竹捕物語
主人公、竹村美香瑠は竹村美佐枝のもと母子家庭で育つ。
裕福とは言えないまでも、二人は本当の親子のように幸せに暮らしていた。
というのも、美香瑠と美佐枝は本当の親子ではないのであった。
そんなある日、美香瑠の本当の母親、月岡瑠維が現れるのであった。
貧しさゆえに我が子を捨てた瑠維は、会社を立ち上げて成功し一度捨てた我が子を取り戻そうとするのであった。
それに対し、竹村親子は瑠維の要求をかたくなに拒否し続けた。
そんなある日の昼下がり。
瑠維は竹村家のリビングで自分の事情を事細かく話し、美佐枝を説得していた。
しかし、
「あなたにそれなりの事情がある事は分かりました。しかし、美香瑠があなたに引き取られるのを拒む以上、引き渡すことは出来ません。お引き取りください。」
瑠維はただ黙っていた。
《プルルルル。プルルルル。》
電話が鳴った。
「もしもし?」
「もしもし、竹村美佐枝さんですか?」
「そうですが。どちら様ですか?」
「私、村雲というものです。あなたの美香瑠さんを…。」
「美香瑠が何か?」
「美香瑠さんを預かっています。」
「え?」
耳を疑い、今自分が置かれている状況すら整理できない美佐枝に、村雲という男は続けた。
「美香瑠さんを返して欲しければ、身代金として一千万円用意して二丁目の村雨倉庫に日没までに持って来て下さい。もちろん、警察に通報したり妙なまねをしたりしたら…。」
電話が切れた。
「どうかしましたか?」
瑠維が尋ねてきた。
「美香瑠が…、誘拐…。」
美佐枝はそれだけ言って泣き崩れてしまった。
そんな美佐枝に対して瑠維は冷静だった。
「それで、犯人は何と?」
「一千万円を日没までに村雨倉庫に持って来いって…。そうだ。警察に…。」
「待って下さい。そんなことして、美香瑠に何かあったら…。とにかく落ち着いて、一千万円くらいなら何とか用意できます。待っていて下さい。すぐ戻ります。」
瑠維はそう言って美佐枝を一人残し、家を出て行った。
しばらくして瑠維が戻って来た。
美佐枝は誰かと電話をしていたようで、急々とその電話を切っていた。
「誰と話していたのですか?」
「主人です。」
「何と?」
「すぐに帰ると…。そうだ、お金は日没までに…。」
「大丈夫です。今からでも急げば間に合います。」
瑠維は美佐枝を連れだし、車に乗せ倉庫に向かった。
二人は夕日に照らされているうちに倉庫に着いた。
中には一人の男と美香瑠がいた。
「よぉ月岡、久しぶりやなぁ。」
一人の男、村雲が言った。
「村雲!どうして!」
「竹村美香瑠がお前の実の娘やってゆう事は分かっとんねん!」
村雲は吐き捨てるように続けた。
「…っふ。これで長年の恨みが晴らせるわ!」
「待って、一千万円渡すから、美香瑠を返して。」
「まあ、そう慌てるなや。あの世で一緒や!」
村雲は懐から銃を取り出し、それを美香瑠に向けた。
瑠維はすかさず村雲と美香瑠の元へと飛び込み、一日足りとも忘れることの無かった我が子を庇うように抱き込んだ。
「ねぇ美香瑠。今からでもお母さんのところへ戻ってくる気はない?」
瑠維は尋ねた。対し、美香瑠は追い詰められた状況に泣きながらも、はっきり答えた。
「嫌。」
少し間を空けて。
「そっかぁ…。やっぱりダメか…。今、あなたのお母さんはどこにいるの?」
美香瑠は瑠維の体越しに、一人たたずむ美佐枝を指指した。
瑠維は笑っていた。
それは最期に我が子を抱くことができた喜び。
ではなく、自信に満ち、勝利を確信したような笑みだった。
その薄気味悪い笑みで裂けた口から言葉が出た。
「村雲!」
「はいよ。」
村雲の銃口は美香瑠から美佐枝に向けられた。
「悪いな、俺らグルやねん。」
その時、どこかからか大勢の警察が飛び出し、間髪を入れずに村雲と月岡瑠維は取り押さえられた。
さっき、美佐枝は家で一人取り残された時、警察に通報していたのだった。
美佐枝に主人なんていない。
そのことを瑠維は知らなかったのは不幸中の幸いだった。
村雲と月岡瑠維は警察に現行犯逮捕され、そのままパトカーで連れていかれた。
続いて、泣きながら抱き合っていた竹村美香瑠と美佐枝も保護された。
「お話聞かせて貰えますか?」
そう言われ、二人がパトカーに乗ろうとした時、地震に襲われた。
たいした揺れではなかったが、一行は速やかにその場を撤退した。