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泉の国での対決 その五

 圧倒的に有利なまま俺達は先に入り江に入る。


「浅瀬があるから少し左だ。乗り上げないように気をつけろよ」


「岩礁に乗り上げても動けるから平気!」


「そうじゃなくて時間のロスになるからだ」


 確かに魔力で強化された船が岩礁で壊れるなんて思ってもいないが、十分な時間のロスになることは明白だ。

 それなのにわざわざ岩礁に乗り上げる必要はない。


「ちょっとフィルム。ちゃんと岩礁がない所。教えてよ」


 イーシャさん可哀想に。

 フィルム達は岩礁に乗り上げたようでガタガタと音を立てながら陸路を進んでいる。


「ああなりたくなかったら言う通りに動けよ」


 後ろの失敗が聞こえたのか、オレイカは俺の言う通り少し岸から離れるために左に舵を切る。

 不意打ちでその辺りに岩礁にぶつかりながらも俺達は入り江を抜け出す。


「少し右に曲がってそこからは直進。あんまり右に行き過ぎるなよ」


 俺の指示に従いオレイカはコースを進む。

 俺達から送れフィルム達も入り江を抜ける。

 最初の関門を超えたところでフィルム達に変化がある。


「イーシャ、もう少し左だ。右には岩がある、次は右だ、そこからは全力で進め。しばらく岩はない」


 フィルムの指示が細かくなってくる。

 フィルムは水面すれすれに顔を近づけ、岩の位置を確認しながら進路を決めている。驚くほどに丁寧で目に見えた事実を全て言葉にし指示を出す。


 本気だな。

 俺達の間にほとんど差が無くなり始める。

 手を伸ばせば届くほどに近づき、俺達の隣に並ぶ。


「追いついたぞ。クォルテ・ロックス」


 水面だけを見てこちらに言葉を飛ばす。

 その顔は真剣そのもので茶化す気にはなれない。


「フィルム本気でやりあわないか?」


 俺は面白くなってきて提案する。


「妨害あり。二人の目隠しも外して本気で戦う。それで最初に着いた方の勝ち」


「いいぜ。クォルテ・ロックス受けて立つ」


「二人とも目隠し外していいぞ」


 何か言いたげな二人だが大人しく目隠しを外す。


「王様、本気なの?」


「もちろんだ。ちょっと楽しくなってきた」


 俺が笑うとフィルムも笑う。

 戦場の対決にこいつもわくわくしているのだろう。


「フィルム、相手は水の魔法使いですよ」


「イーシャ悪いな、俺も楽しくなってきた。船のぶつかり合いなんてやってられないくらいに」


 先を進む二隻の船は同時に浅瀬に到達する。


「炎よ、爆炎よ、地を抉れ、ボム」

「水よ、激流よ、道を作れ、ウェーブ」


 二人の呪文が重なる。

 フィルムの魔法は浅瀬の岩を砕き自分達の行き先を確保する。

 反対にこちらは水の量を増やし船底が岩にぶつからないように回避する。


「まだ行くぞ。炎よ、無数の爆炎よ、地を抉れ、ボムレイン」


 呪文の通り無数の炎の塊が空中に浮かぶ。

 太陽よりも眩しく輝く炎の塊は俺達に向かって雨の様に俺達に降り注がれる。


「地よ、土塊よ、我らを守る盾となれ、クレイマン」


 船の操縦をやめて唱えたオレイカの魔法により、岸の土は大きな土人形に変わる。

 土人形はそのまま生えている木を抜くと、火球に向かってその木を振りぬく。

 その振りぬいた衝撃は風となり湖に波を立てる。


「風よ、暴風よ、我が敵を土に返せ、テンペスト」


 全ての火球が打ち落とされる前にイーシャさんの魔法が発動する。

 暴風に巻き込まれた土人形は土に戻り、いくつか火球が残る。


「船を打ち落とせ!」


「止まるな進め」


 俺の言葉にオレイカは反応し船を動かす。


「無駄だ」


 船は暴風に煽られ思うように動けない。そんな風に見えている。

 俺達の船は波に流されるようにコースを進んで行く。

 高く動く波は船を動かしながら火球から俺達を守る様に激しくうねる。


「さっきの魔法か」


 フィルムはそこに気が付いた。

 この波は暴風だけが原因じゃない。俺の魔法がまだ働いている。

 水の流れを自分達には有利に動かし相手には不利なように動かしている。

 ここまで魔法の乱発になるとは思っていなかったが、今回はいい目くらましになった。


「炎よ、爆炎の龍よ、我が宿敵を討ち滅ぼす兵器よ、我が命に従い邪悪な姿を我の前に示せ、ファイアドラゴン」


 呪文によって生まれる炎の龍。丸太の様な足を携えトカゲの頭を持つ俺とは違う炎の龍。

 全身を真っ赤に燃やし背中に生えた巨大な翼で空中を漂う。

 本気の魔法か……。

 熱量がすさまじく炎の龍の空気が熱され蜃気楼のように歪んでいる。


「勝負だ、クォルテ・ロックス」

「フィルム、クォルテさんを殺すつもり!?」


 イーシャさんの言葉にフィルムが笑う。

 その顔は暗にこの程度で死なないよな。と語り掛ける。


「わかったよ。こっちも全力だ。水よ、龍よ、水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、災厄の名を背負いし者よ、我の命に従い顕現せよ、アクアドラゴン」


 湖の水を使い水の龍が姿を現す。

 水が流々と姿を変え一頭の透明な龍が生まれる。

 鱗を携え蛇の様に細長く、頭には枝分かれした角が二本。

 水と炎の龍は互いに動かない。


「先に打って来いよ。先手は譲ってやる」


「それは太っ腹だな」


 それを皮切りに二頭の龍はぶつかり合う。

 最初に炎の龍が火球を吐き出す。普通の火球と思ったがそれは目の前で十近くに分かれる。

 小さくなった火球は全て水の龍にぶつかるが、大して戦力を削れはしない。

 俺は水の龍に命令を出し、炎の龍に水の龍をまきつかせる。


 炎と水がぶつかり互いが互いの力を奪い、猛烈な蒸気を巻き起こす。

 靄の様に煙が上がり互いの龍は攻撃を続ける。

 炎の龍が掴み噛みつくと水の龍もまた炎の龍に噛みつく。

 血のように炎と水を体外に吐き出しそれらも互いにぶつかり蒸気に変化する。


「フィルム」


「どうした良い所だぞ」


 そう良い所だ。

 互いの龍が鎬を削り戦いあう。周りが見えなくなるほどの蒸気を上げながら。


「クォルテさん達が最後のあのでっぱりまで行ってます」


「はっ?」


 俺達は最後の難関に差し掛かっていた。

 針のように湖にせり出す難所、そこを慎重に曲がり終え後は難所はない平坦なコースを残すだけだ。


「王様はよく私に反則だって言えたよね」


 半眼でこちらを睨むオレイカだが、俺は何もルールに反していない。


「勝手に向こうがその場にとどまって対決しただけだぞ? 俺はちゃんとレースをしている。向こうが勘違いしてるだけだぞ」


 俺の自己弁護はオレイカには効かないらしく鋭い視線は変わらない。


「まあ、向こうが止まったのには驚いたけどね」


「だろ? 向こうが勝手に魔法勝負にしたんだし俺には関係ないから。俺は最初からレースで勝負してた」


 オレイカは俺が言うことを理解はしても、納得はしていないようで腑に落ちない表情で船を進める。


「それにこれくらいはハンデだよ」


 俺がそう言うとオレイカは首をかしげる。


「いいから全力で船を漕げ。今度は俺が妨害して後ろの進行を止めるから」


 俺達の後ろからフィルム達の船が猛スピードで向かってくる。

 波をものともしない速度の進行に俺は呪文を唱える。


「水よ、波よ、流れを変えよ、ウェーブ」


 湖に波を発生させる。一か八かの賭けになるが勝率は悪くないはずだ。

 フィルム達には荒波を、俺達には安全なルートを作る。


「イーシャ最後だ。全力で行くぞ」

「わかってるよ!」


「いいのか全力で」


 俺はすぐ後ろに迫るフィルム達に声をかける。

 もちろん煽るように話しかけると、フィルムは波の理由に気が付かない。


「構うな行け。ここで手を緩めると俺達の負けだぞ」


「うーん、わかった! フィルムに乗るからね」


 最後までイーシャさんは悩んだが、最終的にフィルムの意見に賛成した。

 イーシャさんの魔力が船に注がれる。発光するほどに魔力を注入された船は煙を上げ加速する。

 そして俺達を追いこしそうなほどに接近しフィルム達の船は空中に浮いた。


「えっ?」


「やっぱり作戦ですよね……」


 そのままカーブ間際での急加速に俺は高波を合わせた。

 そしてそのまま宙に投げ捨てられたフィルム達は湖の側にある森に突っ込んでいった。


「これなら文句はないだろ。こっちの作戦勝ちだ」


「そう言うところが私達にああさせたんだと思うよ」


 オレイカはそう言いながらも船を動かし俺達が一番にゴールした。

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