渾沌5
演奏が終わってメンバー
の緊張がとけた瞬間、
ユキチが口火を切る。
「大介、リバーブ
は効かせてるのか?」
「いや、エフェクターは
何もいじっていない」
「わかった、ギターは
どうする、実?」
「そうだな、今回は
細かいことは無しでいこう」
「そうはいっても、
最後は録音するんだろ。
リバーブとオーバードライブ
ぐらい少し効かせようかな」
「まあ、いろいろ
試してみるのもいい。
俺は60年代の
タッチでいくぜ」
「実も気合が入ってるな」
「ユキチほどじゃないぜ、
凄え、ヴォーカルだった。
あんな発音、
どこで習ったら歌えるんだ」
「何回もよく聴いて
歌い込んだからな。
歌う者として当然だよ」
1回目の演奏を、
実は及第点と感じ取っていた。
大介のスライド、チョーキング、
そしてハンマリングなどの
ギター・テクニックは、荒削りだが
気になるミスにはなっていない。
しかし、録音するとなると
細部でリズムや音程など
詰めなければならない。
謙二のドラムは、
力強いアクセントが加われば、
スピード感がもっと出せる点で、
もったいないと感じていた。
ユカのベースは、
ズッシリ落ち着いて
いる点が際立った。
ユキチに関しては
何も付け加える部分がなく、
彼女の日頃の努力には、
いつも頭が下がる思いだった。
しかし、問題はここからで、
説子の歌と洋子のギターをどうするか?
が全然見えてこなかった。
そこで実は、説子
と洋子を呼び寄せ、
音程やリズムの取り方、
そして聴き手から伝え手としての
スタンスの違いを、事細かに
教える作戦に出た。
「まず、説っちゃん
の音域を調べよう」
とCの鍵盤を叩く。
この音に合わせてアー、
と歌ってみて」
「はい、アー」
「いや、もう少し低く」
「こうかしら、アー」
「そうだ、じゃあ、
この音は出るかな」
「アー」
「へえー、ここまで
低音が出せるんだ。
じゃあ、今度は高い音」
「アー」
「うん、結構音域は広いね。
今回はこの音がキーだから、
繰り返してみて」
「はい、アー」
「そうそう、アー。
この音がサビの
Goの音程だよ、
ここからGo go Go
Johnny go go〜と続けて」
「はい、Go go〜」
「そうだ、いいぞ。
次は大介のギターと
合わせて練習してごらん」
「はい、わかりました」
「じゃあ、次は洋子さんの番だ。
使うコードは3つ、わかるよね」
「はい、AとDとE7」
「ドミナントは
難しかったら7度はいらないよ」
「はい」
「どこが問題かな」
「サビの最後のフレーズ。
E→D→A→Eと続けざまに
コードチェンジするところ」
「ああ、Go go,
Johnny B Goodeのところだね」
「はい」
「そうはじめはGo Go,
Johnny, goのAを2回続けて、
次のGo, goをD
そしてAに戻って
E,D,A,Eでジャーン。
繰り返し練習すれば
すぐに弾けるようになる
から大丈夫だよ」
「はい、実さん
ありがとうございます」
「いくよー」
少しずつ落ち着いて楽しめる
環境に徐々になっていった。
それぞれの目標が見えて来て、
1つの形になるまで、
努力を惜しまない、
と実は決めていた。




