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泉の国の休暇

「俺達の勝ちだな」


 森に突っ込んだ二人は一本の木にぶつかりひっくり返っていた。


「うるさい。今回は俺達の負けだが、次は負けない」


 フィルムの顔に座るように気を失っているイーシャさんを起こす。


「さっきの魔法は流石に危なかったぞ」


 イーシャさんを一緒に探しに来ていたルリーラに渡し、上下逆さまにひっくり返っているフィルムを見下ろす。


「まさか、あの魔法を使って負けるとは思わなかったよ」


 足は天を向き頭は地面に向く。正に敗者と言った状態でフィルムがニヒルに笑う。


「それからあの最後の加速は流石だったな。危なく負ける所だったよ」


 ひっくり返っているフィルムに手を差し伸べることなく俺はさっきの戦いを褒め称える。


「だが、それもお前の作戦だったんだから俺の負けだ」


 天を向く足には木の蔦が絡まりわずかに浮いているフィルムの頭は、地面に辛うじてついていない。


「それとあの火球は凄かったな」


「って助けろよ! 俺待ってただろ、イーシャを助けたみたいに助けろよ!」


「結構お前が乗ってくれるから、どこまで行くかと期待していたんだ」


 どうやったらそんなにきれいに絡まるのか、フィルムの足に巻き付いた蔦はなぜか腕まで綺麗に巻き込み罪人が吊るされている様に見えなくもない。

 上から落下した際に手足が軽く絡まっている。

 そして捕縛の最後の締めをフィルム自身の体重が行っているらしく、両手両足は綺麗に縛られ見本の様な逆さづりの格好になっている。

 運が良いのか悪いのか辛うじて地面についていないために落下でのダメージもなさそうだ。


「この光景をどうにか記録できないだろうか」


「いいから助けろよ、段々と手足が冷えてきてるんだよ。頭だって血が上ってるんだぞ」


「逆さまで血が上るのはおかしいんじゃないか?」


「んなことどうでもいいだろ! 人間の上は頭なんだから血が上るで合ってるだろ!」


 こいつ意外と余裕があるんじゃないだろうか。


「それはそうと自分の魔法で焼ききれるだろ」


「……」


 冷静にさっきのは突っ込めたのに、これには気づかなかったらしい。

 俺に指摘され炎を出し、蔦を焼き切ると体が地面に落ちる。

 そして何事もなかったように立ち上がる。


「今回は俺の負けだ」


 そして急に血液が循環を始めたためか、恥ずかしさのせいなのかフィルムは顔を真っ赤にし捨て台詞を吐いてみんなの元に戻って行った。

 大して破損がなさそうな船を持ち俺もみんなの元に向かった。

 流石にこれ以上は可哀想なので今の事は俺の胸の中にしまってあげることにした。


 対決を終えた俺達は泉の国で今夜使う食材の買い出しに来ている。

 泉の国は街自体には大して目を見張る部分はない。

 至って普通の街並みだ。レンガ造りの家に石細工の床、先の魔獣が無ければ災害もない平和な街だ。

 他よりも珍しいことがあるとすれば国中の至る所に点在する泉や湖があること。それに付随する形で発展しているのが案内所。

 オールスでもあったように規模などを考え観光客に案内をする施設が何か所かある。

 そんな風に発展した経緯から泉の国と呼ばれている。


「――とまあそんな国だぞ」


「へえ」


 街を歩いている間に、ルリーラが泉の国がなんでそう呼ばれているかを聞いたため答えたのだが適当に流されてしまう。


「クォルテさん。この国には最初から泉があったんですか?」


「なかったらしいぞ。最初から何個かはあっただろうけど、今ある湖の大半は昔あった戦の爪痕だ」


「戦なんかあったのか? 僕の記憶だとここニ三百年はこれほどの跡が残る戦はなかったはずだが」


 国の成り立ちに興味はないサラが話に入ってきた。


「そんな近代の話じゃないからな。おとぎ話ほど昔だ。神同士が戦をしていた時代だな」


 今でこそどの属性の魔法使いはどの属性の国でも入れるが、その戦の時代は自分の属性の国にしか入れなかった。

 別の属性とバレれば即処刑。そんな時代が太古の昔にあった。


「確かにその時代ならこの規模の穴位は開くだろうな」


 その歴史を知っているサラはそれで納得する。


「神様ってやっぱり凄いね。私にはこんな穴無理だよ」


 いつも戦いの度に地面に穴を開けているルリーラが感心する。


「でもこの湖は神の仕業じゃないぞ。龍だ」


 俺のその言葉に全員が俺を向く。

 サラもミールもその話は知らなかったらしく首をかしげている。


「龍ってクォルテが使ってるあれ?」


「まあ、あれもそうらしいが正確には知らない。見たこともないしな今現存しているのかも怪しい」


 水の神辺りは知っているかもしれないが、おそらくはぐらかされるだろう。

 それに調べても歴史にたまに登場するだけで、どこにも記録は残っていない。

 だから俺はもう絶滅した種族だと思っている。


「ってことはその龍がここにこんなに湖を作ったの?」


「そうなるな。そうなるともう一個珍しい点はそこだな。この国は世界中を見ても稀な龍の神を信仰している国でもある」


 強い存在が出てきたことによってルリーラもこの国に興味をもち始めたらしい。


「そうなんですね。泉の国ってことは水の神を信仰していると思ってました」


「水の神も信仰してるぞ。というより今はほとんどが水の神を信仰している。それでも昔からこの国に住んでいる人達にとっては重要な存在ってわけだ」


「旦那様は何でも知っているのだな」


「こういう旅に出ているんだ、色々調べるさ」


 今でも移動中にはたまに書物を読んだりしている。観光案内の本に歴史や地理、その合間に魔法の研究もしている。


「私もクォルテさんに本をお借りしていますが今の話はありましたか?」


「無いな。これはロックスの家にあったもので読んだ。龍ってカッコいいからつい読みふけって覚えたんだ」


 俺がそう言うとフィルがにやにやとしている。


「ご主人にもそういう時期があったんだ、男の子って感じだね」


「悪いかよ。子供の時の話だ」


「もしかして、ご主人が水の龍をよく使うのってさ」


「強いからだ。俺の魔法の中では強いから切り札に使うようになったの」


 それも本当だ。だが今でもカッコいいと思っているし、そう思って練習を続けた結果強くなった。

 未だにからかいたそうに、にやにやとしているフィルにこれを教えるのは嫌なので、俺は誤魔化す様に話を変える。


「それよりも食材だろ。アルシェ、今日は何を作るんだ?」


「そうですね、せっかくなので魚料理にしようかと思います」


「お肉がいい」


 アルシェがそう言いルリーラが乗ってくると話は夕食の献立に移る。

 それを見ていたフィルは、上手に逃げたね。と全てをわかったようにしながら話の輪に入っていく。

 やっぱりこういうことに関してはフィルの方が圧倒的に上手だ。


 俺達はそのまま近くの食品店で魚料理に必要な物を買いそろえ、

 今日泊る宿に戻ることにした。

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