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泉の国での対決 その三

「サラ、一体何がどうしたら今のが勝ちになるんだ?」


 あっけに取られて一分ほど、俺はサラに今のどこが勝ちになるのかを聞いた。


「最初に旗へ触れた者が勝者で、僕の攻撃が先に触れた。誰がどう見ても僕の勝ちだろ」


 なるほど、確かにルール通りだ。

 誰も手で触れた方が勝ち。そうは言っていない。

 ルール通りでやって機転を利かせて勝利したと、サラは胸を張って答えた。


「誰もとんちを聞かせろなんて言ってないからな」


 だが確かにこの短距離で茶髪が黒髪に勝てるはずもない。

 サラなりに何とか勝とうと考えた結果なのだろう。


「サラはこう言っているが、どうする?」


 フィルムに話を振る。

 俺は考えた末の作戦とみなしてやりたいが、相手側が不服を感じたなら素直に負けを認めようと思った。


「いいんじゃないか? 確かに手で触れたらなんて言ってないしな」


「なら一本目はサラの勝ちってことでいいのか?」


 フィルムが頷いた。

 向こうが了承してくれるなら、俺としてはこっちが勝っているので別に異論はない。


「だが、次からは普通にやって――」


「あの、ロックスさん」


 リースが突然手を挙げフィルムの言葉を遮った。


「やっぱり納得いかないか?」


 あんな反則紛いの行動をされれば文句も言いたくなるだろう。

 そう思い聞いたが彼女は首を横に振る。


「ちびっ子は今の攻撃よりも先に旗を手に入れましたか?」


 真剣な表情での質問に俺は少し考える。


「たぶんな。ルリーラならできると思うぞ」


 親バカの様な発言をしてしまったが、ルリーラなら何が何でも先に手に入れていたはずだ。


「わかりました。次も今と同じルールでいいです」


「おい、リース」


「フィルムくん。私あのちびっ子には負けたくないの。あいつにできるなら私にもできる」


 心配して声をかけてくれたフィルムの言葉をリースは強い眼差しで拒否した。

 ガリクラでの因縁はまだ続いているらしい。大人しい見た目に反して随分と交戦的だな。


「ねえ、サレッド私と変わってくれない?」


 近くに寄ってきたルリーラがサラにそう提案する。


「それはできない。この勝負は僕の勝負だ。勝手に入ってくるな」


 サラはそう言ってルリーラの提案を拒絶する。

 サラの目に火が灯った気がした。


「旦那様、僕の居合はルリーラにも負けないし、リースにも負けない。誰よりも早いのは僕だ」


「そりゃあ悪かったな」


 サラもサラで負けず嫌いだ。

 リースと俺の言葉でルリーラに負けていると言われ、内心穏やかではないらしい。

 そして二人は再び位置に着く。


 妙な組み合わせになってしまった。と腹這いになる二人を見て思う。

 互いに相手を敵対視しているわけじゃない。互いが敵の向こうにいるルリーラを見て戦いに挑む。

 レクリエーションとは思えないほどに殺気が滾る二人は、どの姿勢が一番自分に合っているかを探っている。


 二人が完全に動かなくなるまで誰も言葉を発しない。

 異様な緊張感の中ようやく二人の動きが止まる。

 サラは肘を少し曲げ右手で刀を握り左手で鞘を握る。

 対するリースは自分の腹の横に両手をついている。


「よーいドン」


 反応が早かったのはサラだった。

 手を軸に半回転するとすでに居合の構えになっている。


 対するリースも片腕を軸にし立ち上がり、回転を殺した足を軸に旗に向かっていく。

 一歩踏み出し距離の半分を稼ぐ。

 それと同時にサラは刀を抜く。

 しかし、サラの居合は失敗した。


 体勢が悪かったのか足を滑らせたせいで、鞘から抜く加速が出来ずそのまま倒れ込んでしまう。

 急いで立ち上がるが、立ち上がった時にはリースがすでに旗を手に入れ仲間達と喜んでいた。


「大丈夫か?」


 俺が声をかけると、サラはうつむいた。


「申し訳ない」


 陰鬱そうに頭を垂れるサラの頭を俺は叩く。

 ぺちっと軽い音が鳴り、サラが目を見張る。


「いきなり何をするんだ」


 突然の俺の一撃に周りが注目する。

 何もわかっていないサラにもう一度一撃入れる。


「だから何だ!」


 まるでわかっていないサラは俺が叩いたことを責める。


「緊張しすぎ。立ち上がった時力が入りすぎだ。そんな居合なんてアルシェでも避けれるぞ」


「そうかもしれないな」


「そもそも別に勝たなくてもいい勝負なのに何を気にしてるんだ? これに負けても死にはしないし仲間がいなくなるわけじゃない。それと、お前は誰が相手かわかってるのか?」


 そう言われ、サラは改めてリースを見た。

 自分よりも小さな少女を見て、改めて刀を握る。


「旦那様、今の発言一つ言い返したい。この世に勝たなくていい勝負はない」


 サラの目に映る灯は静かに激しく燃えている。

 これで変な失敗はないだろう。後は本当の実力勝負だ。


「そうだな。その通りだ」


 満足気な笑顔を顔を向けるサラは三度うつぶせになる。

 始めから刀を腰に結び、リースと同じように手をつく。

 その姿にリースもうつぶせになる。


 準備が整ったことを確認し、俺は三度目の勝負の開始を宣言した。


「よーいドン」


 今回は初めてサラが先手を取った。

 いち早く立ち上がり刀に手を置く。そこから腰を回し鞘を加速装置に刀を抜き出す。

 そしてサラにわずかに遅れリースが寝たまま反転する。

 足を地面に擦りながら、寝たままの姿勢からのスタートダッシュ。

 サラの居合から生まれた斬撃は、一直線に進む。

 しかし、そこまでしてもリースに一歩及ばない。

 リースが先に旗を手に取り天に掲げる。


「リースの勝ちだ」


 俺がそう宣言すると、リースは喜びフィルム達の元に向かう。

 そしてサラは負けを噛み締めるように天を仰いだ。


「おしかったな」


「負けは負けだ」


 サラはそのまま湖に入る。

 少し潜り、やがて浮上する。


「僕もまだまだだったってことだな」


 そのまま目を瞑ると水がサラの頬に流れていく。


「これで一勝一敗だぞ。クォルテ・ロックス。次で雌雄を決しようじゃないか」


 しんみりとした雰囲気をフィルムは盛大にぶち壊す。

 カッコよく決まったと一人悦に入るフィルムを見るみんなの目は冷たい物になっていることに気づきはしない。


 一勝一敗で来た最終決戦になった。

 オレイカの作った船は後方に舵があり、その舵に魔力を流すことで両脇にある羽が動く仕組みだ。

 その船をを二隻並べフィルム達に選ばせる。


「一応どっちも同じように作らせた。だから好きな方を選べ」


 白と黒の船が並ぶ中フィルムはしばらく悩む。

 俺としてはどっちも同じなので早く決めてもらいたいのだが、先の二戦でこちらがやらかしているのでしっかりと船を二隻比べている。


「よし黒にする」

「じゃあ、俺達は黒だな」

「いや、やっぱり黒だ」

「じゃあ、俺達がし――」

「やっぱり俺達が白だな」


 そんなやり取りをしばらく繰り返しようやく最初に言った黒を選択した。

 そこまで疑心暗鬼になられると態度を改めないといけない気になってしまう。


 それから二隻の船を並べ、俺達は乗り込む。

 フィルム達の船にはフィルムとイーシャさんが乗り俺達の船には俺とオレイカが乗る。


「ルールはこの湖の外周を一周してまたここに戻ってくること。俺とフィルムは指示役で実際に船を操作するのはオレイカとイーシャさん。そんなところか?」


「妨害はありなのか?」


「無しだ。船が壊されてしまうからな。魔法は自分の船にのみだ」


「よし、なら大丈夫だ」


 俺が参加する以上スタートの合図ができないため、ミールがスタートの合図を出す。


「よーいドン」


 最初に動き出したのはフィルム達だった。船に魔力を込めるとフラフラとしながら、順調に進んで行く。

 そしてなぜか俺達の船は動かない。


「オレイカ早く動かさない……と……?」


 オレイカは目隠しをしたまま船に一個の機械を装着した。

 俺の目が確かなら、それには船に最初からついている物とは別の推進力になるような立派なプロペラが四枚付いている。


「よし。行こう」


 オレイカがそう言うと急激に魔力がその機械に流れていく。それを原動力にプロペラは回転を始める。

 そして急加速を始めあっという間にフィルム達を追いこしていく。


「オレイカ早い、ぶつかる」


 カーブを曲がり切れないような速度を出しているが、船はなぜかガリガリと音を立て岸を削りながら進んで行く。

 そして俺が指示をする暇もないまま外周を道標に、俺達の船は外周を一周しスタート地点に戻ってくる。


「王様、私達の勝ちだよ」


「いや、間違いなく俺達の負けだろ……」


 またも俺達は因縁を付けられるような結果を残してしまった。

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