受験おわた
なんかめっちゃ疲れた気がする
前回のあらすじ
短すぎぃ!
時計 逢。
コードネーム「P」。
Everything is 「P」ossible《彼女の前に、不可能は存在を赦されない》
そんな、都市伝説めいたコードネームの由来。
絶対的成功率。
100%。
そんな、完全を具現化したような存在に。
いとも容易く。
赤子の手を、もとい女子の手を捻るように。
討ち取って見せた。
こちとら仕事だ。
完全であるには、文字通り不敵でなければいけない。
だが。
読めない。
昴 四色。
彼の思考が、全くといっていいほど読めない。
胸が、高鳴る。
読んでみたい。
そう、思ってしまった。
ほんの一分前までただの狙撃対象でしかなかった存在に。
興味を持ってしまった。
そんな自分の思考に驚愕して。
同時に落胆する。
「いいよ、話す。」
「え、できんの?」
「できない。」
自嘲するように言う。
「とりあえず、解放して。」
「ん」
ふっ と、自分を戒めていた不可視の縄が解ける。
「ねえ、大丈夫なの?」
紅火 咲。
「気」の創造に深く関わった、「業火」の娘だ。
「何、井の中の蛙さんは眩しさに目がくらむもんだよ」
また、読めない。
「・・・大丈夫ってことね。ならいいわ」
「大丈夫じゃないけど。」
「お察しの通り。ほら」
自分の手首を見せる。
正確には、手首についているブレスレット型の。
超高精度無線測位システム。
UGPS。
表社会では未だGPSだが、裏側では三次元的にミリメートル単位で
座標確定ができるレベルの代物が出来上がっている。
「これと引き換えに、仕事人は報酬を得るの」
「今回失敗したわけだがな。」
「うるさい」
明確な否定ができない。
それが悔しくて。
でも、それを抑える。
抜き差しならない事態が、迫っている。
「今、この瞬間に、狙撃手が私の脳天を狙ってる」
「・・・まあ、予想してはいた」
「集音器はないみたいだから会話は聞かれてないけど、少しでもこっちがそっちに服従する素振りを見せたら」
「そっちだけじゃ飽き足らず、こっちも・・・ってことね」
「成る程」
どこか得心したように頷く。
「二人とも、そこから一歩も動くな。」
静かに、腰を落とす。
何かが、始まる。
「ちょっと本気出す」
空気が、先ほどの結界内の戦いとは比べものにならないほどに張り詰める。
「瞬速」
一気に前方へ跳躍。
そのままこちらへ瞬く間に迫り。
先ほどまで使っていた狙撃銃を拾い上げた。
もちろん、目視できないスピードで。
視覚が、脳を超える。
そのまま銃身を遠心力に任せて。
あたかも拳銃を撃つように。
BARRETT NTW-20。
総重量約25kg。
20mm口径弾、シングルアクション。
米国の戦闘機に積んでいる機関砲と、威力は劣らない。
轟音。
ほぼ同時。
遙か向こうのビル。
目視、1.87km先。
確かに、いる。
こちらから、向こうから。
弾丸が。
向こうは…あのブレの無い弾道。
殺傷用対人狙撃銃弾。
弾丸と弾丸が、ぶつかる。
否。
微妙にすれ違う。
あちらは通常の狙撃銃。
威力は、圧倒的にこっちが上だ。
狙撃銃は、長距離を狙撃するためにある。
弾丸を回転させて、ジャイロで安定させる。
必然的に、弾丸による気流の変化も避けて通れない。
右回りと右回りの気流。
向かい合うと、丁度逆向きの気流になる。
あちらの弾丸は、大きくそれる。
そして、こちらの弾丸は。
ビルに。
吸い込まれていく。
自分の卓越した視力は、確かにそれを捉えた。
相手の狙撃銃のスコープレンズが、撃ち抜かれたのを。
スナイパーは、それを戦闘不能と呼ぶ。
こちらの、勝ちだ。
「・・・ふう」
一瞬の間で、相手の弾丸をそらしつつ。
相手を戦闘不能にしてみせた。
強い。
「案外チョロいな」
昴 四色。
そう言って、彼は白い歯を見せて。
笑って見せた。