慟哭3
食器のあと
かたずけも終わり、
男性陣がリビング
に着く頃には、
女性陣の録音準備は
佳境に入っていた。
特に洋子は
念仏を唱えるように、
コード名を口に出し
ながらギターを弾いていて、
大介はあまりの
真剣な様子に、言葉を
かけるのにも躊躇したほどだ。
普段の洋子は
いつも冷静沈着で
大介を子供
扱いしているが、
それが嘘のように
自信なさげに、表情には
危機感が溢れていた。
大きな声で
「洋子!」と
声をかけても、
全然気づかない。
そこでさらに大声で
「洋子!」と叫ぶと、
周りのメンバーの
視線がこちらに集中した。
洋子は何が何だかわからない
という顔で大介を見つめる。
「洋子、いい顔してたぜ。
あんな集中した顔を初めて見た」
「あら、いやだ
声をかけてくれたの」
「ああ、録音する前に
弦の音程を合わせた方がいい」
「でも、今朝
やったばかりじゃない」
「新しい弦は
音程が狂いやすいんだ」
「そうなの」
「貸してみな」と大介は
洋子からギターを受け取り、
ポケットからチューナーを
取り出して目の前に置いた。
そして6弦の開放弦であるEの音
から緑のランプに合わせはじめた。
「これなら私に
も出来そうだわ」
「洋子、じゃあやってみるか」
「うん」
しかし、なかなかランプ
の調律表示が定まらない。
しかし大介は
手伝おうとしなかった。
それが結局彼女のため
になると判断したからだ。
洋子は少しジレたのか、
今度は5弦の開放弦Aに挑戦するが、
ランプはレッドゾーン
に飛び込んでしまう。
大介は、
「見てられねえな、
貸してみな」といって
再び洋子からギターを横取りする。
そして、
「洋子、ギターは
6弦からE、A、D、G、
B、Eの構成になってるんだ。
まずはこの基本
の音を覚えるといい」
「そんなこと
いったって最初は無理よ」
「誰だってはじめから
うまくいく奴なんていやしないよ。
焦ることなんかない、
音にまだ耳が馴染んで
いないだけさ。
実や俺だって
最初は音の違いは
何もわからなかった。
誰しも条件は同じ
だから、洋子だって
必ず覚えられる」
「ごめんなさい、大介」
「わかればいいさ、
ちょっと待てて、
俺もギターを
持ってくるから。
同じ音程になるように
なればいいだけだから」
「うん」
「あれ、洋子と
大介いい雰囲気じゃない」
「そんなことないわよ、
説子はすぐ茶々入れるんだから」
「私は歌のパートが短いし、
叫ぶだけだから結構気が楽よ」
「ズルいわ、
私は精一杯なんだから」
「いいじゃない、楽器が
弾けるようになるんだから。
私もパーカッション
やってみたかった」
「説子さん、
大丈夫だよ。
東京に帰ったら
思う存分できるから」
「わーい、
謙二さんありがとう」
「ようし、
そろそろはじめようか」
と声をかけて、
ユキチが周りの
雰囲気を
見ながら席を立った。




