渾沌2
「大介!」
ユキチはとっさに叫んだ。
パンを焼きながら
大介は思わず振り返り、
「どうした?」
と答える。
「お前はいつもこんな
ものを食べているのか?」
「バカ言えよ、バケット
なんか食べるはずないだろ」
「そうだよな、
でもめちゃくちゃ美味いぞ」
「ああ、そうだろうな。
見るからに美味そうだ」
ユキチはさらに、
「洋子、お前の家は
オムレツを作るときは
いつもバターを使うのか」
「うん、うちの
母は健康志向なの。
だからサラダオイル
は決して使わない」
「なぜサラダ
オイルはダメなんだ」
「ユキチさん、それは
トランス脂肪酸が含まれているから」
「なんだそれ」
「アメリカでは人体に悪影響だから
使用禁止なった油に含まれる成分よ。
特にマーガリン、
ショートニング、
サラダ油が要注意」
「どんな影響が
あるっていうんだ」
「肥満や心疾患に
なりやすいんだって」
「ヘェ〜」
「じゃあ、日本では
なぜ禁止にならないんだ」
「それは人体よりも
企業を優先してるから」
「そんなのありかよ」
「不思議よね、国民を
なんだって思ってるのかしら」
「知らなかった」
「私のうちの油は、オレイン酸や
リノール酸が含まれているものを使ってる」
「具体的には?」
「オリーブオイル、
べに花油、そしてごま油かな」
「そーなんだ」
「たくさん砂糖が入った
飲み物も、血糖値を高くする
から肥満や糖尿病になりやすいんだって」
「ふーん物知りだな洋子は」
「親戚に片足を切断した人がいてさ、
糖尿病は本当に怖いんだから」
「でも植物油のほうが
躰にいいと思ってたぜ」
「ほんとよね、
知らないってとても怖い」
そんな2人の前
に大介が近づき、
「ホイよ、バケット
にクロワッサン。
ユカが作ったブルーベリー
ジャムもお好みでどうぞ」
「ユカ、遠慮なくいただくぜ」
とユキチが言うと、
「はい、我が家の特製よ」
「おい、クロワッサンに
このブルーベリーもいける」
「ユキチありがとう」
とユカも嬉しそう。
「あら、私が作った
スープはどうなのよ」
「説子さんを見直した」
と口をもぐもぐ
させながら謙二が口を挟む。
さらに
「実の作ったサラダも
マスタードがいい
アクセントになって
てとても美味い」
と大口を開けて平らげていた。
「ありがとよ」
と実も満面の表情。
食事の間、笑顔が絶えず
和やかな雰囲気だった。
食後、男子が食器を洗い、
タオルで拭き取り、棚に戻したのち、
みんなリビングに集まった。
そして実が
きっかけを作る。
「ユキチ、
今日の演奏はどうする?」
「いろいろ検討した結果、あたいは
エルビス・プレスリーでいきたい」
「あらま、ずいぶん
渋いところに目をつけたな。
ライブ・イン・ハワイでも見たのか?」
「まあね、それはそうと
大介はどうなんだよ」
「やっぱ、ジミヘンの
『ジョニー・B・グッド』が
1番かっこいい」
「俺もジミーがいいな」
「実もそう思うだろ」
「じゃあ、ギター
ソロは5回入れよう」
「あれ、そんなにあったっけ」
「動画で確認しよう。
その次にプレスリーだ。
みんなiPadに注目!」
と実の合図で周囲は
真剣な眼差しに変わる。




