表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/174

泉の国での対決 その四

「フィルム、すまない」


 俺達がゴールした後にフィルム達は半周もしないまま戻ってきた。

 対決にもならないその現状に俺は素直に頭を下げる。


「正直びっくりしたぞ。早いどころじゃなかった」


「私もです。あの速度で突っ込んでこられるとは思ってもみませんでした」


 落ち込むよりも呆然としている二人は愚痴をこぼす。


「オレイカ、なんでこんなことをしたんだ?」


「なんでってミールが、兄さんを必ず勝たせるために、急加速の機械を作ってください。って言ったからその通りにしただけだよ」


 犯人はミールか……。

 それにしてもなんでオレイカはその言葉を信じて作ったのか……。


「フィルムすまないな、俺の従妹がやらかしたらしい」


「そうみたいだな。あんまり怒らないでやってくれ。さっきのは仕切り直しでいいんだろ?」


 俺とのやり取りでは小物なのに女が絡むと器が大きくなるんだよなこいつは。


「ミールちょっと来い」


 とりあえずオレイカへの説教は後にしてミールからだ。

 今回の対決でミールは参加を辞退した。疲れていると思いそれを了承したが、どうやら裏で糸を引くつもりだったのだろう。


「なんでしょうか兄さん」


 何も悪ぶれない従妹に頭にずきずきと痛みが現れる。


「俺は今回結構真面目に対決を受けたつもりなんだがな」


「はい。知っています。なので兄さんの流儀で私も対応しましたよ」


「俺って普段こんなか?」


「はい。ルールの裏を突いてギリギリ反則を取られないラインを見つけ、そこのギリギリを常に攻め続ける戦い方が兄さんらしい戦い方です」


 俺はそんなはずはないと思ったが、仲間が全員頷いた。


「すまない。どうやら俺が全面的に悪いらしい」


 俺はフィルムに深く頭を下げる。

 ミールの言う通り俺はそう言う戦い方だったらしい。地の国でもそう言う戦い方だったし普段の戦いでも俺は相手の意表をついてきた。

 それが仲間に波及していたのだと考えれば俺が悪いのは道理だ。


「別に構わないさ。今度は真剣勝負だ。道具の使用は不可でいいだろう?」


「最初からそのつもりだったんだけどな」


 誰にも聞こえないように俺は呟く。


 改めて船に乗りこむ。


「今度はこの船だけに魔法を使ってもいいんだよね」


 目隠しをしオレイカも船に乗り込む。

 おっかなビックリの様子で船に片足を乗せると、船が揺れる。


「おっと」


 船が揺れバランスを崩したオレイカの手を取る。

 オレイカの白い手を掴むと、そこにはオレイカの胸が目の前にあった。

 立派に育ったたわわな果実は肌と同じ純白の布に包まれ、船の揺れに合わせ俺の目の前で小さく動く。


「王様ありがとう」


 そう言いながら慎重に動き少しだけかがむと、二つの白い山の間にある深い谷間が俺の眼前に迫る。

 その谷間に落ちてしまいたい欲求にかられる。

 思わず凝視してしまいダメだと目を反らそうと考えるが、今俺が凝視していることに気付いている人間が誰もいないことに気付く。

 他の連中はオレイカの影になり俺を見ることはできず、オレイカ本人も目隠しをしていて見えていない。

 それなら俺は誰に遠慮して目を反らすというのか。

 手を出さないと決めているだけで見るくらいならいいのではないか。と自問自答する。


「王様?」


 急な呼びかけに俺の思考が眼前に戻るが、そこには大きな深い谷間がある。


「どうした?」


「船が揺れるから手伝ってくれる?」


 そう言ってもう片方の手も俺に差し出してくる。

 俺はおう。と返事をしもう片方の手も掴む。

 白い肌は一流の職人とは思えないほどに滑らかで柔らかい。


 そして今現状がいかがわしい状況だと気づく。

 目の前の白銀の狼の耳と尻尾を持った巨乳の美少女が目隠しをされたまま船に乗せられている。

 さっきは何も思っていなかったが、これは中々に嗜虐心を刺激する。

 最近の激闘に我慢をし続けた俺の妄想が広がる。


 いやいや、それは良くない。手を出していなければ何をしていいというわけではないのだ。

 落ち着け。落ち着くんだ。

 溜まりに溜まった衝動を胸の奥にしまい込んでしっかりと蓋をする。

 ようやく桃色の思考から俺は抜け出す。


「王様、どうしたの? 早く引いてよ」


 抜け出した安堵から気が抜けていたので咄嗟なその言葉に俺の体は反応する。

 力の入りすぎた引きはバランスの悪いオレイカの体を、真直ぐ自分に引き寄せてしまう。


「あっ」


 当然オレイカはバランスを崩し俺の方に倒れてくる。

 妄想の通りに俺の顔はオレイカの深い谷間に吸い込まれていく。

 弾力があり柔らかい膨らみが俺を飲み込む。

 オレイカに乗られてしまう俺はバランスを崩してしまう。


「えっ」


 誰の声かわからない声が聞こえると船が大きく傾く。

 そのまま船は縦になると俺は後頭部から湖に突っ込んだ。


 冷たい水に包まれ太陽の光が乱反射する水面を眺める。

 煩悩なんてろくなもんじゃないな。

 美しい自然の光景が俺の矮小さを明らかにしてくれた。


 完全に煩悩が退散し俺はオレイカの手を引き岸に上がる。


「何があったの?」


 全身がずぶ濡れになったオレイカは目隠しを外す。

 フルフルと動物の様に頭を振り水を払う。


「クォルテ、何してるの?」


 ルリーラ達が近寄ってきて俺を陸に引っ張り上げてくれる。


「フィルムさん達も落ちちゃいましたし疲れてますか?」


 アルシェがそう言い、俺はフィルムを見る。

 そこには俺達から少し遅れ水面に顔を出すフィルムとイーシャさんがいた。

 それに気が付いたフィルムと目が合う。

 フィルムの顔は清々しく、何かを悟ったような顔をしていた。


 俺はすぐにフィルムも同じ状況にあったことを悟る。

 俺と同じく、イーシャさんの胸に目を奪われ湖に転落したのだ。

 俺とフィルムはこの瞬間心が通じたのだ。


 それから俺達は船に乗り直す。今度は転覆することもない。

 悟りを開いた俺とフィルムは今更煩悩に取り込まれはしない。


「フィルム、正々堂々決着をつけようぜ」


「そうだな。これで決着だ」


 二人はレースに勝つために前を見据える。

 俺達の目にはもはやコースしか見えていない。


「なんか怖いんですが大丈夫ですか?」


 俺とフィルムはそんなことを言うミールに頷く。

 俺達二人の顔を見たミールは若干後ろに下がりレースのスタートを切る。


「よーいドン」


 外周に沿っているのはフィルム達で俺達は内周に居る。

 両者ともに順調な滑り出しで最初のカーブを曲がっている。

 この勝負の難関は全部で三か所、船が二隻すれ違うことができない小さな入口の入り江、岸に近く湖底が浅い浅瀬、そして岸が一か所だけ突き出しており直角に曲がっているカーブ。

 最初のなだらかなカーブを曲がると最初の入り江が近づいてくる。


「オレイカ、岸側に近づけろ」


 この入り江に先に入るには岸側に近づくのが一番だ。

 先に侵相手の妨害と入り江の入りやすさのために、フィルム達の船を退かしながら船を進める。


「イーシャ、全力で前に突っ込め」


 入り江に俺達が入る少し手前でフィルムはそう指示を飛ばす。イーシャさんは一瞬のためらったが言われるままに加速する。

 なるほど、俺達をはじいて先に中に入るためか。

 俺達を先に入れないために後ろから押す。そうすることで俺達は入るために少し時間をかけないといけない。


「オレイカ、停止! そんで船を守れ」


 だけど甘い。俺はぶつかる直前に船を止める。

 その直後にフィルム達の船が激突してくる。

 両者の守りは完璧で船に傷はないまま、フィルム達の船に押される。


「今だ右に曲がれ」


 俺の指示で俺達の船は小さな入口へ先に侵入する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ