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遅くなりましたが二話目です。よろしくお願いします。
追記:2017/11/24に改稿しました。内容に大きな変更はありません。
追記:2017/12/25に改稿しました。設定に一部変更があります。
浩一が最初に選択すべきは三つの中から一つ。
一つ目、『ルジャルダン』共通言語会話と6,000ポイント。
二つ目、『ルジャルダン』共通言語会話と共通言語識字それに3,000ポイント。
三つ目、『ルジャルダン』共通言語会話と共通言語識字、『ルジャルダン』一般常識、そして1,500ポイント。
異世界『ルジャルダン』はモンスターや獰猛な獣、野蛮な盗賊などが跳梁跋扈し、場合によっては悪徳な奴隷業者に捕まってしまうこともある、お世辞にも治安が良いとは言えない危険な世界。
それを踏まえると、人知を超えた力を発揮する技能である『スキル』の獲得を重視したくなり、一つ目の選択肢で決定したくなる。
しかし浩一は三つ目の選択肢で決定することにした。
なぜなら、先ほど青白く光る光球と行った簡単な質疑応答で「今、説明できるのはこのくらい」という言葉を含む返答があったからだ。
これはもっと情報があるという事。
その情報の中に、生死に直結するものが含まれているかもしれない。
考え過ぎととられるかもしれないが、自身の安心安全には変えられない。
それに『ルジャルダン』は今まで生活してきた日本とは生活様式が全く持って違う可能性が高い。
右も左もわからない異文化の中で生活するのは至難の業。
最悪、常識を知らないがために周囲と問題を起こし、社会から爪弾きにされてしまうかもしれない。
情報は必須だ。
浩一はタッチパッド付きノートパソコンを操作して、三番目を選択する。
「本当にこれでいいですか? はい/いいえ」とコメントが出てきたので、「はい」を選択した。
「お、三つ目で決定したんだ。慎重派なんだね。
それじゃぁ、今から君の頭の中に直接共通言語と識字、一般常識を強制的に書き加えるね。少し頭が痛むだろうけれども一時的なものだから安心してね~」
光球のその言葉に、浩一は「聞いていないぞ」と文句を言おうとするが、それよりも先に書き加えが開始される。
「ぐっ、ガッ」と浩一は頭を押さえながらうめく。
頭痛に耐えながらうめくこと数分。
ようやく書き加えは終わったのか、浩一は頭を押さえていた手を離し、大きく息を吐く。
「……なぁ神様。もしかして『スキル』を習得する際にもこんな風に頭痛がしたりするものなのか?」
「しないよ~。痛むのはこれだけさ」
「そうか。なら安心だな」
はぁ、とため息をつき、気を取り直して次の選択に移る浩一。
手にしたタッチパッド付きノートパソコンには残余ポイントが1,500点、支度金五十万ヒェルトと表記されている。
これからが本番だ。
浩一がまず選択したのは魔法の『スキル』だった。
『ルジャルダン』には威力や効果に程度の差はあれ、魔法が一般的に社会に普及していると、手にした一般常識で理解した。
【火魔法術:Lv.1】で指先に炎を生み出して火種に、【水魔法術:Lv.1】で手のひらに水を生み出して飲み水に、【回復魔法術:Lv.1】で軽度な怪我の治療にと、生活にはなくてはならないものとなっている。
そんな【魔法術】の『スキル』を習得するのに必要なポイントは、50+{50×(n-1)}の計算方法(nの場所に習得したい『Lv.』の数字を入れる)で算出される。
その計算方法をもとに浩一が選んだのは、【火魔法術:Lv.5】、【水魔法術:Lv.5】、【風魔法術:Lv.5】、【土魔法術:Lv.5】、【回復魔法術:Lv.5】の五種。
それぞれ250ポイントで習得可能なので、合計1250ポイントを使用した。これで残りは250ポイントとなる。
【火魔法術】は『Lv.1』だと指先に炎を生み出して火種にするしかないが、『Lv.』が上昇すると手のひらに火球を生み出して打ち出して一定範囲を燃やすことができるようになる。『Lv.』が上がれば上がる程、その威力や範囲は『Lv.』に応じて大きくなっていく。
【水魔法術】は『Lv.1』だと手のひらに水を生み出して飲み水にできる。『Lv.』が上昇すると濃霧を任意の場所に生み出して視界を遮ったり、生み出した大量の水を操作して相手を押し流したりできるようになる。
【風魔法術】は『Lv.1』だと手のひらからそよ風を生み出すといったしょぼい効果しかもたらさないが、『Lv.』が上がれば衝撃波を生み出して相手を吹き飛ばせるようになる等、使い勝手が増す。
【土魔法術】は『Lv.1』だと手のひらに砂や石を生み出すといった、目つぶしの砂と投石器の石に困らないようになるくらいしか使い道がない。だが、『Lv.』が上がると、生み出した礫を高速で打ち出したり、塹壕やトンネルのように地面に溝や穴を掘り地下に簡易シェルターの作成が可能になる。
【回復魔法術】は『Lv.1』だと擦り傷の治療を促進するくらいだが、『Lv.』が上昇すると流石に四肢欠損といったものは治療できないが、大怪我の治療を素早く行えるようになる。また、重篤な病気や急性慢性問わずの中毒症状の治療も行えるようになる。
これら【魔法術】の扱い方は一例であり、これしか使い道がないというわけではない。すべては扱う者の工夫次第。組み合わせによっては【火魔法術】と【風魔法術】で炎の勢いを増加させたりすることが可能であり、【水魔法術】と【回復魔法術】で経口解毒水を生み出すことだって可能だ。
残りの250ポイントで選んだのは【短剣術:Lv.5】。
【短剣術】も、50+{50×(n-1)}の計算方法で算出される『スキル』のため、合計250ポイントで取得した。これで残りは0ポイントとなる。
当初は遠距離攻撃となる弓関連の『スキル』の習得を考えた。
弓は相手との距離を取ることができるために、戦闘時に抱いてしまう恐怖感が近接武器よりも少なくなるので、命のやり取りに不慣れな浩一にとって心強い味方となってくれるだろうと判断したためだ。
だが弓は持ち運びに不便であるという点と、距離を置いた攻撃は各種【魔法術】で可能だと判断したため、弓関連の『スキル』の習得は止めにした。
基本的な戦闘スタイルは各種【魔法術】の遠距離攻撃でと決めたが、いつも遠距離攻撃が可能と言う訳ではない。そのため近距離戦闘を考慮して【短剣術】を習得した。
【剣術】でもよかったのだが、あくまでも補助的な戦闘手段としての面が強い為【短剣術】としている。
それに短剣は一般的な剣と比較して軽く、剣と同じく戦闘時以外は鞘に入れて持ち運びが可能のため、普段は両手を自由に扱える点も有利に働くと考えている。
他にも習得したいスキルがあるが、スキルポイントの都合上ここでの習得は諦め、『ルジャルダン』での生活で金を稼ぎ、『技能紙』を購入して習得することにした。
習得結果をまとめよう。
【火魔法術:Lv.5】
【水魔法術:Lv.5】
【風魔法術:Lv.5】
【土魔法術:Lv.5】
【回復魔法術:Lv.5】
【短剣術:Lv.5】
以上となる。
こうして、浩一の『スキル』習得は終了した。
「ふ~ん。基本四属性と呼ばれている火、水、風、土の【魔法術】と【回復魔法術】を中堅と言われる高さの『Lv.』で習得。そして近接戦闘用スキルを【短剣術】の一種類に絞ってこちらも中堅と言われる高さの『Lv.』で習得したんだね。
もっとこう、『スキル』を広く浅く習得してもよかったんじゃないの~?」
光球の言葉に、浩一は当然だろうといった風に答える。
「“『スキル』の『Lv.』は定期的に使わないと上がらないし、どのくらい『スキル』を使ったから『Lv.』が上がるのは人によるとしか言えない”。
そう教えてくれたのは神様だろ。
それに【魔法術】を多く習得して尚且つレベルが高い状態だと、習得していない、もしくは習得していてもレベルが低い状態と比較して、体内に含まれる『体内魔素』の総量が多くなると得られた一般常識で知った。
肝心な時に『体内魔素』切れで魔法が使えない、『体内魔素』が完全に枯渇して気絶するなんてのは避けたいからな。
だから有用そうな【魔法術】の『スキル』を選択し、この場で上げられる分だけ『Lv.』を上げた。
まぁ、得られた一般常識を参考にすると、低ランクの『猟兵』は高い『Lv.』の『スキル』を習得していることは少ない。その点が引っかかるが……」
「どうして~? 別に高い『Lv.』でも問題ないっしょ~」
「あまり目立ちたくないんだ。目立つということは良くも悪くも話題になる。それだけで済めばいいが痛くもない腹を探られて変な噂が立って動きにくくなるのが嫌だったんだ」
「確かに目立つのは嫌だと感じる人もいるよね~。でも生き残りたければ『軍団』に所属するのもありだと思うけどな~。【回復魔術】のレベルを上げて回復に特化した『猟兵』になって、有力な『軍団』に勧誘されるってのは魅力的じゃないかな~?」
『軍団』。それは目的意識や利害関係が一致した『猟兵』たちの集団のことを指す。
単独では達成が難しい仕事であっても、集団では行いやすいことはよくあることだ。そして単独で行動するよりも、複数で行動したほうが一人当たりの労力も削減できる。
それに多人数であることを生かして少数の『部隊』を幾つか結成して『部隊』毎に依頼を受注して数をこなせば仕事の達成率は上がり、『ランク』が上がりやすくなる。また、得られた報酬を共有してバランスよく配布することで、個々がより良い装備や寝床の獲得が可能となるのも利点だ。
そのため合理的な判断から気の合う仲間同士が、もしくは必要な『スキル』を所持する者同士が集まるのは必然であり、その結果生まれたのが『軍団』である。
なお、『軍団』と称されるのは構成員となる『猟兵』の人数が、代表を含めて十人前後集まるのが最低条件となっている。それ以下の人数の集まりは『部隊』と称されている。
ちなみにこれら上記の手法は違法な行為ではなく、『猟兵ギルド』が推奨している手法であるので問題はない。
そして『猟兵ギルド』とは『猟兵』を対象とした互助組合的なものである。
仕事の依頼主と『猟兵』の仲介を主な仕事としている。
『猟兵ギルド』が存在しなかった時期は、依頼主は直接『猟兵』に仕事を依頼していた。
だが諸問題(契約の不履行や賃金の未払い等)が発生した場合、誰がどのように問題を収拾し、再発防止策を講じるのかが不明確だった。
それらを解決するために生まれたのが『猟兵ギルド』である。
また、『ランク』という客観的な指標をギルドが設けることで、依頼主が実力の伴わない『猟兵』に高難易度の仕事を頼む、もしくは実力を知らない『猟兵』が高難易度の仕事を受注する、といった問題を解決するのにも役立っている。
これらの情報は『ルジャルダン』一般常識で得られたものだ。
他にも色々と設定はあるが、今はこのくらいの説明とさせていただく。
「勧誘? それは無いな。低ランクのくせに高い『Lv.』の『スキル』保持者だぞ。胡散臭いにも程がある。何かしらの後ろ盾があれば可能性が無くはないが、普通なら警戒されて終わりだ。
こちらから売り込んでも結果は同じさ。実績のない『ランク:F』が何を言っても、有力な『軍団』は見向きもしないさ。
『部隊』になら勧誘されるかもしれないが、個人的な理由で参加することはあまり考えていない」
「個人的な理由~? それって一体なにさ~?」
「……人づきあいが、苦手なんだよ。だから当面は単独で活動しようと思っている。本当に一人ではどうにもならないと判断したら、『部隊』に参加するか、立ち上げる予定だ」
「あ~、だからやりようによっては一人でもなんとかやっていける『スキル』構成にしたんだ~」
敵は各種【魔法術】で近づかれる前に蹴散らし、近づかれたら【短剣術】で対処、怪我をしたら【回復魔法術】で対応する。
こうすれば、一人でもなんとかなるかもしれない。
「そういうことだ。まぁ、一般的な『ランク:F』の『猟兵』に比べて初期の所持『スキル』量としては多目で、『Lv.』の高さが揃っているのが気になるところだが、そこは仕方がないとして諦めるさ」
「なるほどね~。考えて習得したんだね~」
「あぁ、よ~く考えたよ。
安全に生き抜くために、回復に特化した『スキル』構成にして『猟兵』の資格を持った町や村のお医者さんになってみんなに守ってもらおうかと考えたよ。
が、ありがたいことに人の記憶を丁寧に消す神様の事だ。無理やりにでも『猟兵』として活動させようと『ルジャルダン』に干渉してくる可能性があると判断して取りやめたよ。
で、実際のところ、俺がそうした場合、干渉したのか?」
「ふふ、それについてはノーコメントとさせてもらうよ~」
それって干渉する気満々だと言っているようなものだと浩一は思ったが、口にしないことにした。
「それじゃ、次は装備品と道具の選択だね。支度金は五十万ヒェルトだよ~」
「わかった。選ばせてもらうぞ」
こうして、浩一は続いて装備品と道具の選択に突入した。
浩一が選んだのは、まずは服装だった。
異世界『ルジャルダン』で『現実』の服装は浮きすぎて違和感しか与えない。
そこで『ルジャルダン』では一般的なデザインの布の服とズボン、そして下着類を着替えの分も含めて三着分選んだ。
これだけで十万ヒェルト近くが吹っ飛んだ。残り約四十万ヒェルト。
織物産業が工業化されておらず、化学繊維も未発達で全てが手作業で天然繊維の『ルジャルダン』では、衣服の値段がバカみたいに高い。気軽に何着も衣服をそろえられるのは、富を持つ高貴な身分のお方か豪商くらいだとこんなところから理解できた。
足元も大切だ。
舗装されていない道なき道を歩くことが多い『猟兵』にとって、靴は重要な一品だ。そのためつま先やかかとに鉄板が入った脛まで覆う革製の安全靴を一足、そして補修用の動物性クリームやブラシを購入した。
これで三万ヒェルト近くがお亡くなりになった。残り約三十七万ヒェルト。
現代に匹敵するほどの靴が作られていた事、そして補修用の道具が充実している事は意外であった。
だが、移動手段がもっぱら徒歩であり、泥濘等の場所を選ばず戦う『猟兵』たちの間で、靴の良し悪しは生死を分けるといっても過言ではない。そのため良い靴と質の良い補修道具が必要とされ、その結果良質な靴や補修道具が生み出されたのは歴史の必然といえるだろう。
ちなみに靴底のゴムのような材質は、モンスターの一種であるスライムの粘液に靴ギルド特製の薬剤を混ぜることで作り出しているという。ファンタジー万歳。
武器はもちろん忘れていない。
主武装たる短剣は、刃の長さが約40cmで持ち手が約15cmの、片刃で先端がクリップポイントに改造されているダブルヒルト(鍔)のついた肉厚のマチェット(山刀)だ。
片手で扱えるので取り回しが容易であり、先端が鋭く尖っているクリップポイントのため刺突も可能だ。また、藪などが生い茂る見晴らしの悪い場所で振るうことで藪を刈り取り、視界や移動路の確保に役立つだろう。
ちなみに全長60cm以下の剣を短剣と分類することが多く、ノートパソコンのQ&Aで確認したところそのような分類がされると確認している。
なお、武器としてではなく、サバイバル用に全長約20cmの片刃の肉厚のナイフを用意した。これは仕留めた獲物の解体用のナイフも兼ねている。しかし、具体的な解体方法を知らない浩一にとって、どこまで活用できるかはわからない。それでも、無いよりは有ったほうがましだろう。
ちなみにマチェット(山刀)で【短剣術】の『スキル』が扱えるのかという疑問を持たれるだろうが、問題なく使えるとノートパソコンのQ&Aで確認は取れている。流石に本格的な刀では【刀術】が必要となるとのことだが。
これらを合計して五万ヒェルト近くが消えていった。残り約二十二万ヒェルト。
武器類は治安が悪い『ルジャルダン』では必須の道具。そのため市場に大量に出回っており、この程度の値段で済むらしい。この時ばかりは治安の悪さに感謝した。
防具も忘れてはならない。
革片をロウで煮込みハードレザーとして、要所を金属片で補強したラメラーアーマーを購入。ただし全身を覆うタイプではなく、胴体の前面のみを覆う必要最小限の防護を目的としたものとした。それに革製の手甲と肘あてと膝あても合わせて購入。
これらを合計して五万ヒェルト近くを支払った。残り約十七万ヒェルト。
鎧類も治安が悪い『ルジャルダン』では必須の道具。武器類ほどでもないが市場に出回っているため、このくらいの値段となるらしい。
あとは旅のお供となる道具類だ。
火種となるフェロセリウムロッド。
ナイフの背などの硬くて鋭いもので勢いよく擦ると火花が出て着火する道具だ。なぜに『ルジャルダン』に存在するのかというと、『ルジャルダン』での通貨であるヒェルト硬貨を構成する合金を試行錯誤して作り出そうとしていた結果、偶然に生み出されたらしい。
【火魔法術】を習得しているのに何故と思われそうだが、いつも【火魔法術】が扱えるほど『体内魔素』があるとは限らない。使わない時は使わないで『体内魔素』を保持しておきたい。
【水魔法術】で生み出した水を入れておく水筒。食材を煮炊きするための小さな鍋に料理を盛るための深めのカップ。これがないと食事ができないスプーンにフォークにナイフ。
これらを構成する軽くて頑丈な金属も、上記の理由で偶然生まれたもののようだ。
武器の手入れに必須な砥石。マチェットやサバイバルナイフの研ぎなおしに必要だ。
有ったら便利な頑丈な縄。しかし縄の結び方など詳しくは知らない浩一にとってどこまで有用に扱えるかは疑問だが。
暗闇対策に必須なグロウスティック。
『ルジャルダン』に存在する一般的な魔道具の一種だ。
スティックの名称が示す通り棒状をしており、一度『体内魔素』を籠めれば周囲を漂う『体外魔素』を吸収して動力源とし、全体が一定時間淡く発光する、便利な道具だ。
簡易テントにもなるフード付きのポンチョに防寒用の毛布、そして巻き方を工夫すれば顔全体を覆うマスクとして使用可能なシュマグ、別名アフガンストールと呼ばれる大きめの布。
これらを入れておく、背負子のようなフレームが付いた縦長のリュックサック。通称、フレームザック。
保存食として硬く焼いたパンに干し肉、チーズにドライフルーツ、ミネラル補給用に岩塩をスティック状に形成したものを用意。
そしてタオル(汗拭き等に使用)や巾着袋(小物入れ等に使用)といった細々としたもの。
これらを合計して約十七万ヒェルト、残り金額全てをつぎ込んだ。
これにて買い物は終了となる。
「これまた思い切った買い方をするね~。所持金はゼロだよ~。ルジャルダンでの生活、大丈夫なの~?」
光球の心配に、浩一は問題ないと応じる。
「確かに城壁に囲まれた大きな都市といった場所に入るには入場料を取られるから、その点は心配にはなるだろう。
だが、『猟兵』であるならば、『猟兵ギルド』の仕事の依頼を受けていなくても、モンスターや動物を狩るのは許されると一般常識で知った。そしてそれで得られた毛皮や『魔石』といった有用部位を城壁の外で買い取ってくれる存在がいる事も一般常識で知った。だから入場料は問題無い」
毛皮が有用部位なのは誰もが知るところだろうが、何故モンスターが体内に持つ『魔石』が有用部位たりえるのか。
それは、『魔石』が各種【魔法術】を行使する際の『体内魔素』の代用とすることが可能だからだ。
ただし代用として使用してしまえば、『魔石』は崩れて壊れてしまう。
いわば使い捨ての電池みたいなものだ。
「それで中に入ればこちらのモノだ。『猟兵ギルド』非推奨だが先に対象となるモンスターや動物を狩ってから依頼を受けて、既に狩った対象の討伐部位や有用部位を提出して即依頼達成委という方法を取って金を入手する手段もある。それを用いれば街中で使うお金を入手することは可能だ。
それに人が住む所すべてが入場料を取ると決まっているわけではないし、すぐに人が住んでいるところに到着できないことを考慮して保存食も用意してある。一週間くらいなら持つだろう」
「なるほどなるほど。一般常識を最大限活用しているね~」
「知識は大切だ。最も現時点では“知ってはいるが体験はしていない”という歪な状態だけどな」
「じゃぁ早急にその状態を解消するために、『ルジャルダン』に行こ~よ」
「ちょっと待ってくれ。まだ着替えや準備が終わっていない」
そう。購入した物品が浩一の周囲に散乱したままなのだ。
このまま『ルジャルダン』に行ったとしたらどうなるか分かったものではない。
「はいは~い。着替えに準備だね~。ゆっくり行っていいよ~。
あ、ちなみに着替えの間は消えておくね。配慮ができるボクってえらい」
光球は自賛するとスッと姿を消す。
それを確認すると浩一は服をすべて脱ぎ去り購入した服装に着替え、道具類をフレームザックに仕舞い、武器の類を装着する。
ちなみに今まで来ていた脱いだ服もフレームザックに仕舞う。
これは『ルジャルダン』一般常識で知ったことだが、『現世』で作られた衣類は『ルジャルダン』では珍しい物に分類される。デザインはもとより、その材質も、だ。
そのため高価で売れるのではと判断した。
「着替え終わったようだね~。似合うよ~」
タイミングよく表れた光球に、もしかして覗いていたんじゃと思ったが、見られても困るものでもないと思いなおし、浩一は問題視しないことにした。
「あぁ、そうそう。君が着替えている間にコレを用意しておいたよ」
そう言って光球は一枚の紐のついた金属製のカードを浩一の前に出現させる。
「こいつは?」
「これは『猟兵』の証である『猟兵カード』さ。これに名前と『ランク』が記載されているから無くさないようにね~。
まぁ、無くしたとしても『猟兵ギルド』に行けばお金がかかるけど再発行できるけどね~。」
手に取り確認してみると、なるほど、確かに『職種:『猟兵』』と『ランク:F』の表記、そして『コウイチ・アイバ』と名前が記載されている。
どうやら姓名の順番は『ルジャルダン』では逆になるようだ。
なくさないように、紐を首に通して装着する。
「……準備はオッケーだ」
「りょーかい。それじゃぁおひとり様ご案内~」
光球がそう言うと、浩一の足下に魔法陣の様なものが描かれ、光り出す。
「これは?」
「神様パワーで、君を『ルジャルダン』へと転送しているのさ。この光が消えた時には、君はすでに『ルジャルダン』に到着しているよ」
「そうか。所で、どこに転送されるんだ? いきなり海のど真ん中とかはシャレにならんからやめてくれよ」
「あ~、しないしない。安心して。ちゃんと人が生活を営めて、生存できる場所に転送してあげるから。だからせいぜい生き残れるように頑張ってね~」
「言われなくてもそのつもりだ」
「それでは、ゲームを楽しんでくれたまえ。ゲームスタートだ!」
光球のその言葉と同時に、魔法陣がひときわ強く輝く。
その光のまぶしさに、浩一は目を閉じる。
「(神様のゲームだか何だか知らないが、寿命まで必ず生き残ってやる……必ず、だ!!)」
浩一がそう思うと同時に光は消え去り、同時に彼の姿は完全に消え去った。
読んでいただき、ありがとうございました。