挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

報われるにせよ報われないにせよ

作者:加藤
感想等が頂ければ心臓をこれでもかと鳴らしながら喜びます。どうか宜しくお願い致します。
漠然とした不安と絶望のみが、この地と空を埋め尽くしていた。それは砂漠であり、空を覆い尽くす灰色の雲であり、また、一粒一粒の砂でもあった。身が凍える様な、冷たく乾いた風が吹く。吹き上がる砂が、乾ききった肌を削り取っていく。ザラリとした皮膚が裂け、そこから流れ出る新鮮な血液もしかし、瞬く間に灰に似た砂になる。砂は悪意のある口を持っている。それらは鼻を耳を、唇を目を、人としてあるべき物を残さずそぎ取る。そして最後には血すら流れない。
 しかし実の所、砂に意思などないのだ。

 チャイムが鳴る。そこで樋川(ひかわ)命報(めいほう)は意識を教室に戻した。黒板の前で授業をしていた教師が、早々に教材を片付けている。周囲の生徒も既に雑談を始めており騒がしい。窓を見ると雨が降っている。日が沈むのが遅い時期にも関わらず、外は薄暗い。天気予報で言っていた通り、午後少ししてから降り出したようだ。
 命報も急いで机の上の物を、筆箱以外机の中に直した。人に見られたい物ではない。日和見めいた教師のおかげで、この時間は授業をまともに聞かず、内職をしていても注意されることはない。おかげで命報は思う存分好きな事をしていた。
 そこそこ満足がいくものが書けたな。命報は自分の描いた文章を頭の中で反芻し、次は何を書こうかと考えていた。できるだけ知的でおしゃれなのがいい。
 頭の中の言葉を文字に移す。それが命報の数少ない楽しみだった。自分は他の同年代の奴らとは違うと思える。知能と精神性という、人として最も崇高な部分が秀でているのだと確信できる作業だった。
 余韻に浸っていると突然、ひょい、と命報の筆箱が取り上げられた。命報が何事かと思う前に、取り上げた少年は、机を五つ程隔てた場所にいる少年へと軽く筆箱を投げ渡した。
「何するのさ。返してよ」
 少年――斉藤(さいとう)(しゅう)は、命報の抗議の声を受けると、楽しそうに口角を歪めた。あどけなさも残っているが、大人の様な彫が刻まれてきている顔付きをしている。美形といった言葉が良く似合う少年だ。身長が命報よりも頭二つ分は高い為、命報はいつも見降ろされる形になる。
「それ言うなら俺にじゃなくて、持ってる上島(うえしま)に言えよ」
 筆箱を投げ渡された少年。上島は命報の筆箱を両手で頭上に掲げ、右足を上げ、左足を上げを交互に繰り返して踊っている。彼は秀よりも更に大柄な少年だった。しかし、顔付はまだまだ幼い。大きい体を、小型犬のように騒がしく動かしている。
 命報は一瞬戸惑い、諦めて筆箱を持っている上島の近くに行く。慣れた事だった。周りにいる生徒もまた、何時もの事かと言うように興味無さげに眺めている。教師に至っては既に教室の扉をくぐっていた。
「返して。それ俺のだから」
「んー? これがお前の物っていうショウメイは出来るー?」
 上島はそう言いながら、命報の、布でできた黒い長方形型の筆箱を両手で揉みしだいている。上島の指が筆箱を這い回り、形を隆起させる。命報はそれに少なくない嫌悪感を感じた。腹が立って言い返す。
「子どもみたいな事言ってないで、返せよ」
 命報は同時に上島に詰め寄り手を伸ばす。
「秀ー。パース!」
上島は元気よく声を上げ筆箱を秀に投げ渡した。命報は慌てて床を蹴り手を伸ばしたが届かず、筆箱は秀の手に掴まれた。苛立ちながら命報は秀に向かう。が。
「上島。ほーれ」
 筆箱はまた上島へと投げられる。中学生にしては大柄な二人に山なりに投げられると、小柄な命報はどれだけ床を強く蹴っても遮る事が出来ない。
「おーっとー。」
上島がわざとらしく筆箱を受け損なった。筆箱は床にそれなりの衝撃を持って落ち、決して綺麗とは言えない、埃と砂のある床を滑る。命報は直ぐに拾おうと駆け寄るが、それは上島の片手と体で遮られた。上島との体格差の上、机も邪魔をするせいで筆箱は上島の手に拾われた。
「止めろよ。めんどうくさいから、返せって」
 上島は顔一杯に笑顔を浮かばせながら、筆箱を頭上高くに掲げる。命報がどれだけ頑張っても届かない高さだ。そしてその態勢のまま筆箱がフリースローのように投げられ、再三秀の手へと収まった。
「しつこいって。ほんと、めんどうくさいから」
「ははっ。そう言うわりに笑ってんじゃねぇか」
 秀に言われ命報は自分の口元が上がっている事に気が付いた。決して今のこれが楽しいからではない。意味が分からないこれを、いじめられていると言う惨めなものにしたくなかったからだ。命報にとって、こんな幼稚な事で自身の尊厳が傷つけられているなど認めたくも無い事だった。そうはならない様に見せる為の笑顔。他の生徒達は、また馬鹿が騒がしい事をしているとしか思っていないだろう。人に寄れば、仲がいいように映っているかもしれない。事実上島と秀にとって、これは単なる暇つぶしの遊びだった。何の意味も悪意も無い事だった。
 秀は筆箱を持った手を高く挙げ、命報をあしらいながら、教室に備え付けられている掃除用具入れへと歩いていく。そして筆箱を用具入れの上へと投げ置いた。到底、命報には届かない場所だ。
「取れたら返してやるよ。届くんならだけど」
 秀はそう言い命報の頭部を軽く撫でると、上島の所に向かっていった。その顔には、届きはしないだろうといううすら笑いが浮かんでいる。
命報は爪先立ちをしてみたが、手が用具入れの縁にぎりぎり届かない程度で、筆箱が取れるとは思えなかった。飛び跳ねてみるが、掌が掛る程度だ。後ろで大きい笑い声が聞こえた。斉藤と上島の声だ。あの二人には、今の命報の行動は滑稽でしかないのだろう。他の生徒からも見られているかもしれない。命報は酷く屈辱的な気分になりながら飛び跳ねる。当然届かない。早く取らなければ授業が始まってしまう。教師が来れば、今のこれを見られるだろう。何事かと訊くだろう。その時に充と上島にやられたと教師に説明をするのを想像する。教師の形ばかりの注意と、二人、いや、教室中のしらけた空気を想像する。最悪だった。
命報はロッカーを傾かせる事にした。椅子を持って来て乗ろうかとも思ったが、自分の席の近くに秀と上島がいる。当然邪魔されるだろう。なによりイラついていた。ロッカーを抱きかかえるように掴み、力任せに傾かせる。ぎしぎしと用具入れ特有の金属音が大きく鳴る。斉藤と上島の笑い声がより大きく下品なものに変わった。背中に大量の視線を感じる。クラスメイト全員に見られている気がして来た。今外では雨が降っている。教室にいる生徒もいつもより多い。恥ずかしい思いを押しとどめ、筆箱が落ちてくるまで傾かせる。
筆箱は用具入れの上から滑るように落ちた。命報は掴もうと思ったが、用具入れを掴んでいるため出来なかった。筆箱はそのまま、床に衝突した。用具入れを戻し、筆箱を拾う。黒かった筆箱は、埃と砂のせいで白く汚れている。
命報は汚れを取るために何度も強く筆箱をはたいた。しかし何度はたいても完全には取れない。幼稚な行動でついた小さいが消えない汚れ。白い汚れは、命報の筆箱に跡を残した。
チャイムが鳴る。

それは報われない旅だった。どうなれば報われるというものすら無かったからだ。あったのかもしれないが、血と共に灰になった。目的地があるわけでもなく歩き続ける。唯々歩く。歩くのみが彼に許されたことだった。足は氷の様に冷たく、体は酷く乾いている。砂が泥の様にまとわりつく。砂は灰であり、泥であり、また血でもあった。砂はありもしない目的地に行くことすら阻む。
そこに理由などない。

沈みかけの太陽がオレンジ色に光っている。夏の雨上がり特有の、べっとりとした空気だ。
今日の命報には笑わせてもらった。背が届かなくてロッカーを抱えた時なんて、腹が捩れるかと思った。
斉藤秀は思い出し笑いをしながら帰路を歩いていた。その隣では上島と、眼鏡を掛けた女の子も歩いている。 
三人が歩いている道には、まばらになった灰色の雲から、夕日が割るように差し込んでいる。雨に濡れたアスファルトで舗装された道が、赤く光っている。激しく降っていた雨は、秀達の部活が終わる前に降り止んだ。しかし、少し遠くではまだ分厚い雲が張っている。その付近では、恐らくまだ雨が降っているのだろう。片手に持ったビニール傘を見て、態々盗る必要は無かったなと秀は思う。
「今日の命報には笑ったよなー。まじ爆笑。いちいち反応がオーバーでさー」
上島が二やつきながら秀に話しかけてくる。そう言う上島もまた、大きく手を動かし命報の真似をしている。本当にな、と頷きながら秀は返した。上島とは中学からの付き合いだったが、よく気が合った。部活も同じになり、二人でふざけたことばかりしている。基本的に考えなしの構ってちゃんだが、悪い奴ではないと秀は思っている。
「悪趣味。毎日休み時間に煩い」
 上島と秀に向かって女の子、加藤愛莉(かとうあいり)が淡々と言った。しかし、眼鏡越しの目は気だるげで、本気なのか形だけなのかは分からない。上島は楽しそうに二ヘラと愛莉に顔を向けた。
「いやいやー、あいつは何だかんだで構ってもらって嬉しいんだってー。笑ってるの見たろー?」
「どうだか」
 愛莉はそもそも興味など無かったように会話を打ち切り、上島から顔をそむけた。上島は笑顔の向け先に困ったのか、ニヘラとしたまま秀へと顔を向けた。秀も無視することにした。
「で、お前はこの時間まで何やってたんだよ。文学部か?」
 愛莉は文学部に所属していた。しかし、活動は週に三回程度のものであり、放課後に遅くまで残るということは無いと秀は聞いていた。今日は秀達の部活が終わった後、偶々校門で会ったのだ。
「違う。図書室で勉強会があったから、それに行ってた」
「そんなのあるのか。態々学校残って、ご苦労さまで」
 愛莉は秀の皮肉を込めた言葉に反応せず、変わらず気だるげに前を向いて歩いている。久しぶりの一緒の下校にも拘らず、全くいつもと変わらない。これはこれで面白いけどと思いながら秀は肩をすくめた。
 隣で上島が構って欲しそうに見ながら手の平を頭の上で合わせ、屈伸運動をしながら歩いている。
相手をするのが面倒なので、秀は無視することにした。
分かれ道で上島と離れ、秀は愛莉とニ人で道を歩いていた。上島はついてきたそうな顔をしていたが、秀が手で追い払う動作をすると心なしか肩を落としながら帰って行った。
ニ人になった帰り道。愛莉と歩きながら、こいつと一緒に帰るのは本当に久しぶりだと秀は思う。秀と愛莉の関係は、有り体に言えは幼馴染だった。学校ではあまり話さず、登校も別の為、知っている人間は少ない。
けして仲は悪くない。寧ろいい方だった。家族ぐるみなのは言わずもがな、本の貸し借りや、愛梨の書いた作品を読ませてもらったこともある。ただ、学校ではお互いの立ち位置が違いすぎるため、関わりが持ちづらい。秀と上島はよく騒ぐグループ。愛梨は大人しいグループだった。しかし、その大人しいグループの中でも、愛梨は浮いている方だった。
愛梨は秀を気にする素振りも見せずに歩いている。ニ人きりにも関わらず、会話をしようという気はないようだ。秀にとっては愛梨の我関せずの態度は慣れたものだったが、他の人間からすれば無愛想の他ないだろう。しかし、そう言えば上島とは随分と打ち解けていた。
「愛梨さぁ、上島と仲良かったっけ?」
「私が秀と幼馴染だって、秀、あの人に言ったでしょ。それで、たまに話に来るから。他に人居ない時に」
 成程、そう言えば上島には言った事があると秀は納得する。同時に、きっとその時も今の様に無愛想に相手をしているのだろうと苦笑した。
「愛梨、お前帰りもいつもそんな感じなの?」
 秀はからかいがてらに聞いてみることにした。
「そんな感じって?」
「だから、むすっとして、たったか帰ろうとする感じ」
「別にむすっとはしてない。態々話すことが無いだけ」
 本気で言っているのだから質が悪いと秀は思う。もし、自分とよく話す女子がこれを聞いたらどう思うだろうかと想像し、少し愉快になる。秀の顔がにやけているのに気付いたのか、今度こそ愛梨はむすっとした顔をした。
「秀達みたいにいつでも騒いでなきゃ気が済まない人とは違って、無駄に労力を掃いたくないの」
 愛梨の言葉に、秀は今度こそ声を出して笑う。けして容姿は悪くないのに、男子も女子も積極的に寄り付かないのは、こういう所のせいだろうと思う。寄っても斬らぬが触れもせぬ。最終的に、面白みのない人間だと思われ放っておかれるのだ。もう少し踏み込めば、面白い奴だって分かるのにと秀はいつももったいなく感じる。確かに、無気力にも程があると思う時もあるが。
「……うるさい。というか秀、早く本返して」
 愛梨が溜息を吐きながら言う。その言葉で、愛梨に本を借りたままだったことを秀は思い出した。読み終わった後、本棚に入れたままだった。
「ああ忘れてた。読んだから、後で家取りに来いよ」
「秀が返しに来ようとは思わない訳?」
「めんどくさい。逆に何か借りてったらいいからさ。ついでにあれも渡すわ」
 愛梨はまた溜息を吐きながら分かったと言った。
 その後も他愛のない話を秀が愛梨に言い、愛梨が時たま無視をするというやり取りを繰り返した。
 家の前に着き、秀は愛梨と分かれた。とは言え、家は隣同士なため、愛梨が家に入って行くのが見える。
 けして、口には出さないが。秀は愛梨とまたニ人で帰れればいいと思う。さて、と秀も家の玄関を開ける。流石にパンツくらいは片付けておかないといけない。
 もうすぐ日が沈む。夜が来る。

彼は影から生まれた。影は母であり、父であった。彼の体が影を形作っているのでは無く、また、太陽によって影が生み出されている訳でも無かった。影が彼の体を形作っていた。影が彼の輪郭を変化させ、影の輪郭が流動するたびに、彼の輪郭もまた流動していた。影は彼の体を覆い、呼吸する度に彼の体に入り込み、影の卵を植え付ける。そして影は彼と同一になる。もはや、彼は影なのか。何なのか。陽のある所に影は生まれる。
そして陽の無い所では、影が蠢いている。

 雨に打たれた。
 命報は濡れた体をタオルで拭きながら、くそ、と毒づいた。滴る滴がフローリングの床を濡らす。靴下がずくずくになり酷く気持ちが悪い。床に水の足跡ができる。靴下を脱ぐが、それでも足に着いた水は床を汚す。
 命報は部活をやっていない。その為、学校に残ってやることも無い。図書室での勉強会なんてものには参加する気も無かった。雨脚が弱まったのを見て、走って帰ろうと思ったのが間違いだった。途中まで走った所で、急に強く降り出したのだ。
 そもそも何で傘が無くなってるんだよ、と命報は思う。持っていていた筈のビニール傘は、最後の授業が終わった時には無くなっていた。誰かに間違われて持って行かれたのか、持っていないやつが盗って行ったのか。腹立たしいことには変わりなかった。
「お帰りなさい。随分濡れてるわね。傘は?」
 体を拭いていると、母親がエプロン姿で様子を見に来た。料理中だったのだろう。母親は命報の姿と、汚れたフローリングを見て顔をしかめた。
「持って行ってたけど、授業終わったら無くなってた」
「あら。まあそういうこともあるわね。下拭いておくから、お風呂入って来ちゃいなさい」
 そういうこともあるって。命報は軽いなと思いながら制服を脱ぎ、風呂場に入った。母親はこまごまと雑巾でフローリングを拭いているようだった。
シャワーを出してお湯を浴びると、命報は自分がかなり冷えていたことを実感する。ホッとすると、雨と一緒にムカついた気分も排水溝に流されていく様に思えた。その風呂場の排水溝の周りには赤い汚れがこびりついている。流れた気分の名残だ、人の内側から生じたものだから赤いのだ等と下らない事を考える。
実際はただのカビであることは知っている。様々な物を流す風呂場は、とても汚い。
命報が風呂場から出て裸でリビングに向かうと、もう既に夕食の準備が済んでいた。ステーキ三皿と白米がテーブルの上に乗っている。命報が帰って来た頃にはあらかた済んでいたのだろう。手近に畳んであった自分の服を適当に着て椅子に座る。
「今日はね。スーパーで特売日だったから、お肉買ってきたの。美味しそうでしょぅ」
 母親は楽しそうに話している。命報も内心喜びながらそうだねとそっけなく頷いた。
 命報の母親は良く喋る。その大半は命報にとってはどうでもいいことだ。父親の休みが少なくて寂しい。どこか旅行に行きたい。隣の山田さんの家がどうのこうの。そういう時に命報は適当に頷きながら聞き流すことにしている。こう言ったたわいもない話を楽しそうに話す母親を見ていると、命報は自分の家が酷く平凡だと言うことを実感する。この家は、何の代わり映えもせずにこのまま続いていくのだろうと漠然と思ってしまう。
 もし、自分に両親がいなかったら。それを想像する。もっと非日常で、非凡な人生を送っていた筈だ。特別が欲しかった。普通の両親はいらなかった。
夕食を食べ終えると、命報は一階で母親がクイズ番組を見ているのを横目に、直ぐに自分の部屋に戻り机の前に座って鞄から本を出して広げた。露出度の高い服を着た少女のイラストが表紙に描いてある本だ。右手に逆手で剣を持ち、体の前で下に突き立てている。命報はペンを持ち、本に出て来る気に入った言葉や設定を無意識に口に出しながらノートにメモしていく。
「召喚術、預言書録の大王。黒龍影月真空斬(くろりゅうえいげつしんくうざん)。虫に食い殺され腐敗した妹。集合的無意識による夢の世界でオンラインゲームの様に人と交流する、空を飛ぶことだけが取り柄の少年……」
 一通り書くと、次に話を考える。誰よりも強く、しかし悲惨な過去を持っている青年。大した才能は無いが、不屈の闘志を持った少年。美少女に変身してしまい、様々な男に翻弄される中年。頭の中で登場人物に成り切る。その中でなら、いつでも世界は自分を中心に回っている。
 そして最後にはいつも同じことを想像する。同じクラスの加藤愛梨と自分が話している所を。
肩まで伸ばした黒い髪。整った大人っぽい顔つきに、知的に引き締められた表情。背は低いが、姿勢が良く、凛とした立ち振る舞い。クラスの下品で煩い考えなしの女子とは違う、落ち着いた雰囲気。他の女子とは何もかもにおいて一線を画している。命報の目には愛梨がそう映っていた。その愛梨と笑顔で会話をしている想像をする。話の内容はとにかく知性が溢れているものだ。人の魂は何処から来たのか。人とは何か。愛とは何か。それぞれの内容についてではなく、それを話しているという想像をして楽しむ。話を書く事と同じ程に楽しく、より胸が高まる想像だった。
本を棚に戻す。棚には戻した本と同じように、少女のイラストが描かれた物が多い。他にも、漢字のみで書かれたタイトルの本などが置いてある。部屋の電気を消し、ベッドに入る。命報が最後に想像したのは、自分と愛梨の顔が急接近する場面だった。
 雨はいつの間にか止んでいた。

 怒り、怒り、怒り、怒り。遂にその感情が彼の中に芽生えた。理不尽に搾取される事への怒り。理不尽に自らを変容させられる事への怒り。この不安と絶望のみがある地と空への怒り。彼の怒りは冷たい足を溶かし、前へと進む足を逸らせる。足に纏わりつく砂も、今や彼の怒りを助長させるものに過ぎなくなった。自らをこの様な目に遭わせたものを打倒せんと進む。それは周囲に満ち溢れ、足で踏みしめ、空に浮かび、自らの体内にあるものだという事をも忘れて。
 彼の体は乾いたままだ。

 朝からイラついていた。
 秀は自分がイラついていることに更にイラついた。昨日親が自分に言った事が頭の中にずっとこびりつき、脳を引っ掻いている様な気分だ。

『上島君の様な子とは友達付き合いを改めた方が良いんじゃない?』
 昨日、愛梨が本を借りて家に帰った後に母親から言われた言葉だ。おずおずといった感じで秀に言ってきた。
 秀は母親に自分の友人の事を話した事は無い。上島を家に呼ぶ事はあっても、母親とは喋ったことは無い筈だ。しかし、上島が家に来る度に毎回表情が硬くなる事に秀は気付いていた。ふざけんな。秀がそう言うと母親はびくりとして身を縮こまらせた。
『ごめんなさい』
 母親はそう小さい声で呟くと、でも、と続けた。父親曰く、その小動物感のある所が堪らないと言う。秀は全くそうは思わない。
『やっぱり、上島君はちょっと子どもっぽ過ぎるし、素行も良くないように思えるの。愛梨ちゃんみたいに賢い子だったらお母さんも安心なんだけど、秀ちゃんが変な方向に影響されないか、心配で』
 あんたが心配なのは、俺じゃなくて周囲と愛梨の両親の目だろう。秀はそう言いかけて辛うじて飲み込んだ。この人はいつも事ある毎に愛梨の名前を出す。というより、加藤家に関しての話題ばかり話す。愛梨の母親と親友だのなんだのと言い、こう言ってくれて嬉しかった。どこそこに出掛けて来た。家が隣なのも、愛梨の母親を追っかけてきたからだと誇らしげに言う程だった。
 愛梨も、変に引き合いに出されていい迷惑だろうと秀は思う。秀が溜息を吐くのを見て、母親は不安げな目をしながら諭すように言ってきた。この言葉が、秀の脳内を引っ掻いている。
『秀ちゃん。聞いて? お母さんや秀ちゃん達みたいな真面目な人は、ああいう人種の人とは合わないのよ。愛梨ちゃんも愛梨ちゃんのお母さんも真面目な人でしょう? そう言った、人生をきちんと生きていこうとしている人と付き合わないと、駄目な人間になっちゃうの』
 お前が何を知っている。いいや。知らないからそんな事が言えるんだろう。母親は、何も知らない。

「秀君、機嫌悪いー? 顔怖いよー?」
 秀がぼぉっとしていると、ミカが話し掛けて来た。よく秀に話し掛けて来る女子だ。いつもクラスの女子の中心にいる子だった。かなり可愛いと、男子からも女子からも評判だ。秀自身、愛嬌のある女の子だと思っている。
「なんか、おでこにしわ寄ってた。こう、メキッて」
 そう彼女は笑いながら長い黒髪を左右に寄せて自分の眉間に指で皺を作る。こういった気取っていない部分も人気の理由なのだろうと秀は思う。秀が少し笑うと、ミカも嬉しそうに笑った。
 この子は自分の事が好きなんだろうな。秀は薄々ながらもそう感じていた。自分の顔が女性に好かれやすいものだと言うことも、恋愛経験の無い身でありながら知っていた。しかし、恋愛自体には全く興味が湧かない。
「うわー! 秀とミカがいちゃついてるー!」
 突然騒がしい声が聞こえたと思ったら、上島がヒューヒューと言いながら近よって来た。ミカはいちゃついてなんてと言いながら顔を赤らめて俯いてしまった。
「いちゃついてねぇよバカ。話してただけだろ」
「とか言いつつからのー?」
 してねえって。笑いながら上島に突っ込む。先程までの脳の疼きはもう殆ど消えていた。ほら見ろ、と秀は思う。こういうやつらと付き合ってた方が元気が出るじゃあないか。あんたは、自分の世界しか知らないだけだ。
 話していると、教室に命報が入って来た。相変わらず猫背で俯いている。おう命報、と声を掛けると、お、おうと笑顔で返して来た。ミカがおはようーと言うと、顔を赤くしておはようございますと小さい声で言い、席にいそいそと座った。
 よし。ちょっとした憂さ晴らしついでに遊んでやるか。上島と目を合わせ、席を立って命報の席に向かう。ミカは、あぁ、またバカ騒ぎするのかなと少し呆れた様子だ。
「命報クン、遊ぼうかー!」
 上島が大きい声で命報に話し掛ける。命報は困惑した様子で顔を上げた。どうしたんだよ、と言いながら顔にまた笑顔を浮かべている。媚びた笑みだ。秀は毎回そう思う。敵対はしないので、酷いことはしないでくださいという笑み。この笑みを見る度にどうしようもなく加虐心がくすぐられてしまう。自分は圧倒的にこいつより優位に立っていると感じる。
 恐らく、母親の言う真面目な人種というのは、命報の様な人間の事を言っているのだろう。そう考えると、秀はより皮肉に感じる。これの方が、どう考えても損をしているというのに。
「俺さー。いっつも気になってたんだけど、命報、授業中に何をめちゃくちゃ書いてんの?」
 上島がそう言いながら命報の鞄を漁る。命報は止めようとするが、秀が抑えた。
「ちょ、止めろって。マジで。おい、止めろ!」
「何ー? マジじゃん。ヤバい、エロいことでも書いてんじゃねーの? お、あった。これじゃね?」
 そう言うと上島は命報の鞄からノートを一冊出した。タイトルも名前も書いていない。だが使い古されている様なノートだ。見せろと言い、秀は上島からノートを受け取る。止めろと叫ぶ命報を、今度は上島が命報の頭を腕の内側で絞める様にして抑える。
 ノートを開く。そこに書かれていたものを一つ一つ秀は読み上げていく。
 随分と都合の良い救世主。出て来る少女全てに惚れられる少年。元男なのに美少女になり、男に惚れられる中年。そう言った登場人物の設定。漢字のみの単語。妙に猟奇的な文章。世界観の設定。
 読んでいる秀の背中が痒くなるものがびっしりと書かれていた。自分で書いたであろう文章も、会話文のみで地の文が殆どない。あまりの内容に秀は背中を曲げて大笑いしてしまった。聞いていた上島も笑いすぎて苦しそうだ。少し離れて聞いていたミカも引いた表情をしている。他に近くで聞いていた女子も、こそこそと話しをする。
命報は顔を真っ赤にして、それでも笑顔を顔に張り付けたままノートを奪い返そうと必死になっている。
「お前、これは、いくらなんでも、酷すぎるだろう。くくっ。真面目キャラで、これかよ、ひー、腹いてぇ」
 面白すぎる。命報の文のレベルの低さに秀は笑いながら呆れ果てていた。秀自身、本をよく読む。読みやすいものよりかも、純文学を好いていた。その為、命報が文体等もめちゃくちゃで書いているのがよく分かった。
 上島と一緒に秀が馬鹿笑いをしていると。教室に愛梨が入って来た。笑っている秀達を見て、何事か若干顔をしかめる。秀はあまりに面白いので愛梨にもノートを見せることにした。秀が愛梨に向かうと、命報が先程以上に大きく止めろと叫ぶ。しかし、やはり上島に抑えられて動けない。愛梨、これ見ろよと愛梨に渡すと、愛梨は下らなさそうにしながら中身を見た。ああっ、と命報が情けない声を出す。
「な、凄いだろ。真面目に書いてんだぜこれ」
 愛梨は何も言わない。秀が何か言えよと顔を覗くと、唐突にノートを閉じた。秀を尻目に、命報につかつかと歩いていく。赤くなり力なく俯いている命報の前まで行くと、そっとノートを命報に差し出した。命報は呆然としながらも受け取った。上島もまた、呆然としている。秀たちを眺めていた生徒全員の空気が固まる。
「こう言うの、良いと思う。色んなこと想像するの」
 そういうと愛梨は一瞬秀を見た後、自分の席に戻り、何事も無かったかのように本を広げた。少しした後、今度はトーンの落としたコソコソ話が始まる。
 どうしようもない感情が秀を襲った。瞬間合った、愛梨の目。心底下らない物を見る目。いや、事実、下らないと言われた気がした。秀は突然、自分のやっていることがとてつもなく恥ずかしい事のように思えた。
「あー……、秀、どしたー?」
 上島が妙に気を使った様子で声を掛けてくる。
「なんでもねぇよ」
 上島にそう吐き捨て、自分の席に乱暴に座る。命報の様子は見なかった。上島は近くに来て、少しぎこちないがふざけた調子でまた喋りだした。
 チャイムが鳴る。最初の授業が始まる。
 気分はまたイラついている。

 彼の中に満ちた怒りは、彼自身の肉体を滅ぼしていった。肌はより渇き、足は崩れていく。それでも前に進む事を止めはしない。砂はより一層彼の足に纏わりつき、肌を削る。もし今彼を救う者が現れても彼は止まらないだろう。ただ一つの意思とは言えない意思が彼を突き動かす。そう、それは意思では無かった。あって当然のものは、意思とは呼ばない。
 今の彼は、砂に似ている。

 最悪な気分と浮かれた気分がごちゃまぜになって、自分の気持ちが良く分からない。
 掃除の時間中。担当の生徒は皆適当にやっている。箒で床を掃きながら、命報は変わらず混乱した頭で朝に起こったことを思い出していた。秀と上島にやられた事は間違いなく最悪だった。人生で最も死にたくなった時だと言っても過言ではない程の屈辱を命報は感じていた。自分の頭の中身をクラス中に聞かれ、あまつさえ馬鹿にされた。あんなやつらに。しかし、その後の事は同じ顔が赤くなることでも種類が違っていた。愛梨に助けられ、自分のノートの内容を褒められた。助けてもらえただけでも嬉しいのに、褒めてもらえた。自分の頭の中を。そう考えると飛び跳ねたくなる。
 しかし、その後愛梨が命報に話し掛けてくることは無く、完全にいつも通りに戻っていた。それが残念だった。秀と上島もまたからみには来なかったが、嬉しい事なのでどうでも良かった。
そもそも、まともに本も読まなさそうな奴らが俺の文を馬鹿にしてくる事が間違っている。そう思って命報はまた腹が立った。秀なんかは特に、自分はさも高尚なものを読んでいますといった様子だったのがムカついた。お前らみたいな人の気持ちをちっとも分からない、いや持っているかも怪しいような奴らに、分かって堪るか。
そんな事を思いながら掃いていると、床に一冊のノートが落ちているのを見つけた。教室の後ろに寄せられた机の下に、一冊ノートが落ちている。命報は屈んでそのノートを拾った。名前もタイトルも書いていないノートだ。所々崩れており、長く使われているように見える。教卓の上に置くか、どうするか。命報は少し考えたが、結局好奇心が勝った。心が浮ついていたせいかもしれない。、教室の隅に掃除をするフリをして行く。ノートの冒頭には、物語が書かれていた。
砂漠を一人、意味もなく歩く男のお話。
孤独と理不尽と怒りに苛まれる男の物語。
酷く、心が揺れた。
誰が書いたのだろう。これを。この教室に、自分と似た気持ちを持っている人物がいるという事に、命報は高揚感を覚えた。いるのだろうか。この教室に。
まさか、と思う。命報には、これを書く生徒は、このクラスに一人しか心当たりが思い浮かばなかった。
「樋川君。そのノート……」
 そう。今まさに話し掛けて来た少女、加藤愛梨だった。
「加藤さん。これ、このノートもしかして」
 愛梨は何も言わずに受け取ると、ノートをめくり中身を見始めた。命報はやっぱり、と思う。そう考えると、胸が高鳴ってどうしようもなかった。我慢できずに、言葉が口から漏れ出す。
「やっぱり加藤さんのだよね! 俺、それ書けるの加藤さんしかいないと思ったんだ。このクラスでまともに本を読んで文章を書けるのって、俺と加藤さんくらいしかいないと思うし。あのさ、俺それに出てくる旅人の気持ち凄い良く分かる。後、あの、朝助けてくれたの凄い嬉しくて、ありがとうって言いたくて」
 愛梨は何も喋らない。命報は何でだろうと思いながらも、口が止まらない。
「あのさ、旅人の話はもう終わりなの? 続きとか……」
 旅人の話は、旅人が力尽き倒れ伏した所で終わっていた。愛梨は何も反応しない。あまりの反応のなさに、黙ってしまう。すると、愛梨が、お相子よね、と呟いた。
「へ? おあいこ? ああ、うん。確かに俺のも見られたからお相子だね。えへへ」
 笑いながらそう言うと、愛梨は違う、と答えた。
「これは私が書いたんじゃないよ」
 そう言った。何を言っているのか。他にこれを書ける人がいるのかと、命報は心底不思議に思う。
「だったら誰が」
「秀」
 え? 聞き返した。一番出て来てはいけない、出てくる筈のない名前が聞こえた気がした。
「斉藤秀。これを書いたのは彼」
 それだけは駄目だ。ありえない。駄目だ。
「何で、加藤さんがそれを知って……」
「家、近くだから。幼馴染。たまに。お互いで書いたものを見せ合ってる」
「おさなな、じみ。でも、あいつは運動部で」
「動いてる方が性に合うって」
 つまり、加藤さんは秀と仲が良い? それ以前に、あいつがこれを書いた? 俺はそれに共感した? 
 吐き気がした。
 教室に秀と上島が入ってくる。ニ人とも掃除当番だと言うのに、サボっていたようだ。秀は隅に居る命報と愛梨を見つけて近寄ってきた。そして、愛梨が持っているノートに目が止まった。
「愛梨お前、それ俺のだろ。何で持ってんだよ」
「樋川君が持ってた」
 命報が? と秀は怪訝そうな顔をする。
 ああ、そうか。本当にそれは秀が書いたのだなと、命報はようやく理解した。なら、出来る事は一つだった。拳を握り、顔をまっすぐ秀に向ける。命報は自分の顔が熱くなっているの感じた。そして。
 雄たけびを挙げ、秀に殴りかかった。
 感じていた。自分が秀や上島に劣っているのではないかと。精神性と言う、判断基準の無いもので勝った気になっていることが、どれだけ虚しい事なのかも。
 上島と秀に取り押さえられながら、命報は叫んだ。

 彼の足は、彼の怒りに耐えきれずに完全に崩れ去った。もはや、進むことすら禁じられた彼は只々むせび泣く。しかし流れる涙など無く、彼の目からは砂のみが流れ落ちていく。激しい感情は前に進めない彼を傷つけるだけになり、彼はとうとうそれすらも捨て去った。
 そして全てが過去になる。

 部活が終わり、校門に差し掛かった時だった。息が白く、太陽はもうとっくに沈み、澄んだ空には星が瞬いている。一つ一つが確かな輝きを持って、透明な夜に薄い光を広げている。
 秀の隣にいる上島が、おっ、と声を上げた。おーいと言い、大きく手を振る。声と同時に、彼の体に見合った沢山の白い息がふきだす。
「おーい、命報ー! 愛梨ちゃーん!」
 上島が手を振る方向を見ると、校門を少し抜けた所で、命報と愛梨がニ人で歩いていた。近くも遠くも無い距離で歩いているが、何となく命報の歩き方がぎこちないように見える。ニ人は上島の声が聞こえたのか、こちらを振り返った。上島と一緒に近づいて行くと、命報があからさまに不機嫌な顔をした。
「何だよ。何か用かよ」
「用が無かったら話し掛けちゃあダメなんですかー?」
「お前らは駄目だ」
 上島と命報のやり取りを見ながら、秀は苦笑する。命報の顔には、もうあの媚びた笑顔は浮かんでいない。
「何でお前ら、一緒に帰ってんの?」
「図書室の学習会。樋川君に教えたら俺も参加するって」
 ほほぅ、と秀は上島と一緒にニヤニヤと笑みを向ける。命報は、部活やってなくて暇だからだよと言いそっぽを向いた。寒さで白くなった肌に、赤くなった耳がよく目立つ。こういった分かりやすい反応をするから、余計からかいたくなるんだ。秀は自分の口角が更に上がるのを自覚しながら思う。
 あの日キレて以来、命報は変わった。素直になった。卑屈さが抜けた。強気になった。どれが正しいのか秀には今一つ指摘できないが、確実に言えるのは、こちらの方が随分と楽しいと言う事だった。反応が対等の方が、からかいがいがある。
後は、愛梨にガツガツ行くようにもなったなと思う。学習会への参加と言い、命報自身不慣れなのがあるのだろうが、周囲から見ると好意が露骨だ。陰でスイーツ脳の女子達の話のネタになっている。あの不器用さが逆に可愛いとかいう話までたまに聞くのが不思議でならない。当の本人たちは全く気付いていないが。
「んじゃあ一緒に帰るか」
 秀がそう言うと命報はとてつもなく顔をしかめた。しかし、愛梨がいいよと言うと、せっかく、等とぶつぶつ言いながらも頷いた。愛梨に命報の想いが通じるのは、まだ先になるだろう。
 夜の中を四人で歩く。
 秀はふと思った。どうにも、自分というのも随分頭が悪かったらしいと。人の性質を決めつけていたのは自分も同じだったらしい。
 まあいいかと笑いながら、秀は命報に小さい声でわるかったとあやまった。

 怒りを捨て去ると、途端に楽になったのを彼は感じた。何事かと思い空を見る。相変わらず灰色の雲のみが浮かんでいる。しかし、何故か彼の心は澄んでいた。
 ふと足を見る。崩れていたそこには、代わりに砂が足となっている。そうか、と彼にもようやく分かった。ならば仕方ないと呟き、しっかりと砂漠に立つ。
 先は見えない。目的も見えない。しかし、それも仕方がない。歩く足がまだあるのなら、歩かなければならない。それならば。
 しかたがないから、歩くことにしよう。
 砂漠で彼は、砂と共に歩き続ける。
こう、照れてる少年って、いいですよね。
少々気持ちの悪い部分があるかもしれませんが、登場人物みんな作者の心にどストレートでくる感じです。性癖的な意味は少ししか含んでません。感想を頂ければ、飛びます。共感して頂けたらもっと飛びます。よろしくお願い致します。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ