胎動4
コテージに到着するなり、メンバー
それぞれの楽器のパートごとに居場所を確保した。
ユキチは2階の寝室へサッサと姿を消し、
実は用意されたキーボードが自分の愛用
メーカーと異なるため、鍵盤のタッチを確かめる。
謙二はドラムセットに腰かけると、
説子に初歩的なリズムの取り方を説明し、
大介は洋子にオープンコード
の押さえ方を手とり足とり教えはじめた。
ユカは1人マイペースに
ベースラインを紡ぎ出す。
大介はまず、洋子にAのオープン
コードの左指の手本を示すと、
「2フレットの4、3、2弦を
人差し指と中指と薬指で
こんな風に押さえてごらん」
とやさしく話しかける。
そしてピックをはらうと、
じゃあ~ん、とメジャーの
明るい和音が勢いよく飛び出す。
洋子もそれをマネするが、
大介のように綺麗な和音が響かない。
「うん、まだちゃんと指で
フレットを抑えていないんだよ」
「力を入れてるつもりなんだけど…」
「最初からうまくいかないさ。
そんなこと気にしないでドンドンやってごらん」
「ダメ、うまくいかな~~い」
「じゃあ、やり方を変えよう。
洋子、コード進行の基本を覚えているかい」
「トニックとかだっけ?」
「そう、大切なのはキーのトニックと
4度のサブドミナントと5度のドミナントだ。
Aをキーにしたらサブドミナントはなんだ?」
「Dでしょ」
「よし正解だ。じゃあドミナントは?」
「バカにしないで、Eじゃない」
「はは、バカにしてないさ。
とても大切なことだから復習してるだけさ。
だったら左指の押さえ方はわかるかい?」
「えーっとDは同じフレットだったはずだわ」
「そうだ、人差し指と中指が
2フレットで薬指が3フレットだ」
「じゃあ、Eも簡単だろう」
「ちょっと待ってよ、3弦が
1フレットで4、5弦が2フレット」
「よしよし、そこまで
わかっていればあとは簡単さ」
「抑えるだけじゃなくて、
動かさなければいけないん
だからちょっと待ってよ」
「あとは8ビートに乗せるだけさ」
「もう、なんでそんなせっかちなの」
「俺がリフをやるから聴いてて…」
チャララ、チャラララララララ~。
「あー、ズルイ完璧に弾けるじゃない」
「だって、一番最初にコピーした
曲だからさ、わけないよ」
「大介に比べて指が短いんだから、
時間をちょうだい」
「指が短いことは
マイナスにならないよ。
女性だから弾けないなんて
いい訳になると思うかい?」
「そりゃあ、女性のロックバンドは
いっぱいいるけど…。私は特に短いの!」
「わかったよ、じゃあシャドー
ボクシングのようにAからD、
そしてEに指を動かす練習をしてごらん」
「うん!でも曲がそんな
に早く弾けるものなの」
「完璧なんて求めていないさ。
とにかく楽しむこと。
それが一番大切なんだ」
「簡単にいわないでよ」
「でも、洋子。
説子はもっと大変なんだぜ、
歌だからな」
「え~~、そうかしら。
彼女、結構カラオケうまいわよ」
「英語の歌詞だった?」
「うう~ん、日本語」
「それみろ、暗記するくらい
うたいこなさないとユキチの相手じゃない」
「ええ~、そうなの?」
「彼女が何年ヴォーカル
をはってると思うんだい?」
「そんなの知らないもん」
「コラ、かわい子ぶってもダメ。
ユキチは今、1人で耳にタコができる
くらい音源を聴き込んでいるはずさ」
「ふ~ん」
「さあ、俺たちも負けてはいられない。
あさってにはちゃんと仕上げなきゃいけない」
「ちょっと、人ごとだと思って」
「逃げ場はないんだ」
「ええ~」




