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そして俺は王になる

 アリルドとの対決の後は大騒ぎだった。

 城が穴だらけになるほどの爆発に城の前はたくさんの住人に埋め尽くされた。

 そしてそこから出てきたのは俺達と瀕死(ひんし)のアリルド。


「退け、怪我人(けがにん)だ!」


 何が起こったかわからない住人も、無敵(むてき)と思っていたアリルドのボロボロな姿に大人しく道を空ける。


「アルシェ、治癒(ちゆ)魔法は使えるか?」

「申し訳程度なら」

「俺も得意じゃない」


 治癒魔法に強いはずの火と水の使い手がこれか……。


「俺よりもアルシェの方が効果は高いだろう、頼む」

「わかりました」


 アルシェの邪魔にならないように魔法が使える俺はアリルドから離れ担ぐ役目をルリーラに任せる。


「炎よ、再興(さいこう)の炎よ、彼の者の体を(いや)せ、フレイムキュア」


 アルシェから生まれた炎はアリルドを包み込む。

 俺の刺した傷が塞がり、最後の爆炎に包まれた火傷は炎に包まれるとポロポロとかさぶたとなり落ちていく。


「これ以上は無理です」

「ありがとう、ここまでできれば病院でなんとかなるだろう」


 アルシェの指示に従い病院になんとかアリルドを運び出すことができた。


「お前さん達がこいつに勝ったのかい?」


 ここの病院は、奴隷でも貴族でも(へだ)たり無く治療してくれると評判らしい。

 そこの看護師をしているという婆さんが驚きながら質問をする。


「この治癒は誰がしたんだい?」

「私です」


 怒られるのかと思っているアルシェはおずおずと手を上げた。


「及第点だよ。危ない所のみの治癒がちゃんとできているし無理だと思ったところは血を止めているだけだ」

「ありがとうございます」


 褒められたのが嬉しいのかアルシェは頬を赤らめる。


「後はそこの嬢ちゃんもおいで。見てあげるよ」

「私は平気だから」


 流石に疲れているらしいルリーラは椅子に座ってぐったりしている。


「嘘を言わないでこっちにおいで」


 婆さんに呼ばれ移動するルリーラの動きがおかしいことに今更気付く。

 左半身を庇うような歩きに俺が気づかなかったことに奥歯を噛む。


「骨はひびが入ってるね、後は打ち身かベルタの嬢ちゃんがここまでとはこの男も手加減ないね」


 俺はベルタだからと楽観していたのかもしれない。

 あれほどの怪力無双(かいりきむそう)絶対強者(ぜったいきょうしゃ)の攻撃を一番前線で戦っていたルリーラが大丈夫なはずはない。


「気づいたようだから私からは一言だけだ、もっとこの子たちを見てやんなよ。この子達の主人なんだろ」

「はい……」

「よし、じゃあ怪我人以外は出て行きな。この病院の主治医のお出ましだよ」


 どんな人物が出てくるのかと思ったら出てきたのはヨボヨボの爺さんだった。


「怪我人を、見せなさい」


 プルプルと震える医者に不安しかないが、次の瞬間空気が変わる。


「嬢ちゃんには魔法でいいね、こっちは魔法より自然治癒の方がいいの」


 一瞬で見終えたらしい医者は呪文を唱える。


「水よ、癒しの水よ、破壊されし個所を繋げ、ウォーターヒール」


 ルリーラの体が水に包まれたかと思うとルリーラの体に吸収される。

 すると打撲で青くなっている部分はもとの肌の色を取り戻す。


「若い子にはおまけで体の汚れも取っておいたから、家族の元にお帰り」

「あ、ありがとう」


 瞬く間に治った傷に驚くルリーラはぽかんとした様子でこちらを見てきた。


「そこの青年も、二人を連れて帰りな、この坊主は明日まで目を覚まさないから」

「あんたが今からこの国の王なんだろ、早く宣言してきな」

「わかりました。ありがとうございました」


 不器用なのか早く行けと手で払う仕草を受け病院を後にした。


「ルリーラ、ごめんな気づいてなかった」


 ルリーラなら大丈夫だろうと、勝手に思い込んでいた俺は素直に謝る。


「じゃあキスして」

「わかった」

「えっ?」

「クォルテさん?」


 俺はルリーラを抱き上げる。

 きめ細かい褐色の肌を赤く染め、クリクリの大きな目は動揺(どうよう)しているのか焦点(しょうてん)が合っていない。


「クォルテ、本気?」

「お前が言ってきたんだろ?」


 慌てて動けないルリーラは俺が顔を接近させても逃げずにいる。

 そんなルリーラの額にキスをした。


「額……」

「口には流石にしないだろう」


 安心したのか期待外れなのか、アルシェは何とも言えない微妙(びみょう)な表情をしていた。

 二人が世界を見るまで俺は二人には手を出さない。だけど家族のスキンシップくらい良いだろう。


「ふしゅぅぅぅぅ……」


 そんなアルシェとは別に、ゆでだこの様に顔を赤く染めたルリーラは目を回しながらぐったりしていた。


「こうなったか……」


 流石にこうなるのは予想していなかったな。


「クォルテさん、私にもしていただいていいですか?」

「いや、流石にこうなるってわかったらできないだろう」


 俺の体力的に二人を抱えて移動なんてできない。


「ルリーラちゃんばっかりズルいー!」


 初めて聞いたアルシェの絶叫(ぜっきょう)を聞きながら、王城を目指すことになった。


 王城に着くとものすごい人だかりができていた。


「来たぞ」「あれが」「まだ若いのに」「女の子もいるぞ」


 そんな観客たちの好き勝手な言葉を受けながら民衆の間を通り城を背に立つ。


「ごきげんよう、諸君。私はクォルテ・ロックス。アリルド・グシャを倒した者だアリルド前王の宣言通り私がアリルド国の新しい王だ」


 俺の言葉が信じられないのか、民衆は歓声も批判もなく沈黙(ちんもく)を続ける。


「俺が王になったからには奴隷の地位向上を約束しよう」


 すると今まで黙っていた民衆から声が上がる。

 歓声と苦情全てが一体となった声に俺は手を上げる。

 とたんに声はなりを潜める。


「俺は何も奴隷制を撤廃(てっぱい)する気などない。奴隷は労働者(ろうどうしゃ)だ人間だ、それを雑に扱うことは国力(こくりょく)を下げる。俺はそれを許さない」


 俺の雑とも言える演説に民衆は騒ぐことをやめない。


「ならば俺達を討つか? それもいいだろうだが忘れるな、俺達は先代の王を倒してこの地位にいることを」


 民衆の声は小さくなっていく。


「それが新しいアリルド国だ」


 そう話を打ち切り俺達は城の中へ入っていく。


「なんであんなに民衆を煽ったの?」


 ようやく意識が戻ったルリーラは、門扉(もんぴ)が閉まるとそんなことを聞いてきた。


「考えがあってな」

「どのような考えでしょうか?」

「無理だよクォルテは教えてくれない」

「よくわかってるじゃないか。もう一回キスしてやろうか」

「大丈夫! もうお腹いっぱいだから」

「私はしてもらいたいですけど」


 そんなことを言いあいながら玉座に向かう。


「ほら王様なんだから座りなよ」

「まあ、そうなんだけどな」


 これからを考えるとあんまり王様気分を味わいたくないんだよな。


「私たちの主人が王様なんてすばらしいですから、お座りください」

「わかったよ」


 二人に促されるまま玉座に腰を下ろす。

 包み込まれるような上質な座り心地に俺は改めて勝ったという実感を得た。


「じゃあ今日はもう寝るか」

「うん」

「はい」


 それから寝室が探せないまましばらくうろつき、やっと見つけた時には三人そろってくたくたになっていた。




「ん、朝か。寝た気がしないな」


 体を起越そうとした時に両腕が妙に重いことに気が付いた。

 片方には抗いがたいほどの弾力と柔らかさ、もう片方は弾力は劣るが柔らかい。

 その両方に目を向けるとアルシェとルリーラが居た。


「マジか……」


 二人ともが俺の腕を抱きしめ眠る。

 不味いことに、二人とも昨日の戦いやすいようにと着せていた露出(ろしゅつ)の多い服装である。

 なるべく触れないようにと思っていても、抱き付かれているせいで二人のわずかな身じろぎに二人とも自分の肌と俺の肌をすり合わせる形になっている。


「ん、んん……」


 二人の熱い吐息(といき)が肌に触れ背筋に電流が走る。

 これはやばい。

 この体制だとよく見えないがアルシェの(ふともも)は俺の指先を挟み込みルリーラに至っては抱き込みすぎてお尻にまで俺の手は巻き込まれている。

 何とか抜け出さなければ。

 そう思い手を動かす。


「ぁん……」


 指先に力を入れるとアルシェの腿に指が当たり吐息が漏れる。

 ルリーラの方をと思い動かす。


「やっ……」


 どこに触れたのかルリーラまで嬌声(きょうせい)を上げる。

 俺にどうしろと……。

 こちらは動けないまま向こうは身じろぎでこちらを誘惑する。

 きっとこれは俺に対する試練なのだと判断した。二人に手を出さないと決めたならこの状況にも耐えてみろという何者かの試練なのだ。

 そう思い込み。二人が起きるまで抗いがたい地獄を耐え抜いた。


「あれ、クォルテどうしたの? アルシェも顔真っ赤」


 誘惑に耐え切った俺と自分の寝姿に羞恥を抱いたアルシェが復活する頃には太陽は天辺を過ぎていた。


「そろそろアリルドの所に行くぞ」


 完全に忘れていたらしいルリーラは広いベッドの上を転がっていた。


「ほら行くぞ」

「はーい」


 別に行くのが面倒くさいわけではないようで、すぐに俺達の後を着いてくる。

 昨日城の前で騒いでいた民衆はそれぞれ日常に戻っていた。


「意外と気づかないもんだな」


「私とルリーラちゃんが髪を隠せばよくいる集団ですからね」


 さらっと俺が地味と言われたような気がするが、実際茶髪は地味なので否定のしようがない。

 一度も囲まれることもなく病院に着いた俺達は一声かけて病院の中に入る。


「おや、王様どうしたんだい?」

「アリルドは起きてる?」

「起きてるよ」


 そう言って案内された先には、病院には似つかわしくない巨体の男が寝ていた。


「おうお前達か」

「元気そうだな」


 あれだけの死闘をくり広げたはずの俺達の間には別に遺恨は残っていない。

 アリルドは体も痛むだろうに状態を起こした。


「新王よ。初めての夜はどうだった?」

「嬉し恥ずかしな朝を迎えたよ」


 美少女奴隷二人に挟まれての起床は、今まで経験したことなかったし。


「それで何か用があるのだろう?」

「ああ、アリルド。また王をやってくれないか?」

「ほう、理由を聞いてもいいか?」


 驚くルリーラとアルシェをよそに冷静なアリルドは真意を聞いてくる。


「ちょっと昨日の演説失敗したからさ狙われそうなんだよね」

「なるほど、そういう体で俺に王座を返そうと」


 さらっとこっちの建前をくみ取り思案する。


「そうなんだよ。だから俺達は逃げるために、国を出ないといけないんだ」


 俺の言葉を受けアリルドはルリーラとアルシェを見て納得したように頷く。


「真意は伝わった。だが俺は王ではない、お前が王で俺はお前が留守の間のみ国を守ろうそれでいいか」


 こちらの理想をそのまま口にしてくれるアリルドは本当に頭が回るのだと今更ながら感心した。


「ありがとう。じゃあ怪我が治ったら城に来てくれ」


 それだけを告げて病院を後にする。


「いいのですか? 私たちは旅に出ても出なくてもクォルテさんの奴隷で居続けますよ」


 ルリーラも否定はせずにこちらを見つめる。


「いいんだよ、二人が決めたなら俺の奴隷でも別の道を選んでも、だから旅には出る。二人には選択肢を広げて欲しい」


 二人ともそれ以上は何も言わずに俺の後を着いてくる。

 さあ、これからどこに向かおう。

 城で考えよう、奴隷たちの二人と一緒に。

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