしい気配はあそこか。
何者かは未だに土埃に身を隠しているらしい。
「誰だ? こんな夜更けに何のようだ?」
盾と短槍を構える。
予想通りにパルプならこれで多少は対抗できる。クロアが居てもみんなが来る時間稼ぎくらいはできるはずだ。
「あの、道を聞きたいんですけど」
その声は少女のように聞こえた。どこか幼さの残る声音に俺は武器を下ろす。
やがて土埃が晴れるとそこに居たのは怪しい外套を着る誰かだった。
「その前に名前を教えてくれるか? 後はその服を脱いで」
武器は下ろしたが武装は外さない。クロア達なら声を変えるくらいの事はするだろう。
「そうですよね。でも、この下裸なんですけど脱がないといけないですか?」
幼い声は羞恥に震え始める。
なんか違うっぽいな。
油断はできないけど雰囲気が違う。血の匂いもしない。本当にただの迷子? いや、迷子はあんな登場しないよな。土埃を巻き上げるほどの落下を見せる迷子は普通じゃない。
「クォルテ、その子の服を脱がすの?」
「クォルテさん……」
「えー……」
最悪のタイミングから聞いていたらしい仲間達から軽蔑の言葉が飛んでくる。正確には嫉妬の言葉なのかもしれないが。
「悪い、全部じゃなくて顔だけでいいよ。ちょっと神経質になりすぎていたらしい」
「わかりました」
そう言って少女はフードを外す。
まず目に着いたのが木のように枝分かれした角が二本、黒い髪から伸びている。そして普段日に当たらないのか肌は真っ白で炎の様な真っ赤な目は怯えている。
「もう、いいでしょうか?」
「ああ、ありがとう」
身長から見るとアルシェと同じほどの年だろうか。だがこの雰囲気はルリーラと同じ年齢に見えなくもない。
そんな彼女は俺が返事をするとフードを再び被った。
「それで、私、その迷子で、道を教えていただけますか?」
幼く感じる正体はこれか。人に慣れていないような話し方のせいだ。
キュッと俯いてどこか落ち着かない姿が子供の様に感じるんだ。
「どこに行くんだ?」
武器をしまいながら話を聞くことにした。
「龍の神を祭るところへ」
「それって急ぎか?」
「いえ、別にそう言うわけじゃないです」
「じゃあ明日連れて行ってやるよ」
こうまでおどおどされると真偽のほどはわからないが、本当に急いでいるわけではなさそうだ。
それならわざわざ口頭伝える必要もない。一緒に行けばいいだろう。
「えっ、あっ、よろしくお願いします」
ぺこりと少女は頭を下げた。
「ご主人、また女の子を拾っていくの?」
「明日行くって言ったよな? 一緒に行くのは問題あるのか?」
俺が女性に優しくするとなぜかそう言う反応になるのが困る。
正直拾って旅をしているつもりはない。拾ったと自覚しているのはルリーラとアルシェくらいだ。他のは全部押し付けられたが正しい。
「フィルの言う通りだと思うよ、どうせ仲間にするつもりでしょ?」
「クォルテさんは私達を争わせたいんですか? これ以上のライバルは」
フィルを皮切りに全員が詰め寄ってくる。
その様子に少女は俺から距離を取った。そんな気がする。
「そうだ、お前の名前は?」
ナンパだなんだと後ろで言われるが構わずに俺は聞いた。
名前も知らないのはやっぱりよくない。
「私の名前は。グミ・カートリッジです」